マル経融資を利用した事業者の声
事例一覧長い歴史に新たな1ページを。商工会議所の支援により蘇った伝統の味と新たな挑戦への意欲
億単位の復旧費用を前に、一度は諦めかけた事業継続。
マル経融資と経営指導員の支援で、再出発を実現。
事業所名:株式会社宮城屋蒲鉾店
代 表 者:後藤雅和
所 在 地:秋田県秋田市大町1丁目1-1
創 業:1927年(昭和2年)
業 種:食品製造業
事業内容:秋田県内唯一の蒲鉾専門店。きくらげやゆで卵を入れた、他にはない蒲鉾を製造・販売するほか、店舗では蕎麦やうどんも提供している。
まさかの豪雨被災。第1工場が水没し、製造ラインが壊滅状態に
株式会社宮城屋蒲鉾店は昭和2年に創業し、秋田県内唯一の蒲鉾専門店として地域に愛され続けてきました。創業者は宮城県石巻市出身で、当初は昆布やワカメなどの海産物を扱う商売を営んでいましたが、当時の秋田県に蒲鉾店がないことに着目し、蒲鉾の製造・販売を始めることに。現在の代表取締役である後藤雅和さんは4代目にあたります。
令和5年7月、秋田市を襲った記録的豪雨は、宮城屋蒲鉾店にとって創業以来最大の試練となりました。楢山本町にあった第1工場は約1メートルの浸水に見舞われ、蒲鉾製造に欠かせない機械設備がすべて水没。電気系統のショートにより、長年使い続けてきた製造ラインが一夜にして使用不能となってしまったのです。その時のことを、後藤さんはこう振り返ります。
「まさかの出来事でした。第2工場は高台にあったので被害は少なかったものの、第1工場は川に近い場所にあったため、泥水が工場内に流れ込んでしまったんです。たくさんの方が手伝ってくださったものの、片付け作業だけで2か月を要し、復旧への道のりは険しいものでした」
後藤さんが4代目として正式に代表に就任したのは、この災害の翌年のことです。代々守り抜いてきた事業を、まさに受け継ごうとするタイミングでの被災となりました。小さい頃から家業の手伝いをし、社会人になってからもずっと宮城屋蒲鉾店で働いてきた後藤さんにとって、家業を継ぐことへのプレッシャーはありませんでした。しかし、豪雨の被害で事業を縮小するかどうかを悩むことになったといいます。
「工場を新設するとなると、数億円の費用がかかります。さすがにこれは現実的ではないと感じていました。工場は被災してしまいましたが、幸いにして大町にある食事処は無事だったため、蕎麦やうどんの提供で事業を継続する方向で検討を進めていました」
豪雨によって、100年近い歴史を持つ県内唯一の蒲鉾専門店の伝統が、途絶えてしまう危機に直面していたのです。
お客様の声と商工会議所の提案が新たな道筋を示してくれた
ところが、年末が近づくにつれて状況は一変します。食堂で蕎麦やうどんを提供していると、常連のお客様から「蒲鉾はないの?」という問い合わせが相次ぐようになったのです。手紙やメールでの再開要望も数多く寄せられ、後藤さんは改めて自社の蒲鉾が地域に根ざした存在であることを実感しました。
転機となったのは、秋田商工会議所の経営指導員である田村さんの一言です。12年前から共済への加入をきっかけに関係を築いてきた田村さんは、災害後も継続的に後藤さんと面談を重ね、被災した工場ではなく店舗での蒲鉾づくりを提案したのです。
「田村さんは率直に、なんでもおっしゃってくれます。ですから、一人では難しいかなと考えていたことでも、田村さんの一言でやれそうな気がしてくるんですよね。それまでは工場での大規模な製造しか頭になかったので、店舗での小規模製造という発想は目からウロコでした」
多くのお客様の期待と信頼できる田村さんの後押しを受けて、後藤さんの事業再建への意欲が確固たるものとなりました。
仙台で見つけた希望の設備。マル経融資が再建への推進力に
再開への意欲は固まったものの、課題は山積みでした。特に大きな問題となったのが、看板商品の製造に欠かせない特殊な機械の確保です。
