マル経融資を利用した事業者の声
事例一覧時代の変化に立ち向かう老舗醤油店の挑戦。商工会との信頼関係が後押しした事業多角化への歩み
既存事業と新規事業の融合、そして相乗効果を目指して。
マル経融資と商工会の伴走支援で、釣りへの情熱を事業に昇華できた。
事業所名:株式会社中原醤油店
代 表 者:原田生士
所 在 地:鳥取県東伯郡湯梨浜町泊697-1
創 業:1917年(大正6年)
業 種:食品製造業、釣具小売業
事業内容:40年以上の歴史を持つだし醤油「料理自慢」を中心に、イカの沖漬け醤油など独自商品も展開する老舗醤油店。新たに釣具店「Splanade(エスプラネード)」を開業し、事業の多角化を推進している。
醤油だけでは生き残れない。3代目が抱いた危機感と新規事業への思い
日本海の潮風が心地よく吹き抜ける鳥取県東伯郡湯梨浜町。釣りを楽しむ人々の姿が多く見られ、夏の夜には沖合に無数のイカ釣り船の漁火が灯り、海岸線に幻想的な光景を映し出すといいます。この海沿いの町に拠点を構える株式会社中原醤油店は、1917年の創業から100年以上にわたり、こだわりのある醤油づくりを続けてきた老舗企業です。3代目である現代表の原田生士さんが事業を承継した平成20年に法人化し、現在の社名となりました。
同社の主力商品である「料理自慢」は40年以上の歴史があり、だし醤油の草分け的な商品として地域から高い支持を得てきました。しかし、少子高齢化や食の多様化により家庭向け醤油市場は縮小傾向にあり、原田さんは事業の将来性について深刻な危機感を抱いていたといいます。
「醤油一本だけでは、これから先が厳しいだろうという思いがあり、同業他社がやっていないことで、事業の柱をもう1本作ろうと思っていました。醤油の卸売だけで商売をしていると、価格の削り合いに巻き込まれてしまうことも多くあります。結局安い方が納品されることになり、忙しいだけで利益が残らなくなってしまうんです。そのため、独自性のある商品で差別化を図り、価格ではなく商品の価値で選んでいただけるような商売をしたいと考えていました」
単一事業からの脱却は、中原醤油店にとって避けて通れない課題となっていました。そこで原田さんが注目したのが、幼い頃から親しんできた釣りの世界です。
「小さい頃から釣りが好きで、大人になってからも時間があればよく釣りに出かけていましたね。そこで、釣りと醤油を掛け合わせて、何か独自の商品ができないかと考えました。そうして生まれたのが『イカの沖漬け醤油』です。これなら他社との差別化ができると思いました」
釣ったイカをその場で美味しく漬けられる「イカの沖漬け醤油」。この独自性あふれる醤油を全国の釣具店に卸し始めたことで、原田さんは釣り業界との本格的な接点を持つようになっていきます。趣味だった釣りが、ビジネスの世界へと広がっていったのです。
「大阪にある大きな釣具店に直接交渉して、全店舗で『イカの沖漬け醤油』を扱っていただけることになりました。そこから3年ほど、毎週のように各店舗で販促イベントを実施したんです。ただ、最初から順調だったわけではありません。醤油屋が釣具店で商品を売る、というスタイルに違和感を覚える方もいらっしゃいました。でも、諦めずにイベントを続けていく中で、徐々にお客様と親しくなり、鳥取に来ていただいて一緒に釣りに行くようになっていったんです。次第にメーカーとのつながりも増えていき、自分でも釣具店をやってみたいという思いが芽生えていきました」
こうして、原田さんは自身の知識や経験を活かせる分野として、釣具販売事業への参入を本格的に検討し始めました。
青年部時代からの縁が結んだ、商工会との二人三脚での挑戦
新規事業への挑戦を決意した原田さんが最初に相談したのは、長年の付き合いがある湯梨浜町商工会でした。担当となった経営指導員の小林さんは、原田さんが青年部で活動していた頃から交流がありました。
「醤油事業でも商工会にお世話になっていたので、今回の釣具店についても相談させていただきました。困ったときには商工会に相談するというのが、私にとって自然な流れになっていましたね。一つ相談すると、それに対する回答だけでなく、別の角度からアドバイスもいただけるので、いつも新しい気づきがあります」
新規事業への挑戦には、原田さんが思い描く事業モデルを具体的な事業計画に落とし込む作業が重要でした。小林さんはヒアリングを重ね、原田さんの構想を丁寧に文章化していきました。
「原田さんから釣具店をやりたいというお話を聞いたとき、『ついにされるんですね』という印象でした。長年ルアーフィッシングをやられていて、知識も豊富で、メーカーとのつながりもあることを知っていましたから。マル経融資を活用するにあたっては、審査に必要な書類の作成など、対外的な手続きの面でもサポートさせていただきました。原田さんの思いを具体的な事業計画として形にし、外部の方々にもしっかり伝わるよう、何度も打ち合わせを重ねましたね」
