株式会社TriOrb(トライオーブ)
代表取締役CEO:石田秀一
所在地:福岡県
事業領域:ロボット
Interview
TriOrbは、「球駆動式全方向移動機構」の社会実装を目指して2023年2月に設立した。車輪でなく球体で動くこの機構は、あらゆる方向に自在に動く“ロボットの足”である。石田秀一代表取締役CEOが九州工業大学時代に研究を始め、産業技術総合研究所に入所後も10年にわたり九州工業大学と共同研究を続けた熟成された技術だ。人手不足が加速し、働き方改革が叫ばれる産業界において、重労働や悪環境での作業からの解放は社会課題であり、これを解決するため、精緻で自由自在に動く全方向移動ロボットを、あらゆる現場に送り込む構えだ。
石田CEOは九工大の学生だった08年に、同大学の宮本弘之准教授とともに全方向移動ロボットの研究開発を始めた。修士・博士課程では自律移動型ロボットの協議会であるロボカップサッカーに出場し、チーム代表として日本大会で優勝、世界大会では技術部門2位を受賞した。博士課程を修了し産総研に入所した後も、九州工業大学と共に研究を続けた。19年度にJSTの社会還元加速プログラム(SCORE)に、20年度にはJST大学発新産業創出プログラム(START)に採択されて、23年2月に創業した。
球駆動式全方向移動機構は、3つの球体と3つのモーターで構成される。その名のとおり360°全方向に動くことはもちろん、段差をスムーズに乗り越え、コンパクトで細い道や狭い場所にもぐり込める。また、ミリ単位で移動できる性能の高さに加え、小型ながら300kgの高耐荷重であることも特長。まさに自在に動く“ロボットの足”といえる。石田CEOは産総研時代、企業の製造現場に足を運び研究をしていた。そこで目の当たりにしたのが効率化されていない現場、人手が足りていない現場だった。研究は様々な現場の変革に役立つと確信を深め、産業界を変えていくことが使命だと考えるようになった。
ビジネスモデルについて、石田CEOはライセンシングではなく、自分で製造・販売まで担うべきだと考えた。それは世に使われることを第一に考えた場合に、自らが顧客の声を直接聞くことが重要だと考えたからだ。実際、製品は部品点数が少なくシンプルな構造であり、また球駆動のユースケースを自ら提示する等、顧客が導入しやすくなる環境を提供している。
ただ、モノづくりは、生産体制を整え顧客開拓をし、事業が軌道に乗るまでに時間を要する。そのため、初期から十分な資金を調達する必要があった。23年4月には、地元・北九州市認定の、みらい創造機構が運営するみらい創造二号投資事業有限責任組合を引受先としたJ-KISS型新株予約権の発行により4000万円を調達、同年6月には福岡銀行と日本政策金融公庫から7000万円の協調融資を受けた。
シリーズAでは同年12月に東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)、みらい創造機構、DRONE FUNDを引受先とする第三者割当増資により、総額3億3000万円を調達した。これにより設立10カ月で調達額は累計4億4000万円となった。
この間、広く技術力を発信することにも努めている。同年6月には戸田建設との資材搬送の実現を目指す共同研究を発表、同年に東京ビッグサイトで行われたFactory Innovation Weekや国際ロボット展への出展、同年12月にはアジア最大規模のオープンイノベーションイベント「イノベーションリーダーズサミット」に参加し、日本公庫スタートアップピッチに嶋野仁士取締役COOが登壇する等、TriOrbの認知度が上がっている。
嶋野仁士取締役COO
認知度アップを図り資金調達を進めたことで多くの引き合いがあり、設立1年ほどで商談は製造業や建設業など60-70社を数えるに至った。すでに複数社の導入が決まっているが、嶋野COOは「初年度は顧客とPoCを実施しながら顧客の声を製品に反映すること、本格導入に向けた課題を顧客と共有することが最も大事である。また財務面では、試験をして性能が良くても導入までには半年から1年程度かかるため、今が正念場だ。」と語る。しかし、一度導入すれば現場の改善は大きく進むことが実感できると確信している。今後はPoCから本格導入に向けた動きを加速するようアプローチしていく。
モノづくりはパソコン1つでできる仕事ではなく、設備も人も必要だ。一方で、顧客のニーズは千差万別で、一つひとつをすべて受け入れていくのは難しい。それぞれに特化した人材を確保し、バランスをとって対応していくことが成長の課題となる。その点で同社は、気心の知れたメンバーが集まっている。嶋野COOは石田CEOと幼なじみで、長年の付き合いがある。開発メンバーも旧知の仲で、石田CEOの声がけにより相次いで同社に加わった。三菱UFJ銀行出身の嶋野COOは「スタートアップは日々勉強になり密度の高い経験ができて、想像以上に楽しい。」とその価値を肌身で感じている。メンバーが見つめる先は一致している。
今後は、様々な業界への横展開を考えている。例えば、半導体関連の現場では、クリーン度を保つため、微細なホコリを排出する格子状の床があるため段差が多く、ロボットを用いた搬送の妨げになっている。また建設関連の現場では、路面が荒れていて、しかも日々変化する。さらに狭い所に多種多様な資材が運び込まなければならないという課題もある。鉄鋼などさらに重い重量物であれば復数台の「TriOrb BASE」を協調させることで、搬送することが可能となる。また、初めは国内市場の開拓からだが「2-3年で海外に目を向ける」(嶋野COO)。人手不足が深刻な今日、自在に動く“ロボットの足”は活躍の場をさらに広げていくだろう。
株式会社TriOrb
所在地:福岡県北九州市小倉北区浅野3-8-1AIMビル6F
設立:2023年2月
代表取締役CEO:石田秀一
事業内容:ロボットの開発、製造、販売、保守、ソフトウェアの開発、販売及び保守