「うちの蒲鉾は一般的な紅白蒲鉾とは違って、外側に伊達巻のような皮が巻いてあるんです。中にきくらげやゆで卵が入った蒲鉾なんですが、この皮を作る機械がないとうちの商品はできません。以前使っていた機械は横幅が10メートルほどもある大きなもので、とても店舗には入りませんでした」
途方に暮れていた後藤さんでしたが、メーカーに相談したところ、仙台で小規模な設備を扱っている会社を紹介してもらえました。実際に仙台まで足を運んで設備を確認した後藤さんは、希望を見出したといいます。
「新しい設備は、1枚1枚手作業で焼き目を見ながら作るというものでした。以前のように大量に作ることはできませんが、限られたスペースでも質の高いものを作れると確信したんです。そこで田村さんに『力を貸してください』とお願いし、本格的に事業再建をスタートさせました」
設備導入と店舗改装の資金調達において、田村さんはマル経融資を選択肢の一つとして提案したそうです。
「メインバンクとの関係性も考慮した上で、『マル経というものもありますよ』とご提案させていただきました。私たちの役割は選択肢を示すことであって、押し付けることではありません。マル経融資の特徴やメリット、そして私たち商工会議所のサポート体制についても詳しくご説明した上で、選んでいただきました。何より大切なのは、事業者さんが納得して前向きに取り組めることですから」
検討の結果、マル経融資を活用することを決断。融資の手続きは迅速に進み、親切で丁寧な対応に感謝しているといいます。
「マル経融資の活用に抵抗はありませんでしたね。信頼する田村さんから、よい制度だと勧めていただいたので、新しいきっかけになるんじゃないかと思いました。その後も多くの方に支えられながら事業を再建していったので、利用してよかったと思っています」
事業再建から次なるステージへ、広がる事業展開の可能性
事業再開を果たした後藤さんですが、すでに次なる展開も視野に入れているとのこと。田村さんのアドバイスを受けて、外国人観光客向けの商品開発にも取り組んでいるそうです。
「秋田港にはクルーズ船が年間30回ほど寄港し、多くの外国人観光客が店舗の前を通るので、テイクアウトでの販売を考えているところです。例えば、お花見の季節やフェリーの寄港に合わせて、歩きながら食べられるような蒲鉾を提供できればと思っています」
また、以前取り組んでいた百貨店での催事販売の復活も重要な目標だといいます。
「以前は、東京や長野まで行って販売していたんです。お客様から問い合わせもいただいているので、生産体制が整えばぜひ再開したいですね。待っていてくださる方がいる限り、その期待に応えていきたいと思っています」
宮城屋蒲鉾店はマル経融資を活用し、県内唯一の蒲鉾専門店として新たなスタートを切りました。伝統の技と味を守りつつ、時代に合わせた革新も取り入れながら、後藤さんの挑戦はこれからも続いていきます。
【担当者コメント】
押し付けない提案と継続的なフォロー。
事業者の想いに寄り添い、本音で向き合い続ける
秋田商工会議所
まちづくり推進課 課長 田村伸也さん
被災当初は蒲鉾製造の再開に消極的だった後藤さんが、年末のお客様からの問い合わせを受けて気持ちが変わったのを間近で見ていて、改めて地域に愛され続けてきた老舗の力を感じました。長い歴史を持つ蒲鉾店がなくなってしまうのは、あまりにも惜しいと感じていたので、多くのお客様からの熱い要望が後藤さんの心を動かしてくれたことに感謝しています。
経営指導員として大切にしているのは、相手の話をしっかりと聞き、決して自分の考えを押し付けないことです。コミュニケーションを継続し、信頼関係を築いた上で、本音のお付き合いができるところが商工会議所の強みだと考えています。加えて、フォローやサポート体制も充実していますので、個人事業主や小規模事業者の皆様には、ぜひ選択肢の一つとしてご検討いただき、事業発展のパートナーとしてお役立ていただければ幸いです。