ソーシャルビジネス・トピックス第21回 NPO法人に関する政策・制度の現状と課題③
~人材面~

執筆者
認定NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会
代表理事 関口 宏聡

前回のテーマ「資金面」に続き、第3回目となる今回は、主に人材面での支援制度・施策をテーマとしていきたい。前回の資金面と同じく、NPO法施行後20年を経て、NPO法人を取り巻く人材面での状況は大きく変わりつつある。NPO法人らしい人材であるボランティアをはじめ、増加しつつある有給職員、関心の高まる副業・兼業での貢献など、形態別に現状と課題を説明していこうと思う。

■ボランティア・プロボノ・インターン

◆ボランティア

 人材面でのNPO法人の特徴は「時間(労力)の寄付」とも言える「ボランティア」だ。改めて説明するまでも無いが、普段からのゴミ拾いや介護・子育て支援、事務局運営などをはじめ、東日本大震災などの災害時にもボランティアは大活躍している。こうしたボランティア活動を促進するための主な制度としては、活動中の怪我や第三者への損害などを補償してくれる「ボランティア活動保険」や、活動に応じてポイントが付与され商品等と交換できる「ボランティアポイント制度」、活動のための休暇を取りやすくする「ボランティア休暇制度」などが代表的なものとなる。また、各自治体や大学等にある「ボランティアセンター」では、受け入れ団体とボランティア希望者のマッチングや相談などに対応している。様々な分野でボランティアへの期待が高まる一方で、自身の高齢化や就業、家族の介護・育児のためなどの理由で、ボランティアの減少に悩む団体も多く、こうした人材に支えられてきた団体の中には、活動停止や縮小、解散に追い込まれる事例も出てきている。NPO法人側の自助努力も必要だが、ボランティアの金銭的負担の軽減(活動にかかった費用の補助や所得税から控除できる仕組み)や一層の情報提供、上記のような各種支援制度の普及・活用促進などに取り組む必要がある。

◆プロボノ・インターン

 最近では自分自身の資格や能力(スキル)を活かしたボランティアである「プロボノ」も普及が進んできている。例えば、弁護士や公認会計士・税理士などがNPO法人の法務や会計税務などをサポートしたり、クリエイターがNPO法人のパンフレットやウェブサイトを制作するなど、新しいスタイルとして定着してきた。一方で、プロボノ成功のためには、「コーディネーター」の存在が重要だが、まだ担い手となる団体や人材が十分とは言えず、その育成が今後の普及に向けた課題だ。制度面では、こうしたプロボノ活動が士業において、ある程度義務化されることや資格取得・更新等でプラス評価されることは検討されて良いと思う。他にも、大学生を中心にインターン制度を設けて受け入れている団体もある。今後は2022年からの新しい学習指導要領で新科目「公共」が創設され、シチズンシップ教育やキャリア教育等への関心も高まっていく中で、社会課題の現場に近いNPO法人でのインターンはますます注目されていくに違いない。

■有給役職員・副業・兼業

◆有給役職員など

 NPO法施行20年を経て、NPO法人において有給で働く役員や職員もかなり増えてきており、有給職員数は推計で約25万人、年間給与総額の推計は約7,200億円と損害保険業界に並ぶ規模まで成長している。新卒でNPOに就職する学生も珍しくなくなりつつある。一方で、ボランティア等に比べて、こうした有給職員向けの支援策はあまり見当たらない。税制においては、非営利・公益であることにより、一定の優遇があったが、労働法制においては特段の優遇等は無く、他の企業や団体と同様に法規制が適用されている。企業等と同様の法規制の適用があるということは、同様の支援制度・施策を受けられることも意味しており、雇用・就労関係の保険制度や助成金などは、概ね企業等と同様に活用することができる。条件を満たせば、中退共(中小企業退職金共済制度)も利用できる。しかし、NPO法人での雇用環境整備はまだまだ十分とは言えず、中小企業・小規模事業者と同様に、多くの団体で労務に関する支援が求められている。また、前回の資金面でも触れた中小・小規模企業支援施策の適用拡大の一つとして「小規模企業共済制度」がまだ対象外で利用できないほか、NPO法人で多い女性代表者の出産・育児問題(女性代表は産前産後・育児休業等が無く、雇用保険による育児休業給付金も支給されないなどの問題)も表面化しつつあり、対応が必要だ。

◆副業・兼業

 ここ最近、政府による働き方改革等もあって、関心が高まっているのが「副業・兼業」だ。その一環で、企業によっては就業規則等を改正し、NPO法人等での副業・兼業を解禁、促進する事例も出始めた。企業だけでなく、地方自治体でも兵庫県神戸市や奈良県生駒市などで一定の条件の下、公務員である職員のNPO等での有償の副業を認める制度をスタートさせている。こうした流れは人材不足に苦しむNPO法人の助けにもなり、ひいては社会課題解決を前進させる歓迎すべき動きだ。一方で、旗振り役でもある政府の国家公務員においては、営利企業のみならず、非営利・公益目的であるNPO法人等での副業・兼業も厳しく制限されていて全く事例が無いと聞く。先日発表された「未来投資戦略(成長戦略)」にも盛り込まれたが、現場の課題に即した政策立案や使いやすい制度づくりのためにも、ぜひ早急に神戸市や生駒市のような制度を国家公務員でもスタートさせて欲しいと思う。

 以上、3回にわたり、NPO法人に関する法人制度と寄付税制・資金面・人材面について、それぞれの支援策の現状と課題を述べてきた。紙幅の都合もあり、詳細に触れられず、拙い解説となってしまったが、ソーシャルビジネスに取り組む方のお役に立てれば幸いだ。

≪執筆者紹介≫
関口 宏聡(せきぐち ひろあき)

認定NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会 代表理事
1984年生まれ、千葉県佐倉市出身。2009年、東京学芸大学教育学部環境教育専攻卒業。2007年6月からシーズに勤務し、日本ファンドレイジング協会設立事業やNPO法制度改正のアドボカシー・ロビー活動に従事。2011年や2016年のNPO法・税制改正の実現では市民側の中心的役割を果たしたほか、休眠預金活用法・制度実現にも携わっている。神奈川県指定NPO法人審査会委員、新宿区協働推進会議委員、浦安市市民参加推進会議委員など。

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