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麩と自社の未来をつくる
三島食品(株)

代表取締役
伊丹 大地さん
| 代表者 | 伊丹 大地 |
|---|---|
| 創業 | 1958年 |
| 資本金 | 1,000万円 |
| 従業者数 | 6人(うちパート4人) |
| 事業内容 | 麩菓子、焼き麩の製造 |
| 所在地 | 静岡県三島市南二日町27-38 |
| 電話番号 | 055(975)1220 |
| URL | https://www.ofuya.com |
静岡県三島市で麩を製造する三島食品(株)は、50年以上続く製麺所だった。麺の製造から撤退し、麩の製造に専念すると決めたのは、現在3代目社長の伊丹大地さんだ。大地さんは、製麩にどのように勝機を見いだしたのだろうか。
手仕事が生み出す静岡名物
同社は、1958年に製麺所として創業し、生麺や半生麺を手がけてきた。ところが、90年代に入ると、安価な冷凍麺を製造する大手製麺会社にシェアを奪われ、苦境に陥る。当時2代目社長だった伊丹眞人さんが穴を埋められる新事業はないかと思案していたところ、知人から、廃業を予定している製麩会社を継ぐよう勧められ、事業承継に踏み切った。そして、譲り受けた製麩の設備を製麺所の一角に導入し、兼業を始めた。
一口に麩といっても、種類は多様である。生麩、焼き麩、揚げ麩に大別され、加えて、手まり麩や車麩に代表されるように地域色も豊かだ。同社が手がけるのは焼き麩で、看板商品はさくら棒という静岡県で親しまれている甘い棒状の麩菓子である。淡いピンク色で、太さは直径約6センチメートル、長さは約90センチメートルとかなり大きい。
つくり方は次のとおりだ。グルテンに小麦粉と水を加えて混ぜ、練り器でこねながら着色して生地をつくる。それを短冊形に切り分け、かけ流しの水に1時間ほど浸した後、蒸し焼きにする。ふっくらと焼き上がった麩を一晩乾燥させ、はけを使って砂糖蜜を塗る。そしてさらに一晩乾燥させると、外はサクサク、中はふわふわとしたさくら棒が完成する。
小麦粉を原料とする点は麺と共通しており、同社が長年培ってきた技術やノウハウを生かすことができた。出来栄えは天候の影響を受けやすい。原料の配合は、気温や湿度などの変化に応じて毎日調整する。また、さくら棒はサイズが大きいうえ繊細なため、完成してからも慎重に扱わなくてはならない。丁寧な手仕事が欠かせないのだ。
選択と集中で麩の道へ
製麩を始めたことで業況は上向いたものの、劇的に改善したわけではなかった。大地さんは、2012年に同社に入り、製麩部門に配属された。食品づくりに携わった経験がなかった大地さんは、現場で製造技術を身につけながら、図書館に足を運んだり、インターネットで検索したりして知識をつけようとした。ところが、製麩に関する情報は思うように集まらずに苦労したという。専門的に学べる書籍やウェブサイトはみつからず、最終的に行き着いたのは、中小企業の支援機関である公益財団法人静岡県産業振興財団だった。そこで開講される総合食品学講座を受講し、食品添加物や食品衛生、流通など、食品の製造全般について勉強を重ねていった。
大地さんが3代目に就任した2015年、製麺部門では長年稼働してきた製麺機の老朽化が進み、修理が必要になっていた。しかし、資金繰りに余裕はない。修理して製麺を続けるかどうか悩みぬいた末、限りある経営資源を製麩事業に集中させるべきだと考えた大地さんは、これを機に製麺事業から撤退すると決めた。
当時、麩の売り上げは麺の半分ほどだったという。それでも、他社との競争を考えれば、麩の方が勝機が大きいと見込んだのだ。麩の製造には細やかな手仕事も求められ、製麺業界に比べて規模の大きい企業が優位とはなりにくい。また、同社は富士山と箱根山が育んだ地下水が交わる土地に位置し、製麩に適した水を豊富に確保できる。そして、大地さん自身も経験したように、製麩に関する情報は手に入りにくい。新規参入も難しいのだ。同社が製麩会社の全国規模の組合に加入した際にも、30年ぶりの新規加入だと会員たちに驚かれたほどである。
駄菓子ではない麩菓子で勝負
事業を製麩に絞った同社は、大手との競争を避けられるとはいえ、老舗ばかりの業界で勝負することになる。そこで大地さんは、伝統を大切にしながらも、固定観念にとらわれない「新しいお麩のかたち」を模索していこうと考えた。取り組みの例を二つ紹介しよう。
一つ目はブランディングだ。売り上げのおよそ9割をBtoBが占める同社は、商品の販売先を土産物店やサービスエリア、百貨店などに限っており、日常的な買い物で利用されるスーパーなどには販売していない。これには、麩菓子は駄菓子であり安価で買える、という従来のイメージから脱却するねらいがある。自宅用としてはもちろんのこと、プレゼントや景品など、幅広い用途での購入につながっている。
二つ目は商品開発だ。製麩事業に専念して以降、同社は数々の新商品を生み出している。代表的なものに、「やきいもふがし」がある。さくら棒と同じくらいの大きさに焼き上げた麩菓子に、地元名産のサツマイモ「三島甘藷」のペーストを練り込んだ砂糖蜜を塗り、六つに切り分けたものだ。焼き芋そっくりの見た目とロースト感のあるフレーバーに仕上げている。目新しさもあって、東海道土産としてテレビ番組で紹介されたことをきっかけに知名度が上がり、ヒット商品となった。また、アレンジ商品を次々とつくり出す同社には、地元の商業施設で展示したり、都内のイベントで販売したりするためのコラボレーション商品の依頼が来るようになった。
そのほか、同社はSNSを活用した情報発信や展示会への出店などにも力を入れている。こうした取り組みが実を結び、製麺から撤退したときには麺の半分ほどだった麩の売り上げは、いまや当時の麺の倍にまで増加した。業界動向を的確にとらえて進むべき方向を見極めてきた同社の歩みは、日々変わりゆく競争環境のなかで中小企業が生き残るためのヒントとなるだろう。
(木村 由起子・2025.11.12)
焼き芋そっくりの「やきいもふがし」
本事例に関連するテーマについてさらに知りたい方はこちら(総合研究所の刊行物にリンクします)
| 新事業展開 | 次世代につなぐ―縁と絆が導く親族外という選択―「地域に根差し成長を応援する学生服店」 | 調査月報(2025年1月号) |
| 販路開拓 | 経営最前線2「食卓に笑顔を届ける米の伝道師」 | 調査月報(2024年9月号) |
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