ソーシャルビジネス・トピックス第15回 社会的インパクト評価③
~いよいよ動き出す社会的インパクト評価の未来~

執筆者
日本ファンドレイジング協会
常務理事兼事務局長/社会的インパクトセンター長 鴨崎 貴泰

最終回となる今回は、前回述べた日本で社会的インパクト評価を推進するための取組みの中で、具体的に動き出した最新事例の紹介と今後の展望について述べる。

■社会的インパクト評価のシンポジウムに300名以上が参加

社会的インパクト評価の普及を目的として、2016年6月14日に「Social Impact Day 2016 - いよいよ動き出す社会的インパクト評価の未来 -」が開催された※1
同シンポジウムは、参加受付開始から5日で300名の定員に達するなど、日本における社会的インパクト評価に対する関心の高さと機運の高まりを感じさせた。
シンポジウムでは、世界の社会的インパクト評価を牽引する英国のNew Philanthropy Capital(NPC)のディレクター Tris Lumley氏から、社会的インパクト評価に関する世界の潮流と、英国で社会的インパクト評価を推進するプラットフォームとして2012年に設立された「Inspiring Impact Group※2」の設立経緯と現在の取組みについて発表があった※3
今後、日本で社会的インパクト評価を推進していく際には、先行する英国の事例をベンチマークとしながら取り組む必要があるだろう。
また、シンポジウム後半では、日本の社会的インパクト評価の最前線で活躍するキーパーソンによるパネルディスカッションを行い、今、日本で社会的インパクト評価を推進する「意味」や「価値」、そして、今後必要となる具体的な取組みや仕組みについて議論が行われた。

図1 シンポジウムの様子

また、当日は、本シンポジウムに合わせて初公開された分野ごとの評価ツールセットおよび評価実践マニュアルの発表(後述)、さらに、日本で社会的インパクト評価を推進するための民間イニシアチブ「社会的インパクト評価イニシアチブ」の設立発表(後述)など、日本の社会的インパクト評価の未来が動き出す歴史的な一日となった。

■社会的インパクト評価イニシアチブの設立

日本において「社会的インパクト評価」を推進するために、評価に関わる事業者、資金提供者、中間支援組織、専門家、行政などが集まり、評価推進に向けた取組みなどを議論し、実行を主導するプラットフォーム「社会的インパクト評価イニシアチブ(以下、「イニシアチブ」という。)」が、前述のとおり、2016年6月に設立された。
筆者も共同事務局の一員としてイニシアチブ設立に携わっているが、2016年7月時点で、約50団体がメンバーとして参画している※4
イニシアチブでは、今後具体的なプロジェクトを組成して、様々な団体と協働しながら、社会的インパクト評価を推進していく予定だが、現時点で具体的に動き出しているプロジェクトは以下のとおりである。

①社会的インパクト評価推進のためのロードマップの作成と推進

 イニシアチブの第1弾プロジェクトとして、日本で今後、社会的インパクト評価を推進していくためのシナリオと必要な取組みをまとめた「ロードマップ(設計図)」を作成するプロジェクトを開始する。本ロードマップは、2016年9月末に中間発表を行い、広く一般からも意見募集を行った後、11月頃の完成を目指している。
また、ロードマップ完成と同時に、それらを実行する新たなプロジェクトを組成する予定であり、様々な実施主体の参画を促しながら、ロードマップの実現を目指す。

②分野ごとの指標集や標準的な手法の開発

 イニシアチブとの連携プロジェクトとして、G8社会的インパクト投資タスクフォース国内諮問委員会※5が、社会的インパクト評価のための解説書「社会的インパクト評価ツールセット実践マニュアル」、そして、「教育」、「就労支援」および「地域まちづくり」の各分野におけるロジックモデルや成果指標等を例示したツールセットを2016年6月に公開した※4
これら評価ツールを活用することで、NPOや社会的企業等は、自分たちの事業の評価を簡単に行うことができるようになる。そしてその結果として、資金提供者や支援者とのコミュニケーションが円滑化し、さらなる資源の獲得が可能になるだけでなく、評価結果を事業改善に活かすことなども可能となる。また、同委員会では、2016年度中に実践マニュアルの新シリーズおよび、「文化芸術」や「環境」など新たな分野での評価ツールセットの開発を予定しており、今後の動きが注目される。

