実現に近づく!創業計画書の作り方

第6回 赤字にならない売上はいくら? 損益分岐点売上高と売上高目標

  • 創業計画書
  • 損益分岐点売上高

1. 赤字にならない最低限の売上高はいくら?

前回はドッグ・ガーデン・カフェの資金計画と収支計画を検討しました。最終回では、損益分岐点売上高と売上高目標の立て方を考えてみましょう。
損益分岐点売上高とは、事業が赤字にならない最低限の売上高のことを言います。
念の為、前回まで考えてきた必要な資金と必要な資金の調達方法を再掲します。

表 必要な資金

必要な資金

数量等

金額:円

設備資金(※1)

店舗(内外装費)

20坪

3,000,000

厨房機器等

500,000

保証金

賃料の2か月分

600,000

テーブル・椅子

8セット

200,000

ドリンクサーバー

500,000

パソコン

1

100,000

花、植木

一式

100,000

合計

5,000,000

必要な資金

数量等

金額:金額:円/月

設備資金(※1)

人件費

家賃・賃借料

20坪×坪単価15,000円

300,000

水道光熱費

30,000

支払利息

借入金×3%(※3)

広告宣伝費

10,000

その他

消耗品等

60,000

合計

400,000

(※1)設備資金:事業を開始する際に必要となるまとまったお金。
(※2)運転資金:事業を始めてから毎月継続してかかるお金。ここでは、原材料費を除く、固定的な経費を計上しています。
(※3)支払利息は、概算のため利率を3%としています。
表 必要な資金の調達方法

資金調達の方法

金額:円

自己資金

1,200,000

親戚からの借入
(返済方法) 17,000円×58回 + 最終回14,000円

1,000,000

日本政策金融公庫
(返済方法) 3か月据え置き後 50,000円 × 80回

4,000,000

その他の調達方法

合計

6,200,000

また、売上予測と収支予測も再掲します。

表 売上高の予測
単位:円
組数
客単価
回転数
営業日数
売上高
最大売上高
8
1,500
6
25
1,800,000
50%稼働率
8
1,500
3
25
900,000
図 収支の予測(個人営業の場合)
月平均:円
創業当初
軌道に乗った後

売上高

540,000
900,000

売上原価

162,000
270,000

経費

人件費(※)
0
0

家賃

300,000
300,000

支払利息

10,000
10,000

水道光熱費

30,000
30,000

広告宣伝費

10,000
10,000

その他

60,000
60,000

合計

410,000
410,000
利益
-32,000
220,000

収支予測で、創業当初、稼働率を30%で試算すると、32,000円の赤字になってしまいます。事業が軌道に乗った後、稼働率が50%になると220,000円の黒字です。それでは、事業の収支が赤字にならない(=利益が0になる)ために最低限必要な売上高(=損益分岐点売上高)はいくらになるでしょうか

損益分岐点売上高を計算するには、一度、売上高から売上原価を差引いた売上総利益を計算し、売上総利益率を把握すると良いです。ドッグ・ガーデン・カフェの売上原価は、コーヒーの原材料代金が主になってきます。

これらはお客さんの組数及び売上高に比例してかかると想定されます。このように、売上高に比例する費用のことを変動費と呼びます。

逆に売上高に比例しない費用は固定費になります。変動費以外の費用は全て固定費と考えて結構です。(家賃や広告宣伝費等)変動費か固定費か解らない場合は、「疑わしきは固定費」と考えるのが鉄則です。

それでは、損益分岐点売上高を考えてみましょう。今回は、売上原価率を30%で試算しています。ということは、売上総利益率は70%ということですね。

表 損益分岐点売上高の検討1

月平均:円

創業当初
損益分岐点売上高

売上高

540,000
?

売上原価

162,000

売上総利益

378,000

(売上総利益率)

70.00%

経費

人件費(※)

家賃

30,000
30,000

支払利息

10,000
10,000

水道光熱費

30,000
30,000

広告宣伝費

10,000
10,000

その他

60,000
60,000

経費合計

410,000
410,000

利益

-32,000
0
(※)個人営業の場合、事業主分は含めません。

ポイントは、売上総利益がいくらになるか、です。売上総利益から経費合計を差引くと利益になります。ということは、売上総利益=経費合計の時に利益が0となります。

それでは、売上総利益が経費合計410,000円と同じ金額になるとき、売上高はいくらになるでしょうか?

