そこで、日本政策金融公庫は2021年2月17日に、東北起業女子応援ネットワークとの共催で「起業の先輩にきく、アイデアをカタチにする方法」を開催しました。
イベントでは、先輩起業家の方々に創業の経緯や起業後の取り組みをお話いただく講演を実施。講演後は、参加者から先輩起業家に質問できる交流会も行われました。
今回は、NPO法人Lotus理事長の山口巴さんと参加者の座談会の様子をレポートします。
NPO法人Lotus 理事長
山口 巴 さん
「認可ロータス保育園」「認可外ロータスキッズ保育園」園長。金融会社を早期退職後、2010年に24時間対応の保育園を創業した。以降、屋内広場やシェアオフィス・コワーキングスペース付きのものづくり体験型カフェを経営したり、公園のリノベーション事業やまちづくり事業を行ったりなど、子育て・教育に関連する幅広い活動を行っている。
2013年ふくしまベンチャーアワードで銀賞を受賞。
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ロ-タス保育園
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屋内遊び場もくれん
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社員研修
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社員表彰
※内容は2021年3月時点のものです。
1.起業の経緯:「想い」に突き動かされてスピード起業
起業を考え始めたきっかけは、リーマンショックで当時勤めていた金融会社の早期退職を決断したことだったと話す山口さん。起業するにあたって事業に選んだのは、保育園の運営でした。保育園事業を選んだ理由や起業の経緯をお話いただきました。
起業の経緯をお話される山口さん
自身の子育て経験から保育園事業の運営を決意する
山口:保育園を立ち上げることにした理由は、私が子育てしていたときに、保育園で経験したある出来事からです。
息子を保育園に預けていた頃、私は金融会社に勤めていて遅くまで働いていたので、よくお迎えの時間に遅刻していました。ある日、遅れてお迎えにいくと、保育園は真っ暗でした。保育室を見にいくと、暗い部屋の中で一人泣いている息子を発見したんです。置き去りにされていた息子のことを思うと、とても辛い気持ちになりました。
この経験から「子どもに寂しい思いをしてほしくない」「他のお母さんたちに私のような経験をしてほしくない」という想いを強く持つようになりました。そこで、早期退職が決まって起業をする決意をしたときに、お母さんたちが安心して預けられるような保育園を事業として運営することにしました。
「考動」した結果、退職後10ヶ月で事業を開始
山口:私は金融会社を退職してから10ヶ月後に、遅くまで働くお母さんたちのために「24時間対応保育園」を開きました。1年足らずの短期間で事業を開始できたのは、難しく悩みすぎず、考えながら行動した「考動」の結果だと思います。「考動」は、起業から10年経った今でも心がけている言葉です。
また、何も知らなかったからこそ大胆に動けたのかもしれません。私は保育士の資格を持っていませんでしたし、当時は保育園の経営についても何も知らなかったんです。
2.起業後:想いを軸にブレない経営を続ける
自分の子どもが通っていた保育園での辛い出来事から、24時間対応の保育園事業を開始した山口さん。普通の保育園が夕方には閉まる中、夜遅くまで子どもを預けられる斬新な運営スタイルに、起業当初は周りから批判が集まったそう。山口さんに、起業後に経験した苦労や現在行っている事業について教えていただきました。
批判されても「ないものはつくる」精神で乗り越える
山口:起業当初は、他の保育園から「24時間対応なんてできるわけがない」と多くの批判を受けました。しかし私は、自身の経験から遅い時間まで預かってくれる保育園が欲しいと思っていたので、「ないものはつくるしかない」と気持ちを奮い立たせて運営を続けました。すると根性が評価されたのか、2013年のふくしまベンチャーアワードで銀賞をいただくことができました。
それから6年間、保育園は24時間対応を継続しました。現在は法律の改正に合わせて19時までになっていますが、月2回の休園日以外は日曜や祝日であっても保育園を開けています。
小さな保育園だからこそ小さな配慮を大切にする
山口:私の保育園では起業してから今まで、小規模の施設だからこそできる、お母さんたちへの小さな配慮と環境整備の構築を心掛けてきました。子どもを預かるだけでなく、お母さんの子育ての不安や悩みを聞いたり体調を気にかけたりすることが、結局は子どもを守ることにつながるからです。
例えば、子どもの誕生日は、出産の日とお母さんのこれまでの頑張りを思い出す日としてイベントを計画します。これはこれからの子育ての向き合い方を考えていくきっかけとしても重要で、日々の生活の中で忘れてしまいがちなことだからです。
現在では、保育園事業以外にも屋内広場の運営や公園のリノベーション事業、地域活性化に向けた取り組みなどを行っていて、起業当初よりも活動範囲は格段に広がりました。しかし、すべての事業は、「子どもに寂しい思いをしてほしくない」「お母さんたちに私のような経験をしてほしくない」という起業のきっかけとなった想いから始まっています。
3.参加者からの質問
批判を受けながらも24時間対応の保育園事業を始め、現在では多岐にわたる活動で子育て支援を行っている山口さん。保育や育児の領域で起業を志す参加者からの質問に、丁寧に答えてくださいました。
起業への原動力はどうすれば生まれるの?
(参加者)私も山口さんのように、社会全体で子育て支援が不十分であることに疑問を感じて起業を考えています。しかし、なかなか行動に移せません。起業という行動を起こす原動力はどうすれば生まれるのでしょうか?
「社会の子育て支援が不十分だからこそ、私がいる」と考えるようにしている
山口:私は、社会の子育て支援がまだ整っていないからこそ自分にできることがあると思うようにしています。もちろん今でも疑問を感じることはありますよ。そういうときこそ、「自分が何をやるべきか」と考えるようにすれば、きっとそれが行動の原動力になると思います。
事業を続けていく中で最も大切にしていることは?
(参加者)保育・育児に関わる事業を続けていく中で、最も大切にしていることは何ですか?
人材の採用・育成に最も力を入れている
山口:起業当初から、信頼できる人材の採用・育成に時間もお金も使っています。お母さんたちに安心して子どもを預けてもらえる保育園を目指す上で、良い保育士がいるかどうかは非常に重要です。
良い人材を確保し続けるために工夫していることは、子育て中の保育士に配慮した柔軟な勤務体制です。また、保育士の健康管理にも気を配っています。もし保育園内で病気が広がってしまうと、安定的に保育園を開けることができなくなるからです。
4.まとめ:いつも「誰のために」を忘れない経営を
最後に、山口さんから起業を志す方に向けてメッセージをいただきました。
山口:誰のために、何のために事業を行なっているのかを忘れないことは非常に大切だと思います。私をこれまで突き動かしてきたのも、「他のお母さんたちに私と同じ思いをしてほしくない」という想いだけでした。事業のミッションやビジョンが固まれば、あとは一歩踏み出すだけだと思います。
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