先輩創業者の創業事例 UIJターン創業事例 海苔加工・販売 風間水産[宮城県石巻市]風間 亮佑さん先輩創業者の創業事例 UIJターン創業事例 海苔加工・販売 風間水産[宮城県石巻市]風間 亮佑さん

ボランティアで出会った美味い海苔で「七転百起」創業。 東日本大震災、風間亮佑さんは3回の震災ボランティアを経験した。
その海で出会った「黒バラ海苔」が、風間さんを石巻へと導く。
一過性ではない地元との関わりが拓いた、創業までの道のりである。

 宮城県の「黒バラ海苔」は歯ごたえと磯の香りが特徴的な海苔である。板海苔と違い、海苔を細かく切らずに、そのままの姿で乾燥させて袋詰される。アオサのような緑色とは違い、黒々とした岩のりの品種を養殖して加工されているのだ。
「風間水産」を営む風間亮佑さんが黒バラ海苔と出会ったのは、東日本大震災のボランティアがきっかけだった。震災時、風間さんは大学の最終学年を目前にした春だった。大学の仲間が自分の進む道を見つける中、東北へのボランティアは自分の道を模索する作業だったのかも知れない。震災の年の7月、最初にしたボランティアは瓦礫の撤去だった。9月、3回目に来たときには、草むしりなど、自分で仕事を探して願い出なければならない状況だった。「もう肉体労働的なボランティアの時期ではない」と実感したときに、黒バラ海苔の生産者と出会い、居候のような形で部屋を借りて仕事を手伝い始める。

「仕事をはじめて4ヶ月くらいで1人で沖に出されました。『今まで見てっぺ。できっぺ』と言われて(笑)。周りの漁師にアドバイスをもらいながら、必死に働きました。でも、その日々があったからこそ、地元の人に覚えてもらえたのだと思います。人に言われた仕事を〝やらされている〟のでは、ボランティアの1人としてしか認識されなかったでしょうね」
 その頃から、風間さんの頭の中には「創業」の文字があったのだという。

「硬い黒バラ海苔は、九州など他の海の海苔に較べてランクが低いんです。だから漁師は海苔を取ってきても大半は家で食べるだけ。でも、味は美味いし、味噌汁に入れたり天ぷらにしたりと、料理に使うには硬いほうがいいと思ったんです。短所だと言われたことが、僕には長所に見えたワケです。そこで自分で乾燥させて袋詰して、知り合いに配ったところ、好評で、これでいけるかなと、漠然と思いました」

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浜で食す漁師メシである「海苔汁」を再現できる葉肉の硬さ。風味と旨味の最上級のものを仕入れ、裁断やプレス脱水をせずに加工、販売する。現在、仙台市内や東京都内のレストランにも販路を拡大している。

自分の足で立たなければ地元に貢献できない

 石巻での創業は、大学卒業後、地元企業に勤めたあとのIターンである。
「親には『今月で仕事を辞めて、海苔屋をやる』と言っただけ(笑)。退職の理由は、石巻のほうが楽しかったから」

 再び戻った石巻の海で、風間さんは元からそこにいた人のように受け入れられた。生産者の方曰く「ボランティアで手伝ってくれる人もいるけど、すぐに辞めてしまう。最初から仕事を覚えてもらう時間も余裕もない」という状況で、風間さんの経験は貴重だった。生まれたときからこの海で働いてきたかのような風貌を見れば、「宮城の海に呼ばれた人」と言えるかも知れない。
 夏は海苔の生産を、冬は魚獲りを手伝う。合間の季節には仙台で配管工や自動車販売の仕事をして食い扶持を稼いだ。その間もずっと海苔のことを考えていたという風間さんだが、「生産者の領域は侵さない」という理念がある。

「一時期、6次産業という言葉が盛んに言われていましたが、それだけでは今までの水産業の形態が崩れて、海苔の相場が下がってしまいますし、生産者の生活も脅かされるでしょう。僕は生産者ではなく、海苔の加工・販売の仕事にこだわります。良質のものを扱っている自負があるので、ダンピングはしない。海苔の相場を崩したくないんです」

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 現在の目標は、独立した事業所を構え、海苔を乾燥する設備を整えることである。
漁業政策や創業支援策に頼り過ぎず、独り立ちしなければ「この土地に、漁業に貢献できない」と語る。

「他力本願で創業していたら、僕は人のせいにして途中でやめていたと思います。理不尽は当たり前。なにクソ、という気持ちがあるのなら、創業したらいいと思います」という風間さん。「風間水産」のFacebookには「七転百起」とあった。

写真3

お世話になっている海苔生産業者とは、家族同様の付き合いである。

創業までの歩み

2011年
大学4年の春に起きた東日本大震災で7月から9月まで、3回の震災ボランティアを経験。
2012年4月
地元愛知県で就職。
2013年9月
勤務先を退職し、石巻市内の海苔生産会社を手伝う。
2014年9月
配管工などで生計を立てながら、「石巻復興支援ネットワーク」の創業塾を受講するなど、創業への準備を進める。
2015年2月
創業
2015年12月
日本制作金融公庫の融資を受ける。
2016年6月
大学時代の友人がスタッフとして加わる。

各地で構築される創業支援のネットワーク

平成26年に施行された産業競争力強化法において、市区町村が各地の創業支援機関と連携して創業支援を実施する「創業支援事業計画」を国が認定する仕組みが整備された。これにより、分散していた各地の創業支援の取組みが市区町村を中心に集約され、ワンストップで創業前から創業後までの伴走型の支援を受けることが可能となった。

これまでに1,000を超える市区町村が認定を受けている。各市区町村の創業支援事業計画については中小企業庁ホームページを参照してほしい。

風間 亮佑さん写真 風間 亮佑さん かざま りょうすけ Campany info

風間水産
所在地:宮城県石巻市
創業年月:2015年2月
事業内容:海苔加工・販売

※内容は2016年10月時点のものです。

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