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旧寺を改装した宿泊施設から、まちの魅力を発信

商工会やよろず支援拠点のサポートを活用し、創業を実現

公開日:2023.7.18

お話しいただいた方

札弦商會 代表店主 嶋田 武志 様

所在地:北海道斜里郡清里町

事業内容:2021年に創業した、日本百名山「斜里岳」の麓にある旧寺を利用したアウトドアショップ・宿「マンディル」、ネットショップの運営。そのほかガイディング・アテンド業務、イベント企画運営、樹木伐採作業や登山道、トレイル整備の請負なども行う。
企業WEBサイト(https://www.sshoukaimandir.com/

清里町を「ひがし北海道」観光の拠点に

アウトドア・宿「マンディル」を、清里町で開業した経緯は?

清里町には日本百名山の斜里岳があり、同じく日本百名山の羅臼岳は車で約1時間、雌阿寒岳は約1時間半の圏内。いわゆる「ひがし北海道」エリアにあるこの3山は、登山やトレイルラン、麓の道路や林道などは自転車といったアウトドア・アクティビティを楽しむ人に人気で、そういう人が拠点にできる宿泊施設を、3山の中心地点にある清里町に作りたいと、開業したのがアウトドアショップ・宿「マンディル」(以下、マンディル)です。

私自身もアウトドア・アクティビティをしているので、持っている情報をサービスとして提供すれば、お客さまにも喜んでもらえるのではないか。さらに、アウトドアショップを併設し、自分が使っていて便利だと思うグッズを販売することで、観光客だけでなく、近隣に専門店がない地域のみなさまにも便利に使ってもらいたいと考えました。

<アウトドア・宿 マンディル>

建物は、取り壊される予定だった旧寺を活用されたそうですね

旧寺を改装する斬新なアイデア

妻が隣町の斜里町出身だったこともあり、長男が3歳だった8年前、田舎で子供を育てたいと、清里町に移住してきました。住んでいる札弦地区内に立派な建物なのに使われないままのお寺があり、もったいないと思っていたところ、2021年には取り壊すという話を聞きました。

ちょうどマンディルの開業を考えていたときだったので、やりたいと思っていることを管理している方にお話ししたところ、壊すよりもぜひ使ってほしいと言っていただきました。そうして、業者さんの手も借りつつ、セルフリノベーションして開業。寺のお堂もほぼそのままで、地域の方から「残してくれてありがたい」と言われることもありますね。

地域とはどのように連携されていますか?

お客さまをまち全体でおもてなし

マンディルは、素泊まりの施設なので飲食は提供していませんし、単体ではホテルのような機能は提供できません。そこで、「まち全体を一つのホテル」として楽しんでもらえるよう、宿泊のお客さまを地域にある既存の"いいところ"へ、送客しています。

例えば、徒歩3分ほどにある、温泉とレストランのある道の駅の利用をご案内したり、登山で疲れた人には、向かいにある美容室に「酸素カプセルがあるよ」だとか近くのスナックがあるというお話もしたりします。田舎なので、どこも小規模な事業主ですが、周りにある"いいところ"を活用すれば、ホテルの機能とまでは言えなくても、お客さまにも喜んでもらえる。お互いにうまく協力していけたらいいなと思っています。

地域の憩いの場としてイベントも開催されているそうですね

さまざまなイベント開催で、地域に賑わいを

寺のお堂では、定期的にヨガイベントをしたり、テーピングテープのブランドの方に講習会をしていただいています。飲食系では1月の「ホタテ剥きワークショップ」が予想以上の反響がありましたし、「自由市」というフリーマーケットは、2023年3月に2度目を開催し、今後も開催予定です。ほかにも、持ち込みで「〇〇やりたい」という方に、マンディルを活用してもらっています。

イベントを行っているのは、地域の賑わいや、遊ぶきっかけになればというのが一つ。また、マンディルとしても普段遊びに来てくれる人を増やすことや、施設を知ってもらうという点で相乗効果があります。

<ヨガイベント>

事業の柱を3本にし、コロナ禍も収益確保

開業にあたり工夫したこと、乗り越えたことは?

