Vol.11
教育サービス業(学習塾)の創業ポイント

1.業種の概要
教育サービスには、学習塾・予備校をはじめ、幼児教育、語学、資格、通信教育、企業研修など多様な形があります。本稿では、その中でも学習塾を中心に解説します。
(1) 学習塾の種類
学習塾の形態はさまざまで、対象者や指導方法によって経営のポイントは異なります。代表的な学習塾の種類を挙げると、以下のようなものがあります。
① 集団指導型学習塾
講師が複数の生徒を同時に指導する形態で、学校の授業進度に合わせた補習や受験対策が中心となります。一定人数が集まれば効率的な運営が可能で、授業の質やクラス編成が満足度を左右します。一方で、個々の生徒の理解度の差への対応が課題となりやすい特徴があります。
② 個別指導型学習塾
生徒一人ひとり、または少人数に対して指導を行う形態で、学力や目標に合わせた柔軟な対応が可能です。補習目的から受験対策まで幅広く対応でき、保護者からの支持を得やすい半面、講師の確保や人件費管理が経営上のポイントになります。
③ 中学受験対策型学習塾
中学受験を見据えた専門的な指導を行い、カリキュラムや教材、進路指導の充実が求められます。長期在籍が見込める一方で、指導内容の工夫や保護者対応の比重が大きくなります。
④ 高校受験特化型学習塾
地域密着型で展開されることが多く、公立高校受験を中心に指導を行います。学校情報や入試制度への理解が重要で、地域での評判や実績が集客に直結します。
⑤ 科目別専門塾
英語や数学など特定科目に特化し、短期間での成績向上を目的とする塾です。明確な差別化がしやすい一方で、対象となる生徒層が限定されるため、集客の工夫が求められます。
⑥ オンライン対応型学習塾
対面指導とオンライン指導を組み合わせたり、完全オンラインで指導を行ったりする形態で、場所に縛られない運営が可能です。その半面、生徒の学習継続をどう支えるかが重要な課題となります。
(2) 少子化時代における学習塾経営の現状
少子化が加速する中、学習塾を取り巻く経営環境はどのように変化してきたのでしょうか。
受講生徒数の変化を示す「学習塾指数」(「受講生数」の動向について2015年を100として算出した数量指数)を基に、近年の状況を見ていきます(図表―1)。
まずいえるのは、学習塾の主要な利用層である6歳から18歳までの人口が、減少し続けているという事実です。この年代の人口は年々縮小しており、学習塾業界は生徒数が増えにくい環境に置かれています。
こうした環境下においても、学習塾指数は2014年から2018年にかけて上昇を続けていました。しかし、2020年には新型コロナウイルス感染症の影響により、大きな落ち込みが見られます。
その後2021年には指数が持ち直し、コロナ禍以前の水準に近いところまで回復しました。ただし、2022年には再び低下に転じており、少子化の影響が徐々に実態として現れ始めている兆しといえそうです。
図表―1 (経済産業省Webサイトより抜粋)
※2023年の人口は経済産業省において推計
(資料)「第 3次産業活動指数」(経済産業省)、「人口推計」(総務省統計局)
次に、学習塾の売上高の推移を見てみると、2020年を除いて、売上高はおおむね増加傾向で推移しています。また、受講生一人あたりの売上高についても、2016年以降、上昇が続いていることが分かります(図表―2)。
「学習塾指数」では、受講生数の減少傾向がみられますが、それにもかかわらず売上高が堅調に推移している点は注目すべきポイントです。
これは、学習塾が受講料の引き上げやサービス内容の高度化によって、単価を高める方向へと舵を切ったことを示しているといえるでしょう。
コロナ禍においては、感染対策を講じた上での対面授業に加え、オンライン授業への切り替えや併用が進み、受講方法の選択肢が大きく広がりました。こうしたサービスの拡充が、売上高の下支えにつながったと考えられます。
さらに、受講生一人あたりの売上高が伸びている背景として、中学受験市場の過熱も見逃せません。首都圏では、2022年の私立・国立中学入試において受験者数が過去最高となりました。単価の高い中学受験塾の受講料に加え、集団指導に個別指導を組み合わせるなど、複数サービスを併用するケースが増えていることも、単価上昇の一因と考えられます。
図表―2 (経済産業省Webサイトより抜粋)