単純に410,000円+売上原価162,000円=572,000円としてしまうと間違いです。162,000円の売上原価はあくまでも、売上高が540,000円の時の金額です。

お客さんが増えて売上が増えると、コーヒーの消費量も増えるため、売上原価も増えます。売上原価率が30%なので、売上原価が増加売上高×30%増加することになります。

売上総利益が410,000円で売上総利益率が売上高の70%ということは、損益分岐点売上高をXとして、X×70%=410,000円という関係になっています。

ここから、X=410,000÷70%=585,714円と計算できます。

表 損益分岐点売上高の検討2

月平均:円

創業当初
損益分岐点売上高

売上高

540,000
585,714

売上原価

162,000
175,714

売上総利益

378,000
410,000

(売上総利益率)

70.00%
70.00%

経費

人件費(※)

家賃

30,000
30,000

支払利息

10,000
10,000

水道光熱費

30,000
30,000

広告宣伝費

10,000
10,000

その他

60,000
60,000

経費合計

410,000
410,000

利益

-32,000
0

2. こんなとき、どれくらいの売上が必要?

この考え方を理解できると、様々な応用が出来て、目標売上高の設定が出来ます。例えば、借入金の返済金額分の利益を出すために必要な売上高はいくらになるでしょうか?

資金調達計画では、借入金の返済が毎月67,000円(17,000円+50,000円)なので、67,000円+410,000=477,000円の売上総利益が必要であることが分かります。後は売上総利益率で割り返すと、売上高目標が計算できます。477,000円÷70%=681,429円。

さらに、追加でかける人件費や広告宣伝費に対して期待する売上高も計算できます。一人では運営出来なくなって、アルバイトを雇ったとします。時給1,000円で4時間、月に12日手伝ってもらうと、必要な人件費は48,000円です。それだけの費用をかけてもきちんと借入金の返済ができるために必要な売上高はいくらでしょうか?

必要な売上総利益は48,000円+67,000円+410,000円=525,000円です。売上高総利益率で割り返すと、必要な売上高が計算できます。525,000÷70%=750,000円です。

また、特定の費用に対する売上への効果も同様です。

仮に追加で広告宣伝費を48,000円かけたら、少なくとも48,000円÷70%=68,571円の売上高増加が無ければ効果があったとは言えないということです。費用に対する効果を意識して、販売促進の戦略を考えてみると良いでしょう。

また、借入金や経費のほかにも生活費を含めた目標売上高も検討してみると良いかもしれません。

さて、6回に渡って皆さんと一緒に創業計画の立て方について考えてきましたがイメージが湧きましたでしょうか?ほんの少しでも皆さんの想いや夢を叶えるためのヒントが見つかれば、とてもうれしく思います

是非、創業計画書の作成から創業へ向けた一歩を踏み出してみて下さい!

※上記の個別の表現については、必ずしも日本政策金融公庫の見解を示すものではありません。

掲載日 令和5年3月22日

■プロフィール

加藤 篤士道

加藤 篤士道

公益財団法人日本生産性本部 主席経営コンサルタント

https://www.jpc-net.jp/

1967年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。公認会計士。
KPMGセンチュリー監査法人にて主に外資系企業の法定監査・任意監査に従事し、5年間で約100社に関与。経営コンサルティングの領域で企業の役に立ちたいと思い、公益財団法人日本生産性本部の「経営コンサルタント養成講座」の門を叩く。1年間の座学期間で生産管理・マーケティング・組織マネジメント等の理論と実務を徹底的に学び、その後、経験豊富な先輩コンサルタントから日本生産性本部のゼネラルコンサルタントとしての心構えと手法を受け継ぐ。クライアントとの信頼関係構築を重視し、企業再生・成長支援や新規事業立案・実行支援等のテーマでこれまでのコンサルティング関与先は日本全国約140業種・160社。企業の人材育成にも深く関わり、次世代リーダー養成研修、戦略財務研修、上級管理者を対象としたマネジメント研修をこなす。2020年より政策金融公庫主催の「創業支援能力向上研修」にて「創業計画策定のポイント」の講義を担当。著書「経営の基本」(中央経済社)、「加藤式Business Basic Note」(Chaperon)など多数。

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