創業コラム

創業へのステップ

第4回 売上予測と損益分岐点分析をしよう

損益分岐点売上高

前回のコラムでは、商圏分析と競合調査についてご説明しました。今回は売上予測と損益分岐点(損益分岐点売上高)の考え方についてご紹介いたします。

事業計画を立案するにあたっては、売上の予測を行うことが重要です。事業によって、どれだけの売上をあげることができそうか、また、どの程度の利益を得ることができそうかということを知っておかなければ、具体的な計画を詰めていくことができません。しっかりした根拠のある売上予測と損益分岐点の把握をしていきましょう。

1. 売上予測

売上を予測するときは、売上を客数と客単価に分解して考えます。それに日数や月数を掛け算することにより、月商や年商を予測します。業種によっては、客数と客単価をさらに分解してみていくこともあります。今回は介護事業者とEC事業者を例にみていきましょう。

Case1 介護事業者の例

介護事業者は、介護を必要とする方々に身の回りのお世話をする事業者です。介護に関する様々なサービスを提供し、利用者が直接負担する自己負担分と介護保険から払われる介護報酬を対価として受け取ります。

介護事業者の場合、売上は次のような式から分解して予測していきます。
売上=利用者数×介護報酬(※)
(※)実際の売上予測にあたっては、介護報酬に加え自己負担分も加味して計算する必要があります。

利用者数

利用者数は、介護サービスの提供を受ける方の数で、介護事業における客数にあたるものです。利用者数は部屋数やベッド数、介護職員の人数など施設のキャパシティと稼働率により決まります。

介護報酬

介護報酬は、介護事業における客単価にあたるものです。介護報酬は介護保険制度で厳密に決められており、提供する介護サービスの種類と要介護・要支援認定の段階、地域区分に応じた平均的な費用などから決まります。

今後もますます高齢者人口が増加していく中、介護施設の需要は高まるものと見込まれます。サービス形態にもよりますが、利用者数は施設キャパシティの限界値に近い値でみても良いかもしれません。介護報酬は利用者の要介護・要支援認定の段階により違いますが、法令に基づき定められているため、予測しやすいかと思います。介護事業者の場合、利用者数と介護報酬(+自己負担分)が比較的読みやすい業種と言え、売上予測は立てやすいと言えるでしょう。

介護事業の売上の分解 図 介護事業の売上の分解

Case2 EC事業者の例

EC事業者は、インターネット上にある店舗(ECサイト)で商品を販売している事業者です。ECは実店舗と違い、近隣のみならず日本中または世界中が商圏となります。実店舗を持たないことから出店にかかる費用や固定費を低く抑えることができるため、EC事業者として創業する方が増えています。

EC事業者の売上は次のような式から分解して予測していきます。
売上 = ページビュー数 × コンバージョン率 × 客単価

ページビュー数

ページビュー数とは、自社のECサイトを見てくれたユーザー数のことです。ページビュー数はどこでECサイトを開設するかで大きく変わってきます。楽天市場やAmazonのような大手のECモールは知名度が高く、多くの方がサイトに訪れるためページビュー数は多くなる傾向があります。一方、独自にECサイトを立ち上げた場合は知名度がないため、多くのページビュー数を獲得しにくいでしょう。また、ECモールに出店したとしても、あまたある店舗、商品の中から自社の店舗、商品を見てもらうのは至難の業です。いずれにしても、創業当初は広告を積極的に使ってページビュー数を高める必要があります。広告費をかけることを見込んだうえで、ページビュー数を予測していきましょう。

コンバージョン率

コンバージョンとは、Webサイトで閲覧者に行ってもらいたい行動のことです。商品・サービスの問い合わせや会員登録、資料請求、メルマガ登録、参加申し込みなどの行動がコンバージョンです。ECサイトであれば商品の購入となるでしょう。ページを見てくれた人の総数のうち、商品を購入(コンバージョン)してくれる方の割合をコンバージョン率といいます。アメリカの調査会社によるとECサイトでの平均コンバージョン率は2~3%程度と言われています。作ったばかりのECサイトは、開設後に改善を繰り返し完成度の高くなっているサイトに比べるとコンバージョン率は下がりますので、それを考慮し予測コンバージョン率を設定しましょう。

客単価

客単価は、1回のコンバージョン時に購入してくれる金額です。ECサイトの場合、一般的に送料がかかります。送料が心理的負担となり購入をためらう消費者を減らすために、購入金額により送料を無料にする「送料無料ライン」を設ける例が多いです。送料無料ラインを設けることで、客単価の維持・向上を図ることも可能です。

EC事業の売上の分解 図 EC事業の売上の分解

2.損益分岐点

損益分岐点は損益分岐点売上高とも言います。損益分岐点売上高とは、文字通り損益がゼロとなる売上高です。損益分岐点売上高を超える売上であれば利益がでますし、下回れば赤字となりますので、事業を行う上では損益分岐点売上高を把握することはとても重要です。どのように分析するのか見ていきましょう。

損益分岐点売上高の計算式
まずは損益分岐点売上高の計算方法です。計算式自体はとても単純です。

損益分岐点売上高と変動費率の分解 図 損益分岐点売上高と変動費率の分解

損益分岐点売上高を考える上では、固定費と変動費を理解する必要があります。

固定費

固定費とは、事業にかかる費用のうち、売上高に関係なく固定的に発生するものです。代表的なものが事務所家賃や役員報酬、給与、通信費、顧問料などです。これらは契約をやめない限り毎月固定的に発生します。

変動費

変動費とは、事業にかかる費用のうち、売上高に比例して発生するものです。代表的なものは、仕入や外注加工費、配送料、販売手数料などです。これらは売上の増減に伴って変動します。

変動費率とは?

変動費率とは売上高に対する変動費の割合です。例えば100万円の売上高に対し60万円の変動費だとすると変動費率は60%となります。

変動費率とは?
利益目標の設定と売上数量の把握

損益分岐点売上高がわかれば、(販売業の場合は)平均販売単価で損益分岐点売上高を割ることで、利益を出すために最低いくつ販売しなければならないかがわかります。ただ、損益分岐点売上高で計画を立てても利益が出ませんので、損益分岐点売上高に目標とする利益を加えたものを目標売上とします。これを事業の平均販売単価で割れば目標数量が出るわけです。この目標数値(数量)をもって、ひと月にいくら売り上げる必要があるのかを計画し、行動計画(販売計画)に落としていきます。販売計画が定まれば、販売量に沿った形で仕入計画を立てられますし、それに合わせた資金繰り計画も立てることができます。損益分岐点分析を起点として、さまざまな計画が動いていきます。

いかがでしたでしょうか。売上は企業活動の全ての源泉です。しっかりとした売上予測と損益分岐点の把握を通じ、利益を確保できる事業計画を立てることが可能となります。今回の内容を踏まえて精緻な事業計画を作成し、創業の準備をすすめていきましょう。

掲載日 令和6年1月23日

プロフィール

三浦 高 三浦 高

V-Spirits 総合研究所株式会社 代表取締役・中小企業診断士
https://v-spirits.com/

資金調達支援(融資、補助金)、事業計画書策定支援、起業支援、ハンズオン支援を中心に活動。全国各地で資金調達や起業、経営に関するセミナーや研修の講師を多数務めている。

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