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Interview

「腸内デザイン®」に基づく
ヘルスケア文化を広め
病気ゼロの未来へ

株式会社メタジェン 代表取締役社長CEO 福田 真嗣

株式会社メタジェン

代表取締役社長CEO:福田 真嗣

所在地:山形県

事業領域:ヘルステック

URL:https://metagen.co.jp/

株式会社メタジェン ロゴ

山形県鶴岡市。田畑が広がるのどかな景色の中に、慶應義塾大学を中心に、山形県鶴岡市などが連携推進する「鶴岡サイエンスパーク」がある。株式会社メタジェンは、世界が注目する最先端のバイオテクノロジー研究とバイオスタートアップが相次ぐこの地で、2015年に設立された。腸内環境の研究者であり、メタジェンの代表取締役社長CEO・福田真嗣氏は「腸内環境に合ったヘルスケアがあたりまえの未来」の実現に向けて、今日も歩みを進めている。

秘すべきものから「茶色い宝石®」に

「日々排せつしては流されてしまう便は、これまで汚いもの、秘すべきものとして扱われてきました。しかしその中には、腸内細菌や彼らが作り出した代謝物質という私たちの健康状態や疾患発症に大きく影響する成分が含まれていることが近年の研究で分かってきました。だからわれわれは便には宝石と同じぐらい価値がある、という意味で便のことを〝茶色い宝石®〟と呼んでいます」

開口一番、インパクトのあるキーワードが飛び出したが、腸内環境の研究者であり、研究成果をリアルワールドとつなぐ株式会社メタジェンの経営者でもある福田氏は至って真剣だ。

同社が目指すのは、「腸内デザイン®による病気ゼロの社会」。医学がここまで進化してもなお、多くの人々が病に伏す社会で、そんなことが実現可能なのだろうか。

「医療は病気になってから受ける、要するに対症療法です。しかし当社は、便の分析によって腸内環境を知り、各人に合ったヘルスケアを行うことによって、そもそも病気にかからないことを目指しています」

腸内環境は身体の内なる外(口から肛門まで消化管は1本の管であり、身体の外とつながる体外環境)であるため、遺伝的・先天的な要因よりも、食生活や生活習慣などの後天的な環境因子により形作られる。だから健康(正常)な時の腸内環境を把握していれば、良い腸内環境を維持したり、不調時に改善したりすることが可能になり、ひいては、病気にかからないようにもできる…というのが福田氏の理論だ。

しかもこの病気とは、がんや生活習慣病といった身体的な疾患だけでなく、精神的な病気も含むという。脳と腸は脳腸相関と呼ばれるつながりを複数のルートで持っており、目には見えない腸内細菌(腸内環境)が心身の健康に及ぼす影響は、とてつもなく大きいというのだ。

腸内に、何がどのくらいあるかを解析する独自技術

では、茶色い宝石®こと便を分析することで、一体どんなことが分かり、健康維持や病気の予防に寄与するのだろうか。

「人間の腸内にすむ細菌は、数百~千種類、数にして約40兆個とも見積もられています。腸内細菌が腸管内でびっしりとまるでお花畑のように密集している様子は、腸内フローラ(別名:腸内細菌叢)と呼ばれています。腸内から排出される便には、腸内フローラの遺伝子や、彼らが作り出す代謝物質の情報が詰まっているのです」

「どんな細菌がどのくらいいるか」を探るのがメタゲノミクス。「どんな代謝物質がどのくらいあるか(腸内細菌がどんな働きをしているか)」を知るのがメタボロミクス。そしてこれらのデータを統合解析するバイオインフォマティクスによって、腸内環境を評価する「メタボロゲノミクス®」という独自の腸内環境評価手法が、同社の基盤技術だ。

また、腸内フローラには、個人の食生活や生活習慣によってその人のタイプがあり、一人一人が持つ腸内細菌の種類や割合は大きく異なるため、この違いが、同じ食べ物や薬を摂取しても効果に「個人差」が生じる原因になっていることも近年の研究で明らかになってきているという。