趣味のアウトドアや過去の経験を活かし、事業の継続に取り組む

ちょうど開業時にコロナ禍となり、宿泊がどうにもならない状況になってしまったので、宿泊以外にショップでのアウトドア用品の販売と、林業作業士の経験を生かした樹木伐採作業や登山道・トレイルの整備の請負を加えて、事業の柱を3本にしました。

特に、宿が厳しい分、ショップをがんばらないといけない状況だったので、アクティビティで訪れる人が登山中に食べる補給食といわれるものを増やしたり、アウトドア用品を充実させたり...。ショップはもっとこぢんまりやろうと思っていましたが、普通のアウトドアショップのような商品構成にし、売上を確保することができました。

<ショップ>

資金の準備や事業計画の策定など、日本公庫、清里町商工会、よろず支援拠点のサポートやアドバイスで役だったことは?

関係機関との連携により創業への道筋を描く

資金は当初、クラウドファンディングと日本公庫の創業資金、その後は清里町の助成金と手元資金で準備をしました。開業にあたっては、清里町商工会の担当の方に相談したことで日本公庫につないでいただきました。経理や税務などで分からないことが出てきたときも、商工会の方を通じて税理士の方やよろず支援拠点を紹介していただきました。

商工会の経営指導員の方には、事業計画から相談にのってもらって感謝しています。つなぎ資金などに使える助成金についても「相談しながらやりましょう」と、すごく親身に対応していただき、今も事あるごとに相談に行っています。また、よろず支援拠点には、特に開業前にお世話になりました。事業をするのは初めてでしたので、事業計画を作るにあたって、税務や、収支計画等の数字面の考え方から、勘定科目をどうするかといった経営実務まで相談にのってもらいました。

通過型のまちから滞在型のまちへ 課題は「知名度アップ」

観光客も戻りつつある昨今。清里町には、観光面でどのような課題があると感じていますか?

地理的なポテンシャルを活かしたイベントや情報発信が大切

清里町のある「ひがし北海道」エリアには、世界遺産・知床というゴールデンルートがあり、空港から網走市、知床まで名前的にも世界的にも人が来るところ。さらに、南にも集客力のある阿寒摩周国立公園があります。そして、その中間地点に位置する清里町は、地理的なポテンシャルを生かして「ひがし北海道」観光のハブになりえると思っています。

ただ、もともと知床や阿寒摩周国立公園以外の、一般的にあまり知られていない地域は、どうしても「通過型」のまちになってしまう。それを「滞在型」にしていくためには、イベントなどを行いながら、いかに知名度をあげて集客するかが課題なのですが、地域全体の発信や周知はまだまだ進んでいないと感じています。

マンディルとしては、宿やアウトドアショップを通して「フィールドで遊ぶ」人たちに来てもらうきっかけになるような情報を発信し、地域を楽しむ拠点にしていきたい。そのためにも事業としても確立していかなければいけないなと思っています。

今後のビジョンについてお聞かせください

「ひがし北海道」の魅力を発信し、地域全体の活性化へ

清里町というよりも、「ひがし北海道」全体をひっくるめて今後について考えていくことが大切だと考えています。いいところはいっぱいあるので、それを知ってもらって、人が来るフックになるよう、イベントに出店するなどして「発信」を続けていきたい。

例えば、アウトドア用品の展示会で本州に行く際、ランニングコミュニティやショップにお邪魔して一緒にランニングをさせていただいていますが、こちらの山のお話しにはとても興味をもってもらえますし、「清里町に行きたい」と言ってもらえるんですよね。そんなふうに、とにかく行動しないと知名度があがらない。個人の力では限界があるとは思いますが、少しでも知名度アップにつながるよう、地道に「発信」し続け、地域みんなで盛り上げていければいいなと思っています。

商工会担当者の声

清里町は空港から知床間の中継地という利便性や「神の子池」などの景勝地を抱える地です。

嶋田様が旧寺を活用した宿泊施設とアウトドアショップを創業したいということで、商工会に相談にいらっしゃったとき、清里町の魅力を発信し、地域の活力につながっていくだろうと感じました。

最初の相談から数か月間、多くの機関とのつながりを持っていただきたいと考え、行政やよろず支援拠点、日本公庫と連携して事業計画策定等の支援を行い、創業に至ったときは、とてもうれしく思いました。

これからも嶋田様を含め、事業者の皆様の身近な相談者として支援していきたいです。

清里町商工会 経営指導員 見年 丈治 様

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