株式会社CAST
代表取締役社長:中妻 啓
所在地:熊本県
事業領域:半導体/ハードウェア
Interview


製油所や化学プラントをはじめ工場には液体や気体が流れる配管が無数にある。長年使用すると、その内側は減肉という腐食や摩耗による厚みの減少が進むため、事故を防ぐには、定期的な監視と点検が必要だ。しかし高温、狭小、高所などで人による点検作業が困難な場所が多い。そこで、熊本大学の研究者が創業した株式会社CAST(キャスト)は、耐熱性に優れ、曲げられるフレキシブル性を有し、さらに薄型で「いつでも・どこでも」取り付けて監視できる超音波センサーを開発した。代表取締役社長の中妻啓氏は、同大学大学院先端科学研究部の助教を兼業。異色の経営者は熊本大学発スタートアップの成長の指揮を執り、産業界の課題解決に貢献する。
熊本大学の文系と理系双方の学部が集まっている黒髪キャンパス。その近くの住宅街にキャストは本社を構える。元は保育所だったという建物の1階で、普段は数人のエンジニアがコンピューターの端末と向き合っている静かなオフィスだ。中妻氏らが2019年9月に創業した会社で、3年前までは熊本大学内にあったという典型的な大学発スタートアップだ。
同社は今年、開発した超音波センサーによる「配管減肉モニタリングシステム」を「ULTRACK(ウルトラック)」のブランドで本格的に市場にリリースした。先端にある直径12ミリメートルの超音波センサーを配管に密着させて遠隔で配管の減肉状況をチェックし、不測の事態が起きないよう常時監視できるシステムだ。
この超音波センサーの特長は、耐熱性とフレキシブル性、薄さだという。耐熱性では、接着する配管の温度が500度まで耐えられ、急激な温度変化にも壊れることはない。加えて、設置する配管の形状に合わせて曲げることができ、さらに厚さが1ミリメートルと薄いため、わずかな隙間にも据え付けられるという強みがある。
ウルトラックは「いつでも・どこでも」工場配管の肉厚データを取得し、現場から離れた所でもチェックできることで、点検や保守を行う現場従業員の〝苦役〟解消を目指している。
高温のためラインの稼働を停止しないと近づけない配管や、工場建設後には厳密な点検が難しかった極めて狭い場所の配管、危険な高所の配管なども、小さな超音波センサーを設置すれば「付けっ放し」で監視できるのだ。中妻氏は「日本ばかりでなく世界的にも生産現場の人手不足が問題になっており、その解消に役立つと思っている」と、この製品のニーズが高いことを強調する。
さらに、ウルトラックの本質的な価値は「見えにくい所をリアルタイムに可視化することでラインを守る」ことにあるとキャストはアピールしている。これまでは、熟練の従業員の経験や勘に頼って減肉状況を判断していたが、超音波センサーで的確に把握することでリスクを早期に発見できる。その結果、事故やトラブルによるライン停止を未然に防いで安全性を確保しつつ、生産性の向上と生産コストの最適化を図ることにつながるという。
現実に工場などでの事故は増加している。消防庁が今年5月に発表した「石油コンビナート等特別防災区域の特定事業所事故概要」によると、2024年に発生した事故件数443件のうち、地震によらない一般事故は417件で前年より22件増えた。一般事故の発生要因は、配管等の腐食疲労等劣化など物的要因が233件(56%)で、操作確認不十分など人的要因の160件(38%)を上回っている。この件数は大規模な特定事業所に限ったもので、その他にも配管設備のあるさまざまな事業所での事故は数多くあるとみられている。
同社の営業のメインターゲットは製油所や化学プラント、発電所などだが、食品加工場や製紙工場、医薬品工場など液体や気体が通る配管を持つ工場は全てが対象になる。すでに約20社に導入されているという。
同社のホームページでは、導入事例として徳島県徳島市の徳島津田バイオマス発電所を紹介している。表面温度が約175度になる配管の高温部は、従来の点検ではラインを停止し保温材を取り除かなくてはならなかったが、同社の超音波センサーを取り付けてモニタリングすることで、作業を止めることなく常時点検が可能になった、としている。

