ラピュタロボティクス株式会社
代表取締役CFO:クリシナムルティ・アルドチェルワン
所在地:東京都
事業領域:ロボット
Interview
ラピュタロボティクスは、スリランカ出身のモーハナラージャー・ガジャンCEOとクリシナムルティ・アルドチェルワンCFOが2014年7月に創業した。小型のAMR(自律走行型協働ロボット)をクラウドで群制御するシステムは、取り扱う物量に応じて導入台数を柔軟に対応でき、安価で作業の自動化が図れる。独自の自動倉庫や自動フォークリフトも揃え、他にはない高効率なシステムを提供する。人手不足が大きな課題となっている物流現場で、同社のシステムは急速に需要を伸ばしている。
ガジャンCEOとアルドチェルワンCFOは、スリランカから来日した。東京工業大学に留学し制御システムエンジニアリングを学んだ。2人は20歳の時に出会い、衣食住を共にした仲だ。卒業後、ガジャンCEOはスイスのチューリッヒ工科大学に進み、さらにロボットの研究に邁進した。アルドチェルワンCFOは米コロンビア大学に進み、経済数学修士号を取得後、ファンドの創業や野村證券でエクイティデリバティブのアナリストを経験した。
ガジャンCEOは、ロボット向けインターネットの先駆けとなった、EU出資の「RoboEarth」プロジェクトで研究を進めた。そこで開発したのがオープンソース活用型のクラウドロボティクス・プラットフォーム、「Rapyuta」だ。これを元にしてチューリッヒ工科大学のスピンオフメンバーを中心に、ラピュタロボティクス株式会社のエンジニアリング部門をスイスに開設。東京に本社を構えて企業活動を始めた。
日本は2010年から人口減少に転じている。一方で、政府の成長戦略に刺激され、長く停滞していた産業活動も動き出した。これに働き方改革も加わり、人手不足による問題は、多くの産業の現場に現れ始めた。その社会課題先進国である日本にはビジネスチャンスがある。第2の故郷でもあり、人々の気質やビジネス慣習も理解できる。それが日本をスタートアップの地に選んだ理由だ。
創業当初取り組んだのはドローン事業。ガジャンCEOがチューリッヒ工科大学時代に、その分野での第一人者に師事していた延長で、ドローンソリューションを開発した。3年ほど取り組んだが、市場がまだ形成されていないなど壁にぶつかり、期待したようには事業が進まなかった。そこで2018年に、製造業や物流業の現場をターゲットとしたロボット事業にピボットした。
ただ、実情を調べてみると、製造業での展開には制約が多かった。業種や業務によってはロボット導入が進んでいる上に、それに即した規格もすでに設けられていた。また製造ラインも固定的で在庫もできるだけ持たない傾向があるなど、参入障壁は高い。そこで、人手による作業が多く、参入の制約が少ない物流業にフォーカスした。特に倉庫業務の自動化率は、いまだ2割にも満たない。自社開発ソリューションを物流業向けにシフトし、ピッキングアシストロボットを開発した。創業から5年経過した2019年7月のことだ。
ピッキングアシストロボット「ラピュタPA-AMR」は、作業スタッフと協働でピッキングを行う。AIが最短のピッキングルートを提案し、荷物の搬送を代行することで、スタッフの歩行距離を削減し、生産性の向上につなげる。従来のロボットの場合、演算処理機能やストレージを個々に持たせるため、システム全体が大規模で高価なものとなる。同社のシステムは複数台をクラウドで群制御するので、その問題にも柔軟に対応することができる。
日本を代表する3PL(サードパーティーロジスティクス)の日本通運に採用されたのをはじめとして、倉庫会社やメーカーなどの自社物流に次々と納入している。ピッキングアシストロボット市場においては、デロイトトーマツミック経済研究所の調査2023年度版で、2年連続売り上げシェア1位となっている。
物流業での展開に手応えを得たことから、2023年には自動倉庫と自動フォークリフトを開発し、発売した。自在型自動倉庫「ラピュタASRS」は、ブロック単位で何階層も自由に組み立てられるのが特徴。免震構造でアンカーを打つ必要がないので、移設も簡単にできる。自動倉庫の中ではロボットが、フロアを走行し(上下の移動はエレベーター)作業する。ロボットのバッテリー充電は行わず、自動交換により稼働時間を最大化している。
従来の自動倉庫では、ピッキングロボットは天井もしくは床面を走行する。それらと比べて生産性は最大10倍、保管効率は2.5倍(マニュアルピッキング(一般的な軽量棚の空間容積率13%、1時間あたり60行/人)との比較)になるという。そのため従来は、取扱量やコストの問題で導入できなかった現場も、それぞれに見合った投資で導入し作業の効率化を実現する。
自動フォークリフト「ラピュタAFL」は、高い位置推定技術により安全性を確保し、反射板や磁石なしで既存倉庫に導入できる。フォークリフトで運搬する際には、パレットの向きなどを整える必要があったが、こうした問題もソフトウェアで解決している。そのため短期間で導入でき夜間稼働にも対応するので、投資の早期回収が可能となっている。
ラピュタロボティクスの特徴は、独自性が突出している点にある。それは資金調達にも現れる。2022年4月に米ゴールドマンサックスから64億円の資金調達を行った。この時点で累計調達額は106億円となった。ゴールドマンサックスはスタートアップに対する投資は、その業界で各国トップの企業にしか行わない。ラピュタロボティクスのクラウドロボティクスシステムは、その一つに選ばれた。
採用の国際性も特徴だ。まだ事業が軌道に乗る前の2016年1月に、インド・ベンガルールに支社を開設した。ベンガルールはインドのシリコンバレーと呼ばれており、優秀なソフトウェアエンジニアを発掘するのが目的だった。現在は米国シカゴにもオフィスを置いている。日本国内は人手不足で採用は簡単ではないが、海外では求人をかけると翌日には、300件もの応募があるという。人材の流動性が日本とは桁違いで、その中から日本で働きたい人を呼び寄せている。「Empathy」「Openness」など6つのコアバリューを浸透させ、現在30カ国の人材が働いている。
優秀なソフトウェアエンジニアは世界から集める。日本で事業を展開するのは市場性もあるが、製造業の技術が高いこともある。同社製品のハードウェアのほとんどは、日本企業に生産を委託している。その性能、精度には全幅の信頼を置いている。そこに独自のソフトウェアを組み込んで販売している。これが競争優位性を発揮している。
創業10年で、物流業におけるロボット化で一定の地位を占めるに至った。アルドチェルワンCFOは「スタートアップはプロダクトマーケットフィット(PMF)を考えてから投資すべき」との教訓を得た。技術を売りたい気持ちがはやるが、顧客のことをよく知ることが先ということだ。また、シェアを拡大するためには、「特定の事業にフォーカスすることが大切」とも言う。その考えから、株式上場の時期については「ある程度企業が大きくなってから」と固執はしていない。今後は米国に次いで、さらなる海外展開も見据えており、製品を一層充実させていく構えだ。
ラピュタロボティクス株式会社
所在地:東京都江東区平野4-10-5
設立:2014年7月
代表取締役CEO:モーハナラージャー・ガジャン
代表取締役CFO:クリシナムルティ・アルドチェルワン
事業内容:クラウドロボティクスプラットフォームの開発と、ロボットソリューションの開発・導入・運用支援