ソーシャルビジネス・トピックス第27回 ソーシャルビジネスの事業継続のポイント③
~「会費・寄付」を多様化する~

執筆者
合同会社めぐる 代表/「凸と凹」運営責任者
木村 真樹

最終回は、4つの“志金”源のひとつである「会費・寄付」の多様化に向けた、社会福祉法人いぶき福祉会(岐阜県岐阜市)の取り組みを紹介したい。

いぶき福祉会は、どんな障害のある方も生き生きと暮らしていける地域社会の実現をめざして活動している。事業の多くは、法律に基づく障害福祉サービス事業として国・岐阜県・岐阜市から自立支援給付をいただくことで実現している。

しかし、それらはあくまで障害のある方の「最低限」の暮らしを実現するものだ。障害のある方も「よりよく生きたい・暮らしたい」という願いを持っている。いぶき福祉会はその願いを叶えるために、 グループホームの建設や相談支援の拡充、地域交流イベントの企画運営等、国・県・市からの補助の範囲外である活動にも「会費・寄付」を集めて取り組んでいる。

【図1】いぶき福祉会が「会費・寄付」を集めるイメージ

いぶき福祉会が「会費・寄付」を集めるイメージ

「会費・寄付」を募るには、新規および既存の支援者に「依頼」「感謝」「報告」の3つの情報を繰り返し届けることが重要だ。いぶき福祉会の主な取り組みは【図2】の通りである。前述の情報を「会費・寄付」で“買ってもらう”対象には「個人」と「法人」があり、依頼に応じてその都度支援する「単発」と、定期的に続けて支援する「継続」の属性がそれぞれ存在する。この4つの「対象×属性」に支援を呼びかけることで、「会費・寄付」の多様化をめざしている。

【図2】いぶき福祉会の「会費・寄付」の多様化に向けた主な取り組み

いぶき福祉会の「会費・寄付」の多様化に向けた主な取り組み

■「会費・寄付」の多様化(1):個人×単発-クラウドファンディング

いぶき福祉会では、「社会を変える」計画をつくった2019年度以降、時期やテーマ、対象等を変えながら年に1~2回、クラウドファンディングに取り組んでいる。各取り組みの実績等は以下の通りだ。

  • 岐阜に重い障害のある人が暮らせる新しいグループホームの建設を:支援者数640名・支援総額6,326,000円(2019年8月9日~11月6日/90日間) ※銀行振込等を合わせた支援者数は1,935名、支援総額は24,732,137円
    https://readyfor.jp/projects/ibukiyumehiro2020 
  • かりんとう応援プロジェクト:支援者数321名・支援総額2,514,280円(2020年7月4日~8月2日/30日間)
    https://camp-fire.jp/projects/view/301654 
  • 福祉団体を応援する寄付つき商品開発プロジェクト「GIFU HAPPY-HAPPY PROJECT」:支援者数152名・支援総額2,731,900円(2020年10月3日~12月31日/90日間)
    https://www.furusato-tax.jp/gcf/1039 

これ以前も数年に一度、グループホームの建設等で「会費・寄付」を募ってきたが、支援者の中心は困りごとを抱えた当事者である障害者の親たちで、支援方法のほとんどは振り込みか現金だった。一方、クラウドファンディングは、日々の事業等を通して関係性を育んでいるステークホルダーにも支援を呼びかける機会だ。また、主な支援方法はクレジットカードになるため、後述の「マンスリーサポーター」を見据えると、カード決済できる支援者を把握できることもメリットといえる。

■「会費・寄付」の多様化(2):個人×継続-マンスリーサポーター

クラウドファンディングの支援者のなかで、特に複数回支援してもらった方には、マンスリーサポーターとしての支援を個別に呼びかけている。いぶき福祉会や役職員との関係が深かったり、強い関心を持っていると推測できるからだ。マンスリーサポーターには、活動報告を週に一度お届けしている。継続的な情報発信なくして継続的な支援なしと考えているからだ。

【図3】いぶき寄り添いひろがるプロジェクト(2021年度からは会員を募集予定)
https://deco-boco.jp/projects/view/12 

いぶき寄り添いひろがるプロジェクト

■「会費・寄付」の多様化(3):法人×単発-広告協賛

「法人×単発」では、いぶき福祉会が発行する広報媒体への「広告協賛」に取り組んでいる。2019年までは春恒例の地域行事として28回開催してきた「いぶきふれあいまつり」の配布プログラムに、コロナ禍でまつりが中止になった20年は『年次報告書』に広告枠を設け、協賛する法人を募った。いぶき福祉会は、クラウドファンディングに初挑戦した19年8月以降の1年半で、延べ3,000名以上の支援者を集めてきた。支援者等に届ける広報媒体に価値を感じる法人は、呼びかければ必ずいると考えている。

【図4】いぶき福祉会2019年度年次報告書 PDFファイル

いぶき福祉会2019年度年次報告書

■「会費・寄付」の多様化(4):法人×継続-寄付つき商品

2020年度からは「法人×継続」の取り組みもスタートしている。法人が提供する商品やサービスを購入・利用されるごとに売り上げの一部が寄付される「寄付つき商品」の開発・紹介だ。新型コロナウイルス感染症の影響を受けた岐阜市内の他の福祉団体とともに挑む「ぎふハッピーハッピープロジェクト」は、コロナ禍の影響を同じく受けた法人を応援する取り組みでもある。寄付つき商品を販売する法人を各福祉団体の支援者等に紹介することで、法人にとっては新たな顧客の開拓や広報活動の強化、法人への信頼感やイメージアップにつなげるのがねらいだ。福祉団体はもちろん、法人の「ハッピー」も育む取り組みだからこそ、続くのではないか。

【図5】ぎふハッピーハッピープロジェクト
https://hhp-gifu.com(2021年4月公開予定)

ぎふハッピーハッピープロジェクト

「会費・寄付」と聞くと、金銭的な見返りがない上に、振り込み等の手間もかかるため、支援が続きにくいイメージがあるかもしれない。しかし、人は常に金銭的な見返りだけを求めてお金や時間を投じるわけではない。また、最近はクレジットカード等での支援も容易になってきた。だからこそ、社会課題解決への支援を自信を持って呼びかけられるように、前回ご紹介した「社会を変える」計画をつくることが重要であるともいえる。

社会課題の解決を「本気で」志すソーシャルビジネス事業者のみなさまにとって、いぶき福祉会の取り組みが事業継続に向けたさらなる実践を後押しするきっかけとなれば幸いだ。

≪執筆者紹介≫
木村 真樹(きむら まさき)
合同会社めぐる 代表/「凸と凹」運営責任者

1977年愛知県名古屋市生まれ。静岡大学卒業後、中京銀行勤務を経て、A SEED JAPAN事務局長やap bank運営事務局スタッフなどを歴任。

地域の“志金”が地域でめぐる「お金の地産地消」を推進したいと、2005年にコミュニティ・ユース・バンクmomo、13年にあいちコミュニティ財団を設立。NPOやソーシャルビジネスに対する年間4,000万~5,000万円の資金支援と、500名を超えるボランティアとの伴走支援に取り組む。

両団体を卒業後、19年1月にめぐるを設立し、全国各地で「お金の地産地消」をデザインするチャレンジを開始。同年7月、“志金”循環の新たな仕組み「凸と凹(でことぼこ)」をリリース。 著書に『はじめよう、お金の地産地消――地域の課題を「お金と人のエコシステム」で解決する』(英治出版)がある。

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