参加校インタビュー

涙の準グランプリから2年。
クラゲ予防クリームの商品化が実現!

  • 第5回準グランプリ

愛媛県立長浜高等学校
河原羽夢さん

受付の部員

毎月第3土曜日になると、長浜高校は多くの来校者で賑わい、校内は子どもたちの笑い声に包まれる。この日は、月に1度の校内水族館一般公開日。午前11時の開館時間になると、揃いのはっぴを着た水族館部の生徒たちが「ようこそ長高水族館へ!」と笑顔で来校者を迎える。来校者は、幻想的なライトに照らされ揺らめくクラゲや、イソギンチャクと戯れるクマノミを鑑賞し、水族館部の部員の解説に耳を傾け、輪くぐりをする「ハマチショー」を体験するなどして楽しいひと時を過ごす。

長浜高校に日本初の高校内水族館が誕生したのは1999年のこと。かつて高校の隣には町立長浜水族館があったのだが、老朽化のため1986年に閉館。町のシンボルとして親しまれた水族館を引き継ぎ、町の活性化に貢献すると同時に、海と川を活用した教育を行うため、長浜高校が水族館を復活させたのである。

この“長高水族館”では、魚の飼育や繁殖はもちろん、施設のメンテナンスやイベント運営まで、すべて水族館部の部員が手掛ける。部内には繁殖班、イベント班、研究班があり、それぞれが自主的な活動を行っている。

2014年、この研究班が世界的な発見を成し遂げた。「イソギンチャクと共生するクマノミは、なぜイソギンチャクに刺されないのだろう?」と疑問を持った生徒が、クマノミの体表粘液に高濃度のマグネシウムイオンが含まれ、これがイソギンチャクの毒針に刺されない理由であることを発見したのだ。さらに、イソギンチャクと同類であるクラゲにも効果があることを確認した。この発見により長浜高校は、日本学生科学賞の最高賞、米インテル国際学生科学フェアの動物科学部門で優秀賞を受賞。この大発見はマスコミでも報道され、長浜高校水族館部の存在が世に知られることとなった。

準グランプリ受賞でメンバーが流した涙のわけ

水族館展示室

時は流れ、2017年初夏。水族館部の顧問を務める重松洋先生は、日本公庫の担当者から高校生BPGの話を聞いて参加を決める。ビジネスプランは、クマノミが持つマグネシウムイオンの特性を応用した「クラゲ予防クリームの開発」だ。折しも、静岡県の化粧品メーカーから「高校生がクラゲ予防クリームを研究していると知り、お手伝いできないかと連絡しました」と電話があり、水族館部の部員が作成したビジネスプランについてアドバイスを依頼することになった。「特にお金の流れの部分で貴重なアドバイスをいただきました」と重松先生。長浜高校「チーム・ニモ」のプランは、書類審査を突破して見事ファイナリストに選ばれた。

2018年1月7日、東京大学で開催された最終審査会。ファイナリスト10校のプレゼンテーションが終わり、いよいよ受賞者発表の瞬間を迎えた。「チーム・ニモ」のメンバーに緊張が走る。司会者が「準グランプリは、愛媛県立長浜高等学校!」と発表した瞬間、メンバーたちの目に大粒の涙があふれた。しかし、それは喜びの涙ではなかった。「先輩たちから引き継いだ貴重な研究成果を活かしきれず、本当に悔しい」「グランプリを獲れなくて申し訳ない」と、悔し涙が止まらなかった。

河原羽夢さん

高校生BPGの終了後、プランづくりに協力してくれた化粧品メーカーとの、商品化に向けた共同開発が始まった。最も苦労したのは、実験用クラゲの確保だった。クラゲは1年のうち数カ月しか出現せず、しかも毎年同じ場所に発生するとは限らない。夏場の実験繁忙期、以前は近くの海にユウレイクラゲが数多く生息していたのに、商品化に向けた取り組みを始めた頃からまったく姿が見られなくなった。クラゲで実験ができなければ効果の確認ができず、商品開発は進まない。業者から購入することにしたが、クラゲは高価なうえに飼育も難しい。

研究班でクラゲ予防クリームの商品化に携わる河原羽夢さんは、「クラゲは、ちょっとしたストレスですぐ弱ってしまいます。クラゲが弱ると実験もできないから、健康なうちに実験をしなければならず、本当に大変でした」と話す。化粧品メーカーの協力を得て、なんとかクラゲを確保してデータを積み重ね、2019年4月にようやく「ジェリーズガード」の発売にこぎつけた。開発には、一般的な化粧品開発期間の4倍に当たる約2年の月日を要した。

長高生が主人公の壮大な物語は、第2章へ

重松洋先生

高校生BPGへの参加から商品化実現という経験を経て、長高生たちは何を学んだのか。「生徒も私も、以前は研究で新たな事象を発見することで満足していました。でも、高校生BPGや商品化を経験したことで、それだけではダメだと気づいたんです。商品として世に送り出し、人の役に立つ。そこまでやらなければ完結しないのだと実感しました」と重松先生。河原さんは、「メーカーとの共同開発という、普通の高校生ではできない貴重な体験をさせてもらいました。課題は多かったけど、あきらめず地道に続けていくことが大切だと学びました。この経験は、社会に出てからきっと役立つと思います」と話す。

ジェリーズガードという商品が世に送り出されたことは、地域住民の夢をかなえる可能性にもつながった。重松先生は、「長浜高校の職員、教員、生徒はもちろん地域の皆さんが、町のシンボルである水族館をいつか本格的に復活させたいと願っています。今までは、誰かに資金を出してもらうというスタンスでしたが、ジェリーズガードができたことで状況が変わりました。何年かかるかわかりませんが、これからも高校生の手で商品を開発し、その売上を利用して高校生自らの手で水族館を復活させるという大きな目標が現実味を帯びてきたのです」と、次なる目標を語る。

高校生のアイデアと熱意、そして開発した商品の収益を水族館復活に役立て、町民と喜びを分かち合い、地域創生へつなげる――。長浜高校の生徒たちが主人公を務める壮大なる物語は今、第1章を終え、第2章の幕を明けようとしている。

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