セーフティネット機能の発揮
国際的な金融危機や為替相場の変動、原材料価格の高騰、自然災害の発生。日本公庫は、こうした経営環境の激変時や不測の事態発生時において、企業の資金ニーズに迅速かつ的確に対応する「セーフティネット機能の発揮」という重要な役割を担っています。
東日本大震災や熊本地震、台風その他の自然災害のほか、国際的な金融不安、経済収縮による悪影響に伴い資金繰りに支障をきたしている方々に対する、セーフティネット関連(注)の令和4年度の融資実績は、18万1,498件、2兆6,363億円となりました。
(注)「セーフティネット関連融資」とは新型コロナウイルス感染症特別貸付、災害復旧貸付、東日本大震災復興特別貸付、経営環境変化対応資金、金融環境変化対応資金、農林漁業セーフティネット資金等が含まれます。
また、新型コロナウイルス感染症により深刻な影響を受けている経済環境下にあって、関係機関の支援を受けて事業の発展・継続を図る方などを対象に、財務体質強化を図るための資金を供給する「新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)」の取扱いを令和2年8月から開始しており、令和5年3月末時点での融資実績は、8,335先、1兆296億円となりました。
成長分野等への支援
日本公庫は、ポストコロナも見据えた、創業・スタートアップ・新事業、事業再生、事業承継、ソーシャルビジネス、海外展開、農林水産業の新たな展開、脱炭素などの環境・エネルギー対策、DXの推進及び事業の再構築を進めるお客さまへの支援など、成長分野等に積極的に力を注いでいます。
【1】創業や新事業への支援
(1)創業・スタートアップ・新事業支援
令和4年度の創業前及び創業後1年以内の企業に対する融資実績は、2万5,500先(前年度比98%)、1,304億円(同93%)となりました。
なお、支援事例については、「story-全国創業事例集-」をご覧ください。
(2)「新事業育成資金(注1)」及び「スタートアップ支援資金(注2)」の融資実績
令和4年度の「新事業育成資金」及び「スタートアップ支援資金」の融資実績(注3)は、825先(前年度比129%)、432億円(同159%)となりました。
(注1)高い成長性が見込まれる新たな事業に取り組む中小企業者を支援する特別貸付制度です。
(注2)我が国の経済成長及び社会課題の解決を先導することが見込まれるスタートアップの成長を支援する特別貸付制度です。
(注3)融資実績には、挑戦支援資本強化特別貸付を含みます。
(注4)令和4年度融資実績には、令和5年2月に創設されたスタートアップ支援資金の実績(8先、5億円)を含みます。
(3)新株予約権付融資の実績
「新事業育成資金」及び「スタートアップ支援資金」には、株式公開を目指すスタートアップなどを対象として、企業が新たに発行する新株予約権を日本公庫中小企業事業が取得することにより無担保資金を供給する「新株予約権付融資」があります。
同制度の令和4年度の融資実績は、69先(前年度比168%)、75億円(同214%)となりました。
(4)「資本性ローン(新事業型)」の融資実績
令和4年度の融資実績は、23先(前年度比96%)、21億円(同72%)となりました。
(5)地域のベンチャー支援機関との連携
地域のスタートアップ支援機関(地方銀行、ベンチャーキャピタル等)と連携して、地域のスタートアップ等によるプレゼンテーションイベントを開催し、スタートアップの発掘、支援に取り組んでいます。
【2】事業再生支援
令和4年度の再生支援関連の融資実績は、「企業再生貸付」については、450先(前年度比146%)、401億円(同133%)となり、「資本性ローン(再生型)」については、21先(同124%)、28億円(同127%)となりました。また、再生支援関連の金融支援実績は、136先(同119%)となりました。
【3】事業承継支援
令和4年度の事業承継関連の融資実績は、2,610件(前年度比110%)、842億円(同110%)となりました。
中小企業・小規模事業者の経営者の高齢化が進む中、企業が培ってきた技術・ノウハウ等の貴重な経営資源が円滑に引き継がれるよう、事業承継に関する多様な資金需要に対応しています。
事業承継マッチング支援
