背景色を変更

Interview

3-5年かかる土づくりを1カ月に短縮
温室効果ガスを削減し持続可能な農業に貢献する高機能バイオ炭

株式会社TOWING 代表取締役CEO 西田宏平

株式会社TOWING(トーイング)

代表取締役CEO:西田宏平

所在地:愛知県

事業領域:アグリテック

URL:https://towing.co.jp/

株式会社TOWING ロゴ

TOWINGの西田宏平代表取締役CEOは元々、天文学者を志し名古屋大学理学部の地球惑星科学科で学んでいたが、在学中に環境や農業の授業にも興味がわき、木質燃料などの再生可能エネルギーや土壌微生物を扱う研究室に入り、出会ったメンバーと起業を志すようになる。いったんは民間企業に就職したが、並行して持続可能な食糧生産システムの開発を継続。ビジネスコンテストでの賞金を元手に創業した。土壌の微生物を制御する技術、月面基地での食料生産システムの開発などで注目を集めている。

ビジネスプランコンテストの賞金を元手に創業

主力商品である「宙炭(そらたん)」は多孔質な炭に土壌微生物を付加・定着させる技術で、通常3-5年かかる土壌改良を1カ月に短縮できる。通常は化学肥料から有機肥料に切り替えると収穫量が下がるのだが、同商品を使えば同等以上の収穫量が得られるのが特徴の1つだ。

TOWINGは、NASA(米航空宇宙局)が計画する月面基地の開発などを志すアルテミス計画に採択されることを目指し、同技術を活用して月面で農業を実現しようとしている。この取り組みは、内閣府主催のスターダストプログラムの予算を得て、大林組社などと共同でプロジェクト進めている。今は研究開発段階の為、実際に現地でシステムを稼働させるのは、10-20年後である。

宇宙農業技術の開発を行いながら、直近の事業面では地上に目を向けてプロジェクトを行っている。創業を考え始めた2017年ごろ、欧米では農業での温室効果ガス排出が問題視され、先行的に持続可能な食糧生産システムに切り替える動きが広がっていた。将来的に日本や東南アジアにも同じ流れがくると、西田CEOは仮説をたてた。しかし当時は、国内の持続可能な農業に対する関心が低く、100人の農家に話を聞きに行っても話を聞いてもらえたのはせいぜい10人。商品は誰も必要とされていなかった。まだ起業の時期ではないと、2018年4月にDENSOに入社したが、エンジニアの仕事の傍ら宙炭のプロジェクトを継続。仲良くなった会社の仲間とさまざまなビジネスプランコンテストに参加し、入賞するようになるとDENSO内外に輪が広がっていき、様々な方に支援されたおかげで最終的には100人ほど仲間が集まった。その中で特に熱心な協力者が、創業メンバーとなった。宇宙に関するビジネスアイデアのコンテスト「S-BOOSTER」で表彰され、その賞金を資本金に充て20年2月にTOWINGを設立。食料安全保障に対する意識が高まり、農業の温室効果ガス排出が大きいことも認識されるようになり、徐々に宙炭に関するニーズの高まりを感じ、起業に踏み出した。

数億通りの条件を組み合わせ、最適な条件を探索

宙炭は未利用のバイオマスを使用する。もみ殻や畜糞などの農業残渣、茶殻やコーヒーかすなどの食料・飲料加工残渣、バーク(木の皮)や竹など木質由来の残渣など、から炭をつくる。炭は多孔体といい無数の小さな穴があいており、そこに適した微生物を独自の技術と農研機構など様々な研究機関が開発した技術を掛け合わせて培養する。すると、様々な微生物が複合的に動き始め、有機肥料中の窒素やリン、カリウムなどの成分が、植物が吸収できる栄養素へとスムーズに分解される菌叢ができる。こうしてできた宙炭を活用しながら土壌改良を行うことで、短期間に良質な土ができる。

微生物がどのような食べ物で育つか、温度や酸素濃度がどのような状態になっているか、数億通りの条件の組み合わせの中から、バイオインフォマティックスと呼ばれる生物学とITの両方の要素が入った技術で、微生物を解析し、最適な条件を探索する。この分析を行うために、高価な分析機器が必要となるが、より良い製品を開発する為に、研究環境を整えてきた。「現在は、シミュレーションのなかで予測したことが、実際の数値とかなり近くなってきている」(西田CEO)と手応えを感じている。微生物を扱う資材の効果検証は、実験を行う際の土自体のばらつきが大きく、効果検証に時間がかかることが課題であった。宙炭は土壌改良材になるだけでなく、そのものが土となり、再現性高くデザインすることもできる為、均一なサンプルで測定し、より早く効果を検証できる。土壌分析の領域においても、「物差しをもっているのが我々の強み」(西田CEO)と語る。

資金調達の面では、循環型栽培を推奨する国やJAの動きも追い風になっている。同社は2023年5月までに3回、累計約10億を調達した。創業当初は資金調達にかなり苦労したが、安定的な食糧供給を目指して農林水産省が目指した「みどりの食糧システム戦略」が立ち上がったのが大きかった。アクセラレータに採択いただいたJAとも連携しながら、国内外の様々な地域で宙炭にニーズがあることを確認できている。

日本から農業を変え、宇宙農業を目指す

農業は大転換期を迎えている。これまでは、環境負荷には目をつむって、いかに作物の収穫量や品質を向上させるか、いかに効率よくたくさんの面積を耕すかが考えられてきたが、これからは環境負荷の低減にも努めないといけなくなる。実際に、農水省やJAでは様々なアクションが行われている。同社では「宙炭」を活用した土壌改良を行い、環境への負担が少ない農業を社会実装するプロジェクトを北海道、愛知県、群馬県、静岡県、九州など全国各地で進めている。環境負荷を低減しながら、作物の収穫量や品質が向上する結果も出ている。

農業以外の産業を巻き込んだプロジェクトも立ち上がっている。企業との連携では24年2月に、サステナブルな次世代農業を起点とする超循環社会を目指す東邦ガスと業務提携した。研究開発からプラント建設、栽培実証試験、作物の販売まで一貫して取り組む。3月には三菱総合研究所と宙炭を用いたカーボンファーミングの圃場実証を始めた。カーボンファーミングは土壌中に炭素を貯留させる農業生産方法のことで、宙炭を活用すると同様のことが可能である。

西田CEOは、これから起業するスタートアップへのアドバイスとして、「創業前に、困ったときに相談できるスタートアップ業界に知見がある方を5名以上みつけること」を勧める。様々な決断の場面で、自分だけで判断できないときもあるが、アドバイスをもらうことで多角的に物事をとらえる為だ。もちろん、自分の考えとは全く異なるアドバイスをいただく場面もあるが、新たな気づきや考えを得ることは、良い判断をする上で重要である。今後は、これまでの取り組みを事業化に結びつけ27年に売り上げを飛躍させる計画だ。さらに10-15年先には宇宙農業の実現を目指す。

株式会社TOWING

所在地:愛知県名古屋市千種区不老町1国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学インキュベーション施設
設立:2020年2月
代表取締役CEO:西田宏平
事業内容:1.宙炭(そらたん)の製造、販売、導入支援(農地散布向け及び、苗用の培土向け)2.宙炭の利用量に応じた、カーボンクレジットの代理取得・販売3.宙炭を利用して生産した作物の販売