(資料)「特定サービス産業動態統計」(経済産業省)
2.必要な許認可等
学習塾は、学校教育法上の「学校」には該当せず、民間の教育サービスとして位置付けられます。そのため、開業にあたって特別な営業許可や免許は原則として必要ありません。
ただし、許認可が不要である分、事業者自身の責任で、適切な運営体制を整えることが求められます。以下では、事業開始時に特に注意すべき点を三つの観点から述べます。
(1) 名称や広告表現
学習塾の運営においては、名称や広告表現が実態と乖離しないよう注意が必要です。
学習塾は学校ではないため、「○○学校」など、学校と誤認されるおそれのある表現については配慮が求められます。
とくに、チラシやWebサイト、看板などでは、提供するサービス内容が正確に伝わる表現を心がけることが重要です。
また、合格実績や成績向上を強調する場合には、過度な期待を抱かせる表現にならないよう注意が必要です。実態とかけ離れた表現は、保護者とのトラブルや信頼低下につながりやすく、長期的な経営に悪影響を及ぼします。
(2) 教室・施設
教室を構えて学習塾を運営する場合には、建物の用途や安全面への配慮が欠かせません。多数の生徒が継続的に出入りすることを前提に、消防法への対応や避難経路の確保などについて、事前に確認しておく必要があります。
とくにテナント物件を利用する場合には、学習塾としての利用が可能かどうか、契約内容や用途制限を十分に確認することが重要です。
(3) 料金体系・契約関係
学習塾では、月謝や講習費、教材費など、複数の料金が発生することが一般的です。そのため、料金体系を分かりやすく整理し、保護者に十分説明できる形にしておくことが重要です。入会金や講習費の扱い、途中退塾時の精算方法などについても、ルールを明確にしておく必要があります。
契約内容が不明確なまま運営を始めると、後になって認識の違いが生じ、クレームやトラブルにつながるおそれがあります。書面や規約を通じて、サービス内容と料金、解約条件を明確に示すことが不可欠です。
3.業態・立地選定に関するポイント
学習塾は参入障壁が低く、比較的始めやすい教育サービスである一方、安定した経営に至るまでには一定の時間と工夫が必要となります。
業態、立地、マーケティング施策など、経営面での判断が結果を大きく左右します。まず、業態と立地選定にあたり、重要となるポイントを解説します。
(1) 業態に関するポイント
学習塾を軌道に乗せるためには、どのような業態で運営するのかを明確にしておく必要があります。
業態とは、単に集団指導か個別指導かという指導形態の違いだけでなく、対象とする学年、学習目的、提供するサービスの範囲まで含めた、学習塾のコンセプト全体を指します。
【指導形態の選択】
まず検討すべきは、指導形態の選択です。
集団指導型は、一定人数をまとめて指導することで運営効率を高めやすく、軌道に乗れば収益性を確保しやすいという特徴があります。一方で、授業レベルの設定やクラス編成を誤ると、生徒の理解度にばらつきが生じやすく、満足度の低下につながるおそれがあります。
個別指導型は、生徒一人ひとりの学力や目標に合わせた対応が可能で、補習目的から受験対策まで幅広く対応できる業態です。保護者からの支持を得やすい半面、講師一人あたりの生徒数に限界があるため、人件費や稼働率の管理が経営上の重要なポイントとなります。
【対象とする学年等】
次に、対象とする学年やニーズの設定も重要です。小学生、中学生、中学受験特化、高校受験特化など、どの層を主な顧客とするかによって、必要となる教材、カリキュラム、講師の専門性は大きく異なります。
すべてのニーズに対応しようとすると、特徴のない学習塾になりやすいため、開業当初は対象を絞った業態設計の方が、集客や運営の面で安定しやすい傾向があります。
また、地域特性との適合性も業態選びの重要な視点です。
公立高校受験が中心の地域と、私立中学受験の需要が高い地域では、求められる指導内容やサポート体制が大きく異なります。地域の学校事情や保護者の教育観を踏まえ、その地域で必要とされる学習塾の形を見極めることが欠かせません。
(2) 立地に関するポイント
学習塾の立地は、生徒募集のしやすさだけでなく、通塾の継続性や保護者の安心感にも大きく影響します。
まず重視すべきなのは、通塾動線との相性です。