「事業承継マッチング支援」は、後継者不在の小規模事業者等と創業希望者等を引き合わせ、第三者による事業承継を支援する取組みです。
令和元年度、東京都内で試行的に開始し、令和2年度から全国規模で実施しています。経営者の高齢化や新型コロナウイルス感染症の影響等により、後継者不在の小規模事業者等からの相談が増えており、令和4年度の事業承継マッチング支援実績は、申込が4,847件(前年度比153%)、引き合わせが360件(同147%)となり、43件(同215%)が成約に至りました。
【4】ソーシャルビジネス(注)支援
(1)ソーシャルビジネス関連の融資実績
令和4年度のソーシャルビジネス関連の融資実績は、1万5,296件(前年度比12%)、1,265億円(同111%)となりました。
(注)高齢者や障がい者の介護・福祉、子育て支援、地域活性化、環境保護など、地域や社会が抱える課題の解決に取り組む事業をいいます。
(2)「ソーシャルビジネスステーション」による連携・協働の促進
「ソーシャルビジネスステーション」では、ソーシャルビジネスへの参画を検討する企業を対象に、NPOとの連携・協働関係の構築をサポートするための情報のプラットフォームとして、さまざまなコンテンツを公開しています。ソーシャルビジネスに関心のある方であれば、経営者・新規事業立ち上げの担当者など、どなたにでもご利用いただけます。
(3)「ビジネスプラン見える化BOOK」による事業計画策定の支援
ソーシャルビジネスの活動を持続的に成長させるためには、実現性の高い事業計画を策定して、十分な収益を確保する必要があります。日本公庫国民生活事業では、事業計画の策定を支援するため、「ビジネスプラン見える化BOOK」(以下、「見える化BOOK」)をホームページで公開しています。
「見える化BOOK」は、事業計画に関わる6つの要素(組織使命・現状把握・実現仮説・成果目標・財源基盤・組織基盤)を整理できるワークブックです。ソーシャルビジネスの担い手の皆さまが事業計画を策定する際にご活用いただけます。
【5】海外展開支援
日本公庫では、以下の制度以外にもさまざまな形でお客さまの海外展開を支援しています。具体的な支援事例等につきましては、「海外展開ゼロイチ+」をご確認ください。
(1)「海外展開・事業再編資金」の融資実績
令和4年度の「海外展開・事業再編資金」の融資実績は、631先(前年度比125%)、421億円(同157%)となりました。
そのうち「クロスボーダーローン」(注)の令和4年度の融資実績は94先、76億円となりました。令和3年1月の制度開始以来の累計実績(令和5年3月末まで)は205先、141億円となっています。
(注)海外の構造的変化等に適応するために、国内親会社(中小企業者等)と共同で経営力向上や経営革新、地域経済の活性化等に取り組む海外現地法人に対して、日本公庫が直接融資する制度です。ご利用いただける国・地域は、タイ、ベトナム、香港、シンガポール、フィリピンとなっています。
(2)スタンドバイ・クレジット制度(注)の利用実績
令和4年度は、タイ、中国、韓国、インドネシア、ベトナム、メキシコ、シンガポール、マレーシア及び台湾の提携金融機関に対して信用状を発行し、その利用実績は82先となりました。平成24年度の制度開始以来の累計実績(令和5年3月末まで)は887先となっています。令和5年3月末時点で提携金融機関は15行となっています。また、より多くの中小企業者の皆さまが本制度を利用できるよう、平成25年度から全国各地の地域金融機関と連携したスキームを構築しています。令和5年3月末時点で全国61の地域金融機関と連携しており、制度開始以降延べ58先(令和4年度4先)に対して、本連携スキームによる信用状を発行しました。
(注)国内親会社(中小企業者等)と共同で経営力向上や経営革新、地域経済の活性化等に取り組む海外現地法人等が、日本公庫と提携する金融機関から現地流通通貨建て長期資金の借入を行う際、その債務を保証するために公庫がスタンドバイ・クレジット(信用状)を発行することで、海外での円滑な資金調達を支援するものです。
(3)トライアル輸出支援事業の実績
取引のあるお客さまへの経営支援サービスの一環として、農林水産事業では平成25年度から、国民生活事業では令和4年度からそれぞれ開始した事業で、輸出ノウハウを持つ貿易商社と連携し、輸出に初めて取り組むお客さまをサポートしています。令和4年度のトライアル輸出支援事業は、輸出に意欲のある小規模事業者や農水産業者、食品製造業者に対して、貿易商社と連携し、75件の試験的な輸出(トライアル輸出)を支援しました。
