お役立ちコラム

ソーシャルビジネスに
おける「接遇力」は
イノベーションの源泉!

執筆者
髙野直子 株式会社Rashiku 代表取締役/中小企業診断士

「接遇」は
おもてなし
の心

「接遇」と「接客」、混同されがちな2つの言葉には、実は大きな違いがあります。接遇の「遇」の字には「人をもてなす」という意味があります。一方、接客には「客と接する」という意味しかなく、もてなすという意味は存在しません。

接遇 接客

例えば、飲食店のケースで考えてみましょう。料理を迅速に運び、冷めないうちにお客様へ提供するのは「接客」です。迅速に運ぶ動作に加えて、記念日のお客様に一言添える、お子様用に料理を刻むなど、お客様の目線に立った"おもてなしの心"が加わると、接客から「接遇」へランクアップします。

モノがあふれ成熟した現代は、商品やサービスの付加価値が求められる時代です。同じ商品やサービスを提供しても、お客様から「この店から購入したい」「この人にサービスを提供してもらいたい」と思ってもらえる対応が求められています。そして、企業全体の「接遇力」を高めることで、「この会社と仕事がしたい」と思ってもらえるはずです。

接遇は、いまや百貨店やホテルなどのいわゆる接客業にとどまらず、様々な業界、ビジネスシーンで求められているのです。

ソーシャル
ビジネスに
おける
「接遇」の
現状と課題

では、ソーシャルビジネスにおいてはどうでしょうか。残念ながら、一般的には接遇・マナーに対する意識がまだまだ低く、その重要性に気が付いていないことが多いように感じます。地域や社会の課題解決を事業の目的とするソーシャルビジネスの特徴から、必要性を認識しづらい面があるのかも知れません。しかし、昨今では自社にはないリソースをもつ一般企業との連携・協働など、新しい取り組みも増えており、必然的に重要性は増してきているのです。

ソーシャルビジネスにおける「接遇」の取り組みを考えると、いくつかの課題が見えてきます。

ひとつめは、直接のお客様に対する「接遇」の意識に比べて、他のステークホルダーとのコミュニケーションにおいては、その関心が低いと感じられることです。

地域の高齢者を支援する介護事業では、多くの事業者が差別化を図るため積極的に接遇マナーに取り組む姿勢が見られます。しかし、取引先の業者などに対しては、対等にビジネスをする者同士といった感覚が薄いように感じられるのです。

ビジネスのうえでは、顧客は直接お金をいただくお客様だけではありません。著名な企業で「関わるすべての人の幸せ」を企業理念に掲げている例は沢山あります。「関わるすべての人」とは、いうまでもなく、お客様・従業員・仕入先・連携先・行政・地域社会など、このすべてが顧客であり、接遇マナーをもって接することが求められます。

次に、職員への教育についてです。

外部の講師を招いて接遇マナー研修を行うことはよく聞く話ですが、マナー研修の内容は、一般的な接客マナーやビジネスマナーにとどまることも多いようです。企業には、研修で学んだスキルを「接遇」までランクアップさせる継続した取り組みが求められます。実際に想定されるケーススタディを準備し、繰り返し実践演習を行うことで、職員全員のレベルアップを図りましょう。

「接遇」は目に見えないものなので、簡単にルール化やマニュアル化ができません。"おもてなしの心"を職員全員に伝えるためには、組織風土として浸透させることもとても重要です。それぞれの企業にあった「接遇の形」を模索してみましょう。

あるサイニング
ストア
(手話が
共通言語の
店舗)を訪れて

皆さんが良く知る、有名コーヒーチェーン店Sには接客マニュアルが存在しません。ドリンクの作り方には細かなマニュアルがある一方で、接客については店舗やスタッフごとの自主性に任され、個々が創意工夫することで最高のおもてなしを実現しています。

このコーヒーチェーン店Sには、聴覚に障がいのあるスタッフがメインで運営するサイニングストアがあります。手話が共通言語ですから、入店前は「さぞや静かな店舗なのだろう」と予想していましたが、私の予想は良い意味で裏切られました。店舗はスタッフの笑顔と活気にあふれ、他店舗と何ら変わらない心地の良い空間でした。

なぜ、そう感じたのでしょうか。

それは、他の通常店舗と同じ"おもてなし"を受けていると肌で感じたからです。サービスを提供するスタッフは、一般的には社会的弱者と呼ばれる方であるにもかかわらず......。つまり接遇は、目には見えない"おもてなしの心"が大切であり、それは相手に伝わるのです。

「接遇力」の
向上は
イノベーションの源泉

ソーシャルビジネスの経営課題として、人手の確保、従業員の能力向上、売り上げの増加が上位に挙げられています。戦略として「接遇力」の向上に取り組むことで、経営課題へアプローチしましょう。

社会的問題と事業との関わりに関するアンケート

資料:日本公庫総合研究所「社会的問題と事業との関わりに関するアンケート(平成26年11月)」(注)3つまでの複数回答

接遇力向上による好循環サイクル

接遇力向上による好循環サイクル 図
  • ①個々の接遇力向上により、職員間・組織間のコミュニケーションが円滑に図られ、組織全体の力がパワーアップする。
  • ②お客様・仕入先・地域社会など、すべての外部組織への対応力が向上する。
  • ③経営に良い影響を与え、売上の増加が見込まれ、事業性が確保される。
  • ④経営の安定や働きやすい職場の実現により、職員のモチベーション向上、離職率低下、帰属意識の向上が見込まれる。

「接遇」の重要性に気が付いたら、今がはじめの一歩です。接遇力="おもてなしの心"は、イノベーションを「新しい切り口」や「組織の変革」と捉えたとき、間違いなくその源泉となるはずです。

執筆者紹介

髙野直子 株式会社Rashiku 代表取締役/中小企業診断士
法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科修了

会計事務所勤務後、医療法人で経営企画・管理業務に従事し、介護事業の新規設立など法人の規模拡大に寄与。

女性が生き生きと働くこと、「自分らしく」働くことを応援したいとの気持ちから、株式会社Rashikuを設立し人材紹介業を開始。同時に、経営者側の目線に立ち「その企業らしく」に寄り添うコンサルティングを行う。

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