小学生や中学生を主な対象とする場合、生徒は学校から直接、あるいは自宅から徒歩や自転車で通塾するケースが多く見られます。そのため、学校や住宅地から無理のない距離にあるか、通学路から大きく外れていないかといった点は、入塾を検討する段階で必ず確認されます。
次に重要となるのが、安全性への配慮です。
学習塾は夕方から夜にかけて利用されることが多く、とくに冬場は暗くなる時間帯に通塾する生徒も少なくありません。周辺に街灯が整備されているか、人通りが一定程度あるか、危険な交差点や見通しの悪い場所がないかといった点は、保護者の判断に大きく影響します。
また、周辺環境との関係性も考慮すべきポイントです。
近隣に学校や住宅地が多いエリアでは、安定した需要が見込める一方で、競合となる学習塾が集まりやすい傾向もあります。その場合には、業態や指導内容、価格帯などでどのように差別化するのかを、立地選定とあわせて検討することが重要です。
4.マーケティング・集客のポイント
学習塾業界は、大手学習塾チェーン、地域密着型の個人塾、個別指導塾、オンライン型学習塾など、多様な業態が併存しており、保護者や生徒は複数の選択肢を比較しながら塾を選びます。そのため、学習塾経営においては「競合が多い」という事実を前提に、どのような戦略で市場に立つのかを明確にする必要があります。
ここでは、マーケティングや集客を考える上でのポイントをご説明します。
(1) 大手の塾と差別化する
大手学習塾チェーンは、ブランド力や知名度、体系化された教材やカリキュラムを強みとしています。広域での広告展開や合格実績の訴求により、一定の集客力を安定的に確保できる点は大きな優位性です。一方で、指導内容や運営方針が画一的になりやすく、地域ごとの学校事情や個別の学習状況に柔軟に対応することが難しい側面もあります。
これに対して、地域密着型の個人塾や小規模塾は、大手塾と同じ土俵で戦うことは現実的ではありません。経営戦略としては、あえて競争の軸をずらし、異なる価値を提供することが重要になります。具体的には、学校別の定期テスト対策や地域特有の受験情報への対応、保護者との密なコミュニケーションなど、大手には真似しにくい要素を強みとして打ち出す戦略が考えられます。
また、近年はオンライン対応型学習塾の増加により、競合の範囲が地理的に広がっています。従来は「通える距離にある塾」が主な競合でしたが、場所に縛られない比較が行われるようになりました。この結果、価格、指導スタイル、サポート体制といった要素が、よりシビアに比較される環境が生まれています。
【ポジショニングを意識】
こうした競争環境の中で重要になるのが、明確なポジショニングです。
すべての生徒やニーズに対応しようとすると、「どこにでもある塾」になり、価格競争に巻き込まれやすくなります。
経営戦略としては、対象とする学年や学力層、受験の種類、指導スタイルなどを意図的に絞り込み、「どの層にとって最適な塾なのか」を明確にすることが重要です。
競合が多い環境では、安易な値下げによる競争は避けるべきです。
むしろ、価格以外の要素、たとえば学習管理の仕組み、進路指導の質、保護者対応の手厚さといった点で差別化を図ることが、持続的な経営につながります。このように、自塾の業態や立地、経営者の強みを踏まえた上で、明確なポジショニングを設定することが、学習塾を軌道に乗せ、安定的に成長させるために重要です。
(2) 「選ばれる理由」を明確化する
学習塾のマーケティングにおいて重要なのは、「当塾が選ばれる理由」を正しく伝え、それを実際に確認してもらうことです。競合が多い環境では、広告の量や派手さよりも、伝える内容とその一貫性が成果を左右します。
たとえば、「学校別の定期テスト対策に強い」という点を強みとするのであれば、チラシやWebサイトでは、抽象的な指導方針ではなく、具体的な学校名や対策内容を示すことが効果的です。
また「A大学出身の講師が教えるA大学受験対策」といったように、講師のバックグラウンドと指導内容を結びつけて表現することで、特定の受験層に対して明確なメッセージを伝えることができます。
さらに、「部活動と両立しながら成績を伸ばす学習設計」や「学習習慣づくりに特化した小学生向け指導」といった切り口も、対象とする生徒像がはっきりしており、選ばれる理由として効果的な例です。
