ソーシャルビジネス・トピックス第26回 ソーシャルビジネスの事業継続のポイント②
~「社会を変える」計画をつくる~

執筆者
合同会社めぐる 代表/「凸と凹」運営責任者
木村 真樹

「社会を変える」は思いつきで実現できない。社会を「本気で」変えるには、したたかで、しなやかな戦略が必要だ。そのため今回は、「社会を変える」計画をつくるポイント(※)を、実際に作成している3つの図を事例とともに紹介したい。
※「社会を変える」計画をつくるポイントについては、前回の記事をご覧ください。

■「社会を変える」計画をつくるポイント2~4:図1-変化の法則(何が問題か?)

「社会を変える」計画をつくる上でまず整理が必要なのは、「何が問題か?」である。あらかじめ想定する解決策があるかもしれないが、その前にある社会課題が生じる原因を深掘りすることなく、本当に解決する事業はつくれない。困りごとを抱えた当事者を最速で救うことを「本気で」望むなら、解決策ありきではないはずだ。

「何が問題か?」を深掘りするには、「誰が困っているか?」を明らかにする必要がある。長良川流域で観光やまちづくりに取り組むNPO法人ORGAN(岐阜県岐阜市)の「長良川流域文化を未来につなげるプロジェクト」では、困りごとを抱えた当事者を「伝統工芸の将来を担う職人希望者」とした。例えば、国内生産の6割を担う「岐阜和傘」の場合、部品の骨をつくる職人が86歳、ろくろをつくる職人が69歳など、職人の高齢化が進んでいるからだ。

伝統産業が衰退し、消えてしまいそうなのは、もうからない産業構造が要因だ。和傘の場合、なぜもうからないかをさらに考えると、以下の2つに行き着いた。

(1) たくさんつくることができないから(つくることができる人が少ないから)

(2) 希少性や高度な技術など、本来の価値が価格に反映されていないから(価値を伝える人がいないから)

そのため、次の担い手を育てられず、職人は高齢化し、利益率も低く、自信をなくし…と悪循環に陥っていることが、深掘りすることで見えてきた。

この悪循環を好循環にてこを利かすには、2つの取り組みが必要だ。一つは、和傘の価値を元に産地ブランドを高めて高付加価値化し、利益率の高い産業に転換することだ。これはORGANによる小売や支援事業を通して、これまで徐々に進めてきた。

もう一つは、伝統工芸がこれからも続いていくためのわかりやすいシンボルとして、次世代の職人を育てることだ。岐阜和傘のケースでは、これまでバラバラで活動していた職人たちと業界団体をつくり、後継者の育成に取り組むことにした。

この『変化の法則』をあらゆるステークホルダーに説明し、納得いただいたことが、岐阜和傘協会の設立や、行政からの支援へとつながっている。

【図1】NPO法人ORGANの『変化の法則』
https://deco-boco.jp/projects/view/13 

NPO法人ORGANの『変化の法則』

■「社会を変える」計画をつくるポイント6、7:図2-相関図(誰と解決するか?)

「何が問題か?」の次に考えるのは「誰と解決するか?」である。「誰が」ではなく「誰と」というのがポイントだ。前回も触れたように、ひとつの組織だけで解決できる社会課題はおそらくない。地域総動員で挑まないと解決できないなら、困りごとを抱えた当事者を中心に置き、現時点ではどんな支援があるかを描き、どんな支援が足りないかを明らかにするのがねらいだ。

こうした図は自団体を中心に置きがちだが、それでは自分たちの「やりたい」しか表現できない。自分たちの「やりたい」だけで社会課題は解決しない。他の人や組織の力も借りるなら、地域や社会の「足りない」を表現する必要がある。

