マル経融資を利用した事業者の声
事例一覧被災からの再起、そして躍進へ。商工会との二人三脚で実現した事業再構築
事業再建と地域貢献の両立に悩む経営者。
マル経融資を活用した設備投資で、地域になくてはならない存在に

事業所名:亀田産業有限会社
代 表 者:山口道明
取 締 役:亀田洋
所 在 地:熊本県八代市坂本町
創 業:1965年(昭和40年)
業 種:林業及び一般廃棄物収集運搬業
事業内容:昭和40年の創業以来、地域の林業を支えてきた企業。平成2年からは一般廃棄物収集運搬業も手がけるとともに、近年は土木作業も含めた多角的な事業展開で、地域の環境整備に貢献。
令和2年7月の豪雨災害で流された事務所、
坂本の復興のため「5時から青年部」の立ち上げ
亀田洋さんの祖父が熊本県八代市坂本町で創業した亀田木材は、昭和40年の創業以来、半世紀以上にわたり山間部の林業を支え、地域の要望に応える形で事業を拡大してきました。平成2年6月に一般廃棄物収集運搬業(ゴミ収集)も開始したことを機に法人化。亀田産業有限会社となり、山間部の地域住民の暮らしを支える重要な企業として、着実な成長を遂げてきました。
しかし、令和2年7月、八代市坂本町をはじめとする球磨川流域を襲った豪雨災害(以下「令和2年7月豪雨」といいます。)により、事務所及び所有車両が流失するとともに、林道の寸断により林業用重機も運び出せなくなってしまったため、休業状態を余儀なくされました。坂本町の被害は特に甚大であり、地域の悲惨な状況を目の当たりにした亀田洋さんは、生まれ育った坂本町のために何かしたいという思いから、地元青年部のメンバーと共に「5時から青年部」を立ち上げ、亀田産業有限会社は災害ボランティア活動の拠点としての機能を果たしていきます。この「5時から青年部」という名前には、日中は自身の事業再建に取り組みながら、アフター5の時間を地域の災害復興のために捧げるという思いが込められています。
県内外から多くのボランティアを受け入れるにあたっては、二次災害を防ぐための事前調査や、適切な人員配置が重要でした。特に家屋の傾きなど危険箇所の確認を徹底し、ボランティアの安全確保を最優先に活動を展開するなど、きめ細かな対応を行いました。
「各地から来てくださるボランティアの方々の安全を第一に考え、一日のスケジュール・役割が一覧で確認できるわかりやすい資料を参加者に共有するなど、効率的な活動を心がけました。『5時から青年部』の活動を通じて、商工会青年部メンバーとの絆は強まり、事業を進めるうえでも大切なものとなっています」
ボランティア活動を行う一方で、自社の経営状況が危ぶまれる中、取締役の亀田洋さんは保有する重機の被災状況の確認を急ぎました。被災から3か月後、坂本町の中心地から徒歩で3時間かかる山奥の現場に取り残された重機を運び出すことができ、ようやく事業再開に向けた望みを繋ぐことができたのです。
「エンジンがかからないのではないかという不安がありましたが、両親が歩いて確認に行き、エンジンが動いたという連絡が届いた時は涙が出るほど嬉しかったです」
林業用重機が無事だったことで、事業の再開に向けた見通しが立ち始めました。地域の復旧活動もボランティアの皆さんのおかげで順調に進んでいるように見えましたが、亀田社長は「坂本町の真の復興には、ボランティア活動ももちろん大事ですが、地域経済を回復させることが不可欠。そこで、「5時から青年部」を中心とした企業が立ち直ることで、地域の経済を支えないといけないと考えたんです。しかし、実際に事業再開に向けた取り組みを始めると、さまざまな課題が出てきました」
林業の再開には林道の復旧が必要であり、一般廃棄物収集運搬業務では車(ゴミ収集車)の確保が求められます。さらに社員の生活も守らなければなりません。ボランティア活動をする中で、自社の事業再建に向けた資金調達を検討し、亀田さんは商工会青年部の担当として親しくしていた八代市商工会経営指導員の今田さんに相談を持ちかけました。日頃からのコミュニケーションを通じて築かれた信頼関係が、その後の支援につながっていきます。青年部メンバーやボランティアと共に全力で坂本町の地域復興に尽力しながら、自社の再建も目指す。同社にとって、新たな挑戦の日々が始まろうとしていました。

