有識者へのインタビュー

そもそもソーシャルビジネスって?
最初の一歩は「+ソーシャル」から!

合同会社喜代七 合同会社喜代七 代表 山元 圭太

合同会社喜代七 代表山元 圭太

1982年滋賀県草津市生まれ 同志社大学商学部卒。経営コンサルティングファームで経営コンサルタントとして5年、NPO法人かものはしプロジェクトでファンドレイジング担当ディレクターとし5年半のキャリアを経て、非営利組織コンサルタントとして独立。

2015年10月に株式会社PubliCoを創業。2018年3月に故郷の滋賀県草津市で合同会社喜代七を創業。2018年12月に株式会社Seventh Generation Projectを創業。

ソーシャルビジネスと一般の営利企業の違いについて教えてください。

ソーシャルビジネスの定義は、ビジネスの手法を使って地域や社会の課題を解決するとされています。すべてのビジネスは、そもそも社会性をもっています。ソーシャルビジネスを「白い白鳥と言っているのと同じようなものだ」と言った人がいます。本来、ソーシャルを付けなくても社会性をもっていなければビジネスは成り立ちません。近年、わざわざビジネスにソーシャルを付けなければならなくなったのは、環境破壊、気候変動、人権侵害、フードロスなどビジネスの歪みや暴走が社会問題化したからです。そのため、あえてソーシャルを全面に出さないとならなくなってきました。ここ10年で少しは進んだと思いますが、「白い白鳥」と言わなくてもいい世界になっていくことが大事です。

それを前提として、ソーシャルビジネスと通常のビジネスの違いを下の表にまとめました。

  エコノミック
(経済)
ソーシャル
(社会)
ライフ
(生業)
目的 利益の最大化 ビジョンの実現(社会課題の解決) 理想の暮らしの実現
起点 株主のために 社会のために 私のために
戦略立案方法 ①利益 
②売上 
③費用
①社会的成果 
②支出 
③収入
①世界観想像 
②価値創造 
③収支試算
同業者との関係 競合 協業 友達

出典:日本政策金融公庫「ビジネスプラン見える化BOOK」

この表を見ると違いがよくわかるかと思います。まずビジネスの目的が大きく違います。通常のビジネス(エコノミック)の目的は利益の最大化で、ソーシャルはビジョンの実現、つまり社会課題の解決です。この違いが戦略・立案方法にも違いを生み、ソーシャルでは最初に社会的成果があり、次にそれを行うために必要な支出(予算計画)、そしてそれを賄うための収入という順番になります。ソーシャルの目的は社会課題の解決ですから、何も自分で達成しなくても誰かが達成してくれてもよいのです。そのため、同業とも協業関係になり、ノウハウをどんどん公開していくことになります。

ソーシャルビジネスは、「非営利」でも利益を出しているケースがありますが、なぜでしょうか。

通常のビジネスはお金を回して利益を出すのが目的です。一方、非営利はお金を回して利益を出すことは手段なのです。目的が社会課題の解決だからです。そのためにいくら必要か、それを調達してくるのが売上計画です。なお、今年度ではなく、中長期的な事業を行うために利益を貯蓄するということはあります。

また、通常の株式会社では利益は株主に還元します。一方、非営利の場合、利益は社会のために次の事業に還元します。同じように利益が出ても用途がまったく違うのです。最近では、「非営利型株式会社」と謳った会社がちらほら出てきています。定款に利益を配当により株主に分配しないことを定めています(ここでいう利益とは、法定準備金や任意積立金などの内部留保を除いた配当可能な剰余金の全額)。例えば、仮想通貨の発行管理を通して「共感資本社会」という新しい経済システムの実現を目指す「eumo」(ユーモ)や、「働きにくさ」という社会課題の解決を目指した「ポラリス」という会社があります。

一般の営利企業が、非営利事業やCSRにも取り組むのには、どんな意義があるでしょうか。

まず、「意義」があるからやるものではなく、商売をする者の「責任」です。商売は「三方よし」に代表されるように、社会に貢献できて良い商売と言えます。しかし、ここ数十年、意図する、しないに限らず、環境破壊や自然破壊、人権を無視した働き方の強要などが行われてきました。世間よしのビジネスをしていないのならば、見直して正していく「責任」があると思います。

