株式会社タイミー 代表取締役社長
小川 嶺さん
取材日:2018年7月
「マジ悔しかったですね。アイデアは負けてないのに、なんで俺はあそこに立ってないんだろうって。あの経験は、起業をめざすひとつのきっかけになりました」
小川嶺さんは、第3回高校生ビジネスプ ラン・グランプリでファイナリスト10組に残れず、最終審査会を観覧席で見ることになったときの思いを率直に話す。
応募は軽い気持ちだった。アイデアを考えるのは得意だし、おもしろそうだから参加した。しかし、収支計画を練り、企業へのヒアリングを重ね、アイデアがかたちになっていくにつれ、「どんどんガチになっていった。こうすればアイデアがビジネスになるのかって、道筋みたいなものが見えてきたんです」と、小川さんはビジネスをつくり出すおもしろさに目覚めていく。
高校生ビジネスプラン・グランプリ終了後も、次から次へビジネスのアイデアが浮かんでくる。そのアイデアのひとつを、高校在学中に実現するべく動きだした。それは、専業主婦がつくった食事を独り暮らしの学生に提供するマッチングのプランだった。しかし、街角で事業性を検証するためのインタビューを行った結果、ビジネスとして成立しないことが見えたため、事業化は断念した。
立教大学進学後、起業熱はさらに高まっていく。起業につながる場が学内にないことがわかると、すぐに自ら起業家育成の学生団体を立ち上げ、30人の学生を集めて活動を始めた。さらに、1年生で応募した慶應義塾大学開催のビジネスコンテストに優勝。これがきっかけとなり、数人のメンバーと一緒にファッション系のサービスを立ち上げた。このサービスが軌道に乗ると、起業資金を獲得するためベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家を回り始める。しかし……「全部断られました。メンタル的にはつらかったけど、VCでプレゼンするとフィードバックがもらえるので、それが事業の改善にかなり役立ちました」
VCのフィードバックを受けて事業をブラッシュアップし、最終的に、試着するだけで割引になる『Recolle』というサービスが誕生した。エンジェル投資家から出資の申し入れもあり、会社も登記し、いよいよ起業が目前に迫ったとき、彼はふと冷静になる。出資を受け入れた瞬間、遊びは終わり、仕事が始まる。自分は、本当にこの仕事にすべてを捧げる覚悟はあるのだろうか ―― 突然、不安と迷いが襲ってきた。
「事業をブラッシュアップするうちに、おしゃれな女性向けのサービスになってきて、自分がやりたいことじゃなくなっていたんです。やっと夢の入り口までたどり着いたけど、その違和感がどうしても拭えなくて……。今まで無給で頑張ってくれたメンバーのことを考えるとやめる決断もできなくて、ものすごく悩みました」
小川さんは、小雨が降る夜の公園を、自問自答しながら何時間も歩き続けた。最終的に下した結論は、出資を断り、チームを解散することだった。
その後、人と人とをマッチングするサービスを思いつき、日本公庫にも相談するが、計画の練り直しを助言された。
起業家の肩書を失い、一人の学生に戻った。もうビジネスのことを考える必要はない。ネットで動画を見たり、友だちと遊びに行ったり、好きなことができるのに、「何もしない時間は全然豊かじゃない」と感じた。その時、ふと思いつく。「アプリに暇な時間を入れると、その時間を豊かに使えるようサジェストしてくれるサービスがあればいいのに」と。
その日から、寝る間も惜しんでアイデアをかたちにする日々が始まった。まだ世のなかにない、本気でやりたいサービスを創りたい。こうして生まれたのが、ユーザーの空き時間と人手の足りないクライアントの時間をマッチングする「Taimee.(タイミー)」だ。事業計画書を手に、再びVCを回り、大手3社の出資が決定、日本公庫の融資も受けられることになった。
「本当にいいサービスであれば、VC は年齢など関係なく出資してくれます。これまでの経験を踏まえて言えば、むしろ年齢より大事なのは起業歴です。どれだけ場数を踏んでいるか。ファッションビジネスの失敗がなかったら、資金調達は難しかったかもしれません」
2018年8月、ついに「Taimee.」のサービスがリリースされた。当初は都内全域でサービスを展開する予定だったが、登録者が少ないとクライアントにもユーザーにも不安感を与え、サービスから離脱してしまう可能性が高いと判断し、東京都渋谷区限定で反応を見ながらエリアを広げる現実的なプランに切り替えた。大風呂敷を広げるより、収益性やブランド力を高めてから拡大したほうが成功率が高いと判断したからだ。
「めざすのは、時間を通貨のように使えるサービスです。誰にとっても平等で有限な時間を自由に分け合い、新たな価値を生む世界を創りたい。これができたら世界が変わると信じています」
こうして小川さんは学生起業家としてスタートを切ったが、海外に比べると日本の学生起業家はまだまだ少ない。「みんなが起業する必要はないし、会社に入ってから新規事業を立ち上げる社内起業でもいいと思います。でも、僕には本気でやりたいアイデアがあって、いても立ってもいられないから、就職ではなく起業を選んだ、それだけのことです。大切なのは、このビジネスを本気でやりたいと思えるか、絶対成功すると信じられるかですね。仮に失敗しても、もう1回勉強してやり直せばいいんです」。小川さんの起業に対する思いと決意は、決してぶれることはない。
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