ソーシャルビジネスの新潮流
新しい"希望"が生まれている時代に
公開日:2023.10.27
新しい"希望"が生まれている時代に
公開日:2023.10.27
KIBOW社会投資ファンド 代表パートナー
グロービス経営大学院 教員
山中 礼二 様
所在地:東京都千代田区
キヤノン株式会社で新規事業の企画・戦略的提携に携わった後、2000年にグロービスに参加。グロービス・キャピタル・パートナーズでベンチャー企業への投資と経営支援を担当。その後、医療ベンチャーのヘルス・ソリューション(専務取締役COO)、エス・エム・エス(事業開発)を経て、2013年よりグロービスに復帰。社会起業家向けのインパクト投資を行っているKIBOW社会投資ファンド、グロービス卒業生向けのG-GROWTHファンド、アクセラレーター・プログラムG-STARTUPファンドなどを担当している。
企業WEBサイト(https://kibowproject.jp/investment/impact.html)
KIBOWという団体は2011年3月に被災地の復興支援の事業として始まりました。復興支援について自分たちでできることがあるのではないかと考えた人たちが、グロービスのキャンパスに集まり、義援金を集め、被災地を回りながらピッチイベント(注)をして、各地のリーダーたちに資金をお渡しする。そういったところから事業は始まりました。その後2015年に、「インパクト投資」というものが世界にあると知り、自分たちもこれを日本で立ち上げようとファンドを立ち上げて今に至ります。
(注)自社のアイデアや技術、サービスについて短時間でプレゼンテーションを行うイベント
インパクト投資とは、社会を良くするという目的と、それと同時に財務的なリターンについても期待をする、この両方の期待を持って投資することをインパクト投資と言います。私たちのKIBOWは、インパクト投資をスタートアップやベンチャー企業に対してやるというアプローチで運営をしています。
例えば、単身高齢者や障害を持つ方など、一般の賃貸契約を結ぶことが難しい方に対しての物件提供事業があります。空き家を買って安価でリノベーションを行い、それを安価な賃貸物件として提供する事業です。他にも奨学金ベンチャーで、奨学金団体に対して管理システムを提供し、あるいは奨学金を得たいという若者向けにLINEなどの媒体で情報提供をしている企業への投資事例があります。
投資の判断基準は投資家によって異なりますが、私たちKIBOWを一例としてお話しすると、ビジネスが大きくなるとき、社会が変わるかどうかを考えながら投資をしています。また、財務的なリターンにおいては、投資をすることによって利益が見込まれるのか、そして事業に拡張性があるかという点も挙げられます。社会を大きく変えるために事業がスケールするのか、そのスケールを支えられるようなマネジメントチームができているかなど、そのようなことを見ています。
日本公庫の融資実績の推移を見る限りでは、コロナ禍以降、堅調に増えてきていると言えます。年齢別に見ても、若い方や中年の方、また60代以上の方も増えており、年齢を問わず増えていると言えるのではないかと思います。
私の個人的な見解となりますが、3つのタイプがあると考えています。1つは林業や漁業などの一次産業に関連したソーシャルビジネス、2つ目は行政との協働を前提としたソーシャルビジネス、3つ目はディープテック型のインパクトスタートアップ、これらが増えてきていると思います。
新一次産業型とは、例えば「林業」に関するもので、林業を持続可能な産業にするために、購買プラットフォームを提供するといった会社があります。
行政協働型とは、いじめや家庭内暴力など追い詰められた子どもたちへ向けてSNSでの相談窓口プラットフォームを提供している会社が挙げられます。
ディープテック型は、商品開発をするまでに時間とコストがかかるけれど、社会へのインパクトが大きいもの、例えば、高齢者などが転倒したときにだけへこむ特殊なカーペットを開発して医療機関などに販売し、国内外で注目されている企業があります。
資金の多様化がじわりと進んできています。かつては、インパクトは大きいけれど収益化が容易ではないタイプの企業にはお金は流れ込んでこなかったのですが、最近では状況が変わってきています。社会を変えたいというインパクトを重視して投資をするということも増えてきていますし、持続性やサステナビリティを重視したゼブラ型といわれる起業家に対して資金を提供する投資会社も増えてきました。
アウトカムを出せるか伴走支援をしながら助成をするという財団が出てきています。アウトカムとは簡単に言うと、生まれている社会的インパクトの度合いのことで、例えば、「これだけの人たちの生活が、実際にこのくらい豊かになっている」というものです。アウトカムがまだ測定されていないソーシャルベンチャーに対して、助成もして、インパクトの測定方法についても支援する財団があります。また、以前は数百万円単位の助成金が多かったのですが、1000万円規模の資金を提供する財団も出てきています。ソーシャルビジネスをやる方にとって、新しい希望が生まれてきている時代ではないかと思います。
これについては難題で、私もずっと悩み続けています。例えば子ども食堂で、お金が回っているところはまだないのではないでしょうか。
ソーシャルビジネスでいかにマネタイズするかについては、3つ切り口があると思います。1つ目はお金を払う余力がある人からお金をいただくというアプローチ。2つ目は非営利の活動として寄付金を集めるというアプローチ、クラウドファンディングも含まれます。3つ目は行政で、行政がお金を使うよりも、自分たちの事業の方が結果を出せるというエビデンスを示すことによって行政から助成金を得る。寄付型と行政型を合わせたようなビジネスモデルができれば、マネタイズが可能なのではないかと思っています。
(※)本記事は、日本公庫主催イベント「あなたのビジネスが社会を変える~わたしたちの最初の一歩~」(2023年8月25日(金))の内容を抜粋したものです。