図2 社会的インパクト評価ツールセット実践マニュアル

③評価ツールや情報を集約するリソースセンター(Webサイト)の構築・運営

 イニシアチブは、国内外における社会的インパクト評価に関する情報を集約したウェブサイトを2016年6月に公開した※4。同サイトでは、NPOや社会的企業等が社会的インパクト評価を実施する際に参考となる成果指標、事例及び最新情報などを全て無料で得ることができる。
また、将来的には、社会的インパクト評価結果を各組織が投稿できる分野横断的な事例データベースを整備するなど、より広範に活用できることを目指している。

図3 社会的インパクト評価イニシアチブ

④評価事例(ベスト・プラクティス)の蓄積とピア・レビューの実施による知識の共有化

 日本国内では、まだまだ実践事例の少ない社会的インパクト評価の事例を作るために、内閣府は、2016年5月から社会的インパクト評価に関する調査を開始している※6。本調査では、実際に3つの事業者が社会的インパクト評価を実践し、優良な評価事例の蓄積や課題の抽出を行うとともに、評価の実践を通じて社会的インパクト評価を担う人材を団体内で育成することを目的としている。
また、本調査は、イニシアチブと連携して、調査で得られた知見や課題を公開イベントで発表することで、広く社会と共有する予定である。評価に関する事例や知識が不足している現在の日本では、このように評価の結果だけでなく、そのプロセスも公開し、そこで得られた知見から学ぶことができる機会を提供することが非常に重要である。
イニシアチブでは、本調査に限らず、このように評価事例の蓄積と知識の共有化が様々な団体で行われる動きを推進していく予定である。

■社会的インパクト評価の推進を通じて日本社会をインパクト志向に

日本で社会的インパクト評価を推進していくためには、NPOやソーシャルビジネスなどの事業者だけでなく、そのような事業者へ資金を提供する助成財団や金融機関などの資金提供者、そして事業者を支援する中間支援組織や評価の専門家、さらに行政に至るまで、社会的課題解決に取り組む全てのステークホルダーが「社会的課題解決」という共通のインパクトゴールを目指して、協働する必要がある。
その意味で、社会的インパクト評価の推進は、日本社会をインパクト志向に変えていくプロセスでもあるともいえる。
そして、そのようなアプローチこそ、ますます多様化・複雑化する日本の社会的課題を解決するために求められているのではないだろうか。
日本の社会的インパクト評価の推進は、まだまだ始まったばかりである。是非、様々な立場で、評価の推進に参加・参画していただきたいと思う。

※1 主催:社会的インパクト評価イニシアチブ設立準備事務局、日本財団。

※2 英国のボランティアセクターのインパクトに対する考え方に変化をもたらすことを目指したプログラムで、2022年までに高品質のインパクト評価が標準となることを目的としている。http://inspiringimpact.org/ 

※3 英国における社会的インパクト評価普及に向けた取組みについては、内閣府 共助社会づくり懇談会社会的インパクト評価検討WG(2016)「社会的インパクト評価の推進に向けて」P39【コラム4】でも詳しく紹介されている。

※4 イニシアチブに関する最新情報や各種ツールのダウンロードはイニシアチブWebサイトから可能。http://www.impactmeasurement.jp/ 

※5 2013年G8インパクト投資タスクフォースの発足を受けて、日本国内におけるインパクト投資の機運を高めることを目的として、国内各界有識者が集まり発足。http://impactinvestment.jp/about/ 

※6 社会的インパクト評価の実践による人材育成・組織運営力強化調査

≪執筆者紹介≫
鴨崎 貴泰(かもざき よしひろ)

日本ファンドレイジング協会 常務理事兼事務局長/社会的インパクトセンター長
1978年生まれ。千葉大学園芸学部緑地環境学科卒業。グロービス経営大学院卒業(MBA)。
環境コンサルティング会社を経て、2009年公益財団法人信頼資本財団に設立時より参画し事務局長を務め、社会起業家に対する無利子・無担保融資事業やNPOのファンドレイジング支援事業を行う。
2013年に信頼資本財団を退職後、2014年NPO法人日本ファンドレイジング協会へ入職し、現在に至る。
SIBの日本導入やSROIによる社会的インパクト評価などに従事。他、平成27年度共助社会づくり懇談会社会的インパクト評価ワーキング・グループのアドバイザーを務める。

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