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Vol.4
はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所の創業ポイント
1.業種の概要
今回は「はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所」の創業について、重要なポイントを解説します。
※一般的に、はり師・きゅう師の施術所は「鍼灸院」、柔道整復師の施術所は「接骨院」「整骨院」という名称が多くなっています。しかし、厚生労働省において施術所の名称に関し、とくに「整骨院」という名称使用の是非について議論されているようです。
そのため本稿では、日本標準産業分類における「はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所」の創業ポイントとして解説します。
(1)はり師・きゅう師・柔道整復師の業務
まず、はり師・きゅう師・柔道整復師それぞれの業務について、ご紹介します。
【はり師・きゅう師の業務】(厚生労働省「職業情報提供サイトjob tag」より抜粋
はり師は身体のツボをはりで刺激し、きゅう師はツボをきゅうで暖めることで、人間の自然治癒力を活性化させて病気を治療する。
はり治療は、患者の症状に応じて、ツボを指で探し当てて、消毒したはりをトントンと叩くようにして瞬間的に皮膚を通過させる。患部だけでなく、その周辺の神経にも刺激を与える。また、皮膚に刺したはりを電極にして弱い電流を流すことによって、はりの効果を倍増させる方法も行われている。
きゅう治療の場合は、指で患部周辺を押してツボを探し、ツボに適量のもぐさをのせ線香の火をつけて燃やし、熱の刺激で治療する。また、皮膚の上ではなく台座の上にもぐさを置く方法もある。
実際にははり師ときゅう師の両方の免許を持って施術をしている人が多い。
【柔道整復師の業務】(同上サイトより抜粋)
スポーツや日常生活の中で生じた、打撲、捻挫、脱臼及び骨折などの各種損傷に対して、外科手術、薬品の投与等の方法ではなく、手を用いた応急的若しくは医療補助的方法により、その回復を図る(徒手整復)。
治療の過程は、各種損傷に対して、評価、整復、固定、後療法、指導管理などに分かれる。治療を行う間は、患者の日常生活について適切な指導管理を行い、患部に悪影響が生じないようにする。
骨折や脱臼の場合には、応急手当てを行う以外は、治療について医師の同意を得てから行うこととされている。
(2)施術所数の推移
「はり師・きゅう師の施術所」「柔道整復師の施術所」の施術所数は、図-1のとおりです。いずれも、右肩上がりに増えていることがわかります。
2022年の2020年比増減率は、「はり師・きゅう師の施術所」が5.9%、「柔道整復師の施術所」は1.1%となっています。
施術所数が伸びているため、競合は激化しているといえます。
施術数の推移
図表-1 施術所数の推移
資料:厚生労働省「衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」を基に著者作成
※隔年調査
2.必要な許認可等
「はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所」を開業するには、施設開設後10日以内に管轄の保健所に「開設届」を提出します。また、開業に際しては、「はり師」「きゅう師」「柔道整復師」いずれかの免許が必須で、受領委任制度(後述)取扱いのためには、「施術管理者」となる必要があります。
施術所開業にあたっての具体的な流れは以下の通りです(東京都南多摩保健所作成「施術所開設の手引き」から抜粋)。
(1)新規開設手続きの流れ
事前相談⇒施設完成⇒開設⇒開設届提出⇒実査
※事前相談には、平面図、提出書類等で準備可能なものをお持ちください。
(2)施術所開設届提出書類等
【開設届】
提出書類等 | 記載・添付上の注意 |
①施術所開設届 | 「あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう」と「柔道整復」では様式が異なりますので、それぞれに開設届が必要です。 |
②業務に従事する施術者の免許証の写し | 原本確認のため原本も必要 |
③平面図 | 各部屋の用途、施術室・待合室の寸法及び面積、外気開放面積と位置、換気装置の位置、器具・手指等の消毒設備の位置等を示したもの |
④案内図 | 最寄りの公共交通機関等からの案内図 |
