そこで、日本政策金融公庫は2021年2月17日に、東北起業女子応援ネットワークとの共催で「起業の先輩にきく、アイデアをカタチにする方法」を開催しました。
イベントでは、先輩起業家の方々に創業の経緯や起業後の取り組みをお話いただく講演を実施。講演後は、参加者から先輩起業家に質問できる交流会も行われました。
今回は、パン工房「パンツクルヒト」のオーナーでありパン職人でもある大友真弓さんと参加者の座談会の様子をレポートします。
パン工房「パンツクルヒト」 オーナー兼パン職人
大友 真弓 さん
2017年、宮城県大崎市にある自宅の敷地内に4.5坪のパン工房をオープン。現在は、スタッフ2名と一緒に店舗を運営している。名物の塩パンは整理券がないと購入できないほどの人気商品で、テレビや雑誌から多くの取材を受ける。また、3児を育てる母でもある。
※内容は2021年3月時点のものです。
1.起業の経緯:SNSを通じて趣味を仕事に変える
最初にパンを作ったのは小学生の頃だったと話す大友さん。月日が経ち、育児休暇中に趣味としてパン作りを始めたところ、その奥深さにのめり込んでしまったそうです。大友さんに、起業の経緯をお話いただきました。
起業の経緯をお話しされる大友さん
負けず嫌い精神からパン作りにのめり込む
大友:私が本格的にパン作りをするようになった理由は、「翌日食べても美味しいパン作り」に挑戦してみてもうまくいかなかったからです。本やネットで作り方を調べても、翌日には生地が硬くなってしまって美味しいパンは作れませんでした。この難しさが、私の負けず嫌い精神に火を付けたんです。
それから、材料の配合を研究する日々が始まります。試行錯誤する過程でパン作りの奥深さに触れ、いつしか「起業して自分の店を持ちたい」と考えるようになりました。
学生時代の恩師のおかげで口コミが広がる
大友:趣味のパン作りが仕事に変わり始めたきっかけは、学生時代の恩師から「真弓の作ったパンを食べてみたい」と連絡をもらったことでした。当時、私は作ったパンをSNSで公開していたのですが、先生が私の投稿を発見して興味を持ってくれたんです。
そこで数種類のパンを送ってみたところ、先生は「私が住んでいるところは都会で美味しいパン屋がたくさんあるけれど、こんなに優しい味がするパンはなかなか食べられない」と喜んでくれました。それから恩師から口コミが広がり、徐々にパン作りを依頼されるようになったんです。
機材購入のために借金をしてのスタート
大友:私がパン工房「パンツクルヒト」で起業したときには、すでに口コミによってある程度認知されている状態でした。しかし、私は猪突猛進型で、起業資金もあまり準備していなかったので、起業するにあたって必要だった高額な機材は、融資を受けて購入しました。
資金面では、借金をして、いわば「マイナス」からのスタートとなりましたが、「借金をしっかり返していくことも自分の財産になる」と考えていました。
2.起業後:こだわりを守りつつ臨機応変に経営する
起業後、ママ友や近所の人からの口コミにより、人気店となったパン工房「パンツクルヒト」。しかし次第に、起業当初の想いと現実にズレが生じたり、一人で店を切り盛りすることに限界を感じたりと悩みが出てきたそうです。大友さんに、起業後に経験した苦労や壁を乗り越えるために行った工夫についてお話いただきました。
自分の趣向よりお客さんの声を優先する
大友:起業当初は、季節ごとにパンの種類を変えて販売したいと思っていましたが、起業して1年を迎えた頃に、一番人気の塩パンだけに生産を絞ろうと決意したんです。
自分の考えではなくお客さんの声を優先した理由は、誰かに「美味しい」と言ってもらうことが自分にとって重要だったからです。当時はお客さんが入店すると開口一番「塩パンが欲しい」と言われるほどで、SNS上でも塩パンについての投稿がとても多く、「パンツクルヒト=塩パンの店」との評判が定着しつつありました。
また、お店の広さが4.5坪でパンを置ける面積も限られていたこともあり、「試しに塩パンだけに絞ってみよう」と思って経営方針を変えました。
忙しさがピークに達して苦手な雇用を始める
大友:起業してすぐの頃は、パン作りから接客まですべて一人でこなしていました。しかしお客さんが増えて徐々に自分の負担が大きくなってきたので、苦手なことだと自覚しながらもスタッフを雇うことにしたんです。
