参加校インタビュー

「ヌプカの雪解け」には、
先生と生徒の夢、
支援者の思いと士幌の未来が詰まっている

  • 第6回ベスト100

北海道⼠幌⾼等学校
前塚妃夏さん、大西杏奈さん、岡𥔎美桜さん、山田詩衣菜さん、佐藤真那さん

物語は、北海道のほぼ真ん中に位置する北海道士幌高等学校(以下、士幌高校)から始まった。この農業高校の生徒たちが作るヨーグルトは、フレッシュで濃厚な味わいで、販売時には長蛇の列ができる人気商品。しかし、ヨーグルトは保存期間が短く、柔らかな形状ゆえ輸送が困難で、町外に広まることはほとんどなかった。そこで、高校生たちが食品製造で学んだ知識から導き出したアイデアが、冷凍保存をしても味が落ちない水切りヨーグルトだった。

士幌高校フードシステム科乳加工専攻班(以下、乳班)の生徒たちは、実習のなかで、水切りヨーグルトをベースにした商品開発に取り組み、4年前の卒業生の代に「ヌプカの雪解け」が誕生した。以来、後輩たちが伝統を受け継ぎ、商品の改良と生産に取り組んでいる。

そんな乳班を指導するのが、自身も農業高校出身の八鍬応野(やくわかずや)先生だ。

「この学校に赴任した当時の生徒たちは、まるで自分の高校時代を見ているようでした。『なんかおもしろくない』と、積極的に行動しようとしない。たくさんの可能性を持っているのに、それを発揮できず無気力になっている。彼らのために何かできることはないかと考えていたときに出合ったのが、帯広信用金庫(以下、帯広信金)のプロジェクトでした」

帯広信金の支援を受けて新生「ヌプカの雪解け」が完成

「ヌプカの雪解け」は、生徒たちが一つひとつ丁寧に手作りする。味のバリエーションは、プレーン、酸味に特徴のあるシーベリー、甘酸っぱいハスカップ

帯広信金は2011年、おびしん金融経済教育プログラム「地元高校生による十勝の未来づくり応援プロジェクト」を立ち上げ、地元の大学や企業と連携して高校生を支援する活動に取り組んでいた。2013年、八鍬先生は、水切りヨーグルトを使ったスイーツ作りで同プロジェクトに応募。見事に採択されて、帯広信金の支援を受けることが決まり、商品開発がスタートした。

そして2016年、水切りヨーグルトにクリームチーズやメレンゲを加えた生地に、学校で栽培した小果樹シーベリーのジャムをのせた、新生「ヌプカの雪解け」が誕生した。商品開発からネーミング、パッケージまで、すべて乳班メンバーの発案による商品だ。

乳加工専攻班にとって、牛の世話も大切な役目だ

新雪のように真っ白で、ふわふわの食感、口に入れると一瞬で溶ける新食感スイーツ「ヌプカの雪解け」は、道の駅などで販売すると即完売するほどの人気商品となった。八鍬先生と生徒たちはこの成果をまとめ、2017年に開催された日本学校農業クラブ北海道連盟「第68回全道実績発表大会」にエントリーした。試食したプロのバイヤーから高い評価を受けた「ヌプカの雪解け」の実績があれば、必ず最優秀賞を取れるはずと意気込んで臨んだ。しかし、結果は優秀賞。あと一歩、夢に手が届かなかった。

「自分たちがやってきたことは間違いないと思っていたのに、結果が出なくて本当に悔しかった」と、2年生で発表会に参加した阿部楓さんは当時を振り返る。審査員からは、「いい商品だが、地域の課題解決への貢献という視点が欠けている」と辛口のコメントをつきつけられた。

「生徒たちの頑張りを無駄にしたくない。この挫折をバネに変える方法はないか」と八鍬先生は悩んだ。そのとき、偶然目にしたのが、日本公庫の「第5回高校生ビジネスプラン・グランプリ」のチラシだった。八鍬先生は乳班のメンバーを集め、「これに参加するぞ」と宣言。夏休みになると、日本公庫の職員が学校を訪れ、高校生ビジネスプラン・グランプリの説明を行った。前回大会の動画を見た生徒からは、「やばいね」「こんなの、できるの?」というささやき声が聞こえてきた。

