社会課題解決に取り組む方に知ってほしいこと
社会課題に立ち向かう"プレイヤー"を増やしたい
公開日:2024.11.1
社会課題に立ち向かう"プレイヤー"を増やしたい
公開日:2024.11.1
株式会社taliki
代表取締役CEO/talikiファンド代表パートナー
中村 多伽 様
所在地:京都府京都市
京都大学卒。在学中にカンボジアに2校の学校建設を行う。その後、ニューヨークのビジネススクールヘ留学。現地報道局に勤務し、2016年大統領選や国連総会の取材に携わる。様々な経験を通して「社会課題を解決するプレイヤーの支援」の必要性を感じ、帰国後に株式会社talikiを設立。社会起業家のインキュベーションや上場企業の事業開発を行いながら、2020年には国内最年少の女性代表として社会課題解決VCを設立し投資活動にも従事。
企業WEBサイト(https://www.taliki.co.jp/)
私は大学1年から3年の時に、カンボジアに小学校を建てる団体を運営していました。そこで、小学校を建てたとしてもすべての人がハッピーになれるわけではない、そもそも進学や就学できない子がいたり、家庭の事情でドロップアウトしてしまう子がいたりと大きな課題があることを知りました。そこで、より構造的な問題について学ばなきゃいけないなと思い、ニューヨークへ留学して、報道局で働きながらビジネスについての勉強をしました。それが2016年の大統領選のタイミングだったので、例えば銃規制の問題やメキシコに壁を作るという話など、取材を通して多くの社会課題を目の当たりにしました。そのときに「社会課題解決はとてもむずかしく、大きな構造に立ち向かわなければならない。一人では解決できない。」ということを痛感しました。
そこからまず、「社会課題を解決する"プレイヤー"が増えなくてはならない」ということと、「そのプレイヤーに資金が行きわたらなければならない。そして、そこに資金が行きわたったときに効果的に使える知識を身につけなければならない」と思い、帰国後、「株式会社taliki」という会社を立ち上げました。
SDGsの目標ターゲットは2030年なのですが、なぜそんなに急いでいるのかというと、例えば、気候変動問題に関して、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)という国際的な研究組織が出した温室効果ガスの排出量が、1950年から現在にかけて、指数関数的に伸びているというデータがあります。これまでと同じように過ごしてしまうと、人類や地球は大変なことになってしまう、何とかしなければ、ということで、"社会課題解決"が今大きな注目を集めています。
そのような潮流の中で、「インパクト投資」という、従来の投資で求められる財務的なリターンと社会課題解決を通じた環境、社会へのポジティブなインパクトの両方を求める投資活動が、ここ5年では10倍になっていて、今年に至っては10兆円に到達するのではないかというくらいに拡大をしています。
よく「私たちがやっていることはソーシャルビジネスと言えるのでしょうか?」というような質問をいただくのですが、そもそも"社会課題"が何を指すのか、説明がとても難しいですよね。そこで、私たちは一つの定義をしており、それが「全体最適の"歪み"」です。
例えば、技術発展が進んだ結果に環境汚染が起きたり、野菜の流通規格を決めて安心できるものが食べられることになった結果、規格外の野菜を廃棄してフードロスになったりしています。みんなにとって都合がいいことを推し進めた結果、誰かが困るといった状況が生じています。それを社会課題として私たちは定義付けしています。とはいえ、都合のいいことを全部やめましょうというのは難しいことです。「生じてしまった"歪み"に対して、みんなが良いと思えるルールのなかでいかに直すか」このとても難しい課題に挑戦されている方々、つまり、社会課題解決に取り組む方々を私達は応援しています。
どんなビジネスでも「人を幸せにすること」が最終目的ではあると思うのですが、そのなかでも私たちは「社会課題を解決すること」を目標にしている方を応援しています。儲からないから別の課題解決にするなど売上や利益が一番に優先される会社は、私たちの支援としては対象外になっています。
全ての社会課題をビジネスで解決できるわけではありません。しかし、もし、ビジネスで解決できる社会課題の領域があるならば、その領域に取り組んでいこうというのが私たちの考え方です。
例えば、商品がかわいいので買ってみたら結果的に途上国の子供たちのためになっていたというように、オカネの出し手側の利己的な選択が社会課題解決に繋がる仕掛けをつくったり、その媒介になれたりするのがソーシャルビジネスという存在だと私は思っているので、その好循環を作れるように支援しています。
私たち「taliki」が実際にやっていることは、段階に分けて4つあります。
一つ目は、社会課題解決をしたいという方に対して、「どのようにしたらビジネスになるのか?」「本当にそれは課題なのか?」という検証をする「育成事業」です。
二つ目は、社会課題解決を図るビジネスに対して出資をする「インパクト投資事業」で、三つ目は、そこから事業が少し大きくなってきたタイミングで、大企業との連携や拡大のお手伝いをする「オープンイノベーション事業」です。
そして四つ目が、それらのデータを蓄積するための「オウンドメディア&データベース事業」になっています。
自社のホームページに社会起業家の方のインタビュー記事を載せているのですが(https://taliki.org/)、社会課題という難しい領域の中で、「どのようにしてビジネスとしてスケールさせたのか?」や、「そもそもどのように立ち上げていったのか?」「仲間集めをどのようにしてきたのか?」など、"ナレッジ"を公開しています。このナレッジの蓄積を、これからソーシャルビジネスを目指す方などに見ていただき、「この領域はNPOでしかできないと言われていたけれど、ビジネスにできるかもしれない」「この手法は使えるかも!」とご自身の活動に取り込むことで、これまで収益化が難しいとされてきた領域がビジネス化が可能な領域として開発が進んでいくことを目指しています。
社会課題解決の事業化を模索・検証するなかで、3つの手法があります。
一つ目は、所得が高い方にサービスを届けて、キャッシュフローが生まれた段階で、所得が低い方などにサービスを届けていく手法です。
二つ目は、例えば障がいを持っている方から直接対価をもらおうとすると、ビジネスとして拡張しにくい場合があるのですが、障がいを持った方が作ったものを売るとなると、受益者は"障がいを持っている方"と"それを買いたい人"の二者になりますよね。そういった"第二の受益者"を発掘する手法です。
三つ目は、端的に寄付です。当社がご支援している会社の中でも、応援してくれる人から毎月何千円かの寄付をもらう「メンバーシップ制」を設けている企業もあります。
ソーシャルビジネスだからこそうまくいくということもあります。
例えば、社会起業家の方は最初から"ビジョン"を持っています。ほかのスタートアップの方は、ビジネスや組織が大きくなってからビジョンを作ることもあるのですが、社会起業家の場合は、一人で事業を始めたときから、「こういう社会にしたい!」「こういう未来になってほしい!」というものが明確にあります。そのビジョンがあるからこそ、それに共感した人が手伝ってくれたり、有名な方が無償でも一緒にやりたいと言ってくれたりということが起きるわけです。
それはつまり、必要経費を抑えることにもつながります。本来かかるはずの人件費の半分で事業を推進できるかもしれません。それによって人的資産が形成されて、その人的資産が良い商品・サービスとなり、顧客に繋がっていくという例もあります。これがビジョンへの共感のチカラです。
(※)本記事は、日本公庫主催イベント基調講演「社会課題解決に取り組む方に知ってほしいこと」(2024年8月28日(水))の内容を抜粋したものです。