日本政策金融公庫紹介

農林水産業の持続可能な成長への支援

農林水産業は、国民生活に欠かせない食料の供給や国土、自然環境の保全など、重要な役割を担う産業です。農林水産事業はこの農林漁業者への融資業務や経営課題の解決支援、食品産業の振興などを通じて、日本の「食」の発展を政策金融の立場から総合的に支援しています。
また、政策金融機関として「セーフティネット機能の発揮」という重要な役割も担っています。

高い専門性で時代の要請に応える

我が国の農林水産業は、担い手の高齢化、地域経済の衰退、飼料・肥料価格の高騰など大きな環境変化のなかにあります。
そのような中、国は農林水産業を今後の日本を担う成長産業にすべく、国産農林水産物の輸出促進、6次産業化の推進、企業の農業参入支援等さまざまな政策を打ち出しています。
一方、農林水産業は「天候などの影響を受けやすく収益が不安定」、「投資回収に長期間を要する」といった特性があります。
農林水産事業は、国の政策に沿った実効性の高い融資を行うことで、地域経済を担う経営体の育成、セーフティネット機能の発揮、食品加工・流通業者の支援まで、日本の「食」に関わる全てをフィールドとし、高い専門性をもつ政策金融機関として、農林漁業者等を金融面から支援しています。

融資実績の推移

農業分野

「食料・農業・農村基本法及び基本計画」の政策展開に沿った資金提供を通じ、農業者の意欲と創意工夫を活かす経営改善の取り組みや、新たに農業を始める方への支援などを積極的に行っています。

■長期の融資を通じた支援

農業は収益に対し設備投資が多額となることが多く、作物の生育上投資回収に長期を要したり、天候不順や疾病等の発生による経営悪化のリスクがあります。そのため、農林水産事業では独自の融資手法により、長期資金を融資することで各農業者の経営改善や経営の安定化を支援しています。

■セーフティネット機能の発揮

農業は長雨や台風、日照不足、猛暑など天候の影響を大きく受けます。また、鳥インフルエンザ、豚熱などの家畜伝染病により、大きく収入が減ることがあります。農林水産事業はそうした一時的に経営が悪化した農業者が経営を維持継続できるよう、農林漁業セーフティネット資金の融資等の支援を行っています。

■新規就農・農業参入支援

新たに農業経営を開始する事業者や新たに農業に参入する企業を対象に、「青年等就農資金」をはじめとした各種融資制度や情報提供により支援しています。
融資後は、経営課題や今後取り組みたい内容等を把握し、安定的な経営体に移行できるよう支援策を検討しています。

■新規就農者の経営開始を協調支援

Aさんは、東京の大学を卒業後、人材派遣会社に入社。13年間のキャリアを積んでいましたが、お盆や年末年始に帰省する際に故郷のB村が年々元気を無くしていくのを目の当たりにし、Uターンを決意。B村で就農しました。
Aさんは地域が一体となって産地形成に取り組んでいるトマト栽培に自らも取り組むこととし、近隣のトマト生産農家で栽培方法や技術を習得。令和2年に就農しました。今後は、JAグループのサポートの下、農業経営を通じた雇用創出や地域の活性化を目指します。
農林水産事業とJAグループは就農に必要な設備資金、経営開始に伴う運転資金を協調して支援しました。

■農業参入から法人化まで協調支援

不動産会社を経営するAさんは、経営の多角化を模索する中で、地域の特産品であるワインに着目。ワイン産業発展の一翼を担うべく、農業部門を立ち上げ、ワイナリー向けの醸造用ブドウの生産を開始しました。
その後、Aさんはさらなる規模拡大を見据え、農業部門の法人化を決意。B社を設立し、機械などの導入資金や立ち上がりの運転資金の調達についてメインバンクである⺠間⾦融機関へ相談しました。
⺠間⾦融機関は農林水産分野の参入支援のノウハウを持つ農林水産事業と連携し、お互いに情報を共有しながら、B社の農業参入を協調して支援しました。

