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Interview

光を自在に操り、人々の健康と豊かな社会を実現する
採血不要の非侵襲血糖値センサーの開発

ライトタッチテクノロジー株式会社 代表取締役 山川考一

ライトタッチテクノロジー株式会社

代表取締役:山川考一

所在地:大阪府

事業領域:バイオテック

URL:https://www.light-tt.co.jp/

ライトタッチテクノロジー株式会社 ロゴ

目の前の課題に技術を役立てたい

国内に約1000万人、世界では約5億人いるとされる糖尿病患者は、正確な血糖値を測るため、日に何度も採血する。その痛みやつらさを取り除きたいと、「非侵襲血糖値センサー」を開発したのがライトタッチテクノロジーだ。指先でセンサーに触れるだけで測定できるので、採血針など医療廃棄物は出ない。被災地など衛生面に不安のある環境下でも感染症リスクを低く抑えられる。

創業者の山川考一社長は、国立研究開発法人「量子科学技術研究開発機構」で大型レーザーの開発に携わる研究者だった。糖尿病に関心が向いたのは、自己免疫疾患である1型糖尿病の子を持つ同僚の話を聞いたことがきっかけだ。

「血糖値が下がりすぎると命の危険があるため、夜中でも寝ているお子さんを起こし、泣きじゃくられようが採血するというんです。お子さんもお母さんもつらいだろうと胸が痛みました。と同時に、レーザーで測れるのではと思いついたんです」

培った技術を今困っている人のために役立てたいと、すぐ開発に着手。産業界や医学界で発表すると反響は大きく、事業化できると確信し、2017年に起業した。

知見を生かし“世界初”を創出

測定器は、赤外光が特定の物質に吸収される性質を利用。血中のグルコース(糖)に合わせた波長の光を指先に照射し、その吸収率から血糖値を測る。

「これまで開発が進められてきた近赤外光は、毛細血管まで光を届けられる反面、グルコース以外の影響を強く受けます。一方、検出精度に優れた中赤外光は、光が弱いのが弱点です。弊社はレーザー開発の知見を生かし、小型で高輝度の中赤外レーザーの開発に成功。一定の条件の下、国際標準化機構(ISO)が定める測定精度を満たし、医療機器として認められるための基準を世界で初めて達成しました」

異なる視点を入れ発想を転換

大型レーザーを扱っていただけに小型化には苦労したが、一番のハードルはデザインだったと山川社長は振り返る。

「測定さえできれば四角い箱でもいいと思っていたのですが、COO(最高執行責任者)であり、妻である山川庸子が『大変な思いをしている患者さんの心を和らげられるようなデザインじゃないとダメ』と。私もエンジニアも、発想の転換から始めなければいけませんでした」

まずティッシュボックスほどの大きさの据え置き型ができ、次いでペットボトル大のモバイル型の試作品を完成させた。どちらも使いやすさにこだわり、日常になじむデザインだ。

目下の課題は医療機器として承認を得ることだが、山川社長に不安はない。「今年5月には日本糖尿病学会の学術集会で講演させていただき、学会でも著名な先生方から臨床試験のお申し出をたくさんいただけました。弊社としてはこれからも本質的な技術開発を行うという点を堅持しつつ、一歩ずつ前に進んでいくだけです」

融資が信用となり資金調達が順調に

創業に際し、他企業と事業連携をしなかったのは、その企業の経営方針の変更によっては開発が止まる可能性があると危惧したからだ。だが技術を世の中に生かすには、資金調達は欠かせない。

「その点、最初に日本政策金融公庫の国民生活事業から融資をいただけたことが社会的な信用となり、その後の資金調達につながったと感謝しています。24年8月にも新たな融資をいただき、次の資金調達に先鞭をつけていただきました」と山川社長。臨床試験、薬機承認に向けた展開をさらに加速させる意向だ。

健康を支える技術を磨きたい

非侵襲で血糖値を測れるデバイスをリリースした先の未来を、山川社長は描いている。

「今はグルコースだけですが、レーザーの波長を変えることで他の血中物質を測定できる可能性があります。将来的には血糖に加え、コレステロールや中性脂肪等を測り、それらのデータを統合的に分析することで疾病予防や未病の早期発見にも、我々の技術を役立てていきたいです」

ライトタッチテクノロジー株式会社

所在地:大阪府大阪市城東区森之宮1-6-111NLC森の宮ビル13階
設立:2017年7月
代表取締役:山川考一
事業内容:採血のいらない非侵襲血糖値センサーの開発・製造販売、受託研究