ソーシャルビジネス・トピックス第13回 社会的インパクト評価①
~社会的インパクト評価の基本的概念~

執筆者
日本ファンドレイジング協会
事務局長/社会的インパクトセンター長 鴨崎 貴泰

■日本で社会的インパクト評価を推進していくために

世界に類を見ない急速な人口減少・高齢化が進展する中、社会的課題がますます多様化・複雑化し、従来の行政中心の取組みだけでは対応に限界があるといえる。
そのため、社会的課題解決の担い手として、NPOやソーシャルビジネスに対する期待が高まっていることから、NPOやソーシャルビジネスが、自らの生み出す「社会的インパクト」を可視化し、社会から評価されることで、人材、資金などの資源を呼び込み、成長することができる環境を整える必要がある。
そこで、今注目を集めているのが「社会的インパクト評価」である。
日本では、まだまだ理解や実践事例の乏しい「社会的インパクト評価」だが、2016年6月に発表された政府の基本方針である「経済財政運営と改革の基本方針2016(骨太方針)」に、日本の歴史上初めて「社会的インパクト評価の推進」が明記され、社会の注目が高まっているテーマである。
また、2015年度より内閣府の「共助社会づくり懇談会」の下に社会的インパクト評価検討ワーキング・グループが設置され、筆者もアドバイザーとして参加し、2016年3月に、社会的インパクト評価の基本概念の整理や、今後日本で社会的インパクト評価を推進するための対応策等をまとめた報告書が公表された※1
本コラムでは、これから3回にわたって、上記報告書の内容をベースに、「社会的インパクト評価」の基本的概念を解説し、日本における評価の現状と課題について整理する。その上で、今後日本で社会的インパクト評価を推進していくために必要な取組みについて述べたいと思う。

■社会的インパクト評価とは

社会的インパクト評価とは、事業や活動の短期・長期の変化を含めた結果から生じた「社会的・環境的な変化、便益、学び、その他効果」を定量的・定性的に把握し、事業や活動について価値判断を加えることである※1

社会的インパクト評価には、以下の2つの特徴がある。

①「アウトプット(結果)」にとどまらず、その先の「アウトカム(成果)」を評価する。

 これまで、非営利事業等の評価では、「イベン卜に何人参加したか」など事業活動の「結果」である「アウ卜プット」の評価にとどまる例が多数見られた(図表1)。
しかし、本来事業を通じて社会的課題の解決を目指すNPOやソーシャルビジネスの目的から考えると、事業の「結果」で評価するのではなく、事業の結果が生み出した受益者や社会の「変化」や「便益」等の「アウト力ム(成果)」を評価することが重要である(図表1)。したがって、事業の「アウトプット(結果)」の測定のみをもって評価を行うことは、社会的インパクト評価ではなく、その先の「アウトカム(成果)」を評価する必要がある。

②「ロジックモデル」を活用し、アウトカムに至る論理的根拠を明らかにする。

 ロジックモデルとは、事業が成果を上げるために必要な要素を体系的に図示化したもので、事業の設計図に例えられる※2(図表1)。ロジックモデルの作成においては、「事業の目標」と「事業が影響を及ぼす受益者」を明確にし、その事業目標から逆算して、「アウトカム(初期・中期・長期の成果)」、「アウトプット(結果)」、「活動」、「インプット(資源)」を「もし〜なら、〜になる」と因果関係の結びつきを「見える化」することで、アウトカムに至る論理的根拠を明らかにすることができる。

図表1:ロジックモデルの例
図表1:ロジックモデルの例※1

■社会的インパクト評価の目的と意義

「評価」という言葉には、外部の人に自分たちの事業を採点されたり、費用がかかる割には事業者が取り組むメリットが少ないなど、マイナスのイメージを持たれることが多い。
しかし、本来「評価は価値を引き出す」ことであり、社会的インパクト評価を実施し、これを活用することで、以下のように組織の成長や事業の改善等につながる様々な意義がある。

①事業や活動の利害関係者に対する説明責任を果たす(ア力ウンタビリティ)。

 社会的インパクト評価の目的のひとつは、外部の利害関係者(ステークホルダー)に社会的インパクトにかかる戦略と結果を開示し、説明責任を果たすことである。そうすることで、事業者は、事業の有効性をPRすることができ、資金提供者等とのコミュニケーションが円滑になることで、新たな資源(資金や人材など)獲得が可能になる。また、資金を提供する側にとっても、なぜこの事業に資金を投入したのかの説明が明確になる。

②事業や活動における学び・改善に活用する。

 社会的インパクト評価のもうひとつの目的は、組織内部で社会的インパクトにかかる戦略と結果を共有し、経営管理や意思決定に活かすことである。特に事業者にとっては、この点が評価に取り組む最大の意義となる。事業者は、評価を通じて自らの事業を検証し、人材・資金の配置や配分を改善したり、場合によっては、事業内容や目標を見直すことで、組織をさらに成長させることができる。

このように、課題先進国の日本において、ますます重要性が増している「社会的インパクト評価」だが、まだまだ理解や実践事例の乏しいのが現状である。次回は、日本における社会的インパクト評価の現状と課題について整理したいと思う。

※1 内閣府 共助社会づくり懇談会 社会的インパクト評価検討WG(2016)「社会的インパクト評価の推進に向けて」

※2 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2016)「社会的インパクト評価に関する調査研究最終報告書」P.35

≪執筆者紹介≫
鴨崎 貴泰(かもざき よしひろ)

日本ファンドレイジング協会 事務局長/社会的インパクトセンター長
1978年生まれ。千葉大学園芸学部緑地環境学科卒業。グロービス経営大学院卒業(MBA)。
環境コンサルティング会社を経て、2009年公益財団法人信頼資本財団に設立時より参画し事務局長を務め、社会起業家に対する無利子・無担保融資事業やNPOのファンドレイジング支援事業を行う。
2013年に信頼資本財団を退職後、2014年NPO法人日本ファンドレイジング協会へ入職し、現在に至る。
SIBの日本導入やSROIによる社会的インパクト評価などに従事。他、平成27年度共助社会づくり懇談会社会的インパクト評価ワーキング・グループのアドバイザーを務める。

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