例えば最近、CMなどで「腸活」や「腸内環境に働きかける」とうたった商品をよく目にするようになった。消費者は、体質改善や腸の機能向上を期待してそれらを購入するが、商品が有効かどうかは、実は自らの腸内環境との相性に左右されるというわけだ。

「腸内細菌は、人間が小腸までの器官で消化吸収できない食物繊維やオリゴ糖を餌にして、短鎖脂肪酸をはじめとした代謝物質を作り出し、それらが腸から吸収されて血液に乗ることで全身を巡っています。お通じや腸に関連する疾患のみならず、全身の健康状態に腸内環境が関わるのはこのためです。腸内細菌が作る物質によって人間が健康にも疾患にもなり得るという、腸内細菌と人間との間での共生関係があるのです。うまく共生していくためには、そもそも自分にはどのような腸内細菌がどのくらいいるのか、現状を把握することが大事です」

「腸内デザイン®」という独自の発想に多くの企業が注目。さまざまな食品、サプリメント、企業や業種の垣根を越えた事業開発の推進が期待されている

「腸内デザイン®」という独自の発想に多くの企業が注目。さまざまな食品、サプリメント、企業や業種の垣根を越えた事業開発の推進が期待されている

「腸内デザイン®」で新たな市場を創出

科学的な根拠を基に腸内環境を制御する「腸内デザイン®」というコンセプトは、多くの企業の注目を集め、現在進行形でさまざまな商品開発が続いている。

いち早く市場に出た例としては、大手食品メーカーのカルビーと共同開発し2023年に発売された、パーソナルフードプログラム「Body Granola」が挙げられる。

この商品は、ユーザーが腸内フローラ検査キットを購入して採便→腸内フローラのタイプ(全57タイプ)を検査→ユーザーのタイプに合ったグラノーラを定期購入できる画期的なサービスとして、健康意識の高い生活者の支持を集めている。

加えて、2024年には明治が同社の開発支援のもと、腸内細菌タイプに合わせたパーソナライズドリンクを提供するサービス「Inner Garden」も開始している。

また、同社が2016年から進める「腸内デザイン共創プロジェクト」には、2025年7月現在約40社が参画。パートナーには、食品、医薬系、化学メーカーなど幅広い分野の企業が名を連ねており、今後も続々と新たな商品やサービスが生まれることになりそうだ。

「腸内デザイン®があたりまえの社会になるためには、志を共にするさまざまな企業と共に研究成果を商品という形で社会に実装し、新たな市場を切り開いていくことが必要です」と、福田氏はパートナー企業との連携に大きな期待を寄せている。

腸内フローラ検査で判明した、ユーザーの腸内フローラのタイプ別のグラノーラが定期的に届く

腸内フローラ検査で判明した、ユーザーの腸内フローラのタイプ別のグラノーラが定期的に届く

研究成果を社会実装するその舞台として鶴岡へ

最前線の腸内環境研究者と経営者を兼務する福田氏には、学生時代から変わらぬ情熱がある。それは「研究成果を社会実装したい」という想いだ。

「私の研究者としてのキャリアは、明治大学農学部で微生物学を学んだことに始まります。恩師からは『農学とは実学。自らの学びや研究成果を社会に還元することが大事だ』と教えられました」と福田氏は振り返る。

しかしその後のキャリアの中、「論文が評価されるだけでは社会には届かない」という理想とのギャップに悩むことになる。

そんなときに出会ったのが、慶應義塾大学先端生命科学研究所(慶應先端研)の前所長で、2001年の鶴岡サイエンスパーク開設をけん引した冨田勝氏だった。

鶴岡サイエンスパークは、慶應先端研が設立されて以来、最先端のバイオテクノロジー研究が行われており、多くのバイオスタートアップが誕生している。

福田氏が慶應先端研の主任研究者として鶴岡市に移り住んだのは2012年のこと。その3年後、株式会社メタジェンを設立した。

「先進技術の事業化には時間がかかりますし、成功の確約もない。でも鶴岡サイエンスパークには、まず挑む姿勢を評価し、たとえつまずいても『ナイストライ』と考えて、次の挑戦をサポートしてくれる気風がある」と、福田氏は語る。