以下は法人開設の場合に必要 | |
⑤定款(寄付行為) | 法人による原本確認をしたもの |
⑥法人の登記簿謄本 | 発行後6ヶ月以内のもの |
(3)施術所の構造設備基準
①6.6平方メートル以上の専用の施術室を有すること。
②3.3平方メートル以上の待合室を有すること。
③施術室は、室面積の7分の1以上に相当する部分を外気に開放し得ること。ただし、これに代わるべき適当な換気装置があるときはこの限りでない。
④施術に用いる器具、手指等の消毒設備を有すること。
(4)受領委任制度
【受領委任制度とは】
療養費は、本来患者が費用の全額を支払った後、患者(被保険者)自ら保険者へ請求し支給を受ける「償還払い」が原則ですが、例外的な取扱いとして、患者が一部負担金を施術所の施術管理者に支払い、施術管理者が患者に代わって残りの費用を保険者に請求する「受領委任」という方法が認められています。
「受領委任制度」とは、この「受領委任」という方法を厚生労働省が全国共通の取扱いとして制度化したもので、施術者が患者に対して行った施術に係る料金について、患者から一部負担金に相当する額を受け取るとともに、患者から療養費の受領について委任を受けることで、患者に代わって療養費支給申請書を保険者に提出し、療養費を受け取る制度です。
【保険適用となる施術等】
はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所においては、医療保険が対象になる施術があります。
①はり師・きゅう師の場合
- 対象となる傷病が限られており、神経痛、リウマチ、五十肩、頸腕症候群、腰痛症、頸椎捻挫後遺症などが該当します。
- 慢性的な痛みや、医師による施術で改善できなかったものが対象となり、急性の痛みについては適応外となります。はり・きゅうの施術を受けることを認める医師の同意が必要です。
②柔道整復師の場合
- 柔道整復師の施術所で骨折、脱臼、打撲及び捻挫(いわゆる肉ばなれを含む。)の施術を受けた場合に保険の対象になります。
- なお、骨折及び脱臼については、緊急の場合を除き、あらかじめ医師の同意を得ることが必要です。
【受領委任の取扱いを開始するには】
受領委任制度の取扱いを希望する場合、開設届を提出後、地方厚生(支)局への申請が必要となります。
申請要件の一つとして、療養費の受領委任を取扱う「施術管理者」が必要です。「施術管理者」になるには、以下の要件が必要です。
①はり師・きゅう師の場合
- 国家資格の取得後、施術所での実務経験1年間が必要。
- 研修の受講
- 研修時間:16時間、2日間以上
- 研修内容:(1)職業倫理 (2)適切な保険請求 (3)適切な施術所管理 (4)安全な臨床
②柔道整復師の場合
- 国家資格の取得後、施術所での実務経験3年間が必要
柔道整復師として保険医療機関で実務に従事した期間も認められます(最低1年間は施術所での実務経験が必要)。
※保険医療機関とは病院、整形外科クリニックなどを指します
※介護施設、デイサービス、受領委任取扱いの届出をしていない施術所での実務経験期間は認められません - 研修の受講
- 研修時間:16時間、2日間
- 研修内容:(1)職業倫理 (2)適切な保険請求 (3)適切な施術所管理 (4)安全な臨床
(5)出張施術
はり師・きゅう師は、施術所を開設せず出張専門で行うこともできます(出張施術業)。
出張施術業を行う場合は、住所地の保健所へ届出を行う必要があります。転居した場合は、廃止・新規開始の届出が必要です。出張による施術のみを行う場合であっても、法人が開設する場合等、届出者と別の施術者を雇用して出張施術を行わせる場合には、施術所の開設届が必要となります。
3.経営戦略・マーケティング
前述のとおり、「はり師・きゅう師の施術所」「柔道整復師の施術所」は、増加傾向にあるため、競合が激化しているといえます。
経営を安定化させるためには、いかに新規顧客を開拓し固定客を確保するかが課題です。飲食店などと違い、長期間に渡って来所する固定客は少数派なので、継続して新規顧客を開拓し、一定期間通ってくれる患者を確保し続ける必要があります。
競合が激しい経営環境の中で事業を長く継続するためには、自店のコンセプトを明確にすることが有効です。
(1)競争に巻き込まれない経営戦略
はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所が事業を繁栄させるには、できるだけ競争に巻き込まれない経営戦略が有効です。そのためには「市場における立ち位置=ポジショニング」を明確にすることから検討しましょう。ポジショニングについては、こちらをご参照ください。
