襷 TASUKI5TH ANNIVERSARY BOOK

高校生ビジネスプラン・グランプリ 2013-2017

事例
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和歌山県立神島高等学校

地域の特産品を徹底活用
商品開発でヒット連発

日本公庫による今年2度目の出張授業を終えて。第6回高校生ビジネスプラン・グランプリ参加に向けて意欲を燃やす生徒たち

日本公庫による今年2度目の出張授業を終えて。第6回高校生ビジネスプラン・グランプリ参加に向けて意欲を燃やす生徒たち

和歌山県立神島かしま高等学校

和歌山県田辺市文里2丁目33番12号

経営科学科と普通科を擁し、商業科専門教育と普通科教育を行う地域の伝統校。経営科学科の商品開発から生まれる商品やビジネスプランは、各種コンテストで高い評価を得ている。

士幌高校の生徒のみなさん

「スムージーかぁ。そうくるとは思わなかった」。みかん農家の岡本和宜氏は、高校生の斬新なアイデアに思わず舌を巻いた。栽培過程で破棄される “摘果てきかみかん ”を何とか商品化できないか―― 岡本さんの相談を受けた神島高等学校(以下、神島高校)の生徒たちが提案したのが、このスムージーだった。

和歌山県の中南部に位置する田辺市で地域唯一の商業学科をもつ神島高校。同校には、地元の企業や生産者から、頻繁に商品開発の依頼が舞い込む。

「うちの学校の経営科学科は、以前から資格取得に力を入れてきましたが、 6年ほど前、もっと地元に貢献できないかとの観点から、課題研究授業として地元の特産品を活用した『商品開発』の講座を設けました」と、同校の那須正樹先生は話す。

生徒たちが最初に開発した「梅あられ」は、フリーズドライの紀州南高梅干を味付けに使った米菓で、今では年間約2万袋を販売するヒット商品となっている。その後も、グルメ甲子園で最優秀賞を受賞した「梅やきとり」や、コンビニで商品化された「紀州うめどりの親子バーガー」、「紀州うめどり・うめたまごの2種盛パスタ」など次々にヒット商品を開発。この商品開発プロジェクトは「神島屋」と名付けられ、地元メディアでも頻繁に取り上げられる存在となった。

那須正樹 教諭

インタビューに答えてくれた3年生の荻谷猛さんと渡晴菜さん

生産者や企業を巻き込む活動 授業では得られない貴重な経験も

 高校生ビジネスプラン・グランプリへの初参加は、2015年の第3回大会だった。要綱を目にした那須先生が、「ビジネスプランづくりは生徒たちの成長につながるはず」と考え、参加を決断した。

同大会では、梅酢で味付けした猪肉の燻製「循環型『梅いのしし』プロジェクト」でベスト100に。第4回大会では、前年のプランをブラッシュアップした「梅風味いのしし肉ソーセージの燻製(うめ・いの・セージ)」に加え、同校が開発した人気商品「梅やきとり」を使った「和歌山発地域ブランド『梅やきとり』を日本全国へ」、さらに、地域の魅力を発信し旅行者とともに地域課題を共有する「世界遺産体験学習ツアー&体験型オーナーシェアリング」など複数のプランでエントリーし、観光プランがベスト100に選ばれた。

「生徒たちは、商品開発の過程で、地元の生産者や企業、市役所の方々とお会いし、時には共同で作業を行い、自ら商品を販売するなど、授業では学べない貴重な体験を積んでいます。また、日本公庫による出張授業は、具体的な企業名を挙げてわかりやすくビジネスの基本を教えてくれるので、普段の授業と比べて生徒の目の輝きが違いますね」と那須先生。

出張授業を体験した3年生の荻谷猛さんは、「普段めったに考えへんことを授業で教えてもらえるので、今までと違う見方ができるにようになりました。例えば、駅前でシャッターが閉まった店を見ると、『場所が悪いんかな』とか考えたりします」と意識の変化を話す。

「普段の授業よりも自分の意見を言うことが多いし、他の人と自分の考えの違いに気づくのも楽しいです。姉が前回大会に参加したこともあって、家でも話題にすることが多いです」と3年生の渡晴菜さん。

神島屋の活動
上/梅ジュースの仕込み中
中/田辺商工フェアに“出張神島屋”現る!
下/ゴールデンウィークには和歌山市のイベントで梅やきとりを販売した

大人顔負けのプレゼン力 高校生の活躍が周囲を刺激する

2017年2月、神島高校の生徒たちは、「たなべ未来創造塾」の塾生と出会う。「たなべ未来創造塾」とは、田辺市山大学、地元金融機関、日本公庫が連携して地域資源を活用した地域課題の解決を目指すローカルイノベーター育成プロジェクトだ。このプロジェクトを担当する田辺市役所 企画部 たなべ営業室の鍋屋安則氏が、神島高校と関わることになった経緯を話す。

「塾の取り組みの集大成として2月の修了式で成果発表を行う予定だったのですが、塾生たちに気の緩みが出ていたのが気になっていました。そんなとき、神島高校から、高校生ビジネスプラン・グランプリでの企画を、地域の方々にも知ってもらうために、生徒にプレゼンさせてもらえないかとの依頼があったのです。これは渡りに船と思い快諾しました。実際、彼らのプレゼンは『大人が食われるかもしれん』というくらいすばらしく、塾生も『高校生には負けられん』と奮起し、発表会はすごく盛り上がりました」

