先生インタビュー

生徒の成長を実感した
高校生ビジネスプラン・グランプリ

市川高等学校
本川梨英 教諭

市川高等学校
木曽千尋 教諭

伊東商業高等学校
米山圭一郎 教諭

取材日:2018年7月

学校法人 市川学園 市川高等学校
社会科主任
本川梨英 教諭

米山:
積極性に欠ける受け身な生徒が多いことが、本校におけるひとつの課題でした。この状況を変えるには、生徒に自信を持たせる何かが必要と考えていたとき、「第2回高校生ビジネスプラン・グランプリ」の要項を見た副校長から「出場してみないか。ファイナリスト10組に選ばれたら東大で行われる最終審査会に行けるし、賞金ももらえるぞ」と言われたのです。正直言ってその時は、「うちの学校が行けるわけない」と思ってしまいました。一応、部活動の生徒にやらせたものの、結果はまったく期待していませんでした。ところが、同時期に静岡県が開催する「高校生ひらめき・つなげる提案コンテスト」という地域活性化のコンテストに参加したら、これが「教育長賞」という結果につながったんです。それが自信となり、翌年から、商業科目の課題研究のなかで、本格的に高校生ビジネスプラン・グランプリに取り組むことになりました。

本川:
本校は、ほぼ全生徒が大学進学を目指す私立の高校ですが、ここ数年はリベラルアーツ教育の一環として、積極的に教科以外の取り組みを進めてきました。例えば、対話による古典教養セミナー、国際交流、部活動、校外のコンテストへの参加など、多様な活動に生徒自らがテーマを決めて取り組んでいます。高校生ビジネスプラン・グランプリもそうした取り組みの一環です。初めて参加したのは第1回大会で、有志の生徒がエントリーしたら、これがいきなりファイナリストに選ばれたのです。その結果が校内で話題を呼び、それ以降、毎年十数グループが参加するようになりました。

米山:
さすがに市川高校は参加数が多いですね。本校は、毎年6グループほど参加している状況です。先輩の活躍を見て、徐々に参加者が増えてきました。

本川:
本校では毎年、高校1年生の生徒たちにアナウンスして参加を募るのですが、1年生でエントリーしてベスト100に入れなかったり、ファイナリストに残れなかったりした生徒が、その悔しさから2年生になって再チャレンジするケースも多いですね。

日本公庫の出張授業は生徒の視野が広がる貴重な機会

学校法人 市川学園 市川高等学校
社会科
木曽千尋 教諭

本川:
本校は創立以来、「第三教育」を不易の教育方針としています。家庭での第一教育、学校での第二教育に対し、同時並行して行われるのが第三教育(自ら学ぶ、自分自身からの教育)です。第三教育こそが、家庭から巣立ち、学校を卒業した後も、進歩し学び続ける一生の教育の柱だと考えています。この方針に基づき、本校ではビジネスプランづくりにおいても、教師がタッチすることなく、生徒自身に任せています。米山先生の学校はいかがですか?

米山:
基本的な指示は私が行いますが、本校も企業や市役所、商工会などへのアポ取りから交渉、プランづくりまで、すべて生徒に任せています。高校生ですから当然いろいろな失敗を経験しますが、自ら考えて行動することが成長につながると考え、教員は後で報告を聞くだけに留めています。最初にお話ししたように、本校の生徒は受け身な子が多いのですが、その意識が前向きに変わってきたのは、日本公庫の出張授業を受けたおかげだと思っています。

静岡県立伊東商業高等学校
進路課 課長
米山圭一郎 教諭

木曽:
出張授業を受けると、生徒たちのものの見方がすごく広がりますね。高校生は、物を購入する立場でしか経済の仕組みが見えていませんが、そういう彼ら彼女らが供給側からものを見る、最初の貴重な機会になっていると感じます。

米山:
最初に出張授業を受けたときは、前で居眠りしている生徒もいたのですが、そういう子たちも次第に意識が変わってきました。彼らの成長する姿は、出張授業やプランづくりのアドバイスをしてくださった日本公庫の方にも伝わったようで、ベスト100に選ばれたときには涙を流して喜んでくださったのが印象に残っています。校長室で表彰式をしたときは、生徒はもちろん教職員も感動しました。