このような小林さんの精力的なサポートにより、原田さんの新規事業への挑戦は着実に形になっていったのです。
希少性の高い釣具を開業当初から展開、マル経融資が実現した理想の仕入れ
2024年3月15日、原田さんは釣具店「Splanade(エスプラネード)」をオープンしました。店名には原田さんの特別な思いが込められています。
「20代の頃にワーキングホリデーでオーストラリアのケアンズを訪れました。その街の海沿いには様々な国の人が国籍・人種関係なく集まり交流している『エスプラネードストリート』という場所があったのです。私はそこで沢山の人々と交流し、異国の文化を肌で感じ、気が付けば自分自身が新しい世界に一歩踏み出していました。
Splanade(エスプラネード)という店名には、『エスプラネードストリート』と同じように、一歩踏み出し挑戦されるお客様のサポートができればという想いが込められています。釣り具を売るだけはなく、何気ない会話や釣りの話も楽しめる。そんな空間を作りたいと思い、このショップ名にしました。店内にはカフェスペースを併設し、妻がハンドドリップコーヒーや焼き菓子などを提供しています。釣具を見て回る方や、カフェでゆっくり過ごされる方、皆さんがそれぞれの過ごし方を楽しんでおられます。初対面の方同士が、釣りの情報交換をされているのもよくお見かけしますね」
開業にあたっての資金調達においても、商工会の大きな支援がありました。
「やはり手持ちの資金だけではすべてをまかなうのは難しく、運転資金がなくなってしまうリスクもありました。そういった中で小林さんからマル経融資を紹介していただけたので、本当に助かりましたね」
融資の効果は商品調達の面で顕著に現れました。原田さんが扱う釣具は、一般的な釣具店では手に入らない希少性の高いものが中心となっています。
「Splanade(エスプラネード)では、ヒラマサ、GT(ジャイアントトレバリー)、クロマグロをはじめとしたビックゲームの道具を中心に取り揃えています。これらは非常にニッチなカテゴリーで、ルアーを製作しているビルダーやメーカーに直接交渉をして、仕入れる必要があります。そういった商品をオープン当初から豊富に用意できたのは、マル経融資による資金面での支援があったからこそだと思います」
開業後も続く商工会のサポート、そして次へのステップと可能性
店舗のオープン後に小林さんが異動となり、後任の田中さんが引き継ぐこととなりましたが、スムーズな情報共有により、切れ目のない支援体制が維持されました。この連携により、開業後の課題についても迅速な対応が実現できています。
「開業当初は既存事業との両立、店舗営業形態に試行錯誤しました。有難いことに『原田さんと話がしたい』『オーナーはいつお店にいるのか』というお声を多くいただくようになり、運営体制を見直すことにしたんです。現在は主に週末営業、平日は来店予約も取り入れ、確実に私が対応できる体制に変更しています」
原田さんはさらなる顧客獲得に手応えを感じています。
「県内外のお客様はもちろん、釣りで繋がった国内外の仲間など、Splanadを通して、鳥取、また山陰、更には日本の魅力を感じてもらい、その中で関係人口を増やすきっかけになれれば大変嬉しく思います」
商工会との二人三脚、そしてマル経融資の後押しにより、原田さんは釣りへの情熱を事業へと昇華させることに成功しました。原田さんの挑戦は、これからもさらなる広がりを見せていくことでしょう。
【担当者コメント】
事業者の思いを受け止め、実現に向けて伴走する
湯梨浜町商工会
田中 文さん(現担当)
私が事業者の皆様とのやり取りで最も大切にしていることは、「やりたい」という気持ちを受け止めることです。思いを理解した上で、それを具体的な事業として形にしていくために何が必要か、どのような手順で進めれば良いかを一緒に考えていくことが私たちの役割だと考えています。原田さんのように積極的にチャレンジされる姿勢は、私たち経営指導員にとっても大きな刺激となります。どのような内容でも構いませんので、事業に関するご相談がございましたら、お気軽に商工会までお声がけください。
鳥取市西商工会
小林 祥樹さん(前担当)
原田さんは以前から釣りに対する深い知識と情熱をお持ちで、必ず成功されると感じていました。多額の資金が必要な中、マル経融資をご提案し、スムーズな事業の開始を支援できたことを嬉しく思っています。今後も商工会として、原田さんのように得意分野を活かして新事業に挑戦する事業者を積極的にサポートしてまいります。