ソーシャルビジネス・トピックス第12回 助成金の獲得から活用へ ~NPOの資金調達~③
助成金申請のための事業づくりと事業後

執筆者
NPO法人CANPANセンター 代表理事 山田 泰久

■事業づくりの本気の基本

今回は助成金申請のための事業づくりについて紹介したい。決して、助成金獲得のために助成制度に合わせた事業をつくるのではなく、助成金を活用して団体や活動の発展につながるような事業をつくるという視点が重要である。
さて、助成金は基本的に継続して支援を受けることができないものである。従って、助成金を活用して事業を実施し、その成果で次の成果を生み出していく事業内容を考えなければならない。
次の図は、筆者が助成事業スパイラルと呼んでいるものである。

助成事業の構成

助成金は継続した支援が難しいものなので、直接受益者に働きかける事業の場合、助成金終了後にどうするのかが必ず問題になってくる。従って、助成事業として実施する場合には、受益者に働きかけるのではなく、受益者を支える人や周囲の人、環境を変えることで、受益者を支える仕組みや環境を作っていくことが必要である。
まずは、受益者を中心にどのような人がいるのか、その事業に関わりそうな様々なステークホルダーを把握したい。
さらに、その中から誰を対象に働きかけると事業の実施効果が高く、かつ効果が持続していくのかを考えていく。事業の対象者が変化することで、その影響で受益者も変化し、ひいては、地域や社会の変化ももたらすスパイラルが生み出されるのである。

■事業終了後を意識した事業づくり

助成事業では、助成対象期間内に成果を出すのは当たり前のことだが、助成金が終わった後にも、(1)持続的に成果を出していく(2)継続して実施できる仕組みを作る(3)事業のノウハウを他地域、他団体に提供し、波及効果を高めていくことが重要である。そのためには、事業を実施して終わりではなく、団体としてしっかりと知見を培ってノウハウ化していくこと、事業のプロセスを通じて、団体として、次の5つの資産を形成していくことが必要である。こういった資産を形成することが助成事業後の団体の発展に活きてくるのだ。

【人】 協力者、参加者、人材養成
【モノ】 Webサイト、テキスト、備品、施設、設備
【仕組み】 低コスト化、事業収入、ノウハウ移転で収益
【ネットワーク】 助成機関、行政、他セクター、専門家
【ノウハウ】 事業の専門性、組織マネジメント

さらに、助成事業終了後のあるべき姿として、次の4つの段階がある。限られた助成金では4の段階まで行くことは難しいかもしれないが、最初の一つでも達成できるような事業内容を考え、事業を実施していくことがNPOに求められている。

  • 団体や活動が強化されているか?
  • 成果の再現性があるか?
  • 事業内容が仕組み化されたか?
  • 課題が解消されているか、あるいはそのプロセスに入っているか?

■インターネットの活用と情報発信

少し視点を変えて、助成金申請におけるインターネットの活用について紹介したい。以前は募集要項等を冊子にまとめて配布していた助成財団も、最近はWebサイトでの情報公開だけというケースが多くなっている。また、インターネット申請による助成制度も少しずつ増えてきている。
よって、NPO側も、インターネットの活用が重要である。団体のことを正しく理解してもらうには、助成金申請書の内容とともに、団体のWebサイトの情報が重要になっている。現在は、助成財団の担当者も、審査の中でNPOのWebサイトをチェックするのが当たり前となっている。助成金を申請する前には、申請書の内容を十分に吟味するのと同じく、Webサイトの内容を整理し、自団体の魅力がしっかりと伝わるサイトにしておかなければならない。また、助成実績や外部との協働実績をしっかりとWebサイトで公開することが、団体の信頼度向上や実力のアピールにつながる。
さらに、無事に助成金が採択となった際は、積極的に情報発信を行うことを意識してほしい。外部から見えにくい、わかりにくいNPO活動において、活動情報を発信し、取り組んでいる問題の可視化、活動の見える化を進めることは必要不可欠である。
例えば、助成事業を一つのキャンペーン活動として、その事業そのものの広報活動を行うことで、多くのメリットを得ることができる。ある団体は、助成金を獲得した際にニュースリリースを出し、この1年、自分たちがこのような事業を実施するという宣言を行うことで、同じような活動をしている団体からの賛同を得られたり、行政の支援も得やすくなったりすることがある。これも積極的に情報発信を行うことで実現されるものである。普段の活動の中では、団体そのものをアピールする機会はなかなか作れないが、助成事業に採択されるといった機会を通じてアピールすることが重要だ。これも助成金を活用するという視点の一つである。

■その他の参考情報

今回のコラムの内容以外に、助成金に関する参考資料をこちらのブログに掲載しているので、ご興味がある方はぜひ参照してほしい。
http://blog.canpan.info/c-koza/archive/517 

最後に、あらためて助成金の意義を伝えたい。助成金には経済価値にとどまらない多くの付加価値がある。よって、単なるお金として助成金を獲得するのではなく、助成金を機会として捉え、活用することが大事である。このコラムを通じて、お金以外の助成金の価値や意義を考え、助成金の可能性を感じてもらえれば幸いである。

≪執筆者紹介≫
山田 泰久(やまだ やすひさ)

NPO法人CANPANセンター代表理事
群馬県出身。1996年日本財団に入会。2014年4月、日本財団からNPO法人CANPANセンターに転籍出向。NPOの情報発信サイト「CANPAN」を運営。その他に、NPO×情報発信、オンライン寄付、助成金、IT・Web、ノウハウ、ネットワーク、出身地などの文脈でセミナー開催、セミナー講師、プロジェクト、情報発信などを行っている。

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