林業分野

「森林・林業基本法及び基本計画」の政策展開に沿った資金供給を通じ、多面的機能を有する森林や国産材の供給・加工体制の整備を積極的に支援しています。

■資本回収が長期に及ぶ林業者への融資を担い、地球温暖化など環境保全にも貢献

林業経営は、投下資本の回収に長期間を要します。そのため農林水産事業は林業者向けの超長期資金を融資しており、林業の振興に大きな役割を担っています。また、森林は適切に管理されることにより、水資源かん養や土砂流出防止、二酸化炭素吸収などの多面的機能を発揮することが期待されているため、環境保全の観点からも林業経営支援は重要とされています。

返済期間別の融資状況
■非住宅分野の木質化推進に資する設備投資を支援

A社は、森林資源の有効活用と林業振興を図るため、地域の木材業者および森林所有者などの出資により設立された製材業者です。地域の森林組合より原木を調達し、一般住宅向けの建築用製材品の製造・販売を行うことで、循環型林業の実現に寄与しています。
国内の木材需要について、今後、非住宅分野などの中大規模建築物での木造化などによる新たな需要創出が期待されています。一方、このような建築物に必要とされる、強度などの品質・性能の確かな部材の供給量は比較的少なく、その生産体制の整備促進が求められています。
このたび、同社は木材の強度を測定する装置の導入を計画。強度などの品質・性能の確かな部材の増産に向けた体制整備に取り組みました。
民間金融機関と農林水産事業は、地域の木材の付加価値の向上と利用拡大を推進するうえで、重要な取組みと評価。協調して装置導入に必要な資金を融資しました。

漁業分野

「水産基本法及び基本計画」の政策展開に沿った資金供給を通じ、水産物の安定供給や水産資源の持続的利用を確保するための取組みを積極的に支援しています。

■漁業の担い手を支援

「漁業経営改善支援資金」は、漁業の担い手の経営改善を総合的に支援する融資制度です。
令和5年度の「漁業経営改善支援資金」の 融資実績は108 億円となりました。

漁船関係資金の融資実績
■持続可能な経営確立に向けた新船建造を支援

A社は、遠洋まぐろ、かつお漁業を経営し、グループ他社と漁業、水産加工、飲食の3部門を中心に事業を展開しています。漁獲から加工・販売までの一貫体制を構築し、販路拡大、地域活性化を目指して事業を進めています。
近年、海洋環境の 変化やコロナ禍、ウクライナ情勢の影響による経費増の影響を受ける中、同社はさらなる生産性向上に向け、老朽化した海外まき網本船について、補助金を活用し更新、大型化を計画。新船は、魚艙(ぎょそう)の大型化による操業の 効率化に加え、5%以上の燃油削減が見込まれ、経費削減を実現します。加えて、安全性向上、労働環境改善にも寄与します。
農林水産事業は、持続可能な経営確立に向けた取組みであり、乗組員の新規雇用により地域活性化にも資する内容として評価。民間金融機関と協調して、本船導入に必要な資金を 融資しました。

加工流通分野

国産農林水産物を取り扱う加工流通分野への資金供給を通じ、食料の安定供給の確保と国内農林漁業の健全な発展を図るための取組みを積極的に支援しています。

■国産農林水産物の利用促進に貢献

加工流通分野向け融資は、国産の農林水産物を原材料として使用又は商品として取り扱うことを要件としており、国産農林水産物の利用の促進につながっています。令和5年度の融資による効果を試算したところ、今後5年間で国産農林水産物の取引量が約11.4万トン増加すると推計されます。

農産物取引量/畜産物取引量/水産物取引量

食品産業向け融資に伴う国産農林水産物取引増加額

輸出支援

農林漁業者や食品産業などの皆さまが、自らの経営改善や国内農林漁業の振興のために、国産農林水産物や食品を輸出する取組みなどについて令和4年10月に創設した農林水産物・食品輸出基盤強化資金ほか各種融資制度や情報提供により支援しています。
令和5年度の「輸出により経営改善に取り組む方」への融資実績は、460先(前年度比126%)、816億円(同125%)となりました。

