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コンテナいっぱいに鉄道愛を積んで

パンケーキコンテナ

パンケーキコンテナ 村松 宗己

代表

村松 宗己さん

代表者 村松 宗己
創業 2017年
従業者数 1人
事業内容 鉄道喫茶
所在地 山梨県甲府市住吉4-13-25
電話番号 055(244)7403
URL https://cafe-pancake-container.amebaownd.com
江ノ電旧500形の扉を開けて店内へ

江ノ電旧500形の扉を開けて店内へ

山梨県のJR身延線、南甲府駅から住宅街を10分ほど歩くと、突如として三灯式の鉄道信号機が現れる。奥の平屋には、江ノ電の旧500形の扉がついている。鉄道好きなら誰しも足を踏み入れずにはいられなくなるようなこの建物は、村松宗己さんが営む鉄道模型と珈琲の店「パンケーキコンテナ」だ。

夢に向けて発進

パンケーキコンテナでは、店内のレールで鉄道模型を走らせたり、鉄道関連の書籍を閲覧したりできる。模型や駅名板、旧国鉄時代の旗などの鉄道グッズを眺めながら、京急旧1000形の座席でコーヒーやパンケーキを飲食することもできる。なかでも同店の特徴は、15畳の広さがあるレンタルレイアウトと呼ばれるスペースだ。ビルや高架、トンネルなどのジオラマの中に線路が通っており、最長で33両編成の鉄道模型を走らせることができる。

店主の村松さんは、生粋の鉄道マニアだ。幼少時代から鉄道に興味をもち、特に、昭和30~50年代の貨物列車に傾倒している。コンテナを何両もつなげて走る姿が貨物列車の魅力の一つ。しかし、長い線路を備えたレンタルレイアウトは全国でも少ないうえに、地元の山梨県には鉄道関係の店が少なかった。何十両ものコンテナをつなげた貨物列車を走らせられる大規模なレイアウトをつくりたい。そんな夢を描いていた。

転機は村松さんが28歳のときに訪れる。地元に店を出せそうな建物があることを知り、夢を実現させる決意をした。勤めていた工務店を退職し、本格的に準備を始めた。

発車準備は入念に

鉄道喫茶がどのような業態か知らない人も少なくない。具体的な数値に基づいた経営計画を提示しなければ十分な開業資金を調達することは難しいだろう。そう考えた村松さんは、まず、大手シンクタンクが算出した鉄道ファン人口に、山梨県の人口の全国に対する比率を掛け合わせて、来客見込み数を試算した。

山梨県に同業者はいない。また、貨物列車に特化したレイアウトは全国的に少ないため、県外からも来店が見込める。こうしたことも考慮して計算したターゲットは1万8,000人になり、採算はとれると判断した。そのほかにも、これまで集めてきた2,000冊以上もの鉄道に関する蔵書を閲覧できるコーナーを設けるなどのアイデアも書き連ねた詳細な開業計画書が出来上がった。

おかげで、日本政策金融公庫から融資をスムーズに受けることができた。工務店に勤務していた経験を生かして内装工事やレイアウトの製作は自分で行い、2017年9月、念願の鉄道喫茶をオープンした。

山梨県初という珍しさから、地元メディアの注目度は高かった。鉄道好きの間で口コミも広がり、県内外から人が訪れるようになった。レイアウトを目当てに、遠くは青森県や兵庫県からも来店する。レイアウトの利用料金は1時間800円から。来店者数は月に30~40人と、一般の喫茶店に比べると少ないが、客単価は平均で3,000円前後になる。1回に2万円以上使う人もいるという。

レイアウト横の運転台から自分の鉄道模型を操作

レイアウト横の運転台から自分の鉄道模型を操作

線路はどこまでも

村松さんと鉄道談義をしたくて足繁く通う人もいる。ただ、一口に鉄道と言っても、年代や国、用途によって種類は限りなく幅広い。村松さんは店を始めてから、これまでは守備範囲外にしていたジャンルの知識も吸収するように努めている。常連客も、村松さんに鉄道うんちくを語ることが楽しくて、古い蔵書を持参して解説してくれる。

開店2年目からは、貨物列車のペーパーキットの製造販売も始めた。市販されているコンテナの模型は種類が少ないため自作したところ、村松さんのような貨物列車ファンの注目を集めるようになったのだ。古い資料で紹介されている図面や写真をもとに、独学したCADで設計し、厚紙をレーザーカッターで加工したものだ。購入者は、目印に沿ってペーパーを折ったり糊付けしたりしたものに、市販のモーターや車輪、連結器を装着して完成させる。

「チキ1500をつくって」といった注文も寄せられるようになった。これまでにつくった模型は100車種以上、製作待ちの依頼リストには30車種以上が連なる。インターネットでの通信販売が中心で、依頼を受けてつくったものも掲載している。

車種により注文の多少は異なるが、データ化した設計図を注文に応じてレーザー加工すればよいため、在庫管理の必要はない。これまでに3,000両以上販売し、収入の半分を占めるまでになった。

村松さんは、休みの日にも常連客に借りた資料を読んで勉強したり、模型の設計図を描いたりしている。「仕事と生活の境目がわからなくなっている」が、ワークライフバランスには満足しているそうだ。日々けんさんする高いモチベーションを維持できることは、自分の熱中できる分野で開業する強みといえよう。村松さんの挑戦はどこまでも続く。

(桑本 香梨・2019.7.5)

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