ソーシャルビジネス・トピックス第17回 人と組織のマネジメント②
~強くあたたかい組織のつくり方~

執筆者
NPO法人CRファクトリー
代表理事 呉 哲煥

■NPO22団体のインタビューから見えたもの

CRファクトリーは2015年、「事業」のみならず、「人」や「組織」の分野においても評価の高い22団体のNPO※1に対して、「人と組織のマネジメント」についての工夫や施策に関するインタビュー調査を行ない、数々の実践的なノウハウを聞くことができました。※2

NPOにおける具体的なマネジメントノウハウとして、「合宿を実施する」、「クレド(信条)を活用する」、「対話型のワークショップを開催する」、「フィードバック面談を実施する」、「ニックネームを付ける」、「ごはん会の機会を設ける」など、人と組織をあたためるための様々な工夫が凝らされていました。それらのノウハウをグルーピングして集約・統合すると3つの観点が見えてきました。私たちはそれを「強くあたたかい組織をつくるための観点」と呼んでいます(図表1)。

第一の観点は「理念共有・浸透」。団体のビジョンや価値観をメンバーと共有していくことの重要性についてです。第二の観点は「関係性づくり」。メンバー間の関係の質を高め、一緒に仕事・活動していることが楽しくなるような関係性をつくりあげることの重要性についてです。第三の観点は「メンタリング(個別支援)」。メンバー一人ひとりの特性を把握しながら、それぞれの活躍の場所(居場所)をつくっていくことの重要性についてです。これらのうち、今回は「理念共有・浸透」と「関係性づくり」の重要性について重点的に見ていきたいと思います。

【図表1 強くあたたかい組織をつくるための観点】

図表1 強くあたたかい組織をつくるための観点

■「理念共有・浸透」の重要性

社会的企業やNPOにとって、決定的に重要なことの一つは「理念共有・浸透」です。「私たちは何のためにこの事業・活動をしているのか?」、「私たちが最終的に目指すゴールはどこにあるのか?」、「私たちは何を大切にして事業・活動を行なっていくのか?」。これらの問いを組織内で何度も自問自答・ディスカッションした上で、文章で表現したり、時には動画・ムービーで表現しながら、メンバーと深く共有していくことが求められます。「想い」や「志」が大きな動機付け要因になっているメンバーにとって、理念の共有は決定的に重要であり、この会社・団体で働く(活動する)意味そのものになります。社会的企業やNPOにとって「理念共有・浸透」は最重要のマネジメント項目であり、経営者はその重要性を深く認識すると共に、「理念共有・浸透」の腕を磨きたいものです。

「理念共有・浸透」のポイントを簡単に紹介すると、それは理念について「対話する」、「語り合う」ことが重要です。一方的な情報提供・共有では真の浸透はなかなか図れません。理念について「対話する」、「語り合う」中で、少しずつ染みこんでいくように理念は浸透していきます。浸透していくためには「聞く」だけでは不十分であり、「自分の言葉で語る」ことがポイントです。業務に追われる忙しい日々の中でも、仲間たちと理念について語り合う時間を丁寧に取ることが「理念共有・浸透」のコツであり、長い目で見た際の近道なのです。理念が共有されたメンバー・組織が持つエネルギーとパワフルさを考えると、かけた時間は少ない投資と言えるでしょう。

「関係性づくり」の重要性

マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授は「組織の成功循環モデル」というものを提唱しています(図表2)。その理論は簡単に言うと次のようになります。「関係の質」が高いと「思考の質」が高くなり、「思考の質」が高いと「行動の質」が高くなり、「行動の質」が高いと「結果の質」が高くなる、というものです。つまり、高い成果を出したければ、「関係の質」を高めることが重要であるということです。どうしても人は目に見えやすい「結果」や「行動」に着目して、そこにアプローチしようとしてしまいます。要するに「結果を変えよう」「行動を変えよう」としがちです。しかし、ダニエル・キム教授の考え方を借りるならば、「関係を変える(関係の質を良くする)」というところにこそ着目するべきであり、そこに手入れをすることがマネジメントにとっては重要なのです。それほどに「関係性づくり」というものは人と組織のマネジメントにおいて、大きな部分を担っていると言えるでしょう。

「関係性づくり」のためのポイントは、「相互理解」です。相互理解とは、平たく言うと「お互いを知ること」であり、それは趣味や嗜好のようなものから、生まれ育った環境、考え方・価値観、仕事に対する想いや姿勢まで、さまざまな分野への理解が含まれます。業務の話ばかりではなく、相手の背景(バックグラウンド)への理解につながるようなコミュニケーションをとることが、関係性の強化になります。関係の質が高いチームは、楽しく、居心地が良く、メンバーが活き活きしていて、仕事がしやすく、スピードと柔軟性があって、高い成果が出ます。また、相互理解は、第一回で述べた「非金銭的報酬」にもなります。マネジメントの中に「関係性づくり」という観点をより強く入れていってみてください。

【図表2 組織の成功循環モデル】

図表2 組織の成功循環モデル

※1 NPO法人18団体/一般社団法人1団体/株式会社2団体/任意団体1団体

※2 『NPOの組織マネジメントノウハウコレクション』として、ノウハウをまとめた冊子を出版。

≪執筆者紹介≫
呉 哲煥(ご てつあき)

1974年生まれ。静岡大学人文学部社会学科卒業。2001年に独立・起業し、コミュニティ運営・支援事業を開始する。2005年にNPO法人CRファクトリーを設立し、現在代表理事。
「すべての人が居場所と仲間を持って心豊かに生きる社会」の実現を使命に、NPO・市民活動・サークル向けのマネジメント支援サービスを多数提供。セミナー・イベントの参加者は5,000名を超え、毎年約100団体の個別運営相談にのっている。コミュニティ塾主宰。コミュニティキャピタル研究会共同代表。血縁・地縁・社縁などコミュニティとつながりが希薄化した現代日本社会に対して、新しいコミュニティのあり方を研究し、挑戦を続けている。

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