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移住創業事例

アートを身近に感じられる
スペースを作り、
このまちに
アートカルチャーを
湧かせたい。

移住先の山梨と東京で起業家・大学講師の2つの顔を持つ。
東京で写真学の講義を行っていた彼が、
未知の土地でアートを発信しようと決意したわけとは。

※本稿は、2020年3⽉初旬に取材した内容をもとに制作しています。

Jターン、寺田哲史、出身:静岡県、就業地:東京都、創業地:山梨県 Jターン、寺田哲史、出身:静岡県、就業地:東京都、創業地:山梨県
スプリングギャラリー外観写真

アートカルチャーに縁が
なかった土地に
湧き出たギャラリーカフェ
「SPRING GALLEY」

江戸時代から織物が盛んな山梨県西桂町で、元機織り工場をリノベーションし、2019年6月にギャラリーカフェとしてオープンした「SPRING GALLERY」
名前の由来は「湧き水(Spring water)が豊富なこと、この町にアートカルチャーを湧かせたい(Spring up)」と話してくれたのはオーナーの寺田哲史さん。

地域おこし協力隊の3年間が
町を知るための
いい活動になった

寺田哲史さん写真 寺田哲史さん写真

もともと寺田さんは、フリーカメラマンとして活動する傍ら、母校である都内の大学で講師として写真の講義を担当。縁もゆかりもないこの町で創業するきっかけになったのは奥様。同じ大学で奥様が助手として師事していたテキスタイルデザイン※1の教授から、「西桂町が町を写真でPRしてくれる地域おこし協力隊を募集している」との情報が入ったのが始まり。話は回り回って寺田さんの元へ。10年前からテキスタイルデザインの分野で西桂町と商品開発を行うなど、西桂町と強い関わりのあった奥様の誘いもあり、地域おこし協力隊※2として西桂町へ移住。
当初は「ここで生活して行くのは簡単ではない」と考えていたそうだが、1年が経った頃には「PR用の写真を撮りながら、ここに自分の生活基盤をどうやって作るかを考えることができた。カメラ好きの町長や、町を活気づけたいと思う若者たちのおかげで、町の人との繋がりもできた」と西桂町に夢だったギャラリーをオープンすることを決断。

※1.【「テキスタイルデザイン」とは】
服飾やインテリアの布地・織物のデザイン。素材や加工方法、配色など、見た目や機能に至るまでが含まれる。
※2.【「地域おこし協力隊」とは】
人口の減少や、高齢化等の進行が著しい地方において、地域外の人材を積極的に受け入れ、地域協力活動を行ってもらい、その定住・定着を図ることで、意欲ある都市住民のニーズに応えながら、地域の維持・強化を図っていく制度。

  • 西桂町の企業とのコラボ作品の写真

    西桂町の企業とのコラボ作品。
    紫外線で青く反応する薬剤と、日光写真の技法を用い生地に転写させた傘。

  • 個展の写真

    訪問時はスイス人カメラマンの個展を開催中。
    1ヶ月ごとに企画展を開き、写真表現者の発表の場としても使っている。

オープン当初はギャラリーのみだったが、今は昼はカフェ、夜はバー、写真集やオリジナルグッズの販売も行っている。それは全て地域おこし協力隊時代に考えた「いろんな仕事を掛け持ちすればなんとかなる(笑)」の発想からだ。定休日の月曜日から木曜日は引き続き母校で講義を行いつつ、ショップスペースやウェブサイトで販売する写真集を買い付けに、ドイツへも渡っている。西桂町、東京、海外と多忙を極めており、スローライフを目的にすることが多い他の移住者とは異なって見える。それでも寺田さんは「ゆったりとした時間の流れる生活が送れるのでストレスは減りました。好きなことをやっているし、仕事をしているという感覚はない」という。

  • 買い付けた写真集の写真

    買い付けた写真集の一部。販売品だが閲覧可能。
    寺田さん曰く「本を読んでいろんな文化に触れて欲しいので」

  • 薬膳スパイスチキンカレーの写真

    写真家を志す以前はレストランに勤務していた寺田さんが腕をふるう料理も多彩。
    (写真はランチで人気の地元の有機野菜を使用した「薬膳スパイスチキンカレー」)

大型プリンターの写真

大型プリンター。西桂町のポスター制作にも使われている。

アートを通じて交流の場に、
若手写真家のチャンスを増やすために

そもそも寺田さんがギャラリーを開きたいと思ったきっかけは二つ。
一つ目は、町のコミュニティスペースを作ることで、町と人が活性化して欲しいという思い。
ギャラリーにカフェスペースを併設することで、普段はアートに興味のない人々も集うようになり、町の人のアートに対する意識が変わってきた。カメラに興味が湧いた人もいるし、アート好きが集まるようになった。「夜は若い人が集まってお酒を飲みながら語り合うことや、おすすめの撮影スポットを教えてもらえたりと、コミュニケーションを取れる場所になってきた」という。
二つ目は、優秀な若手写真家が陽の目を見るまでに時間がかかり過ぎ、やめていくのを目にし、彼ら、彼女らの発表の場を作りたいという思い。ギャラリーに設置してあるプリンターでは、ポスターなど大型媒体の制作も可能。展示会へ出展・販売する作品も制作でき、ギャラリー展示だけでなく、幅広く若手写真家の支援を行っている。

西桂町に人が立ち寄れる場所を作りたい
ここが拠点となって西桂町に
新しいシナジーを生み出せれば

今後の展望を聞くと「ギャラリーと講師を続けることで、アートを通じて町の人にも、写真家を志す学生などの若者にとってもよい相乗効果が生まれればと」という答えが返ってきた。
「そのためにも、ちょっと高く感じられている敷居をカジュアルにするのが課題。クラフトビールや地酒の試飲パーティーなどのイベントを企画しています。あと学生などを対象としたワークショップも開催します。母校や都内の美術大学の学生を集めて合宿したりといろいろ考えています。(夏場も冷涼な気候は、特に夏休み合宿などにうってつけです。ただ冬はやめたほうがいいです。前に来たアーティストの方は一泊が限界だと言ってました(笑))」

カフェ店内の写真

今では新しい移住希望者からの相談を受けることもしばしば。寺田さんに移住創業を目指す方へのアドバイスをお願いすると「移住先で夢を叶えつつ、生活できるかを見極めることが大切。自分の場合は、地域おこし協力隊に参加することで、自分と町の相性を見極めたり、事業計画を練ることができた。今は当初の計画とは若干異なるが、「ギャラリー」「カフェ」「ワークショップ」を3本柱とした新しいスタイルで、夢だったアートに囲まれながら料理を提供する生活を送っている。」と、「いろんな仕事を掛け持ちすればなんとかなる」精神の寺田さんらしい言葉だった。

【店舗情報】
SPRING GALLERY
所在地:山梨県南都留郡西桂町小沼2242-2
創業:2019年6月
事業内容:ギャラリーカフェ