襷 TASUKI5TH ANNIVERSARY BOOK

高校生ビジネスプラン・グランプリ 2013-2017

事例
3
専修大学附属高等学校

伊豆大島の生態系問題に
高校生の発想力が一石を投じる

チーム椿のメンバー。前列左から中村碧海さん、野口結香さん、後列左から松島真帆さん、本間悠理乃さん、金丸桃香さん、今井怜さん

チーム椿のメンバー。前列左から中村碧海さん、野口結香さん、後列左から松島真帆さん、本間悠理乃さん、金丸桃香さん、今井怜さん

専修大学附属高等学校

東京都杉並区和泉4-4-1

「誠実・努力」を基本理念とし、専修大学の「報恩奉仕」の精神を受け継ぐ教育活動を展開。さまざまな分野でリーダーとなりうる幅広い人材の育成をめざす。

士幌高校の生徒のみなさん

キョンという動物をご存じだろうか。中国や台湾を原産とするシカの仲間で、肩高は成獣でも40~50cm ほど。可愛らしい名前のイメージに反して、房総半島南部や伊豆大島ではその獣害が深刻な問題になっている。繁殖力が強く、急増したキョンが農作物などを荒らすのだ。生態系への影響も懸念されることから、東京都は伊豆大島で年間2,000頭以上ものキョンを捕獲殺処分している。

このキョンをテーマにしたプランで、第5回高校生ビジネスプラン・グランプリにエントリーしたのが、専修大学附属高等学校(以下、専大附属)の「チーム椿」だ。

メンバーの中に、伊豆大島出身の女子生徒がいた。彼女の故郷である大島特産の椿をテーマにビジネスプランをつくろうと調べていたところ、椿を荒らすキョンの存在に行き着いた。被害規模や殺処分の実態も知った。そもそも人間が観光施設で飼育していたものが、逃げ出して野生化したことが問題の背景にある。

「仕方のないことですが、毎年2,000頭も殺処分されてしまうのはかわいそうな気がしました。駆除は止められないにしても、キョンに何らかの価値をもたせるようなビジネスを提案することで、この事実を多くの人たちに知ってほしいと思ったのです」。プラン発案の経緯を、チームリーダーの3年生・中村碧海さんは話す。

多角的な取材でプランに厚みが

専大附属では毎週土曜日、1・2年生を対象に選択式授業「土曜講座」を設けている。そのひとつが、社会人に必要なチームワーク力やコミュニケーション力を身につける「チーム作り講座」だ。

この講座のユニークなところは、大学生と社会人を運営メンバーとして招き、生徒と一緒に1年間、課題に取り組んでいくこと。大学生は同校の卒業生が多いが、基本的には公募で、教員志望者が多い。社会人講師は、担当教諭の杉山比呂之先生が個人的なネットワークを駆使してスカウトしているという。「教員以外の相談相手によって、生徒のより柔軟な発想を引き出してあげたいという思いがあります」と、杉山先生。

この授業の一環として、「チーム椿」をはじめ計5グループが、第5回高校生ビジネスプラン・グランプリに初挑戦した。

「『チーム作り講座』を立ち上げて7年になり、生徒たちと新しいことにチャレンジしたいと考えていたところでした。われわれ教員はビジネスの最新事情には弱いところがあり、参加を通じて生徒たちと一緒に学びたいと考えたのです」と、杉山先生は高校生ビジネスプラン・グランプリ初挑戦への経緯を話す。

今回のプランでは、東京都の担当職員を訪ねて獣害対策の現状を聞いたり、キョンの皮革製品を手掛けている工芸作家を取材しているが、アポイントの取り方などは大学生・社会人講師たちが適宜アドバイスした。多方面への直接取材で集めた情報の厚みが、説得力あるプランづくりにつながった。

「大人たちをこれほど巻き込んでプランづくりに取り組んだのは、5グループの中でチーム椿だけ。運営メンバーの大学生たちにとっても、深い学びにつながったようです」と言う杉山先生だが、初めてのグランプリ参加で、「気負いすぎて、当初は教師側の考えを一方的に押しつけるような授業展開をしてしまいました」など、反省点も多かったと振り返る。

いきなりビジネスプランを考案・作成するのはハードルが高いと思い、1学期は経済やビジネスの基礎知識を身につける講義形式の授業を中心にした。

革細工作家を迎え、キョンの革細工を体験

3年生
中村碧海さん

“ぶっちゃけ会”で本音の意見交換

しかし、それだけでは生徒が主体的に取り組む姿勢やチームワークは生まれにくい。生徒との間に気持ちのミスマッチが生じていると感じた杉山先生は、2学期に入ると話し合いの機会を設けた。その名も“ぶっちゃけ会”。お菓子や飲み物を用意して、気軽な雰囲気で「ぶっちゃけ、この授業ってどう?」と、率直な意見交換をしたのだ。予想以上の辛辣しんらつな声も出たが、あらためて気持ちの共有ができた。カリキュラムを軌道修正し、その後は生徒主体でテーマ選びなどを進めるようにして、チームがうまく回り始めたという。

「うれしかったのは、当時1年生として参加した生徒の多くが、『今年もチャレンジしたい』と、再びこの授業に集まってくれたことです。生徒にはハードルの高い授業内容ではありましたが、好奇心や挑戦心を大いに刺激したようで、取り組んだかいがありました」(杉山先生)

地理歴史科(日本史)
専修大学兼任講師
杉山比呂之 教諭

視野が広がったのが最大の収穫

「チーム椿」のメンバーはネットを通じて、駆除された鹿皮を使った商品開発プロジェクトがあることを知った。キョンの生態に詳しい専門家や、革細工を手がける作家との出会いもあった。こうしてメンバーは、革細工を製品化するというかたちで、駆除対象であるキョンに別の価値を与えるプランにたどり着いた。

ただ、キョンは皮質はいいが、サイズが小さいので通常の鹿に比べて “ なめし工程 ” の効率が低く、コスト高になってしまうことも判明した。最も大きなハードルは、東京都の駆除事業との兼ね合いだ。仮にキョン革細工が人気商品になり、家畜として増やすようなことになれば、中長期的には獣害や生態系への影響がさらに悪化する恐れがある。大々的な販売を認めるのは難しいというのが都の判断だ。

中村さんは、「高校生ビジネスプラン・グランプリ参加で得たものは本当に大きかった」と感慨深げに振り返る。たったひとつの製品ができあがるまでに、さまざまな人々が関わっていると知った。「自分の視野が広がり、多角的に物事を見られるようになったのが一番の収穫でした」

部活ではバレー部のキャプテンを務めるが、チームをまとめるのは本当に難しい。でも、大人だってみんな意見が違う。それがわかったからこそ、部活でトラブルが起こっても、それぞれの意見に耳を傾けられるようになり、チームをまとめるのが少しだけ上手くなった。

彼らの活躍に刺激され、今年の杉山先生の授業にはグランプリに参加したいという後輩たちが集まっている。第6回大会も4グループが参加予定だ。

増え続けるキョンの獣害

中国東南部や台湾を原産地とする小型のシカの仲間。伊豆大島では、かつて動物園から逃げ出したものが野生化したとみられている。シカ科の中でも特に繁殖力が強く、花や果実を好んで食べることから、島の特産品であるアシタバや農作物などを食い荒らし、深刻な獣害問題を引き起こしている。
東京都によれば、伊豆大島での推計生息数は2017年の調査で1万7,109頭。同年は約3,500頭を捕獲したが、繁殖に追いつかないのが現状だ。

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