ソーシャルビジネス・トピックス第25回 ソーシャルビジネスの事業継続のポイント①
~“志金”源を多様化する~

執筆者
合同会社めぐる 代表/「凸と凹」運営責任者
木村 真樹

■4つの“志金”源をこれまで以上に組み合わせる

ソーシャルビジネスも新型コロナウイルスの打撃を受けている。全国各地のNPO支援組織でつくる「『新型コロナウイルス』NPO支援組織社会連帯」が2020年夏に実施した全国アンケートでは、88%の組織が「事業に影響が出ている」と回答。寄付の減少や受託事業の中止などで経営面に影響が出ていると答えたのは56%、解散や休止を検討している組織も5%あった。また、日本財団が同年11月にまとめた報告書によると、20年度の運営資金のめどが「ほとんど立っていない」「まったく立っていない」との回答が3割。理由は「平時の収入が見込めない」が最も多く、約半数が21年度の運営資金のめどが立っていないと回答している。

筆者は「社会課題の解決に生かしたい」という思いのこもったお金を“志金”と呼んでいる。ソーシャルビジネスの“志金”源には、「(1) 会費・寄付」「(2) 事業収入」「(3) 補助・助成」「(4) 受託収入」の4つがある(図1参照)が、コロナ禍による経済の不振が長引けば、生活も苦しくなるため、「(1) 会費・寄付」を募る対象等の多様化が求められる(具体的な取り組みは最終回で取り上げる)。また、ソーシャルビジネスの受益者はいわゆる社会的弱者であることも多く、受益者に負担してもらう「(2)事業収入」を増やしていくのは容易でない事業もある。さらには、行政も大幅な減収が今後見込まれるなか、税収でまかなわれている「(3)補助・助成」や「(4)受託収入」が増えることは期待できない。ソーシャルビジネスが社会課題の解決に挑み続けるためには、(1) ~(4) の“志金”源をこれまで以上に組み合わせていく必要がある。

【図1】ソーシャルビジネスの“志金”源

ソーシャルビジネスの志金源

■地域金融機関から「借り物競争」する

「(2) 事業収入」や「(4) 受託収入」を主たる“志金”源にしているソーシャルビジネスには、地元の地域金融機関に相談することをオススメしたい。この2つを“志金”源とする取り組みは、事業モデルが通常のビジネスと大差なく、金融機関にとっては融資の可能性もあるからだ。特に昨今は、2030年までに地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓う国連のSDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた取り組みを、対外的に表明する地域金融機関が相次いでいる。SDGsの17あるゴール(目標)の1つ「働きがいも経済成長も」を達成するための具体策に「国内の金融機関の能力を強化し、全ての人々の銀行取引、保険および金融サービスへのアクセスを促進・拡大する」という項目がある。金融機関には、誰一人取り残さない金融包摂の取り組みが期待されている。

相談先としては、「SDGsに関する何らかの取り組みを行っている」「中期経営計画等に『ソーシャルビジネス支援』を明記している」「ソーシャルビジネスを対象とした融資商品を持っている」地域金融機関が想定される。例えば、全国に13ある労働金庫は、すべての金庫でSDGsに関する何らかの取り組みを行い、融資商品のほか、「(3) 補助・助成」も組み合わせられるように助成制度も設けている。さらには、「(1) 会費・寄付」を普通預金からの自動振り替えで集めることができる寄付システムも8金庫で提供するなど、ソーシャルビジネスの資金面に関する支援メニューを充実させている(図2参照)。

社会課題の解決を「本気で」志すなら、自分たちだけで実現できないことは明らかだ。そのため、ソーシャルビジネスはよく「借り物競争」に例えられる。他の人や組織を巻き込み、自分たちに足りない資源を借りるためにも、地域のネットワークを豊富に持つ地域金融機関をもっと活用したい。地域金融機関が「交渉相手」ではなく「相談相手」なら、借りることができるのは資金だけではないはずだ。

【図2】労働金庫のソーシャルビジネス支援メニュー一覧

労働金庫のソーシャルビジネス支援メニュー一覧

■「社会課題の解決」を実感できる計画をつくる

4つのどの“志金”源であれ、お金が価値の交換手段である以上、「社会課題の解決に生かしたい」という“志金”の出し手の期待に応える必要がある。そのためには、「社会課題の解決」という価値を、自分たちはもちろん、“志金”の出し手も実感できる事業計画をつくる必要がある。

筆者は、社会課題の解決に挑むソーシャルビジネスの事業を「社会を変える」手段ととらえ、「社会を変える」計画づくりを各地でサポートしている。本計画をつくるポイントは、以下の10の問いに答えることだと考えている。

  1:  ビジョン・ミッションは何ですか?

  2:  誰が困っていますか?

  3:  何に困っていますか?

  4:  なぜ困っていますか?

  5:  自団体の「強み」「弱み」、外部環境の「機会」「脅威」は何ですか?

  6:  解決に取り組む先行事例には何がありますか?

  7:  誰と解決に挑む必要がありますか?

  8:  「1年後」「5年後」に何をどこまで変えていますか?

  9:  来年度は何に挑みますか?(アクション)

10:  そのアクションにはいくらかかりますか? そのお金をどう調達しますか?

次回は、「社会を変える」計画を実際につくったソーシャルビジネスを事例に、策定する上でのポイントを整理してみたい。

≪執筆者紹介≫
木村 真樹(きむら まさき)
合同会社めぐる 代表/「凸と凹」運営責任者

1977年愛知県名古屋市生まれ。静岡大学卒業後、中京銀行勤務を経て、A SEED JAPAN事務局長やap bank運営事務局スタッフなどを歴任。

地域の“志金”が地域でめぐる「お金の地産地消」を推進したいと、2005年にコミュニティ・ユース・バンクmomo、13年にあいちコミュニティ財団を設立。NPOやソーシャルビジネスに対する年間4,000万~5,000万円の資金支援と、500名を超えるボランティアとの伴走支援に取り組む。

両団体を卒業後、19年1月にめぐるを設立し、全国各地で「お金の地産地消」をデザインするチャレンジを開始。同年7月、“志金”循環の新たな仕組み「凸と凹(でことぼこ)」をリリース。 著書に『はじめよう、お金の地産地消――地域の課題を「お金と人のエコシステム」で解決する』(英治出版)がある。

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