次に重要なのが、接触回数ごとに役割を分けた情報発信です。最初の接点では、塾の存在と特徴を簡潔に伝え、「誰に向いている塾なのか」を明確に示すことが目的となります。その後、体験授業や説明会、個別面談といった場面では、「なぜその強みがあるのか」「どのように指導が行われるのか」を具体的に説明し、選ばれる理由を深く理解してもらいます。
選ばれる理由は、言葉だけで伝えるのではなく、体験を通じて裏付けることが効果的です。
たとえば、「個別に学習計画を作成すること」を強みとするのであれば、体験授業の段階で簡単な学習プランを提示する、「定期テスト対策に強い」ことを売りにするのであれば、実際のテスト範囲に基づいた対策資料を見せるなど、マーケティングで伝えた内容と実態を一致させることが重要です。
さらに、在籍生徒や保護者の声も、選ばれる理由を補強する重要な要素となります。「同じ学校の先輩が通っていた」「部活と両立できた」「受験校対策が的確だった」といった声は、第三者の視点から塾の価値を伝えます。
このように、マーケティング施策は単なる集客活動ではなく、「なぜこの塾が選ばれているのか」を具体例とともに一貫して伝え、実際に確認してもらうための仕組みにすることを心がけましょう。
(3) 生徒集客のための具体策
学習塾のマーケティングにおいて、生徒集客は重要なテーマですが、やみくもに広告を出しても成果が出るものではありません。
重要なのは、自塾の強みや対象とする生徒像を明確にした上で、地域特性や時期を踏まえた集客手段を選択することです。
【地域密着型集客】
まず基本となるのが、商圏を意識した地域密着型の集客です。
学習塾の場合、多くの生徒は自宅や学校から無理なく通える範囲で塾を選びます。そのため、チラシ配布やポスティングを行う際には、広く配布するのではなく、通塾が想定されるエリアに絞って実施することが効果的です。
次に、体験授業や説明会を起点とした集客は、学習塾において特に有効な手法です。学習塾はサービス内容が事前に分かりにくいため、実際に授業や雰囲気を体験してもらうことが、入塾の判断につながりやすくなります。体験授業では、単に授業を行うだけでなく、塾の指導方針や学習の進め方、他塾との違いが自然に伝わる構成とすることが重要です。
【Web・SNSの活用】
WebやSNSを活用した集客も欠かせません。
塾名や地域名で検索された際に、ホームページや紹介ページが適切に表示され、「どのような生徒に向けた塾なのか」「どのような悩みを解決できるのか」が一目で分かる状態を整えておくことが、問い合わせにつながる前提条件となります。
紙媒体とWebを組み合わせて活用することで、接触機会を増やすことができます。
また、既存生徒や保護者からの紹介は、質の高い集客手段の一つです。
紹介制度を設けることで、新規生徒が自然な形で増えるケースも多く見られます。ただし、紹介は仕組みだけでは機能せず、「人に勧めたくなる塾」であることが前提となります。そのため、入塾後の満足度を高める運営が、集客にもつながります。
【集客のタイミング】
集客は、繁忙期と閑散期を意識することが重要です。
新学期が始まる直前から春にかけての時期は、進級や進学を控えた家庭の動きが活発になり、体験授業や説明会を集中的に行うことで成果が出やすい繁忙期となります。この時期には、チラシ配布やWebでの告知を強化し、入塾までの導線を明確にしておくことが効果的です。
定期テスト前後も重要な集客タイミングです。
テスト前には対策ニーズが高まり、テスト後には結果に対する不安から相談が増えます。こうした時期に合わせて、テスト対策講座や学習相談会を実施することで、具体的な課題解決を提示し、入塾につなげやすくなります。
一方で、夏休み後などは、比較的問い合わせが落ち着く閑散期となりやすい時期です。
この時期に無理に集客を行うよりも、既存生徒の満足度向上や、次の繁忙期に向けた準備期間として位置づけることが現実的です。
このように、生徒集客は、地域特性と年間の動きを踏まえた計画的な取り組みが重要です。繁忙期にしっかりと生徒を集め、閑散期は継続と満足度の向上に注力するというメリハリのある集客計画が、安定した学習塾経営につながります。
(4) 入塾後の満足度を高める運営
学習塾経営において、入塾はゴールではなくスタートです。入塾後の満足度が低ければ、早期退塾や口コミ評価の低下につながり、安定した経営は望めません。
そのため、入塾後に「この塾を選んでよかった」と感じてもらえる運営設計を、あらかじめ仕組みとして整えておくことが重要です。