市川高校は第5回大会グランプリ 伊東商業は初のベスト20に

市川高等学校
第5回大会で念願のグランプリに輝いた市川高校のチーム「Agri Successors」

本川:
第5回大会でグランプリを取った余田大輝くんのチームは、1年目でファイナリストになれなかったことが悔しくて、受賞校のプレゼンテーションなどをかなり研究し、アイデアを蓄積していたようです。グランプリをいただいたのは「棚田用自律型稲刈り機『弥生』」というプランでしたが、文系の彼は、デザインが得意な島田恵佑くんと機械製作が得意な加藤泰成くんをリクルートしてグループを結成し、プランづくりに取り組みました。最初は機械の開発に主眼を置いていましたが、稲刈りの自動化だけでは不十分と考え、棚田のお米をブランド化するというハードとソフト両面からアプローチしたことが、評価されたポイントだと思います。もうひとつはチームワークです。得意な分野に精通したスペシャリストが集まり、分業で取り組んだことが、今回のプランに欠かせない要素だったと考えています。

木曽:
コミュニケーション力の高さもポイントでしたね。彼らは、足しげく棚田農家のもとへ出かけて実態を聞いたり、実際に稲刈りを体験したり、コンバインの仕組みを見せてもらったり、多くの方と深くかかわるなかでプランづくりを進めました。それがいい結果につながったのだと思います。

米山:
本校で初のベスト20に選ばれたプランは、地元の特産品である天草てんぐさの藻場を再生する内容でした。これは、生徒が静岡新聞に掲載された「海女さんがいなくなり天草が採れなくなっている」という記事に興味を持ったことから始まりました。生徒は記事を頼りに関係者へ直接連絡を取り、実態を取材し、藻場再生と後継者育成には知名度の向上が必要と考え、天草のクッキーを作るアイデアを思い付きました。地元の洋菓子店の方に相談しながらクッキー作りを行ったのですが、何回やってもうまくいかず、天草を刻むなどいろいろな工夫をして、ようやく商品化に成功しました。プランは、天草クッキーの売り上げの一部を東伊豆に寄付し、藻場再生に貢献するというものでした。セミファイナリストに選ばれた効果は、かなり大きかったですね。名だたる学校が参加するなか、「頑張ればそこまでいけるんだ」という自信を、教職員も、劣等感を持っていた生徒や後輩たちも得られたと感じています。

本川:
本校も、グランプリ受賞の波及効果は大きかったですね。余田くんは、この成果を自分たちだけで終わらせてはいけないと考え、校内の有志に呼びかけて「交流会」を始めました。最初は高校生ビジネスプラン・グランプリの経験を話していたようですが、他の生徒が行っている課外活動の情報を共有したり、起業した生徒の実体験を聞く場を提供したり、かなり刺激的な場になっており、参加した後輩が新たなプロジェクトを立ち上げるケースも増えています。

木曽:
「交流会」に参加した高校1年生の何人かは、第6回大会にチャレンジする予定です。このように生徒たちの自主的な活動により、経験が継承されることは、すばらしいと思います。

本川:
校外では、地方紙だけではなく全国紙にも取り上げられ、農業機械の専門紙からも取材を受けました。さらに、棚田学会という専門性の高い団体から、学校宛てにメールをいただきました。高校生が棚田に興味を持ってくれたことがすごくうれしい。高校生の文章で構わないから「棚田学会通信」という学会誌に寄稿してほしいという依頼でした。生徒たちは棚田の未来を真剣に考えていたので、この申し出は本当にうれしかったそうです。

プランづくりが将来の指針に 教職員や学校も変革のチャンス

静岡県立 伊東商業高等学校
生徒たちが考案した天草クッキー。外観は地元特産の金目鯛、目の部分にはサマーオレンジを使用。地元新聞をはじめ、さまざまなメディアで取り上げられた