ポジショニングがうまくできれば、競合他店との差別化につながり、利用者(患者)から選ばれる可能性が高まります。
たとえば「当施術所は患者様のあらゆるお悩みや症状に対応します」と表現しても、患者からみると他店との違いが分からず、選ぶ理由になりません。むしろ「○○(症状など)専門」と、施術所として強い分野を打ち出したほうが、その悩みをもつ患者が「私のための施術所だ」と思う可能性が高まります。なお、広告を実施する場合は、柔道整復師法等の法律に違反しないよう、留意してください(詳細は後述)。
【3C分析をやってみよう】
ポジショニングを考える際に役立つフレームワークが「3C分析」です。
3C分析は「自社(Company)」「お客様(Customer)」「競合(Competitor)」の三つの視点です。これらを分析することで、自店のポジショニングを検討しやすくなります。具体的には以下の観点で分析してみましょう。
①自社(Company)
- 強みや特長(施術の技術、業績、こだわりや専門性など)
- 施術や接客サービスにおける独自の工夫
- 経営資源(人材、店舗や設備、ノウハウ)
②お客様(Customer)
- ターゲットのお客様はどんな人か
- お客様の悩みや期待することは何か
- 出店予定地周辺の住民の状況(年齢層や世帯層など)
③競合(Competitor)
- 出店予定地周辺の競合店(ライバル)の状況
※同業者だけではなく、クリニックや整体院なども競合する可能性があります。幅広い業種業態のホームページをチェックするなどして調べましょう。 - 競合店はどんな打ち出し方(キャッチフレーズ)をしているか
- 競合店の強み、特徴、弱みは何か
【ポジショニングの切り口】
ポジショニングを検討する際は、2軸を決めてポジショニングマップで考えましょう。検討する軸の切り口を例示すると、図-2のような項目が挙げられます。
これ以外の切り口も検討しながら、自店のポジションを固めていきましょう。
縦軸
- 対象患者の年齢
- 療法のバリエーション
- 施術時間
- アフターケアの充実度
- 標準治療期間の明示の有無
- 予約の取りやすさ
- 特殊な症状への対応力
- 痛みの少ない治療法
横軸
- 施術料金
- 保険診療の有無
- 立地の利便性
- 施術所の規模
- 営業時間
- 駐車場の有無
- ダイエットなどプログラムの有無
- 健康保険の適用の有無
図表-2 ポジショニングマップの軸(例)
(2)マーケティングの方法
はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所を開業して、利用者(患者)を集客するためには、次のステップで進めるのが効果的です。
①コンセプトを固める⇒②コンセプトを言語化(言葉で表現)⇒③情報発信
①コンセプトを固める
ポジショニングが明確になったら、そこから自店のコンセプトを考えます。
コンセプトは「自店の強みやこだわり」+「お客様が得られる便益(ベネフィット)」の視点で検討しましょう。
コンセプトを例示すると、以下のような内容が考えられます。
~コンセプトの例~
- スポーツ選手向け:スポーツ障害改善やパフォーマンス向上に特化したプログラムを提供
- 膝痛専門:膝の痛みを改善したい人向け
- 痛みのない柔らかい鍼灸施術:痛い治療を嫌がる人向け
- 自律神経失調症専門:自律神経失調症に悩む患者向け
- 耳鳴り専門:耳鳴りに悩む患者向け
- 睡眠改善:不眠症など睡眠に関する悩みを改善
②コンセプトの言語化
コンセプトをターゲットとする利用者(患者)に理解してもらうためには、言葉として表現する必要があります。言語化するには、以下のポイントを考慮しましょう。
- キャッチフレーズ(こだわりや専門性を短い言葉で表現)
- 他店との違い(患者視点での他店との差別化ポイントを表現)
- ターゲットとする患者のニーズ(解決したい悩みや症状など)
- 自店の強みや特長の証拠(施術者の実績や技術力を証明できるもの)
- サービス(施術メニュー)の特徴の説明
③情報発信
利用者(患者)を集めるためには、告知のための情報発信を行う必要があります。
~広告の制限に留意~
情報発信方法の一つとしては、広告が考えられます。
しかし、はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所の広告は、「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」及び「柔道整復師法」で、広告に掲載できる内容が制限されています。広告に関する具体的な内容については、厚生労働省において「あはき・柔整広告ガイドライン」が検討されていますので、参照のうえ、広告を出す場合は十分に留意しましょう。