【初期対応の重要性】
まず重要なのは、入塾直後の初期対応です。入塾時は、生徒本人だけでなく保護者も期待と不安を抱えています。この段階で、学習の進め方や塾のルール、今後の目標をていねいに共有することで、安心感を高めることができます。
初回面談やオリエンテーションを通じて、学習計画の全体像を示すことは、満足度向上の第一歩となります。
【学習進捗度の見える化】
次に、学習の進捗が「見える」仕組みづくりが欠かせません。生徒や保護者が最も不安を感じやすいのは、「今、何ができるようになっているのか」という点です。定期的な小テスト、学習記録の共有、面談などを通じて、成長や課題を可視化することで、納得感を持って通塾を続けてもらいやすくなります。
【保護者とのコミュニケーション】
保護者とのコミュニケーションも満足度に大きく影響します。
学習塾は、生徒本人だけでなく保護者も重要なお客様です。成績の変化や学習態度、今後の方針について、適切なタイミングで情報を共有することで、信頼関係を築くことができます。連絡がない状態が続くと、不安や不満が蓄積しやすくなるため、定期的な報告の仕組みを整えておくことが重要です。
【講師の質】
講師の質も満足度を左右する重要な要素です。
指導力だけでなく、生徒への声かけや接し方、学習意欲を引き出す姿勢が、塾全体の印象を決定づけます。講師ごとの対応にばらつきが出ないよう、指導方針や対応ルールを共有し、一定の水準を保つことが、安定した運営につながります。
さらに、成果が出るまでの「時間差」への配慮も欠かせません。
学習成果はすぐに数字として表れるとは限らず、一定の期間を要することも多くあります。その間に、生徒や保護者が不安を感じないよう、「今は基礎固めの段階」「次のテストでこう変わる」といった説明をていねいに行うことで、納得感を維持することができます。
このように、入塾後の満足度を高める運営とは、特別な施策を追加することではなく、日々の指導やコミュニケーションを仕組みとして整えることです。入塾後の体験をていねいに設計することが、安定した学習塾経営につながります。
(5) 価格設定の考え方
学習塾の価格設定は、集客や競合対策のための施策であると同時に、事業として成り立つかどうかを左右する要因の一つです。周辺相場や指導形式を参考にしながら、安定的に利益を確保できる価格水準とすることが前提です。
まず、価格を決める際には、学習塾の主な費用構造を把握する必要があります。
学習塾の支出の中で大きな割合を占めるのは、講師の人件費です。これに加えて、教室の家賃、光熱費、教材費、広告宣伝費、管理業務にかかるコストなどが発生します。
【月謝の決め方】
月謝は、上記の固定費と変動費をまかなった上で、一定の利益を確保できる水準にする必要があります。
価格水準の検討にあたっては、周辺の学習塾の相場を把握することが重要です。
この際、月謝の金額だけでなく、1コマまたは1時間あたりの単価で比較することで、自塾の立ち位置が明確になります。指導形式によって単価は大きく異なり、一般的には1対1の個別指導が最も高く、1対2、1対3、集団指導の順に単価は低くなる傾向があります。業態に見合わない価格設定は、早期に収支のバランスを崩す要因となります。
【学年による違い】
学年による違いも考慮が必要です。
小学生向けの補習中心の指導と、高校生向けの受験対策では、求められる講師の専門性や指導時間が異なり、人件費にも差が生じます。そのため、学年ごとに適正な価格帯を設定することが重要です。
保護者が負担する費用は月謝だけではありません。
入会金、教材費、試験費用、季節講習費などを含めた年間の総額で判断されるケースがほとんどです。これらの収入は、月謝収入の補完として重要な役割を果たす一方で、過度に依存すると、収入が季節に偏り、資金繰りが不安定になるおそれがあります。月謝を軸とした安定収入を確保しつつ、季節講習費などを補助的に位置づける設計が望まれます。
価格を低く設定しすぎると、生徒数を増やさなければ収支が成り立たず、講師の稼働過多やサービス品質の低下につながりやすくなります。一方で、高価格帯を狙う場合には、少人数でも収支が成り立つ体制を構築するとともに、難関校対策や手厚い学習管理など、明確な付加価値を提供する必要があります。
5.人材確保、教育、組織づくり