徳島津田バイオマス発電所に設置されたキャストの超音波センサー。「いつでも・どこでも」確認できるシステムにより、 過酷な環境下での検査業務の安全性向上を目指す
「キャストを設立する前に、コアとなる技術はすでに熊本大学でできていた」と中妻氏は言う。そのコア技術とは、「ゾルゲル複合体圧電デバイス技術」だ。「フレキシブルで高温でも動作する多孔質圧電セラミックデバイスの作製技術」とも説明される。
圧電とは、圧力や振動を加えると電気エネルギーが発生する物理現象であり、逆に、電気エネルギーを加えることで圧力や振動を生じさせる効果もある。身近なところでは、マイクやスピーカー、スマートフォンのバイブレーション、ライターの着火石などに圧電効果が利用されている。また、電圧を加えて超音波を出す装置は潜水艦のソナーなど軍事技術として利用されている他、漁船の魚群探知機などにも応用されている。
多孔質とは、緻密に見えるセラミック構造でも、電子顕微鏡で観察すると小さな穴が開いていることが確認できる材質。そのため曲げても折れないという、硬いセラミックにはない性質になるという。
このような圧電デバイスを作製するために用いられている独自のプロセスが「ゾルゲルスプレー法」だ。圧電セラミック粉と圧電ゾルゲル溶液を攪拌し、基盤となる金属にスプレー塗布する。さらに焼結などをして、高い耐熱性を持ち衝撃に強い多孔質構造の圧電デバイスを作ることができる。
一連の技術は、熊本大学大学院先端科学研究部の小林牧子教授が20年以上前に、カナダの大学で研究していた時に発明したものだ。小林氏は2012年に熊本大学に着任し、圧電材料の超音波応用などの研究をしている。後にキャストの共同創業者になり、現在も技術顧問として同社を支えている。

わずか1ミリメートルの薄型超音波センサー。高温下でも高精度で肉厚データの測定が可能
東京で生まれ育った中妻氏も2012年、「熊本には全く縁がなかった」が、同大学助教に就任した。東京大学大学院で計測工学を学び、博士号(情報理工学)を取得した中妻氏は当時、ロボットの皮膚センサーの研究に没頭していた。
ロボットの体の表面に触覚センサーを付ける研究だが、3次元の曲面に大きくて自在に曲げて装着できるセンサーをいかに作るかに頭を悩ませていた。その時に出合ったのが、小林氏が発明したゾルゲルスプレー法で、ロボット全身を被覆する皮膚センサーの開発に応用することを思い付いた。当時は小林氏とは学科が違ったが、2015年、いわゆる「ロボットスキン」開発の共同研究が始まった。
それまで手作業だったゾルゲルスプレー法を自動化するなどの研究開発を進める中で、中妻氏は「センサーは産業界で大きなニーズがあるのではないか」と思い始めた。そして、共同研究のメンバーと「熊本大学の顔となるようなプロジェクトにしよう」との機運を高めていったという。
やがて創業メンバーになる仲間たちで名乗ったグループ名が後に社名となる「CAST」だった。「Core of Advantest Sensing Technology」の頭文字をとり、「先端計測技術のコアになる」との意味を込めた。
しかし、大学では基礎的な研究と技術開発のチャレンジはできても、商品化は難しい。そこで、2017年に、次世代ベンチャーの創出を目指した「熊本テックプランター」に参加したことが大きな転機となった。資金調達も含めた創業支援を受け、大企業にライセンスを提供するのではなく、画期的な圧電センサーをなるべく早く社会に送り出すために、自分たちで事業化を進めた。

2025年のプラントメンテナンスショー(東京ビッグサイト)に出展したキャストのブース。2022年から連続出展しており、独自の配管減肉モニタリングシステムが多くの来場者の注目を集めている
法人化された国立大学は「知の拠点」として社会や地域との関わりを深め、大学発のスタートアップが数多く立ち上がるようになった。その流れの中で、熊本大学が認定したスタートアップはキャストも含め約20社に上る。
さらに熊本大学の教員として在職しながら企業の代表取締役にも就任することが認められるようになり、中妻氏が研究者兼社長の第1号になった。
また「熊本大学認定ベンチャー企業」として、熊本大学とキャストは、研究者などが大学と企業に同時に在籍し、それぞれの職務を行うことができる「クロスアポイントメント制度」に基づき協定を結び、大学から2021年10月にリサーチ・アドミニストレーター(URA)が派遣された。大学発スタートアップは事業を進めるに当たり、営業や税務、労務など研究活動以外の業務の担い手が不足しがちで、URA派遣はそれを補って支援する制度だ。キャストには熊本大学の職員が2023年7月まで派遣され、主に営業を担当してもらった。
現在、取締役2人(他に社外取締役2人)と従業員13人体制。従業員の約3分の2はエンジニアだ。関東も含め他県で在宅ワークする従業員も複数おり、働き方も自在な会社。「世の中のあらゆる物理現象を数値化するための高品質なセンサーを開発していきたい。技術と製品ばかりでなく、システムとしてサービスを充実させていく」と語る中妻氏。将来的には社会問題になっている老朽化した下水道管の検査センサーも視野に入れる。2030年までの株式上場、2035年までの年商1千億円を目指し、「熊本を代表する企業に育てたい」と大きな抱負を語る。

マレーシアでのプレゼンの様子。高品質センサーとシステムの海外展開に向けた準備を進めている

株式会社CAST
所在地:熊本県熊本市中央区渡鹿5丁目7-6 1階
設立:2019年9月
代表取締役社長:中妻 啓
事業内容:センサー及び周辺機器・ソフトウェアの研究・開発・製造・販売