寒さ厳しい冬休みも登校しプレゼンの資料づくりに励んだ

生徒たちが空港や道の駅で直接販売することも。「ヌプカの雪解け」は、あっという間に完売する人気商品だ

乳班のメンバー13名によるビジネスプランづくりが始まった。これまでの反省点を生かし、地域に貢献する事業性を示すため、生産コストを割り出し、価格、販売ルート、PR 方法、事業リスクなどを検討。生徒たちは何度も計算を繰り返し、毎月1,000個を生産・販売すれば5人分の人件費が生まれ、地域の雇用に貢献できるという具体的なビジネスプランをつくり上げた。

しかし、高校生ビジネスプラン・グランプリの結果は、ベスト100に選ばれたものの、最終審査会への切符を手にすることはできなかった。

季節はめぐり、あっという間に冬を迎える。雪が降り積もるなか、生徒たちは冬休みも朝8時に登校し、プレゼンの資料づくりに励んだ。次なる目標は、2月に行われる第69回全道実績発表大会だ。

「本音を言うと、冬休みまで学校で資料を作るなんて嫌でした。でも、先輩や友だちが一生懸命なのを見ていたら、『自分もやらなくちゃ』って思えてきて。あんなに一生懸命みんなで何かに取り組むなんて、これまでにないことでした」と山田詩衣菜さん。

努力のかいあって、第69回全道実績発表大会に参加した乳班メンバーは、士幌高校として9年ぶりの快挙となる最優秀賞を獲得し、念願の全国大会出場を果たした。

「最初に『ヌプカの雪解け』を作ることになった時は、『なに、それ?』って思っていたんです。でも、発表会のメンバーに選ばれて、みんなで毎日頑張って、最優秀賞を取れました。今は、先生、先輩、みんなにすごく感謝しています」と大西杏奈さん。前年度に悔しい思いをした阿部さんは「涙も出ないくらいうれしかった」と話す。

地域活性をめざすCheerS誕生 思いは未来へ続く

インタビューに答えてくれた乳加工専攻班のメンバー(後列3人)と八鍬先生、OGの阿部さん

先生と生徒たちの思いは、町をも動かした。2018年4月、「ヌプカの雪解け」を生産・販売する受け皿として、町役場が主導して株式会社CheerS(チアーズ)が設立された。「この会社の目的は、単に商品を生産・販売することではなく、地域の資源を活用しながら未来の町づくりを担う人材を育てることにあります。士幌高校と連携し、同校の加工施設や圃場ほじょうを学びの場として教育と企業が共創しながら、新商品の開発や未来型農業を生み出し、地域活性の仕組みを創造することをめざします」と、士幌町 産業振興課の亀野倫生氏は話す。

「ヌプカの雪解け」を自分の手で育てたいと考えた阿部さんは高校卒業後、CheerSに入社し、現在は商品の開発・販売に携わっている。後輩たちの夢も広がる。「私もCheerSに就職して、ヌプカを全国に販売し、士幌町の魅力を伝えたいです」と岡𥔎美桜さん。「あの経験で自分は作ることが好きなんだと気づきました。卒業後は食品工場で働きたいです」と前塚妃夏さん。「いつか他の国にも『ヌプカの雪解け』のおいしさが認められ、士幌町や士幌高校のことを、世界の人に知ってもらいたい」と話すのは佐藤真那さんだ。

「生徒たちは、全道実績発表大会や高校生ビジネスプラン・グランプリへの参加により、自分たちのやってきたことの意味を証明する機会を得ました。普段やっていることが全国に通用するんだと自信を持ってもらえたなら、これほどうれしいことはありません」と、八鍬先生は誇らしげだ。乳班のメンバーが日々研究を重ねる「ヌプカの雪解け」は、これからも進化を続け、周囲を巻き込みながら士幌の魅力を全国に発信していくに違いない。

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