Vol.9

ネイルサロンの創業ポイント

ネイルサロンの創業のポイント

1.業種の概要

ネイルサロンは、日本では比較的新しい業態ですが、近年急速に定着し、多様な形態で広がりを見せています。かつては「マニキュアは特別な日の装い」という位置付けでしたが、今ではジェルネイルやフットケアを含め、日常的な身だしなみや自己表現の手段として広く利用されています。
NPO法人日本ネイリスト協会の推計によれば、国内のネイル関連市場はおおよそ2,000億円規模に達しており、エステサロンや美容室と並び、生活サービスの一角を担うまでになっています。
利用者は20代〜40代の女性を中心に、オフィスワーカーから主婦層、さらにはシニア層にまで広がっています。加えて、男性の利用も徐々に増えており、特に「身だしなみ」としてのハンドケアやフットケアを取り入れるビジネスマンも見られるようになりました。
ネイルサロンを開業する人の多くは、数年間サロン勤務や業務委託として経験を積んだ後に独立するケースが大半です。勤務時代に技術を磨きながらお客様との信頼関係を築き、自分を指名してくれるお客様を一定数抱えた状態で開業するのが王道パターンです。
こうした「勤務から独立」への流れは、理美容業界全般に共通していますが、ネイルサロンの場合は特にお客様のロイヤルティ(継続利用意向)が高いため、勤務時代のお客様がそのまま独立後の基盤になるといえます。
一方で、市場にはリスクも存在します。ネイルサロンは国家資格が不要で、参入障壁が低いことから開業数が多く、競争が激化しています。都市部では駅前や商業施設内に複数のサロンが乱立し、価格競争に陥るケースも目立ちます。

ネイルサロンの市場動向

市場動向の特徴を整理すると以下の通りです。

① 利用頻度

1.5〜2か月に1回で、美容室の「月1回カット・カラー」に比べると低いといえます。

② 平均客単価

ジェルネイルで6,000〜8,000円、アート込みでは1万円を超える場合もあります。

③ 顧客層

20〜40代の女性が中心ですが、ハンドケアやフットケア需要によりシニア層や男性顧客も増加しています。

④ 立地条件

【都市型サロン】

都市型サロンでは、高い家賃や競合の多さが課題となる一方、次のような特徴があります。

  • ショッピングモールなど人通りの多い場所では、立地そのものが集客力となり、プレミアムな価格設定が可能となります。
  • Google マップなどで「ネイルサロン ○○駅近く」などと検索されやすく、検索結果で上位に表示されやすいというSEO面での強みがあります。
  • 高層オフィス街や観光地に近い都市部では、最新のトレンド志向や多様な顧客ニーズに応えやすく、サービスに高付加価値をつけやすいといえます。
【郊外型サロン】

郊外型サロンには次のような特徴があります。

  • 家賃が比較的抑えられ、経営の安定化が図りやすいです。
  • 地域密着型の運営が容易で、ロイヤルカスタマーを育成しやすく、リピーター率が高い傾向が見られます。
  • 都心部のような最先端のトレンドを求められる環境ではなく、「日常使い」「癒し」「安心感のあるサービス」が求められます。

ネイルサロンは「低コストで参入しやすい一方、継続的な新規顧客の確保が難しい」という二面性を持っています。 創業時には自分の経験や強みを生かし、どの市場でどの顧客層を狙うかを明確にすることが重要です。

2.必要な許認可・資格と衛生管理

ネイルサロンの大きな特徴は、理容師や美容師のような国家資格が不要であることです。これは参入障壁を低くしていますが、その一方で「無資格でも始められるからこそ、信頼を得るためには民間資格の活用が重要」という側面があります。

(1)民間資格

業界で広く認知されているのが、公益社団法人日本ネイリスト検定試験センター(JNEC)が実施する「ネイリスト技能検定試験」や、NPO法人日本ネイリスト協会(JNA)が実施する「JNAジェルネイル技能検定」です。これらの資格を持っていることは、お客様に安心感を与えるだけでなく、スタッフ採用などの場面でも「技術と信頼性の証明」として有効です。