この発表会に未来創造塾の塾生として参加していたのが、冒頭で紹介した岡本農園の岡本氏だった。若手農家としてさまざまな農業改革に挑んでいた岡本氏は、丹精込めて育てたみかんが、摘果で破棄されてしまうこと、それが鳥獣害にもつながることを憂慮しており、高校生の行動力とアイデアに問題解決を委ねてみたいと考えたのだ。

実状を知るため岡本農園へ出かけた生徒たちは、畑の地面を埋め尽くす摘果みかんを目の当たりにし、衝撃を受ける。「地元に住み、普通に食べていたみかんなのに、知らないことだらけでした」と、当時3年生だった渡優花さんは話す。

一行が炎天下で摘果作業を体験するなか、ある生徒が落ちていた摘果みかんを口にしてつぶやいた。「これ、酸っぱいけど、けっこういけるかも」――この一言がきっかけで、摘果みかんの酸味を生かした商品開発のアイデアが次々に生まれた。最終的に、豊富なクエン酸成分と、独特の酸味と苦みを生かしたスムージーを作るプランで意見がまとまった。香りを生かした制汗剤、アレルギー症状の緩和に有効な入浴剤、除菌・消臭効果を生かした石鹸というアイデアも生まれた。

試作品を手にした岡本さんは、「本当にすごいと思いました。高校生のうちから地元の特産品を商品化して課題解決につなげる経験を積んだ彼らが、将来、社会でどんなすごいことを成し遂げるのか、今から楽しみです。うちの娘もぜひ神島高校に入学させたい」と話す。

神島屋の開発メニュー「紀州うめどり・うめたまごの2種盛パスタ」(上)と「紀州うめどりの親子バーガー」(中)。梅あられ(下)は、梅の甘酸っぱさがアクセントの大ヒット商品だ

「地元のために何ができるか」プランづくりを通して生徒が成長

第5回高校生ビジネスプラン・グランプリにエントリーした「摘果みかんプロジェクト~岡本さんちの早摘みみかんとして~」は、神島高校初のセミファイナリスト(ベスト20)に選ばれ、メンバーは東京で開催された最終審査会を見学する機会を得た。

「高校生ビジネスプラン・グランプリを通して、人前で話すこと、チームで協力することによるコミュニケーション力の向上、地域の方々への感謝の気持ちが強まり、心身ともに成長できたと思います」と、当時3年生だった小山達也くんは、受賞の感想を話す。

「プランの作成過程で原価計算をした際、摘果みかんの仕入れ額が、成果同様の1kg 250円と聞かされました。廃棄されていたのに成果と同じ価格と言われ、生徒たちは驚いたものの、その裏にある岡本氏のみかん栽培にかける思いとプライド、ビジネスの厳しさに気づかされたのです。そんな深い気づきを得られたことは、順位より貴重な財産になったと思います」(那須先生)

神島高校では、今、第6回に向けた準備が始まっている。参加をめざす荻谷さんは、「田辺の魅力が伝わる商品を自分たちで作り、全国の人がそれを食べて『おいしい』って言ってくれたら、めっちゃうれしい。そういう体験ができるように頑張りたいです」。同じく渡さんは、「地域と深いつながりをもった商品を作り、ベスト20だったお姉ちゃんを超えたいです」と意気込みを話す。

「過去3回のプランづくりを通じて生徒の成長する姿を見て、私自身も学ぶことがたくさんありました。また、普段の授業ではめったに発言しない生徒が、斬新なアイデアを提案する姿も見られ、それが刺激となってさらに発言が活発化していく姿を見て、本当に価値ある経験をしていると感じました。この経験から得られるものには、何物にも代えがたい価値があると思います」と、那須先生。これこそが、神島高校が高校生ビジネスプラン・グランプリに参加し続ける意義なのだ。

日本公庫による出張授業。日頃はおとなしい生徒たちからも活発に意見が出る

田辺市役所 企画部 たなべ営業室 主任
鍋屋安則 氏

鍋屋氏が担当する「たなべ未来創造塾」で、神島高校の生徒たちは、高校生ビジネスプラン・グランプリのプランを披露した

高校生のアイデアを商品化するのは大人の責任。
岡本農園/岡本和宜 氏

岡本和宜氏が経営する岡本農園は、田辺市上芳養日向地区で、みかんや梅を栽培している。神島高校とのコラボで生まれたアイデアは、すぐに商品化することは難しいが、岡本氏は「高校生がここまで考えてくれたのだから、それを商品化することは、僕ら大人の責任です。まず、年内に畑の一角で完全無農薬のみかんを栽培し、その摘果みかんを使って彼らのアイデアを商品化します。もちろん、これだけでは、摘果みかんの課題を根本的に解決することにならないので、それを足掛かりとして、地元の意欲ある若手農家とグループをつくり、本気で商品化に向けた活動を行うつもりです」と、商品化に向けた決意を話す。
この取り組みが成功し、摘果みかんを商品化できれば、田辺地区だけではなく全国のみかん農家に新たな収益源をもたらし、農業の新たな未来を開く可能性も期待される。

岡本農園で摘果の作業を体験

試行錯誤をしながら摘果みかんスムージーを試作中

岡本農園
岡本和宜 氏

岡本農園で摘果の作業を体験

試行錯誤をしながら摘果みかんスムージーを試作中

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