ソーシャルビジネス・トピックス第1回 ソーシャルビジネスとは

執筆者
NPO法人コミュニティビジネスサポートセンター 代表理事 永沢 映

■ソーシャルビジネスが拓く新しい創業の可能性

ソーシャルビジネスが、全国で活発な展開を始めています。
「環境、福祉、まちづくりなどの分野における社会課題を継続的な事業で解決するものの総称」とされるソーシャルビジネスは、株式会社、NPO法人、一般社団法人、組合や個人事業など、多様なカタチで、地域の抱える課題解決のための事業が行われています。
社会課題として、買い物難民問題、待機児童問題、商店街空き店舗問題、高齢化問題など、様々な課題が表面化し、もはや行政や地縁活動だけでは解決が困難となってきました。
そこで、継続的かつ自立的に社会課題を解決しながら、それを仕事として担えるソーシャルビジネスは社会からも求められ、また、事業を目指す担い手にとっても、魅力的に映る事業活動となっているのです。

ソーシャルビジネスの定義が明確に発信されるようになったのは、2007年以降、経済産業省のソーシャルビジネス研究会がきっかけにはなっていますが、すでに2007年以前にも、市民社会の必要性や事業型NPO、コミュニティビジネスが地域の課題解決に必要な視点であるとされ、社会性と事業性を伴う事業の総称として「ソーシャルビジネス」が定着していきました。
全国的で多様な課題解決や国際的問題、地球規模での問題解決などを含めたソーシャルビジネスが世界的に注目され、その後に韓国で社会的企業育成法が施行されたり、バングラディッシュのグラミンバンクによるマイクロクレジットが、同国の貧困者の創業・雇用を実現したなどの事例が知られたことで、さらに関心が高まっていきました。

一般的に、定義としてのソーシャルビジネスには、主に3つのポイントがあります。

  1. 生活者の視点で地域や社会、市民の抱える問題、課題を明確にして解決を図る(社会性)
  2. 解決に向けた新しいアイデア、手法を発想して事業を実施していく(革新性)
  3. 事業が継続・発展し、経済的効果や雇用効果など経済的な成果を達成していく(事業性)

これらの点を踏まえた経営によって成果を達成できると、社会にとっても、市民にとっても、そして事業者にとっても、喜ばしい事業として評価されていくものです。

ソーシャルビジネスとは

■ソーシャルビジネスを事例から学ぶ

ソーシャルビジネスの事例は、経済産業省の「ソーシャルビジネス55選」や「ソーシャルビジネスケースブック」をはじめ、Webや冊子からも数多くの情報が入手できます。
事例に共通していること、つまりソーシャルビジネスとして評価されるためには、主に以下のポイントを押さえなければなりません。


以上は、非常に大切なポイントになってきます。
事例としては、高齢化の進む過疎地域の課題解決として実施されている徳島県上勝町の『葉っぱビジネス』と称される「株式会社いろどり」や、女性の社会参加や保育環境向上のための病児保育に取り組む「NPO法人フローレンス」などが有名であるが、いずれの事例も上記のポイントを押さえた事業となっています。

一方で、事例を学ぶ際に留意したい点もあります。
それは、ソーシャルビジネスの成立には、「人」、「地域性」、「ビジネスモデル」、の3つの構成要素の全てが大切であり、成功事例は「この人たちが、この地域で、この方法で成功している」ものであり、その事例と同じビジネスモデルをそのまま参考にしても、人や地域が異なれば同じように成功することはありません。
つまり、事例から学んだビジネスモデルを、個性や地域性によってやり方、価格、連携などについて、変えていかなければなりません。

また、ソーシャルビジネスの財源は、事業収入が基盤となりつつも、会費、寄付、補助金や助成金、委託事業と主に5つの財源で成立するものであり、賛同者からの会費やクラウドファンドによる寄付を受けたり、創業時に活用できる補助金を利用したり、事例の多くも多様な財源の組み合わせで成立しています。
さらに、ソーシャルビジネスは単独で課題解決を実現するものではなく、市民や企業、行政または大学や金融機関、商工団体や商店街、地縁団体のいずれも、連携や協力を今まで以上に深めています。

ソーシャルビジネスとは

■ソーシャルビジネスに関する最新の動向について

最近では、以下のようなことに関連して、ソーシャルビジネスが盛んになっています。


このような視点でソーシャルビジネスが講じられているように、ソーシャルビジネスはその概念や理論だけを学ぶためのものではなく、何かしらの課題解決に対して実践されると、効果的な手法になるものです。

ソーシャルビジネスは新しい事業ではなく、既存の多くのビジネスも、生活課題や社会の困りごとを解決するために生まれています。
最近では、事業=お金を稼ぐという図式が一般化していますが、改めて成立するソーシャルビジネスを検証していくと、その多くは生活者や社会の課題を正確に捉え、多くの工夫を施しながら、その課題に対して、適正かつ付加価値のある事業内容により、解決を図っています。
つまり、困りごととは、地域ニーズでもあり、社会ニーズでもあるため、市場・マーケットを捉えた堅実な事業が、ソーシャルビジネスであるともいえるでしょう。

≪執筆者紹介≫
永沢 映(ながさわ えい)

日本大学商学部卒業後、環境ビジネスの会社経営を経て、1999年よりNPOやコミュニティビジネス支援を開始している。
NPO法人コミュニティビジネスサポートセンター代表理事
広域関東圏コミュニティビジネス推進協議会代表幹事
東京都北区創業支援施設・ネスト赤羽インキュベーションマネージャー
内閣府共助社会づくり懇談会委員、国土交通省半島振興委員なども務める。

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