学習塾経営において、人材の確保と定着は、事業の成否を左右する重要な要素です。学習塾のサービスは、設備や教材以上に、講師やスタッフの質に大きく依存します。そのため、どのような人材を、どのような形で確保し、長く活躍してもらうかをあらかじめ設計しておくことが重要です。
(1) 自塾に合った人材像の明確化と採用
人材確保の第一歩は「どのような講師がいれば塾の価値が最大化されるのか」を明確にすることです。
学習塾では、単に学力が高い人材を集めればうまくいくわけではありません。対象とする学年、指導の目的、業態によって、求められる講師像は大きく異なります。
たとえば、小学生や中学生を中心とした補習型、定期テスト対策型の塾では、学力以上に生徒との関わり方や継続的な声かけが重要になります。
勉強への苦手意識を持つ生徒も多いため、分かりやすく説明する力だけでなく、学習習慣を定着させるための根気強さや、保護者へのていねいな説明ができるかどうかが評価ポイントになります。
一方で、高校生向けや受験特化型の塾では、担当科目の専門性や受験経験、進路指導に関する知識が講師の価値を左右します。
すべてを高い水準で満たす人材を求めると採用が難しくなるため、どの部分を重視するのかを明確にしておく必要があります。
【大学生講師と社会人講師】
次に検討すべきなのが、大学生講師と社会人講師をどのように組み合わせるかという点です。大学生講師は、柔軟なシフト対応が可能で人件費を抑えやすく、若さや親しみやすさを強みにできる半面、卒業や就職により在籍期間が限られるケースが多くなります。そのため、主要な学年や重要なクラスをすべて大学生講師に任せるのではなく、一定の役割分担を前提とした配置が必要です。
一方、社会人講師や指導経験者を採用する場合には、指導の裁量や継続的な関与ができる環境を整えることが求められます。
授業だけを任せるのか、学習計画や保護者対応まで含めるのかによって、期待される役割や報酬水準も変わってきます。役割が曖昧なまま採用すると、早期離職やトラブルの原因になりやすいため、事前に整理しておくことが重要です。
採用活動においては、募集段階での情報発信も重要なポイントです。
指導内容、担当する学年、勤務時間、求める関わり方などを具体的に示すことで、応募者との認識のズレを減らすことができます。曖昧な表現で広く募集するよりも、塾の方針や働き方を明確に伝えた方が、定着しやすい人材が集まりやすくなります。
このように、学習塾の採用は単に人数を確保するための作業ではなく、塾の方針や経営戦略を体現できる人材を選ぶプロセスです。自塾に合った人材像を明確にし、それに基づいた採用を行うことが、安定した体制づくりの第一歩となります。
(2) 初期育成と指導体制の整備
採用した人材を定着させるためには、採用後の初期育成と継続的なフォロー体制が重要です。
【初期育成段階の留意点】
学習塾では、採用後の数か月間で離職が起こりやすく、この期間の関わり方が定着率を大きく左右します。そのため、採用した講師をいきなり現場に投入するのではなく、段階的に指導に慣れてもらう仕組みを整えておくことが欠かせません。
重要なのは、塾としての指導方針や考え方を共有することです。
授業の進め方だけでなく、生徒への声かけの仕方、保護者対応の基本姿勢、成績が伸び悩んだときの考え方などを、初期段階で具体的に伝えることで、講師の判断基準が明確になります。これにより「この対応で合っているのだろうか」という不安を減らすことができます。
とくに未経験者の場合、離職の大きな原因となるのが、「どこまで自分の判断で進めてよいのか分からない」という状態です。
授業準備の範囲、宿題の出し方、成績が振るわない生徒への対応など、判断に迷いやすい場面については、マニュアルや具体例を用いて共有しておくことが効果的です。
【指導体制の整備】
指導体制の整備という点では、情報共有の仕組みも欠かせません。
生徒の状況や学習の進捗、注意点などを講師間で共有できる環境を整えることで、属人的な対応を防ぎやすくなります。ノートや共有シート、ミーティングなど、塾の規模に合った方法で情報を整理することが重要です。
さらに、講師同士や運営側とのコミュニケーションは、定着化に直結する要素です。定期的なミーティングや面談の場を設けることで、現場で起きている小さな不安や課題を早期に把握しやすくなります。問題が大きくなってから対応するのではなく、「気軽に話せる場」を用意することが、離職防止につながります。