豊かな自然の中、最新の研究設備を存分に活用して腸内細菌の研究を続け、その成果をビジネスとして成り立たせる。その資金をもって、さらに研究を深めるという大志を胸に歩み出した同社は、今年10周年の節目を迎えた。

便をポジティブに考える文化の発信地に

「私が病気ゼロ社会を目指すのは、誰よりも自分が病気になりたくないからです。病や不調でやりたいことができない。私の場合は研究ですが、こんなに嫌なことはありません。腸内環境研究には、健康に生きていくためのヒントが山ほどある。それを社会に広める第一歩として、便をポジティブに捉える文化を創りたいと考えています」

冒頭の「茶色い宝石®」という呼び方も、新たな市場創出もその一環。さらに草の根的な活動として、鶴岡の子どもたちを対象にしたワークショップなども実施している。

「腸内細菌って何だろう? 便からどんなことが分かるんだろうと学ぶ機会をつくって、便や腸内細菌が人間にとってとても重要なものだと理解してもらえたら、子どもたちの排便に対する恥ずかしさの解消にもつながる。子どもたちが成長する頃には、鶴岡は健康な人でいっぱいの町になるでしょう。当社が目指す病気ゼロ社会を鶴岡から実現することが、これまで支援いただいた鶴岡市への恩返しにもなると思っています」と、福田氏は意欲的だ。

病気ゼロの社会を目指して広がる事業領域

同社のグループ会社で、腸内細菌叢を用いた医療・創薬事業を行うメタジェンセラピューティクスでは、健康な人から便を提供してもらう「つるおか献便ルーム」の開設を行った。

検便ではなく「献便」という命名は、輸血が多くの命を救うように、健康な人の便(腸内フローラ)を大腸内視鏡で患者さんの大腸内に移植する腸内細菌叢移植療法(FMT)や、腸内細菌を薬として活用することで、潰瘍性大腸炎をはじめとした難病を治療できる可能性があることからきている。

この献便の画期的なところは、便を提供するドナーに献便協力金が支払われるという点だ。良い便には価値がある。良い便は利益を生む。それを実証する場でもあるのだ。

現在の医療の多くは、病気になってしまってから始まるが、メタジェンが提唱するのは、健康なときに腸内フローラ検査をして自分の良い腸内環境を知り、その状態を維持する、いわば健康→未病→病気の流れをさかのぼろうという方法だ。

「でも、いずれ病気になったときのために、健康な今、数万円かけて腸内フローラ検査をしようと考える人は、現実には少ない。ですが、最初の入口として便に金銭的な価値を付けることで、ドナーになろうとする人が増え、結果的に健康になる人が増えるのではないかと考えています」

腸内環境をデザインすることによって、病に苦しむ人がいない社会を実現できる。そんな未来への鍵が、日々排せつしている茶色い宝石®の中に秘められていることを、メタジェンは鶴岡で証明しようとしている。

鶴岡サイエンスパーク内に開設された「つるおか献便ルーム」。鶴岡市を含む庄内地方在住の腸内細菌ドナーが便を提供するための国内初の専用施設となる

鶴岡サイエンスパーク内に開設された「つるおか献便ルーム」。鶴岡市を含む庄内地方在住の腸内細菌ドナーが便を提供するための国内初の専用施設となる

株式会社メタジェン

所在地:山形県鶴岡市覚岸寺字水上246番地2
設立:2015年3月
代表取締役社長CEO:福田 真嗣
事業内容:研究付加価値探索事業、商品開発支援事業、サイエンスPR事業