もう1つ、新しい資金やビジネスチャンスが年々得られやすくなっています。例えば、社会的投資市場は年々成長しています。日本政策金融公庫もそうですし、一部の民間金融機関(地方銀行や信用金庫等)も地域課題や社会課題に目を向けている会社には有利な条件での融資プランを作っています。また、人材においても職業選択の条件として社会課題の解決に取り組んでいることに魅力を感じている層が確実に増えています。逆に言えば、取り組まないと良い人材から選ばれなくなってきています。ブラック企業という言葉が出て20年、ブラック企業にならない責任がありますし、やらなければ選ばれないということです。

一般的には利益を出しにくいソーシャルビジネスが活動するためには、どんな経営上の工夫が必要でしょうか。

一般的にソーシャルビジネスは利益が出にくいことは確かです。逆に利益を出しやすければ、儲かるから多くの一般企業が入ってきてエコノミカルに回って社会課題が解決されていくはずです。例えば、昔は洗濯・家事はたいへんきついものでした。それを解決するために家電製品が生まれ、皆が助かりました。これは経済として儲かるので多くの企業が参入し、経済が回る範囲で社会課題が解決された例です。

しかし、経済的に儲かって社会課題が解決されるばかりではありません。例えば、難病・希少疾病の治療薬がなかなか開発されない理由は、技術的な理由よりも儲からないからです。そのため、難病・希少疾病に特化した治療薬の開発をソーシャルビジネスやNPOがやっているわけです。儲からないけれど、誰かがやらなければならない。

利益の出にくい分野でソーシャルビジネスとして成り立させ維持していくためには、事業収入だけに頼るのではなく、多様な財源基盤を作っていくことが大事です。事業収入は前提として当然必要ですが、このほかに寄付や会費(共感を得て応援する会員になってもらう)、助成金・補助金、融資・疑似私募債などを組み合わせることが大事です。

そうは言っても、こうした財務基盤の多様性を確保するのはなかなか難しいと思いますので、NPO法人日本ファンドレイジング協会のホームページで紹介している認定ファンドレイザー・准認定ファンドレイザーに相談することはお勧めです。非営利組織が活動資金を集めることを「ファンドレイジング」と言い、その役を担う人が「ファンドレイザー」です。(詳しくは、NPO法人日本ファンドレイジング協会へのインタビュー記事をご覧ください。)

もう1つ、一般社団法人全国コミュニティ財団協会に相談されるのもお勧めです。いま、全国各地にコミュニティ財団をもっと作っていこうと活発化しています。地域の市民が設立した財団で、地域の人と地域のために何かをすることを強く思って活動しています。そのため、地域の小規模事業者とは相性がいいと思います。

このほか、経営上の工夫については日本政策金融公庫と一緒に作った「ビジネスプラン見える化BOOK」(約6.4MB)、「ビジネスプラン見える化BOOK 活用のすゝめ」(動画約3分20秒)を活用ください。

経営上の工夫の一つとして、協働することのメリットについて教えてください。

1つは、協働相手の経験・ノウハウを借りることです。

単独で良かれと思ってやったことが、実は新たな社会課題を生み出してしまうということが結構あります。例えば、食品を扱っているお店がフードロスになりそうな食べ物をコロナ禍で困っている人に配ったら喜んでくれるのではないかと考えました。しかし、もらった人ともらわなかった人の人間関係が損なわれてしまったとか、近くの他の商店で、配ったものと同様の商品の売れ行きが悪くなってしまったとか、もらった人が値段を付けて売ってしまったとか、あまり考えなく行動してしまうと新たな問題を生んでしまうことがあります。誰がどれだけ困っていて、どのような配り方をすればいいか、よく分かっているのがNPOの人たちです。NPOと協働すれば、知らず知らずのうちに失敗していることを回避することができます。

