農林水産・食品事業者のマーケットイン輸出事例集『GLOCAL ACTION』
- 所在地
- 北海道紋別市
- 業種
- 水産加工・販売
- 経営規模
- 冷凍ホタテ貝柱(玉冷)800t
- 年商
- 70億円
- 輸出開始年
- 2010年(ホタテ)
- 輸出先
- 米国、中国、EUなど
- 売上に占める輸出の割合
- 2010年 20%(玉冷・両貝) 2020年 80%(玉冷・両貝)
- 輸出モデル
-
- これまで人海戦術で対応してきたホタテの殻剥き工程を機械化
-
当社は北海道の紋別港に隣接した敷地内に8棟の工場・冷蔵庫を構え、カニやホタテ、サケ・マス、イクラなどオホーツク近海で獲れた新鮮な魚介類の加工・販売を行う。
生産環境が厳しくなる魚種が多いなか、ホタテは安定した生産量が見込まれる重要な水産物。当社では2010年に対米 HACCP認定の新工場を建設し、米国へ冷凍ホタテ貝柱(玉冷)の輸出を開始。15年には対 EU・HACCP認定を取得し、輸出地域を EUに拡大している。
HACCPは国内での「食の安全・安心」に対する関心の高まりを受けて導入したものだったが、そのことがきっかけで国内商社から輸出の引き合いが寄せられた。欧米への輸出にあたっては1コンテナ20tを占有できるだけの生産ロットが求められるうえ、日本よりも厳しい衛生管理基準が要求される。水産業界は中小・零細事業者が多くを占めるなか、当社は加工場や大型設備の新設など積極投資を行ってきたことが功を奏した。現在、ホタテの売上は輸出が約8割を占めている。
海外において冷凍ホタテ貝柱の需要は高まっているが、水産加工の現場では人手不足が深刻化。殻剥きに必要な人手を確保できず、貝柱の生産量が伸び悩んでいる。日本からのホタテの輸出は中国向けが近年増えているが、冷凍原貝を加工賃の安い中国で殻剥き加工し、その多くが米国向けに再輸出されている。当社でもホタテの取扱いのうち約6割が冷凍原貝のままの出荷となっていた。
オホーツク海で水揚げされるホタテを産地で冷凍貝柱にまで加工し、付加価値を高めることで成長につなげたい。そこで、18年に自動殻剥き機「オートシェラー」1基を民間企業として初めて導入。21年には補助事業と公庫資金を活用し、工場を改修のうえ新たに2基増設した。3基のフル稼働態勢によって、従来は熟練スタッフ30人を配置していた工程が現在は10人体制と大幅な省力化が実現。貝柱の年間生産量は、設備導入前の約800tから約1200tへと約1.5倍増を見込む。
- 積極的な設備投資で人手不足解消と輸出拡大を図る
-
ホタテの貝柱は全て可食部で手間なく使え、和洋中いずれの料理にも合うので海外でも人気がある。日本国内では刺身や寿司が中心だが、EUではソテー、米国ではグリルなど焼いて食べられることが多い。EUは小玉、米国は大玉が好まれる。
中国ではホタテを水につけて大きくする加水処理を行い、米国などへ輸出している。生食文化の日本では、加水処理は消費者の不信を招きかねない。一方、米国では加熱調理が基本であり、加水処理は大玉サイズに対する値頃感という意味でも現地ニーズにむしろ合っているのかもしれない。
中国を経由せずに米国への直接輸出を拡大するため、今後はシーフードショーなど現地の展示商談会へ積極的に参加していく。現地ニーズを踏まえ、輸出用ホタテについては殻剥き加工と加水処理を当社で一貫して行うことも検討材料になりうる。ただし、米国はホタテの消費国であると同時に生産国でもある。現地で豊漁の年や日本で小貝の多い年は輸出量が大幅に減少する。従って、国内販売やアジア市場の開拓、EU市場の拡大などとバランスよく組み合わせていく必要がある。東南アジアは現地の所得水準に対して価格の高さがボトルネックとなっているが、加水処理を行えば現地消費者にも値頃感が出てくるかもしれない。
EUは冷凍貝柱の需要が伸びており、19年発効の日EU・EPAによる関税(ホタテ8%)の段階的撤廃も輸出拡大の追い風として期待される。EUは衛生管理意識や環境保全意識が極めて高い。当社工場も衛生監視委員による年3回の検査やバイヤーの視察を受けており、また持続可能な漁業の国際認証であるMSC認証を取得している。
水産大国ノルウェーは官民一体となって川上から川下まで設備投資を推進し、バリューチェーンを構築。水産業の持続的な成長を実現した。一方、日本の水産業界は既存設備の改修など部分的な対応が目立ち、次のビジョンが見えづらい。本格的な人口減少社会を迎える今こそ、人手不足や海外市場を見据えた攻めの設備投資が必要だと思う。-
2010年に新社屋と新ホタテ工場を建設
-
オゾン殺菌海水で仕上げ、素材の旨味・食感を保持
-
ステージ | アクション | ポイント | |
---|---|---|---|
準備 ・ 開始 |
2010年 | ■対米HACCP認定のホタテ工場を新設。冷凍ホタテ貝柱を米国向けに輸出開始 |
●2000年から国内向けにHACCP導入。加工場や大型設備を年ごとに新設するなか、国内の輸出商社から引き合いあり |
2013年 | ■中国向けに輸出開始 |
||
継続 ・ 事業化 |
2015年 | ■対EU・HACCP認定を取得、EU向けに輸出開始 |
●国内商社経由、オランダを流通拠点としてフランスなどEU域内に供給 |
2016年 | ■海のエコラベルであるMSC認証を取得 |
●環境保護意識の高いEUにおいて、更なる輸出拡大を図る |
|
発展 ・ 投資 |
2018年 | ■オートシェラー(ホタテ貝自動殻剥き機)を民間企業として初めて導入 |
●人手不足解消のため導入。殻剥き工程の機械化に向けてノウハウを蓄積 |
2021年 | ■ホタテ工場を改修し、オートシェラーを3基に増強 |
●補助事業(食料産業・6次産業化交付金事業)や公庫資金などを活用 |
ビジョン
「海の幸を人の幸へ」オホーツクブランドのホタテを世界に安定供給