~ホームページは必須~
自店のホームページ(ウェブサイト)は、広告制限の対象外とされています。ただし、何でも記載できるわけではなく、利用者保護の観点から「ウェブサイト等に掲載すべきでない事項」もガイドラインに掲載されていますので、確認しておきましょう。
はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所の集客に関しては、ホームページは必須といえます。開業する前から、ホームページの内容を練っておきましょう。
またSNSも、ガイドラインに留意しつつ、情報発信するためのツールとして活用しましょう。
(3)カウンセリングなど接客も重要
利用者(患者)からみると、はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所を選ぶ際の重要ポイントの一つが「接客サービス」です。
たとえ施術の技術が高くても「話しにくい先生だ」など接客振りに不満があると、通うのをやめてしまいます。口コミでネガティブな評判が広がることもありえます。
とくに、初回来院時のカウンセリングに留意しましょう。患者から悩みや解決したい症状、なりたい姿など、うまくヒアリングで引き出したうえで、治療方針、治療方法、改善するまでの期間の目安などを説明することが重要です。
開業前から、カウンセリングなど患者さんが通いたい気持ちになるための接客方法を研究し、マニュアル化するなどして準備しておきましょう。
4.人材確保・資金計画・収支計画
人材確保
はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所は、当初は一人で開業して「患者数が増えてからスタッフを雇用しよう」とお考えの方が多いと思います。
しかし昨今、人材確保が容易ではないのが実態です。給与など待遇面を比較して、大手チェーン店に就職する有資格者が多いためです。
人材確保ができないために、患者の要望に応えられなくなってしまう施術所もみられます。
忙しくなったときのために、自店のホームページやSNSで人材確保を意識した情報発信も行いましょう。
資金計画
筆者の経験上、はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所の開業には、立地や店舗の広さなどによりますが、300万円~800万円ほどかかります。
開業時には以下のような資金が必要です。日本政策金融公庫などの創業融資を利用する場合は、自己資金として必要総額の25%以上を準備するのが望ましいといえます。
①設備資金
- 物件取得費(敷金・保証金など)
- 内装工事
- 施術用ベッド・機器等
- 什器備品
②運転資金(軌道に乗るまでの経費等)
- 賃借料
- 水道光熱費
- 消耗品費
- 広告宣伝費
収支計画
収支計画を立てるための第一歩は、目標売上の設定です。
家賃などの経費と店主の報酬、借入返済などをまかなえる以上の売上を達成する必要があります。
1か月あたりの「患者一人当たりの単価」×「来所者数」を計算しましょう。「患者一人当たりの単価」は、保険適用にするか自由診療のみにするかといった点も検討し、料金設定を行うことで予測できます。
予測が難しいのは「来所者数」です。事業を軌道に乗せるには、前述のマーケティング方法を駆使することが必須です。
創業当初は、思うように集客の結果が出ないケースが多いのが実態です。早期に軌道に乗せるためには、開業前からホームページのコンテンツなど、マーケティングが機能するように準備しておくことが大切です。
さいごに
はり師・きゅう師・柔道整復師等の資格と技術を活かし、独立開業を目指している方は多いと思います。しかし、冒頭でお伝えしたように施術所数は増加傾向にあり、競合が激しい業界の一つといえます。今回ご説明した観点からしっかり準備を行い、一人でも多くの患者さんの助けになるよう、より良い施術所の開業を目指していきましょう。
掲載日 令和6年11月5日
プロフィール
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上野 光夫
中小企業診断士・大正大学招聘教授。 会社HP:https://mmconsulting.jp/ |
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