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読み聞かせで魅力を伝える絵本専門店
ちいさなえほんや
ひだまり
代表
青田 正徳さん
代表者 | 青田 正徳 |
---|---|
創業 | 1994年4月 |
従業者数 | 1人 |
事業内容 | 絵本の販売 |
所在地 | 北海道札幌市手稲区新発寒6条5丁目14-3 |
電話番号 | 011(695)2120 |
和室に並ぶ絵本
札幌市手稲区の住宅街の一角に、絵本の専門店「ちいさなえほんや ひだまり」はある。一軒家をそのまま店舗として利用しており、居間と和室に色とりどりの絵本が所狭しと並んでいる。アットホームな雰囲気のなか、店主の青田正徳さんと話しながら、ゆっくり絵本を選ぶことができる。
少子化の進展やインターネット通販の普及で書店数が減少するなか、青田さんはあえて、絵本に特化した対面販売にこだわってきた。
一人ひとりに合った絵本を手渡す
青田さんは創業前、児童書の販売代理店に勤めていた。作品の背景や子どもたちへのメッセージを詳しく説明しながら保育園や書店を回ると、同じ作品でも反応は人によってさまざまだ。読者一人ひとりに合った一冊を届けるには、たくさんある絵本の内容を正しく理解し、一緒に選んでくれる絵本専門店が欠かせない、と感じるようになっていった。
しかし、1994年2月、札幌市内に唯一あった絵本専門店が閉店してしまった。絵本はカラー印刷が多く装丁も手が込んでいるため、一般の書籍に比べて原価が高い。そのうえ、読者も限られるため利益が出にくく、経営を維持できなくなってしまったのだ。札幌から絵本専門店を無くすわけにはいかないと考えた青田さんは、同年4月、42歳の誕生日に創業した。知人の喫茶店の一角を借りてスタートし、2年後に店舗を構えた。
同店に並ぶ絵本は「ぐりとぐら」など誰もが一度は耳にしたことがあるようなベストセラーから、「トンちゃんってそういうネコ」など隠れた名作まで幅広い。青田さんが絵本を選ぶ基準は、「オリジナリティーがあること、リアリティーがあること、ヒューマニティーがあることの三つ」だ。暮らしのなかで学んだことを気づかせてくれるような作品を、多くの人に紹介したいと考えている。
そのために、毎年約800冊の新刊を読み込み、仕入れる絵本を厳選する。多くの書店が出版社に返本可能な委託販売制度を利用しているが、青田さんはすべて買い取っている。薦められる作品だけを取り扱っているという自信からだ。大型書店ではあまり注目されずに絶版間近だった作品が、青田さんが取り上げたことで人気となり、重版がかかることもある。
いくら素晴らしい作品だとしても、ただ並べておくだけでは、絵本の魅力は伝わらない。例えば、ページをめくるスピードや読み手の声のトーンが少し変わるだけで、物語の見え方は違ってくる。耳から聞こえるストーリー、目に映る鮮やかな絵、読み手の人生観が融合して初めて絵本は完成する。そう考えている青田さんは、来店する人たちへの読み聞かせを積極的に行っている。一読するだけでは気づけない隠された意図や作者の生い立ちなどにも触れながら、相手が共感できる一冊を一緒に選ぶ。書かれた背景も含めて内容をきちんと理解して説明できるように、店に並べるのは2,500タイトルまでと決めている。
広がる支援の輪
開店当初は毎月100人程度の来店があったが、店舗周辺の住宅街の少子高齢化が進んだ影響もあって徐々に来店客が減り、閉店の危機に陥ったことが何度かあった。そのたびに、青田さんの絵本にかける思いに共感する人たちに助けられてきた。
資金繰りに窮したとき、「ひだまり債」と称して支援を呼びかけたところ、多くの常連客が協力してくれた。地元の新聞に取り上げられたこともあり、最終的に約480万円を借り入れることができた。そのほかにも、常連客や青田さんの店を知る幼稚園の先生などたくさんの人が、「絵本を買うならひだまりで」と呼びかけたり、インターネットを使わない青田さんの代わりに店のホームページを立ち上げたりと協力してくれた。絵本作家たちも支援の輪に加わり、最近では原画展を2カ月に1回開催できるようにもなった。絵本の世界を身近に感じることができると、普段より多くの人が来店する。
支援に報いたいとの思いから、青田さんは、保育士の研修などの講師を積極的に引き受け、読み聞かせのこつや絵本の選び方を伝えている。また、お薦めの絵本や読み聞かせのイベントを紹介する「ひだまり通信」を毎月5,000部発行し、幼稚園や図書館に無料で配布している。発行は400号を超えた。
最近は腕が上がらなくなってきて、読み聞かせの間絵本を支えるのもつらい。それでも「やれる限りは続けていきたい」と考えている。読み聞かせをした子どもが母親になり再び来店することも増えてきた。同店だけだった絵本専門店も札幌市内にいくつか開店した。青田さんが四半世紀をかけて伝えてきた絵本の魅力は、次の世代に確かに受け継がれている。
(青山 苑子・2019.07.09)
本事例に関連するテーマについてさらに知りたい方はこちら(総合研究所の刊行物にリンクします)
地域活性化 | 未来を拓く起業家たち「異業種チームで挑むまちづくり」 | 調査月報(2019年5月号) |
資金調達 | 未来を拓く起業家たち「機織りを通じて手仕事の良さを広める」 | 調査月報(2018年10月号) |
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