先輩インタビュー

アナザーストーリー・
人生のターニングポイント(1)

  • 第5回優秀賞
  • 第6回セミファイナリスト

興譲館高等学校
髙田 友美 さん

興譲館高等学校3年
髙田 友美 さん

高校1年の夏、人間関係がうまくいかず体調を崩し、昼夜逆転の引きこもり生活が始まった。何事にも自信がなく、自分で自分を傷つけてしまう日々。母親は疲労困ぱいし、父親も眠れない日々が続いていた。兄と姉は腫れ物に触るように妹を見守るしかなかった。

夏休みが明けても髙田友美さんの不登校は続いた。相談を受けた不登校支援NPOの理事長は、地元で学習塾「桃李園」を経営する教育熱心な三宅範行氏に相談を持ちかけた。三宅氏は、元の進学校へ戻っても進級は困難だし、元気を取り戻せないと判断し、通学圏内にある興譲館高等学校の通信制課程を紹介し、無償で転校手続きの世話をした。

数カ月後、髙田さんが「大学へ進学したいので勉強を教えてほしい」と桃李園へ入塾してきた。「この子を変えるには、学校や家庭以外の世界を経験させ、『世の中捨てたもんじゃない』と思ってもらう必要があると考えました。でも、それは言葉では伝わらないので、何か方法はないかと考えたときに、思いついたのがビジネスプラン・グランプリへの参加でした。今、思えばあれが運命の分岐点でしたね」と三宅氏は振り返る。

「そのときは、まだ三宅先生を全面的に信頼していたわけではないけど、何とかして自分を変えなければいけないと考えていた時期だったので、チャレンジすることを決めました」と髙田さんは、当時の心持ちを話す。

無私な協力が人を育てる

学習塾 桃李園
三宅 範行 氏

岡山県井原市といえば、世界的に有名なデニムの産地である。その井原産デニム生地を使用した「デニム着物」の開発元である青木被服株式会社が、興譲館高等学校通信制課程の制服を生産していた縁もあり、デニム着物を活用したビジネスプランの作成を髙田さんは決めた。

プランをまとめるには、青木被服だけではなく様々な企業や団体、行政、地元の人々の協力が欠かせない。数カ月前まで引きこもりだった髙田さんは、震える指で見知らぬ企業へ電話をかけ、勇気を振り絞って1人で話を聞きに行った。

「最初の頃は人と話せなかったので、事前に用意したメモを読んで話をし、聞いたことを書き取ることしかできませんでした」と髙田さん。

第5回最終審査会プレゼンの様子

見も知らぬ女子高校生から突然依頼を受けた大人たちは、その無理を喜んで聞き入れ、時間をつくり親身に話を聞き、一文の得にもならないビジネスプランに快く協力してくれたという。中には、お礼状を送ったら「なぜお礼状を送ろうと思ったのか、その気持ちを書かなくては伝わらないよ」と助言してくれる人や、イベント開催に費用がかかることから「この補助金は高校生でも使えるから」と教えてくれる人もいた。また、「この旧家で着物着付け体験会をやってみたらどうだろう」と申し出てくれる国指定重要文化財の所有者までが現れた。

「こんな自分を、みんなが受け入れ、応援してくれるなんて、信じられないことでした。でも、その経験を重ねるうちに、少しずつ視野が広がり、心に余裕ができ、人と会うことが楽しくなってきました。いつの間にか嫉妬や悲しみは消え、自分にできないことができる人を、素直にすごいと言えるようになりました。そこは自分でも成長したところかもしれません」

新幹線のチケットが絆を紡ぐ

会場にどよめきが走った瞬間

2017年12月、興譲館高等学校に吉報が届く。東京で行われるビジネスプラン・グランプリ最終審査会への招待状を受け取った三宅氏は「うれしすぎて腰が抜けそうでした」と喜びを表現する。

この結果を誰より喜んだのは、髙田さんの両親だった。引きこもりだった娘が、プランづくりを通じて明るさを取り戻し、家の空気が変わった。母親は元気を取り戻し、会話も増えた。父親とは冗談を交わせるほどになった。

「過程がよくても結果が出なければダメが父の口癖でした。その父が、東京行きが決まったとき『早く新幹線のチケットを取らなきゃ』と喜ぶ姿を見て、私はこんなにも愛されていたんだって、ようやく気づけたんです。引きこもりの最盛期に、毎晩寝室から父のブツブツ話す声が聞こえ、気持ち悪かったのですが、心に余裕ができた今、あの『どうすればよかったんじゃ』と繰り返す父の声は、ぜんぶ私への心配から出た言葉だったって分かったんです」と髙田さんは言葉を詰まらせる。

翌年1月、最終審査会の会場で、両親、三宅氏、興譲館高等学校の教師らが見守る中、髙田さんは堂々とビジネスプランを発表した。

三宅氏は、発表も立派だったが、審査会後に開催された意見交換会の姿が印象的だったと言う。意見交換会で髙田さんは、いの一番に手を挙げて壇上へ登り、新進気鋭のベンチャー経営者に「研究者としての才能と起業家としての才能にはギャップがあると思いますが、どうやってそこを埋めたのですか」と視座の高い質問をぶつけた。その瞬間、会場にはどよめきが走った。「すごいな、あの子」と声が上がるのを聞いた三宅氏は、「あの髙田が、ここまでに成長したのか」と思い、痛快な気分だったという。

2019年月、髙田さんは、将来起業家になるという目標を掲げ、岡山大学経済学部へ進学した。「ビジネスプランを応援してくれた方々が、今も継続的に手を差し伸べてくれています。将来、地域に貢献するビジネスを起こすことが、それに対する私なりの恩返しだと考えています。また、同じ立場にいた者として、不登校の子供たちを支援する活動にも取り組みたい、それが将来の夢です」と語る髙田さん。今度は自分が誰かの力になるべく、次なる一歩を踏み出した。

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