障害のある人の仕事や暮らしをサポートしている社会福祉法人いぶき福祉会(岐阜県岐阜市)では、障害のある人が自らの意思決定に基づいた暮らしが実現できるように、本人にとことん寄り添うことを大切にしている。地域で暮らすために支援が必要な成人期の障害のある人、特に在宅で家族と同居していて、福祉サービスを利用している人たちは、家族からの支援が得られなくなった後の暮らしに困難を抱えるからだ。

「親亡き後」も本人の給料と年金でいきいきと地域で暮らしていくためには、就労支援事業所や年金事務所、行政、社会福祉協議会等との連携が必要だ。また、相談支援事業所やヘルパー事業所、ショートステイ事業所、医療機関等も欠かせない。さらには、地域の理解や共感を育むために、地域の各種団体等を通した地域住民との交流も重要だ。いぶき福祉会では、障害のある人の暮らしを支えていくために、他機関との連携を積極的に働きかけ、信頼関係を築いている。

なお、こうした挑戦の多くは日本初、世界初の取り組みではない。そのため、『相関図』をつくる際には、先行事例も必ず調べてもらうことにしている。先に気づいて挑戦している人たちから学んでしまった方が、同じ苦労をしなくて済むし、うまくいっていることは参考にした方がより早く解決に近づけるはずだ。「社会を変える」計画づくりでは、先輩に学ぶことを大切にしている。

【図2】社会福祉法人いぶき福祉会の『相関図』
https://deco-boco.jp/projects/view/12 

社会福祉法人いぶき福祉会の『相関図』

■「社会を変える」計画をつくるポイント1、8、9:図3-ロジックモデル(どう解決するか?)

最後の3つ目は、ここ数年ソーシャルセクターで注目されている『ロジックモデル』をつくってもらっている。「何が問題か?」「誰と解決するか?」に続き、「どう解決するか?」というロードマップを示すことができれば、支援者等とのコミュニケーションの引き出しが増えたり、自団体の学びや改善を促すことができるからだ。

図3は、東京で学童を運営するNPO法人Chance For Allと一緒につくったロジックモデルである。ビジョン(あるべき社会の状態)とミッション(自団体が果たす役割)から10年後の目標である長期成果を設定し、長期成果を達成するには5年後までにどんな変化を起こす必要があるか(中期成果)、そのために1年後にはどんな変化を起こす必要があるか(初期成果)、そのためにはどんな活動に挑む必要があるかを1枚絵で説明できる図になっている。

Chance For Allがこのロジックモデルをつくったのは2020年。10年後は2030年で、ちょうどSDGsの目標年にあたる。自分たちの学童に通う子どもたちのうち、15%が寄付による奨学制度を利用している状態を長期成果のひとつに設定している。子どもの約7人に1人が貧困状態にあるこの国で「誰一人取り残さない」ために、今後10年かけて学童の保育料金等を払えないご家庭も受け入れられる組織をめざしている。

【図3】NPO法人Chance For Allの『ロジックモデル』
https://deco-boco.jp/projects/view/17 

NPO法人Chance For Allの『ロジックモデル』

≪執筆者紹介≫
木村 真樹(きむら まさき)
合同会社めぐる 代表/「凸と凹」運営責任者

1977年愛知県名古屋市生まれ。静岡大学卒業後、中京銀行勤務を経て、A SEED JAPAN事務局長やap bank運営事務局スタッフなどを歴任。

地域の“志金”が地域でめぐる「お金の地産地消」を推進したいと、2005年にコミュニティ・ユース・バンクmomo、13年にあいちコミュニティ財団を設立。NPOやソーシャルビジネスに対する年間4,000万~5,000万円の資金支援と、500名を超えるボランティアとの伴走支援に取り組む。

両団体を卒業後、19年1月にめぐるを設立し、全国各地で「お金の地産地消」をデザインするチャレンジを開始。同年7月、“志金”循環の新たな仕組み「凸と凹(でことぼこ)」をリリース。 著書に『はじめよう、お金の地産地消――地域の課題を「お金と人のエコシステム」で解決する』(英治出版)がある。

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