経営指導員と二人三脚で取り組んだ事業再建
マル経融資の活用でさらなる飛躍へ
被災事業者の再建と地域住民の支援を目的に期間限定で設立された「さかもと復興商店街」で、地域の事業者とともに再出発を果たした同社。事業再建にあたって、まず大きな課題となったのが資金の確保です。流失した事業所の再建や必要な設備投資を進めようとしていましたが、被災直後は請求済みの売上が入金されており、この一時的な収入が経営状況の正確な判断を難しくしていたといいます。
「被災後すぐは前月の請求が入ってくるので、一見すると経営が維持できているように見えます。でもこれは大きな錯覚でした。翌月以降の収入が見込めない中で、早めの対策が必要だと気がついたんです。」
この状況を理解した今田経営指導員は、マル経融資や令和2年7月豪雨の被害を受けた小規模事業者が活用できる支援策など、複数の支援策を組み合わせた提案を行います。まず、令和2年9月、被災小規模事業者再建事業費補助金(持続化補助金令和2年7月豪雨型)で塵芥車の導入に向けた補助金申請支援を行い、令和3年2月には、マル経融資を活用して、資金繰り安定のための運転資金と新たな設備投資にかかる資金調達の支援を行いました。
「ゴミ収集業務は市との契約で定められた台数の維持が必要です。災害で車両を失った中で、まず塵芥車の確保が急務でした。持続化補助金とマル経融資を組み合わせることで、必要な設備投資ができました」
事業の立て直しが進む中、さらなる成長への投資も検討していきます。令和3年11月、商工会の支援のもと、マル経融資における令和2年7月豪雨災害被害者向けの特例措置(以下「災害マル経」といいます。)を活用し、木材運搬車の購入と運転資金の確保に踏み切りました。この判断は、世界的な建築需要の高まりから木材価格が高騰した「ウッドショック」の時期とも重なり、好機を捉えた投資となりました。
「木材運搬車があれば運送費を内製化できます。また、災害復旧活動での重機の運搬にも活用できると考えました。商工会からの提案で、災害マル経という選択肢を知ることができましたね」
事業の内容をよく知る商工会の経営指導員との二人三脚の取り組みが、災害マル経の効果的な活用につながりました。今後の事業展開を踏まえた資金調達のアドバイスをもらえたことも、事業再建に向けての大きな支えになったといいます。通常のマル経融資と合わせて活用することで、必要な設備投資を適切なタイミングで実行することができました。
同社は商工会のサポートを受けながら、着実に復興への歩みを進めていきました。マル経融資の活用は、単なる資金調達以上に、地域に根ざした企業としての使命を果たすための重要な支えとなったのです。

山の問題に一番に寄り添う存在へ
復興のシンボルとしての挑戦
マル経融資を活用した設備投資により、同社の事業は新たな段階へと進化を遂げています。林業とゴミ収集という一見異なる事業分野の相乗効果が、被災地域のニーズと見事にマッチしたのです。
「林業とゴミ収集は意外と関係しているんです。高齢化が進む地域で、庭木の伐採からゴミの回収まで、一貫したサービスを提供できることが強みになっています」
重機を活用した総合的なサービスは、地域から高い評価を得ています。特に、復興工事現場での需要が高く、売上は着実に伸びています。この成長を支えているのが、若手中心の人材育成です。土木工事のニーズに応えるため、資格取得にも注力し、特殊機械の操作技術と専門知識を兼ね備えた人材の育成を進めています。こうした取り組みは、元請け企業からの信頼獲得にもつながっています。
「若いメンバーも多いので、SNSなどを活用して情報の共有化と積極的な情報発信も行っています。大変な仕事というイメージがある中で、若い社員が生き生きと仕事をしている姿を発信できるのは大きな強みです」
一方で、事業を立て直した後の人材確保は継続的な課題となっています。そのため、働きやすい環境づくりにも力を入れているとのこと。重機や車両の整備・更新を計画的に行い、業務効率の向上と社員の負担軽減を図っています。
「坂本の復興のシンボルとして、私たちが頑張る姿を見せていきたいと思います。特に若い世代の雇用を積極的に行い、活躍できる場を作ることで、地域の未来も明るくなると信じています。そして、社員一人ひとりが地域になくてはならない存在になってほしいですね。山間部において、生活で最も身近な山の問題に一番に手を携える会社でありたいと考えています」
地域のために立ち上げた「5時から青年部」の活動は、商工会青年部との連携を一層強固なものとしました。日中は各々の復興に取り組みながら、夕方からは共に地域のために汗を流す。この経験は事業を進める上でもかけがえのない財産となりました。さらに、マル経融資の活用を通じて実現した設備投資は、事業再建にとどまらず、新たな成長のステージへと同社を導いています。被災地の復興と共に歩む企業として、これからもその挑戦は続いていくことでしょう。

【担当者コメント】
経験を活かした複合的な支援で、
地域に根ざした企業を多角的にサポート
当時は別エリアの担当でしたが、青年部の繋がりから亀田産業様の支援に関わることになりました。過去に携わった平成24年7月九州北部豪雨災害支援の経験を活かし、災害支援から事業再建まで、二人三脚で取り組むことができました。印象的だったのは、マル経融資を活用した計画的な設備投資です。特に災害マル経は、事業再建と飛躍に向けた大きな推進力となったと感じています。
事業者様と商工会が信頼関係を築き、共に地域の復興に取り組んでいく。この経験は、経営指導員として大きな財産となりました。今後も事業者様や地域に寄り添った支援を続けていきたいと考えています。