ソーシャルビジネスの目的は社会課題の解決です。自分が解決しなくとも誰かほかの人が解決してもいいわけです。そのためには、協働、ネットワーク化しなければ達成できません。例えば、こども食堂を自ら運営しなくとも、食材の提供という関わり方でもソーシャルビジネスは成り立つと思います。このようなアプローチを難しい言い方をすると「コレクティブ・インパクト(集合的インパクト)」と言います。異なるセクターのさまざまな主体が、共通のゴールを掲げ、特定の社会課題の解決に取り組むアプローチです。社会課題の根本解決に向けて経営資源を集中的に投下するため、時間はかかりますが、大規模な社会変革を起こすことができます。

これに対する言葉が「アイソレイティド・インパクト(孤立したインパクト)」です。単純な社会課題は一組織によって解決が可能ですが、現代の複雑化・相互依存化した社会においては、単独の組織や個人による取り組みだけでは限界があります。

自分の得意なものを活かして、関心のある社会課題に対して皆で取り組むことが効果的かつ本質的だと思います。

山元様による協働の支援の事例について教えてください。

アドバイザーとして企画・モデル作りから実証実験まで伴走支援でご一緒させてもらった沖縄県の見守り自動販売機を紹介します。これは先ほど紹介したコミュニティ財団も協働した例でもあります。

沖縄県の自販機ベンダーの経営者が自分のところの自販機が町中に設置されているけれど、これをインフラにして何か町のために役立てられないかと、公益財団法人みらいファンド沖縄に相談したのが始まりです。いろいろと検討した結果、高齢の認知症の方の見守りに自販機に使うことになりました。この地域はひとり歩き高齢者が多く、これまでにお亡くなりになった方もいました。

自販機にはビーコン(センサ)が付いて、自販機同士はIoT向けの通信ネットワークで結ばれていて、最終的に携帯の電波で保護者等に知らせがいくという仕組みです。高齢者の方にはお守り型の端末を持たせます。行政が端末の配布の支援を行いました。

もし、認知症高齢者の方がひとり歩きをしている間、自販機の近くを通るとセンサが働き、位置情報を保護者の方やLINEのグループ登録している市民の方にも連絡がいきます。広範囲の捜索になっても近くの市民の協力が得られるという特徴があります。

自販機は常時、通電されていますので、これをセンサや通信の電源としています。また、この自販機の商品は寄付つきになっていて、自販機1台につき数千円がランニング費用に充てられています。この仕組みが認識されてくると、優先的にこの自販機で買ってくれるようになり、売上も上がり、ランニング費用の原資も増えるという良循環が生まれてきます。まさに三方よしの好例です。

ミマモライドシステム図解イラスト

見守り自動販売機のしくみ

これからソーシャルビジネスや協働に取り組もうとする中小企業に向けて、アドバイスをお願いいたします。

解決したいと思っている社会課題やその意思はあるけれど、ノウハウがないのでどうしたら良いかよくわからないという方は、ソーシャルビジネスを立ち上げようとしてもハードルがとても高く感じられるでしょう。そのような場合は、いきなりソーシャルビジネスを始めようと考えるのではなく、いま行っている「事業のソーシャル化(社会事業化)」を考えてほしいです。沖縄の見守り自販機のように、何か地域のため、社会のために役立てたいと思ったら、コミュニティ財団やファンドレイザーに相談してみてください。単独でやるのでなく、他者の経験・知識を借り、自分のできることを提供するということで十分にソーシャル化はできます。

ソーシャルビジネスを新しく立ち上げる社会起業家の誕生を待っていられないくらいに、環境問題、貧困問題など社会課題が猛スピードで深刻化しています。事業を営んでいる皆さんの活動の一部に「+ソーシャル」として組み込んでいく方が現実的で、インパクトがあると思います。例えば、飲食店ならば時間的に余裕のある時に、貧困層向けのワンコインランチを提供するとか、服飾店なら売れ残った服をNPO通して配る、人権侵害や動物虐待をしている仕入れ先とは取引を行わないフェアトレードを行うなど、既存事業をソーシャル化する方がゼロからソーシャルビジネスを立ち上げるより大事だと思います。

ソーシャルビジネスだ、社会事業化だとあまり構えずに、普段商売をしている中で、無駄遣いしているなとか、安さだけで仕入れているなとか、ちょっと気になっていること、ちょっとした罪悪感は何かというところから始めてもらえればいいと思います。

喜代七連絡先
keita#kiyoshichi.jp(#を@に変換してください。)

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