(2)衛生管理

爪は小さな傷がつきやすく、施術器具の消毒を怠れば感染症リスクがあります。そのため、衛生管理に関する知識をもっておくことが不可欠です。

(3)留意点

ネイルそのものは美容師法の規制対象外ですが、まつ毛エクステンションも提供する場合は美容師免許が必須です。複合サロンを計画する場合は、許認可等の必要有無について事前に保健所へ確認する必要があります。また、消毒や感染症対策に関する一般的な衛生指導は保健所が担っており、開業時に相談しておくと安心です。

3.商品・サービスとセールスポイント

(1)商品・サービス

ネイルサロンで提供されるメニューは非常に多様ですが、大きく分けると次のような施術があります。これらを組み合わせながら、ターゲット顧客に合わせたメニュー構成を考えることが重要です。

①ジェルネイル 現在の主流で、ライトで硬化させることで「持ちの良さ」と「ツヤ感」を両立します。シンプル系からアート系まで幅広く展開でき、リピーター率が高い定番メニューです。
②マニキュア(ポリッシュ) 価格が手頃で気軽に楽しめる一方、持ちは1週間前後と短めです。学生やイベント用のニーズに根強く、サロンでは「お試し」「セルフケア補助」的位置付けです。
③スカルプチュア(アクリルネイル) 人工的に爪を形成する技法で、長さ出しや特殊アートに強く、華やかさを求めるお客様やブライダル需要に適しています。高い技術が必要なため、サロンの差別化メニューになります。
④ネイルチップ 着脱可能なチップを作成するメニューで、日常的にネイルができない職業の方や、結婚式などイベント用に人気です。オーダーメイドやEC販売と組み合わせれば新たな収益源にもなります。
⑤マグネットネイル 専用パウダーを使い、磁石で模様を作り出すトレンドデザインで、光の角度で見え方が変化するため「奥行き感」が魅力です。SNS映えすることから、若年層を中心に人気を集めています。
⑥ミラーネイル メタリックパウダーを使った、鏡のような輝きを持つ存在感が強いデザインで、夜のシーンやイベント需要が高いのが特徴です。ファッション志向の高い層に支持されています。
⑦ ワンホンネイル 中国のインフルエンサー発のデザインで、透明感、華やかさを演出し、ストーンなどを組み合わせるのが特徴です。アジア発のトレンドとして近年日本でも人気が急上昇しており、流行に敏感な顧客層への訴求に有効です。
図表-1 ネイルサロンのメニュー例

(2)差別化

他店と差別化するための視点として、これらの施術を幅広く扱うのも一つの戦略ですが、競合が多い中で重要なのは 「何を強みに据えるか」ということです。

  • ジェル・ワンホンネイル中心でトレンド特化
  • スカルプ・ネイルチップでブライダル需要特化
  • マニキュア・フットケアでシニア層や学生層に対応

といったように、ターゲット顧客のニーズに合わせてサービス構成を絞ることで、価格競争から抜け出しやすくなります。

4.コンセプトとターゲット選定

(1)コンセプト

ネイルサロンを開業する際に 最も重要なのは「どんなお客様に、どんな価値を提供するか」を明確にすることです。 これがサロンのコンセプトであり、経営理念やサービス設計、価格設定、人材採用に至るまで一貫性を持たせることにつながります。

コンセプトタイプ 特徴・施策内容 主なターゲット層 強み

オフィスワーカー特化型

・短時間施術・シンプルデザイン・清潔感重視
・仕事帰りに30分で整えられる利便性を訴求
・20〜30代OL
・ビジネス層
・利便性
・清潔感
・リピートしやすさ

トレンドファッション型

・最新アート・カラーを発信
・Instagram・TikTokで集客
・モデルやインフルエンサーと連携
・流行に敏感な10〜20代女性 ・トレンド発信力
・SNS集客力

リラクゼーション型

・アロマやマッサージを導入し「癒しの時間」を提供
・ストレスケアを重視
・30〜40代女性
・主婦層
・癒し
・リラックス
・リピート安定

シニア・健康志向型

・巻き爪ケア、フットケアに特化
・医療機関・介護施設と連携
・健康と美容を両立
・50代以上
・シニア層 ・健康志向
・専門性
・信頼感

低価格・回転型

・セルフオフ導入
・シンプルデザインに特化
・短時間・低料金で回転率を重視
・学生
・若年層
・価格志向の層
・低価格
・スピード
・数で売上確保
図表―2 ネイルサロンのコンセプト例