起業前は「人を雇うことなんて私には無理だ」と思っていて、ずっと自分一人で店舗を切り盛りするつもりでした。私は人に教えることが苦手な性格で、どちらかというと上から言われたことをやるほうが得意なんです。だから店が忙しくても、私は慌てふためきながら一人で運営していました。
しかし自分の負担がピークに達して、店に来ていたママ友が「大変じゃない?」と一声かけてくれたときに思わず涙が出てしまったんです。そこでやっと「誰かに助けてもらわなきゃ」と思いました。結局2人のママ友に協力をお願いしました。その2人は現在もスタッフとして働いてもらっています。
こだわりを発信してお客さんを味方につける
大友:起業当初から私は手ごねでパンを作ることにこだわっているため、お客さんの数に対して生産量が追い付かず、売り切れてしまうことがありました。しかし、SNS上で「すべてのパンを手ごねで作っています」と発信しているからか、買えなかったことに対して文句を言うお客さんは誰もいなかったんです。
イベントに出店したときもすべてのお客さんにパンが行き渡らず、本当に申し訳なかったのですが、「次は店舗に足を運ぶね」と言ってくれるお客さんもいました。こだわりを理解してくれたお客さんが私の味方になってくれたのかなと思います。
3.参加者からの質問
趣味だったパン作りを徐々にビジネスへ変えて、事業を成功させた大友さん。同じく食品の製造販売で起業を志す参加者からの質問に、丁寧に答えてくださいました。
コロナの影響は?乗り切るために工夫したことは?
(参加者)新型コロナウイルス感染拡大によって、大友さんの事業はどれくらい影響を受けましたか?また、通信販売を始めるなど、何か工夫したことはありますか?
売上は前年の3分の2に減少したが、通信販売は行わず店舗のみの販売を継続した
大友:自主的に店舗を20日間休業したことも影響して、売上は前年の3分の2まで減りました。食品の製造販売の界隈では売上の減少を受けて通信販売を始める傾向にありますが、私は今も店舗のみで販売しています。
通信販売を行わない理由は、お客さんに一番美味しい状態でパンを食べてもらいたいからです。主力商品である塩パンは焼き立てのバターの香りが一番の魅力。通信販売では配送で時間が経ってしまうので、本当の美味しさを伝えることができません。
オンラインで注文するお客さんはきっと初めて食べる方も多いと思いますので、なおさら一番美味しい状態で食べてほしいのです。だから「今は耐えるときだ」と思って配送は行っていません。
店舗の立地が良くない中でも集客するにはどうしたら?
(参加者)現在、食品販売の事業を立ち上げるために準備をしています。しかし予定している店舗の立地が街から離れていて交通の便も悪く、お客さんが集まるのか不安です。どのように集客していったらいいでしょうか?
美味しいものを提供して口コミで評判が広まれば、立地条件は関係ない
大友:今は口コミによってお客さんの行きたい場所が決まる時代ですので、良い場所にお店があれば繁盛するというわけでもありません。大切なのは「提供する食品が美味しいかどうか」だと思うので、あまり立地条件を心配しなくても大丈夫ですよ。
また、立地条件の悪さも店の魅力の一つになると私は思います。私の工房も、立地条件は良くありません。車がないと来られない場所にありますし、自宅敷地内にお店を開いているので外から見えにくいんです。だから、初めて来るお客さんはよく店の前を素通りしていきます。しかしなかなかたどり着けないからこそ、「隠れ家みたい」「見つけたときの感動がある」と言ってもらえることがあります。
4.まとめ:起業を怖がらなくていい
最後に、大友さんから起業を志す方に向けてメッセージをいただきました。
大友:私は、起業を怖がらなくても大丈夫だと思います。もし、商品のアイデア出しや雇用など、自分の苦手な分野で壁にぶつかったとしても、周りを見渡せばその分野が得意で手伝ってくれる人は必ずいるはず。いろいろな人に協力してもらいながら進めていけば、どんな試練も乗り越えられると思いますよ。
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