【6】農林水産業の新たな展開への支援
(1)農業の担い手(法人・大規模家族経営や農業参入)を支援
令和4年度の「農業経営基盤強化資金」(略称:スーパーL資金)の融資実績は、5,778先(前年度比94%)、2,667億円(同89%)となりました。
(2)新規就農や農業参入の取組みを支援
令和4年度の新規就農、農業参入関連の融資実績は、2,599先(前年度比129%)、588億円(同156%)となりました。
平成26年度から取扱いを開始した「青年等就農資金(注)」の融資実績は、1,864先(前年度比122%)、160億円(同114%)となりました。
(注)新たに農業経営を営もうとする青年等であって、市町村から青年等就農計画の認定を受けた認定新規就農者の方を支援する資金です。
(3)輸出の取組みを支援
令和4年度の「輸出により経営改善に取り組む方」への融資実績は、365先(前年度比147%)、651億円(同149%)となりました。
地域活性化支援
日本公庫は、地方版総合戦略等への積極的な参画のほか、全国152支店のネットワークを活用したマッチング、商談会/セミナー等の開催などを通じて、地域活性化への貢献に取り組んでいます。
地方自治体との連携の強化
全国152支店において、地域の実状やニーズをとらえ、地域が抱える課題に、きめ細かに対応しています。
令和4年度は、第2期「地方版総合戦略」に掲げる各種施策のうち、創業・スタートアップ支援や農林水産業の振興などの分野において、412件の個別施策に参画しました。また、積極的に地方自治体を訪問し、首長等との対話を通じて地域が抱える課題を把握するとともに、解決に向けた取組みを推進することで、連携をさらに強化しました。
お客さまや地域のニーズに合致した有益なサービスの提供
● 令和4年度は、ポストコロナを見据えたお客さまの本業支援や、地域の活性化に貢献するため、全国各地でマッチングや商談会・セミナーの開催などに取り組みました。
● 全国規模のビジネス商談会については、オンライン形式で開催したほか、全国の支店においても、遠隔地のお客さま同士を繋ぐオンラインマッチングや地域の実状に応じて商談会・セミナーを開催するなど、お客さまの課題解決をサポートしています。
● インターネットビジネスマッチングサイトでは、販売先や原材料の仕入先の拡大などのお客さま同士のニーズを橋渡しする「場」を提供しています。
第3回「全国オンライン商談会」
● ポストコロナにおいて、マッチングニーズが多様化するお客さまのビジネスチャンス拡大を支援するため、オンライン形式の商談会を開催しました(令和5年2月13日〜17日)。
● 今回はこれまでの商談方法に加え、スタートアップ枠を新設し、DX、生産性向上等のサービスを提供するスタートアップと経営課題の解決に取り組むお客さまとを引き合わせ、計849件(前回725件)の商談が実現し、参加企業から高い満足度を得ることができました。
関係機関を繋ぐ役割の発揮
● お客さまに対するコンサルティング機能の強化の観点から、各地域において関係機関と連携し、セミナーや勉強会などを積極的に開催しています。
● 政策金融機関として地域の関係機関を「繋ぐ」役割を発揮し、お客さまや地域が抱える課題の解決に貢献するため、令和4年度は、長崎・東京の2カ所で地域の金融機関、支援団体、地元企業・団体とともに「地域経済活性化シンポジウム」を現地開催し、全国に向けてオンラインで配信しました。長崎会場では「『地方創生』×農林水産業~稼げる農林水産業を地方経済のエンジンに~」、東京会場では「世界にはばたく中小企業」をテーマに支援メニューの紹介や現状の取組み、課題、今後の可能性などについて情報交換を実施しました。
第1回 長崎会場
●開催日:令和4年6月28日
●開催場所:出島メッセ長崎
●テーマ:「地方創生」×農林水産業~
稼げる農林水産業を地方経済のエンジンに~
●参加者数:会場:100名
ライブ配信:398名
第2回 東京会場
●開催日:令和4年10月31日
●開催場所:日経ホール
●テーマ:世界にはばたく中小企業
●参加者数:会場:80名
ライブ配信:408名