ここにこの人あり

行列のできる経営相談所を指揮する
中小企業支援のトップランナー

不平不満ばかりを口にして、何も行動を起こさないのは格好悪い―。地元の活性化のためにNPO法人を立ち上げ、転じて現在は中小企業支援に携わる。原動力は使命感。相談相手のいない経営者の力になりたいと今日も奮闘する。
広報誌「日本公庫つなぐ」18号でもご紹介しております。

岡崎ビジネスサポートセンター センター長 秋元 祥治氏

岡崎ビジネスサポートセンター センター長
秋元 祥治(あきもと しょうじ)

1979年岐阜県生まれ。県立岐阜高時代にディベートの全国大会でチーム優勝。早稲田大学在学中の2001年、地域活性化を目指しG-netを創業、03年にNPO法人化。中小企業と若者をつなぐ長期実践型インターンシップ事業などに取り組む。13年愛知県岡崎市の産業支援拠点、岡崎ビジネスサポートセンター(通称:OKa-Biz、オカビズ)のセンター長に就任。中小企業庁よろず支援拠点事業全国本部アドバイザリーボード、早稲田大学社会連携研究所招聘研究員なども務める。

愛知県岡崎市に行列のできる経営相談所がある。「岡崎ビジネスサポートセンター」、通称OKa-Biz(オカビズ)だ。予約が多く、現在1カ月待ち。「もっと集客したい」「事業の先行きが不安。何とか打開したい」といった悩みを抱える中小企業経営者が数多く訪れる。

相談に応じるのは、センター長の秋元祥治氏ら12人。「話していると次第に相談者の目が輝き出し、『これならいける、よし!やってみよう』とスイッチが入る瞬間がある。そんな姿を見るのが何よりうれしい」と秋元氏は話す。

オカビズは地域の産業振興のため、岡崎市と岡崎商工会議所が共同で2013年10月に設立した。市内の事業者を中心に、何回相談しても料金は無料。開設5年で相談件数は約1万2000件を超え、新規相談者の約8割が口コミで訪れるなど、中小企業経営者の信頼を獲得している。

オカビズの特徴の1つは、売り上げアップに特化していることだ。コストダウンではなく、顧客を増やすことに的を絞る。もう1つの特徴は、相談者の話をじっくり聞くその姿勢だ。

オカビズでは決算書をあまり見ない。60分という限られた時間の中で、本人も気づいていないセールスポイントを一緒に探し、その良さを生かして売り上げを伸ばすための具体策を示す。「経営上の問題点の指摘ではなく、その企業の強みを明確にすることを大切に考えています。駄目出しでテンションが上がる人はいませんから」と、秋元氏は語る。

心掛けているのは、現実的なアイデアを提供し、成果につなげることだ。中小企業の多くはヒトもカネも潤沢ではない。お金をかけずにいかに成果を上げるか。秋元氏たちの腕の見せどころだ。「『同じ業種の人が相談に来たら、同じ解決策になってしまうのでは』とよく聞かれますが、全く問題ありません。一人ひとりに個性があるように、会社ごとに背景や得意分野、看板商品などが違いますから、提案も別のものになります」と秋元氏は説明する。

市立中央図書館の一角にあるオカビズ。誰でも気軽に来られるようこの場所にした。相談者は10代から80代までと幅広い

成功例は次々と生まれている。「コストも安くない、スタッフも若くない、設備も新しくない。うちにはいいところが何もない」と相談に来た鋼材切断業の社長がいた。しかし話を聞くと、他社では実施していない当日納品にも対応しているという。そこでオカビズのITとデザインの専門家を紹介。「超特急サービス 鋼材切断119番」と銘打ったチラシを作り、PRを開始したところ、何件も新規受注を獲得した。

また、70代の姉妹が経営していた写真館を「同世代の腕の確かなカメラマンが遺影の前撮りをします」とアピールして復活させたり、中国製の安価な商品に押されていた花火店に大人向け高級花火の開発を勧めてヒット商品を誕生させたりもしている。

中小企業経営者一人ひとりに向き合い、的確な手を提案するのは並大抵のことではなく、エネルギーも必要だ。秋元氏をそこまで突き動かすものは好奇心だ。「どの人と話をしていても、こんなすごい会社があるのかと驚き、もっと知りたい、応援したいと思う」

もう1つは使命感だ。「中小企業経営者には相談相手が少ないことが、この仕事を始めてよく分かった。頼りにしてもらった以上、成果を出したい」

市立中央図書館の一角にあるオカビズ。誰でも気軽に来られるようこの場所にした。相談者は10代から80代までと幅広い

地域を変えるならまず自分が動くしかない

秋元氏はもともと岐阜市の出身。東京の大学に進学したが、夏休みに帰省すると、近所の柳ケ瀬商店街にあった百貨店が取り壊されていた。口々に「役所が悪い」「アーケードが古い」と文句ばかり言う大人を「自分のまちのことなのに、人のせいにして格好悪い」と感じた自分にハッとした。「その大人たちに不満を言うだけの自分もまた格好悪い」

そこで2001年、21歳で地域活性化を狙い、G-netを立ち上げた。その後、大学は中退。ベンチャー経営者の友人が多かったこともあり、起業の道を選ぶことに躊躇ちゅうちょはなかった。

IT、デザインの専門家や中小企業診断士などが日替わりで相談員を務める。結果が出るまで継続的にサポートする

活動をする中で出会ったのが小出宗昭氏だ。現在、全20カ所以上の自治体に設置されているビジネスサポートセンターは、小出氏がセンター長を務める富士市産業支援センターf-Bizが手本。オカビズは自治体が主導し、センター長が常駐する第1号だ。

小出氏と出会ったのは15年前。講演を聞き、感銘を受けて以後「押しかけ弟子」になった。中小企業支援の第一人者である小出氏から多くを吸収し、33歳で、小出氏の強い推薦により、オカビズのセンター長に就任した。「私ではなく、小出さんが相談に乗ったらもっと成果が上がったのではと悔しく思うこともある。今後も小出さんに少しでも近づけるよう努力していきたい」

今は小出氏と共にビズモデルの普及に取り組む。富士や岡崎で3カ月かけて学んでもらい、ノウハウを伝授している。今年10月には第2回全国ビズサミットを岡崎市で開く予定だ。

IT、デザインの専門家や中小企業診断士などが日替わりで相談員を務める。結果が出るまで継続的にサポートする

※本ページの内容は取材当時のものです。

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