米山:
第5回大会のプランがベスト20に選ばれ、本校で贈呈式を行ったのですが、その際、プランづくりの取材にご協力いただいた東伊豆の漁協の会長とお話しする機会がありました。会長は、「生徒が本気でぶつかってきたから協力させていただきました。もし、いいかげんな気持ちだったら、私たちは協力しなかったでしょう」とおっしゃってくださいました。それを聞いたとき、生徒たちの真剣さが多くの人を動かしたのだと実感しました。実は、第5回大会で別グループが応募した鯖を使ったバーガー「SABAiBAR」のプランも、地元の人々を動かす効果がありました。生徒たちはプランづくりのなかで、小学生の苦手な給食メニューの1位が魚だと知り、子どもたちに「SABAiBAR」を食べてもらうために給食センターへお願いに行きました。私たちは、給食センターは基準が厳しいので、採用してもらえないだろうと思ってましたが、生徒たちの熱意が伝わり、小・中学校の給食メニューとして正式に採用されました。

木曽:
大人が本気になって協力してくれる経験は、高校生にとって大きな刺激になりますね。

米山:
地元との関わりのなかで、プランづくりにご協力いただいた企業に生徒が就職するケースも出てきました。学校には多くの求人が届きますが、そういった取り組みをした生徒は、企業側から求められることが多いですね。高校生ビジネスプラン・グランプリへの取り組みは、進路にも大きな影響があったといえます。

本川:
グランプリ受賞メンバーは、このプランを将来に生かしたいと言っています。余田くんはプランづくりで文系と理系の垣根がないことのメリットを実感したので、そういう大学で経営を学びたい、島田くんと加藤くんは、進学後も開発した農機の改良に携わりたいと言っています。

木曽:
高校生ビジネスプラン・グランプリに参加することで、高校生のうちから起業意識を持つ生徒が、今後さらに増えるのではないでしょうか。今回、余田くんたちがプランづくりでお世話になったコンサルタントの方が、「大学生起業のブランドは普通になってきたので、これからは高校生の起業に価値が生じるのではないか」とおっしゃっていました。今、本校では高校1年生を対象に、社会で活躍する卒業生を呼んで「キャリア・セミナー」を開催しているのですが、将来その場に余田くんたちが登壇し、今回の経験をオフィシャルなかたちで後輩たちに伝えてくれればいいと思っています。

本川:
潜在的に「いずれ起業したい」と考えている生徒は多いでしょうが、起業を視野に進路を考える生徒は、これまでほとんどいませんでした。ですが、今回の余田くんたちは、学校側として進路指導に起業への道筋を考えなければならない初めてのケースになるかもしれないと感じています。高校生ビジネスプラン・グランプリは、生徒たちの秘めた可能性を広げるとともに、教職員や学校も変わるヒントを得られる、非常に優れた企画だと思います。

「生徒にプレゼン経験を積ませたい」「起業のハードルは高くない」

静岡県立 伊東商業高等学校
生徒たちが完成させた天草のクッキーは伊東市内の洋菓子店でも販売され、話題を呼んだ

米山:
授業中は自分の意見を言えない生徒が、ビジネスプランのプレゼン練習に取り組むうちに、積極的に自分の意見を言えるようになることがあります。そういう、教科の評価だけではない、生徒の個性や長所を発見できることが、高校生ビジネスプラン・グランプリのいいところだと思っています。ですから、もっと生徒たちにプレゼンの場を経験させ、自分の考えを伝える力をつけさせたいというのが、個人的な要望です。書類審査で落ちてしまうとプレゼンの機会を得られないので、できれば地区予選のようなかたちで多くの参加校がプレゼンで競い合えると、もっといいと思います。

木曽:
教育には、決められたことを教える、生徒を枠にはめ込んでしまう面が少なからずあると思います。しかし、実は、その枠からはみ出たところに新しいものを生み出す芽が隠れていると思うので、そこにフォーカスされるような試みをこれからも続けてほしいですね。

本川:
高校生たちはまだ起業を遠いものだと思っていますので、日本公庫にはそんなにハードルは高くないということを発信し続けてもらいたいです。高校生ビジネスプラン・グランプリに携わっていると、若い才能や発想に触れて、「私たち大人はそういう視点でものを見られない」と驚かされることが多々あります。そんなフレッシュな感覚を社会につなげ、その芽を育てるために、今後も高校生ビジネスプラン・グランプリが発展していくことを期待します。まだ全国には参加していない学校や地域があると思うので、今以上に参加校が増えて裾野が広がり、才能に目覚める生徒が全国レベルで増えることを願っています。

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