(3) 評価・処遇と働きやすい環境づくり
人材の定着を図るうえで、評価や処遇の考え方は極めて重要な要素となります。
学習塾では、講師の働きぶりが成果として見えにくい場面も多いため、評価の仕組みが曖昧なまま運営すると、不満や不信感が蓄積しやすくなります。単に授業コマ数に応じて報酬を支払うだけではなく、講師がどのような点を評価されているのかを明確にすることが、モチベーションの維持につながります。
評価項目としては、学力向上や成績改善といった結果だけでなく、日々の指導姿勢や生徒への関わり方も含めて考えることが重要です。たとえば、授業準備のていねいさ、宿題や課題への対応、学習状況の把握、保護者への説明や報告など、多岐にわたります。これらを総合的に評価することで、講師は日々の仕事に意味を見出しやすくなります。
処遇面においては、報酬の水準だけでなく、昇給や役割の広がりをどのように示すかも重要なポイントです。一定期間継続して勤務した講師や、指導力が安定している講師に対して、時給の見直しや担当範囲の拡大を行うことで、長く働くメリットを感じてもらいやすくなります。
また、働きやすい環境づくりという観点では、シフトや業務負担のバランスにも注意が必要です。特定の講師に授業や対応が集中すると、疲労や不満が蓄積し、離職リスクが高まります。授業数や業務内容を定期的に見直し、無理のない配置を心がけることが、安定した運営につながります。
6.フランチャイズシステムによる創業の留意点
学習塾の創業においては、フランチャイズ(以下、FC)に加盟して事業を始める方も多くみられます。FC加盟で創業する場合は、以下の点に留意が必要です。
【フランチャイズ方式の特徴】
FC加盟による創業では、ブランド名や看板の使用、教材・カリキュラムの提供、指導方法や運営ノウハウの共有、開業前後の研修、広告・集客に関する支援などを受けられるのが一般的です。これらの仕組みを活用することで、教育業界や経営の経験が浅い場合でも、一定水準の塾を比較的早期に立ち上げやすいというメリットがあります。
一方で、教室運営に関するルールや方針は本部が定めている場合が多く、独自性をどこまで発揮できるか確認が必要です。
【初期費用とランニングコストの確認】
FC加盟の場合、独立開業と比べて初期費用が高くなる傾向があります。加盟金や保証金、研修費などに加え、内装や備品についても本部指定の仕様となるケースがあります。さらに、開業後はロイヤリティやシステム利用料、広告分担金など、継続的に発生する費用がある点にも注意が必要です。
【収支計画上の留意点】
FC本部から提示される収支モデルや成功事例は、あくまで参考値として捉える必要があります。立地条件や地域特性、競合状況、オーナーの経営能力によって、実際の生徒数や売上は大きく変動します。
収支計画では、生徒が計画どおりに集まらなかった場合も想定し、ロイヤリティを含めた固定費を考慮した資金繰りを、自分自身で綿密に計算することが大切です。
【本部の経営状態や信用状況の確認】
FC方式では、教材やシステム、ブランドなど事業の中核部分を本部に依存するため、本部の経営状態や信用状況も重要な判断材料となります。本部が上場企業であれば、決算資料などを通じて財務内容を確認しやすい一方、未上場企業の場合は、外部から経営状況を把握しにくいケースも少なくありません。
そのため、教室数の推移や直営校の有無、説明会での情報開示姿勢などを通じて、本部の安定性を多面的に確認することが重要です。
【契約内容と経営姿勢】
FC契約では、契約期間や更新条件、中途解約時の取り扱い、契約終了後の制限などについても事前に十分確認しておく必要があります。また、FCに加盟していても、最終的な経営責任は加盟者自身にあります。
本部に任せきりにするのではなく、地域の特性や生徒・保護者の声を踏まえ、主体的に運営していく姿勢が不可欠です。
7.資金計画
(1) 資金計画
学習塾を創業するにあたって必要となる資金は、立地、教室規模、業態(集団指導・個別指導・併用型など)によって差はありますが、筆者の経験から見ると、おおむね200万円〜1,500万円程度が一つの目安となります。
自宅開業や小規模な個別指導塾であれば比較的少額で始めることも可能ですが、テナントを借りて複数教室を運営する場合には、初期費用と運転資金を厚めに見積もっておく必要があります。
