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IoTとAIを使ってリアルタイムで空き情報を可視化する

(株)バカン

(株)バカン 代表取締役 河野 剛進

代表取締役

河野 剛進さん

代表者 河野 剛進
創業 2016年
従業者数 73人(2021年6月9日時点)
事業内容 空き情報配信サービスの提供
所在地 東京都千代田区永田町2-17-3
住友不動産永田町ビル2F
電話番号 03(6327)5533
URL https://corp.vacan.com
スマートフォンでVACAN Mapsの空き情報を確認

スマートフォンでVACAN Mapsの空き情報を確認

あの場所は今、空いているだろうか。(株)バカンは、IoTとAIを使って、さまざまな場所の空き状況や混雑状況を可視化する「空き情報配信サービス」を提供している。

空き情報をリアルタイムで反映する

社長の河野剛進さんが空き情報に着目したきっかけは、子連れで外出したときに空いているトイレを見つけるのに苦労した経験だ。そこからエリアを広げ、現在は飲食店や宿泊施設、空港の保安検査場などの空き情報を提供している。

空き情報を可視化する仕組みはこうだ。人感センサーやカメラなどのデバイスで取得したデータから、AIが自動で空き具合を判断する。同社が開発した「IoTボタン」を使って、施設のスタッフが手動で空き情報を入力することも可能だ。空き情報は商業施設のデジタルサイネージやホームページに自動反映される。ウェブサービス「VACAN Maps」を使えば、スマートフォン上でも確認できる。自動検知でも手動入力でも、空き情報が更新されるまでのタイムラグはほとんどない。即時性が同社のサービスの優れた点である。

正確な空き情報を得るには、センサーやカメラなどデバイスの組み合わせや設置場所がポイントになる。開き戸のトイレであれば壁にセンサーを一つ設置すればよいが、空港の保安検査場ではカメラとセンサーを複数組み合わせるといった具合だ。同社は独自の統合型IoTフレームワーク「vCore」を用いて最適解を提案する。vCoreには三つの機能がある。一つ目は、データの一括管理機能だ。これによりAIの情報処理速度を上げている。二つ目は、データの保存機能だ。過去の設置事例データをストックすることで、新規案件でも緻密なシミュレーションが可能になっている。三つ目は、データの分析機能だ。分析をもとに常にAIの質の向上を図り、情報の精度を高めている。vCoreのおかげで、個人経営の小さなラーメン店や野球場など施設の種類や規模の大小の区別なく、どんな場所でも最適なサービスを提供できるという。

周囲のサポートで困難を乗り越える

空き情報配信サービスは、災害時に開設される避難所でも採用が進んでいる。特定の避難所に人が集中して収容しきれなかったり、支援物資が不足したりといった問題を回避できるからだ。実際、九州地方で台風が発生した際、VACAN Mapsには約1万件のアクセスがあり、分散避難に貢献した。追加の避難所を準備するかどうかといった自治体の意思決定にも役立った。

新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、混雑の抑制に効果を発揮する同社のサービスは引き合いが増えている。期待に応えるかのように、同社は新しく三つのサービスを開始した。トイレの長時間滞在を抑制する「VACAN AirKnock」、行列を管理する「VACAN Q ticket」、飲食店の半個室のブース席を予約できる「VACAN AutoKeep」である。

従業者数73人という規模に成長した同社だが、ここに至るまでには多くの苦労があった。特に苦労したのは創業時だったという。河野さんは大学院で画像解析技術を学んでいたため、IoTやAIを使ってリアルタイムで空き具合を把握する構想はすぐにまとまった。しかし、専門外だったセンサーの開発が思うように進まなかった。ほかにも、開発資金の調達やサービスの効果測定など悩みは尽きなかったそうだ。そのときに大きな助けとなったのが、東京都が主催する「青山スタートアップアクセラレーションプログラム」だという。大企業などのメンターがつき、センサーの開発などについてアドバイスを受けたり、実証実験の場を提供してもらったりとさまざまな支援を受けた。さらに、日本政策金融公庫やベンチャーキャピタルとの相談の機会もあり、開発資金を調達できた。

河野さんは、トイレが見つからず楽しいはずの外出が子どもにとって悲しい思い出になってしまった経験が忘れられず、必ずサービスを完成させるという強い信念で開発に取り組んできた。そうした熱い思いが周囲のサポートを呼び込んだのだろう。「誰もが安心して外出を楽しめるように、より良いサービスを追求し続けます」と語る河野さん。時勢に合ったサービスの拡充を図り、成長を続ける同社の今後の活躍から目が離せない。

(尾形 苑子・2021.06.14)

本稿は、日本政策金融公庫総合研究所編『IoT、ロボット、AI、そしてビッグデータ 小さな企業の活用術 ―第四次産業革命が従来型産業にもたらす新たなチャンス―』(同友館、2021年7月刊行予定)の第Ⅱ部事例編「事例9」の内容を再構成したものです。

本事例に関連するテーマについてさらに知りたい方はこちら(総合研究所の刊行物にリンクします)

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