ソーシャルビジネス・トピックス第23回 ソーシャルビジネスの法的リスクマネジメント②
~クラウドファンディングの法務~

執筆者
NPOのための弁護士ネットワーク
弁護士 重松 大介

■ソーシャルビジネスとクラウドファンディング

クラウドファンディングは、インターネットなどを通して不特定多数の人々から少額ずつ金銭を募る行為である。

ソーシャルビジネスの主体(注)は、非営利活動をしているが故に活動資金に乏しいことが多い。

ソーシャルビジネスの主体にとって、クラウドファンディングは、プラットフォームなどを通じて不特定多数の人々に自団体の活動内容をアピールする機会であり、自団体の支援者とつながることができ、資金的需要も満たすことができうるため、資金調達の一手段にとどまらない魅力がある。

(注)NPO法人・一般社団法人などが多いが、株式会社などの営利法人も参入しているほか、町内会などの法人格のない団体も担っている。

■寄付型と購入型

本項では、クラウドファンディングのうち、ソーシャルビジネスの主体がよく用いるいわゆる「購入型」と「寄付型」について法的に気をつけるべき点を簡潔に説明したい。

「購入型」は、クラウドファンディングの呼びかけに応じる資金提供者が支払う金銭に対して、何らかのリターンを約束するものである。

「購入型」については、リターンの内容によって、消費者契約法、景品表示法等の消費者保護に関する法律、その他その商品・サービスを提供する際の法規制がかかる(商品の内容に不備・欠陥等がある場合に解除・損害賠償請求されうるなど。)。

なお、いわゆる「購入型」といっても商品の売買ではなく、説明会や施設見学、支援を受けている人とのふれあいなどサービスを提供する場合もあるため、提供するモノに応じた契約類型となるが、便宜上「購入型」とされている。

例えば、リターンとして物品を提供する約束をした場合には、その物品と提供される金銭とは対価関係に立ち、売買契約の売主と同じ立場となるため、物品を約束した内容通りに提供しなければならない。

「寄付型」は、文字通り寄付をしてもらうもので、プロジェクト実行者は、資金提供者に対してリターン提供の義務を負わない。

「寄付型」については、民法上は贈与契約となり、書面によらない贈与の場合には、履行が終わるまでは資金提供者は一方的に解除できる(目標金額に到達しない場合には、プロジェクト失敗としてそれまでの支援金額を全て受け取れないとする、いわゆるオールオアナッシング方式では、プロジェクト成功までを猶予期間としてキャンセルを認めているプラットフォームがある。)。

なお、「寄付型」については、プラットフォームによっては、公益法人や認定NPO法人などの寄付税額の優遇を受けられる団体のみ受け付けるといった扱いもある。

■クラウドファンディング実施時の注意点

クラウドファンディングを実施しようとするとプラットフォームを用いることが多いが、プラットフォーム毎にページの記載要領があるので、基本的にはそれに従うことになる。

例えば、プロジェクト実行者について(誰がお金を受け取り、プロジェクトの目的を実行し、リターンを提供するのか)、プロジェクトについて(いつ、どこで、誰が、何を、何のために、どうやって)、リターンについて(金額、内容、発送時期等)等々できるだけ分かりやすく記載するのが望ましい。

プロジェクトページを見た人から問い合わせがあった場合には適宜対応し、内容に応じてプロジェクトページに反映させていくことによって、信頼感が高まり、後の紛争予防につながる。

また、プロジェクトページに掲載する写真やイラスト等については、著作権侵害に注意する必要がある。

上記とは別の観点で、クラウドファンディングをはじめるにあたって、プロジェクトの目的と、「購入型」におけるリターンの提供との関係に気を配る必要がある。

営利企業がクラウドファンディングを使って商品を開発するような場合には、クラウドファンディングで集めた金銭を使って商品を開発し、その商品をリターンとして資金提供者に配る(販売する)といった形で、プロジェクトの目標=リターンの提供の関係が成り立ちやすい。

ところが、ソーシャルビジネスの場合には、例えば、プロジェクトの目的が集めた金銭で途上国に学校を建てるといったように、資金提供者に直接リターンが反映される場合は少ない(そうであるからこそ、ソーシャルビジネスであるという側面もあるのだが。)。

そのため、リターンとして、建設された学校の様子をリポートとして届けるということや、その国の特産品を送付するなど、プロジェクト本来の目的とは別のことに労力を割かなければならないリターンを設定することになりうるため(前者の例のようにプロジェクト本来の目的に添うリターンの設定が望ましいと言える。)、自団体のリソース等を勘案してリターンが十分実現可能なものとなっているかを検討する必要がある。

また、クラウドファンディング開始後に思ったように支援金額が集まらないなどの理由で、プロジェクトの目的の変更やリターンの変更・追加を検討したい場合があり得る。

プロジェクトの目的の変更は、そもそも何のためにクラウドファンディングを開始したのかという根本に関わるものであり、通常資金提供者が金銭を提供する上で重要な要素となっていることから、些細な変更ならともかく、基本的には認められない。

リターンの変更については、正に資金提供者が提供する金銭の対価の変更であるため、資金提供者の同意なくしてできず、多数の資金提供者が想定されるクラウドファンディングにおいては現実的ではないため、基本的には認められない。これに対してリターンの追加は、新たなメニューを加えるだけなので認められやすいが、既存のリターンと比べて有利とならないようにする必要がある。

これらは各プラットフォームによって運用が異なるが、概ね上記のような運用を行っていると思われる。

■クラウドファンディング終了後

クラウドファンディングが無事成功したとしても、資金がショートするなどしてリターンが実現できない場合、資金提供者から契約解除される可能性がある(なお、プラットフォーム側では独自のガイドラインによりプロジェクト達成の成果物及びリターンの実現性について、事前審査や事後的な返金対応等を取っているところもある。)。

また、リターンとして設定したものが、そもそも実現可能性がなければ詐欺とみなされるおそれもある。

クラウドファンディングは、特定のプロジェクトの達成のために行われることが多いが、クラウドファンディングによって集めた金銭がプロジェクト目的外に使われた場合には、それがたとえプロジェクト達成後の余剰金であったとしても違法と判断され得る。寄付金一般の事例ではあるが、目的をある程度定めて募った寄付金について、団体には収支の説明義務があり、説明義務違反を理由として不法行為の成立を認めた裁判例もある。資金提供者との信頼関係維持のためにも安易な転用は避けるべきである。

なお、クラウドファンディングが終了した後に、資金提供者に継続的なサポーターとなってもらうべく、自団体の会員になってもらったり寄付者となってもらう場合には、個人情報取得の同意の取り直しが必要となる時がある。

≪執筆者紹介≫
弁護士 重松 大介(しげまつ だいすけ)
弁護士法人GVA法律事務所

NPOのための弁護士ネットワークのメンバー。弁護士。准認定ファンドレイザー。
社会的課題に取り組む個人・団体を問わず、支援を行っている。

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