輸出に取り組む方への融資実績
■シンガポール向けに手延べそうめんの輸出拡大を支援

業歴40年を超える老舗の手延べそうめん製造業者A社は、熟練の技術を活かし、高品質のそうめんを生産しています。
さらなる収益性の向上に向け、新たな販路の開拓を模索していたA社ですが、国内市場向けには地元の組合を通じて国内の問屋に出荷する構造が確立されており、自力での販路開拓は難しい状況でした。
そこで、海外市場の販路開拓を決意し、在留日本人が多いシンガポールは需要が見込まれ商機があると判断。手延べそうめんの輸出を目指し、輸出先が求める衛生基準に適合した工場の建設などを含む輸出事業計画の認定を受けました。
農林水産事業は農林水産物・食品の輸出拡大を後押しすることを目的とした資金制度により、工場の建設に必要な資金を民間金融機関と協調して融資するとともに、日本貿易振興機構(JETRO)などの関係機関を紹介するなどして支援しています。

経営のトータルサポート

コンサルティング機能の発揮

自然災害の発生や国内外の社会経済情勢の変化などに伴い、お客さまの経営課題もより高度化かつ多様化しています。その中で、農林水産事業では、お客さまの現状と課題を把握・共有し、伴走型で課題解決に取り組み、お客さまの持続的な経営発展を支援しています。

■経営ステージに応じたお客さまの課題解決を支援

濃密かつ継続した「コンサルティング機能の発揮」により、創業時の就農支援、成長期の拡大(成長)支援、成熟期のさらなる発展への支援など、経営ステージに応じたお客さまの課題解決を支援しています。

■財務分析により現状と課題を共有

お客さまにご提供いただいた決算情報をもとに財務状況を分析し、農林水産事業の持つ同業他社の経営指標と比較することで、お客さまの強みや経営課題を見える化し、お客さまと共有しています。

ビジネスマッチング支援

農林水産業と食品産業の双方をサポートしている特性を活かして、双方の販売希望情報、購入希望情報の提供を通じて販路拡大や仕入拡大を支援しています。

全国ネットワークを活用したマッチング支援を行っています

農林水産事業では、全国48の支店網を活かし、食品企業の皆さまの国産農林水産物を「買いたい」ニーズと、農林水産業を営む皆さまの「売りたい」ニーズをマッチングさせ、お客さま同士を都道府県域を越えてお引き合わせしています。お客さまの魅力的な商品開発やお取扱い商品の充実に役立てていただいています。

■国産農林水産物の展示商談会「アグリフードEXPO」

「アグリフードEXPO」紹介動画はこちらです

「アグリフードEXPO」は販路拡大を目指す農林漁業者や食品事業者とバイヤーの間を繋ぐ、ビジネスマッチングの機会を提供するための全国規模の展示商談会です。平成18年度から開催しており、毎年、全国各地から「国産」にこだわった農林漁業者や食品事業者が多数出展し、来場したバイヤーとの間で活発な商談が行われています。
令和6年度に開催した第17回「アグリフードEXPO東京」では、全国から約600先が出展し、商談件数は4万件以上と、会場内で活発な商談が行われました。また、輸出や物流問題などに対して専門家がアドバイスや支援メニューの紹介を行う相談コーナーを会場内に設置し、経営上のさまざまな課題に対する解決支援に取り組みました。

■お客さまのマッチングニーズに対して全国の支店がお引き合わせ先を探索

量販店向けカット野菜を製造している大阪府のA社は、商品に使う白菜の仕入れ先を探していましたが、端境期であったことや、不作で全国的に白菜が不足していた時期であったことから、仕入れ先を見つけられずにいました。原料在庫が1週間分程度となり、欠品のおそれがあったため、大阪支店農林水産事業に仕入れ先の紹介を相談しました。大阪支店より連絡を受けた全国の支店が急ぎ生産者や農協、仲卸業者などのお引き合わせ先を探索したところ、同社のニーズに関心を持った長野県の白菜生産者が見つかりました。大阪支店農林水産事業から連絡を受けた同社は、生産者と条件面などの交渉を行い、商談を成約することができ、その後の安定的な取引につながりました。