学習塾は、開業直後から生徒が満席になるケースは少なく、一定期間は赤字や収支トントンの状態が続くことも想定されます。そのため、設備資金だけでなく、運転資金を十分に確保しておくことが重要です。
主な資金の内訳は、以下のとおりです。
【設備資金】
- 物件取得費(教室用テナントの敷金・礼金・保証金など)
- 内装工事費(教室・面談スペース・掲示物等)
- 机、椅子、ホワイトボード等の教室備品
- パソコン、プリンター等の事務機器
- 看板・外装サイン等の設置費用
【運転資金】
- 講師人件費(代表者・講師・スタッフ)
- 広告宣伝費(チラシ、Web、体験授業告知等)
- 賃借料(教室家賃)
- 水道光熱費・通信費
- 教材初期購入費
- 教材追加購入費
- 雑費・消耗品費
とくに運転資金については、開業から生徒数が安定するまでの期間を見込み、少なくとも2〜6か月分程度を確保しておくことが望ましいといえます。
8.収支計画
ここでは、集団指導型学習塾(1教室)を想定した収支計画の例を示します。
集団指導型の学習塾では、講師1人あたりが複数の生徒を指導するため、生徒数が一定規模に達すると収益性が高まりやすいという特徴があります。一方で、教室規模やクラス編成を誤ると、固定費負担が重くなりやすいため、現実的な前提で計画を立てることが重要です。
売上高の算出については、「在籍生徒数×平均月謝単価」で考えるのが基本となります。創業当初から満席を想定するのではなく、段階的に生徒数が増えていく前提で、保守的に見積もることが望まれます。
図表―3 収支計画(集団指導型学習塾)の例
| 科目 | 金額(万円) | 算出根拠等 |
|---|---|---|
| 売上高 | 195 | 生徒65名×月謝3万円 |
| 売上原価 | 19.5 | 教材等 売上高の10% |
| 売上総利益 | 175.5 | (売上高)-(売上原価) |
| 販売費及び一般管理費 | 138.5 | |
| 家賃 | 25 | 25万円/月 |
| 人件費 | 85 | 代表者、従業員1人、アルバイト5名 (代)30万円+従業員25万円+アルバイト@6万×5 =85万円 |
| 広告宣伝費 | 10 | チラシ、ネット広告等 |
| 水道光熱費・通信費 | 7 | 教室運営費 |
| 支払利息 | 1.5 | 借入600万円×年利3%÷12 |
| その他 | 10 | 消耗品費等 |
| 経常利益 | 37 |
【さいごに】
学習塾をはじめとする教育サービスは、子どもたちの学力向上や進路選択を支えるだけでなく、将来の社会を担う人材を育てる重要な役割を担っています。日々の授業や面談、学習は、すぐに成果として見えにくいものですが、その一つひとつが生徒の成長につながり、やがて社会全体の力になっていきます。
少子化の進行や競争の激化、人材確保の難しさなど、学習塾を取り巻く経営環境は決して楽なものではありません。だからこそ、場当たり的な運営ではなく、業態の選択、価格設定、集客、そして人材育成や資金計画までを含めた、腰を据えた経営が求められます。
学習塾は、単に教える場ではなく、「学ぶ習慣をつくり、生徒の未来への選択肢を広げる場」です。地域や生徒の実情に向き合いながら、自塾ならではの価値をていねいに積み重ねていくことで、長く必要とされる存在になることができます。
掲載日 令和8年1月31日
■プロフィール
上野 光夫
中小企業診断士・大正大学招聘教授。
九州大学を卒業後、日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)に26年間勤務し、主に中小企業への融資審査の業務に携わる。約3万社の中小企業と約5,000名の起業家への融資を担当した。
2011年にコンサルタントとして独立。起業支援、財務コンサルティングを行うほか、講演、執筆などの活動を行っている。
主な著書に『事業計画書は1枚にまとめなさい』(ダイヤモンド社)がある。
日本最大級の起業家支援プラットフォーム「DREAM GATE」において、アドバイザーランキング「資金調達部門」で8年連続して第1位を獲得。
会社HP:https://mmconsulting.jp/
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@mkeiei