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Interview

過熱蒸煎機をコアに“食”の循環システムづくりに貢献する
食品残渣のアップサイクル

ASTRA FOOD PLAN株式会社 代表取締役社長 加納千裕

ASTRA FOOD PLAN株式会社(アストラフードプラン)

代表取締役社長:加納千裕

所在地:埼玉県

事業領域:フードテック

URL:https://www.astra-fp.com/

ASTRA FOOD PLAN株式会社 ロゴ

ASTRA FOOD PLANは食品加工から出てくる残渣を、独自開発の過熱蒸煎機で無添加の乾燥食品にアップサイクルする事業を展開する。消費期限切れで廃棄されるフードロスが問題視されている陰で、食品加工残渣や未利用農作物の廃棄がより大量に存在している。食料安全保障が叫ばれる中、この「かくれフードロス」は、さらに大きな社会問題だ。同社の事業はその解決の切り札となり、“食”の循環システム構築に貢献するものとなる。

香りや栄養価そのままに食品を粉末にする独自技術

過熱蒸煎機は気化温度を超す400℃に熱した蒸気で、タマネギ端材などの食品残渣を5-10秒で香りや栄養価を保ったまま乾燥・殺菌する。従来の食品乾燥では熱風乾燥があるが、12-24時間かけて乾燥するので、香りや栄養価が落ちる。フリーズドライについても乾燥に24時間かかり、栄養価は保つが、機械も高額となる。

過熱蒸煎機は、加納千裕社長の父・勉相談役が続けてきた過熱水蒸気による食品加工の研究が土台となっている。2000年頃、添加物を使わない食品づくりを志したのが原点だ。まず野菜や果物を加熱処理し、液状化したピューレを開発した。素材の香りや色がそのまま保たれているため、これを混ぜ合わせれば、香料や着色料などの添加物なしの自然な食品がつくれる。パンの生地に練りこんだり、フルーツキャンディの原料に使われたり一定の需要はあった。しかし、流通形態が冷凍で輸送にコストがかかり、ロットによって品質が安定しないなど使い勝手に難があった。そこで、過熱水蒸気で加熱処理したピューレの良さをそのままに乾燥粉末に応用できないかという発想から過熱蒸煎機の開発に至った。

同社の設立は2020年8月。「何としてもこの技術に日の目を見せたい、父の志を引き継ぎたい」(加納社長)思いで陣頭に立った。

過熱蒸煎機

食品残渣のアップサイクルに活路を見出す

どこに売り込むか。加納社長は父から機械の開発を引き継いでいた吉岡久雄専務と話し合った。朝鮮人参など高価な粉末食品はどうかとの案も上がったが、市場がニッチすぎる。機械も量産向きで、規模のあるところを狙わなければ商売にならない。とはいえ、すでにフリーズドライや熱風乾燥を採用している会社に入り込むのは容易ではない。模索を続ける中でたどり着いたのが食品残渣のアップサイクルだ。

情報収集を進める中で、フードロス問題は世間に知られるようになったが、食品加工で出る商品にならない端材の廃棄に頭を悩ませている企業がたくさんあることを知った。このかくれフードロスの量は、フードロスの3倍を超えると推定される。お金をかけて捨てていたものを有価物に生まれ変わらせれば、経済的で環境にもよい。ただ、企業が望んでいるのは食品残渣の廃棄をなくすことで、その先に有価物ができても売り先がなかなか見つからない。売れなければ再びゴミになる。そこで考え出したのが、「機械のレンタル&粉末買取システム」だ。

過熱蒸煎機を企業の食品加工現場に貸し出し、食品残渣を粉末にする。それをASTRA FOOD PLANが引き取り、同社が他の食品会社に販売するシステムだ。同社にとっては工場を持たずに商品をつくることができ、食の循環システムができあがる。アップサイクルされた粉末に「ぐるりこ」と名付けた。

軌道に乗ったのは吉野家ホールディングスとの取り組みだ。吉野家は野菜加工工場で牛丼をつくっているが、毎日最大700キログラム、年間250トンのタマネギ端材が発生する。タマネギ端材は腐りやすいので、現場に過熱蒸煎機を置き、吉野家の社員が残渣をアップサイクルする。それを全量引き取り、パン店を全国展開するポンパドウル(横浜市)に「ぐるりこ」として販売する。ポンパドウルはそれを生地に混ぜ込みパンを焼き上げる。23年2月にオニオンブレッド4種を発売し、現在も一部店舗で販売されている。

さらに、同月には、シブヤ(千葉県松戸市)が都内の百貨店内で運営する米の専門店「結米屋」7店舗で「国産十二穀粉クッキーオニオン味」が発売された。パッケージに「ぐるりこ」入りのマークを付けたシリーズ第一弾となった。

オニオンブレッド

農家も巻き込み“食”の循環の輪を大きく広げる

事業の形は少しずつ整ってきたが、道のりが順調だったわけではない。「事業を始めて一番大変だったのはお金の問題だった」と加納社長は振り返る。過熱蒸煎機一台を販売するにも、何度も試験を重ね、社内の決裁を経てからの導入となるため、1年以上かかる。開発にも資金を投じていたため、次第に資金が減っていき「22年末は年が越せなくなるかもしれない」(加納社長)窮地に追い込まれた。そんな時、「SAITAMA Smile Womenピッチ」開催のポスターが目にとまった。賞金が出ることに加え、一次、二次審査を突破してファイナリストになると、公庫との個別面談を受けられる。すぐに参加を決め、みごと最優秀賞に輝いた。その結果、公庫を含めた複数の金融機関から融資を受けることができた。

また出資による資金調達は、知人の社長から、IDATEN Venturesを紹介されて、22年5月に第三者割当増資を行った。23年10月には埼玉りそな創業応援投資事業有限責任組合、アグリビジネス投資育成、三菱UFJキャピタルとIDATEN Venturesを引受先として調達。シリーズAの累計調達額は2億2000万円となった。

今後目指すのは、循環サイクルに農家を巻き込むこと。農家には規格外やキズが付いたことで廃棄する作物がある。これを有効活用できれば、循環の輪は広がる。ただ、農家は小規模なので、地域と連携して取り組む。23年7月から「埼玉 食のサーキュラーエコノミープロジェクト」の補助金を受け、原料調達でJAいるま野の協力を得てぐるりこを生産。女子栄養大学、日本薬科大学の学生とメニュー開発をして埼玉県内飲食店や学校給食に提供した。小中学生には、かくれフードロス削減に向けた食育プログラムも行った。24年度は群馬県の「ぐんまAgri×NETSUGEN共創実証事業」に採択された。オリーブ栽培のスタートアップや梅林で有名な秋間梅林観光協会などと連携し、群馬県の未利用農作物のアップサイクル実証実験を行う。

加納社長は、持続的な“食”の循環システムには、「地域のステークホルダーを巻き込んだ仕組みづくりが大事」と語る。農作物の種類は数多くあり、地域や企業ごとに未利用農作物や食品残渣は異なる。すでに問い合わせも数多く寄せられ、ラボ段階で幅広い残渣に対応できることを確認しており、早期に事業を拡大する構えだ。

ASTRA FOOD PLAN株式会社

所在地:埼玉県富士見市鶴瀬東1-10-26
設立:2020年8月
代表取締役社長:加納千裕
事業内容:1.食品加工機の研究開発、販売2.食品の開発、製造、販売3.食品関連事業のコンサルティング