(2)ターゲットの絞り込みが成功のカギ

ターゲットを設定するにあたり、失敗しがちな一例として「20代〜60代女性まで幅広く」というような設定が挙げられます。一見すると顧客層が広いように思えますが、実際には「誰のためのサロンか」が伝わらず、価格以外で選ばれにくくなります。
効果的なのはターゲットを絞ることです。

【ターゲット例】

①年齢・ライフスタイル

20代独身OL、30代共働きママ、50代シニア層

②利用目的

仕事用の身だしなみ、トレンド消費、リラクゼーション、健康ケア

③時間帯

仕事帰り、平日昼間、休日午前

④価格志向

高単価ラグジュアリー、低価格カジュアル
例を挙げると「○○駅周辺に住む共働き子育て中の30代ママが、お子さんと一緒に安心して通えるサロン」

こうした具体的なターゲット設定が、競合との差別化を生みます。

5.マーケティング・集客の手法

どんなに優れた技術を持っていても、顧客に認知されなければ来店はありません。ネイルサロンは非常に数が多く競争が激しいため、情報発信力が経営の生命線となります。

(1)SNSの活用

ネイルサロンと相性が良いSNSの代表例は Instagram です。

①写真投稿

デザイン事例を蓄積しましょう。お客様は「自分がやりたいデザイン」を探すため、見映えする写真が決め手になります。

②ハッシュタグ

「#オフィスネイル」「#フットケア」「#シンプルネイル」などで検索流入を狙います。

③リール動画

施術のビフォーアフターや流行デザインの紹介を短時間で拡散します。

④ストーリーズ

当日の空き枠案内やキャンペーン告知に即効性があります。

Instagram以外にもTikTokやYouTubeも有効です。「セルフネイルのコツ」「トレンド紹介」を解説する動画は、潜在顧客の関心を高め、ファンづくりにつながります。

(2)サロン検索サイトの活用

ネイルサロンの集客において、サロン検索サイトは必須といえます。
とりわけ「ホットペッパービューティー」は、美容室、エステ、ネイルの分野で国内最大規模のユーザーを抱えており、初めてサロンを探すお客様の多くが利用しています。
検索サイトの強みは以下のとおりです。

【新規顧客の入口としての集客力】

「ネイル ○○駅」と検索すると上位に表示されるため、見込み顧客が最初に訪れるサイトになる可能性が高いといえます。

①口コミ・レビュー機能

来店されたお客様の評価が次の集客につながります。信頼性が高く、価格だけでなく雰囲気や接客サービスを知りたいときに利用されます。

②予約システムとの連動

24時間ネット予約が可能で、空き枠が自動更新されるため、お客様にとって利便性が高い仕組みです。

【サロン検索サイトのメリットとデメリット】

サロン検索サイトを活用する際は、メリットとデメリットがあることも念頭に置いておきましょう。

~メリット~
  • 開業初期でもすぐに集客ができます。
  • 自社サイトを持っていなくても最低限のWeb集客が可能です。
  • キャンペーンやクーポン機能によって「お試し来店」を促すことができます。
~デメリット~
  • 掲載費用が高い(プランによって月数万円〜数十万円程度)。
  • 価格競争に巻き込まれやすく、新規集客がクーポン頼みになりやすい傾向があります。
  • 口コミ管理に一定の手間がかかります。

【検索サイト活用のポイント】

サロン検索サイトは「新規集客の窓口」として活用し、そこからリピーターへつなげる戦略が必要です。
初回来店はクーポンで誘致し、2回目以降は自社のLINE公式アカウントや次回予約制度に誘導するほか、サロン検索サイトに投稿される口コミも重視し、来店後には必ずレビューを書いていただけるよう工夫します。
また、掲載する写真やプロフィール、メニュー説明は手を抜かず、「このサロンでなければ」と思っていただける印象づくりを心がけましょう。

(3)公式サイトとSEO対策

効果的な集客のためには、検索で見つかる自社サイトは必須の存在です。サロン検索サイトに依存するだけでは、価格競争に巻き込まれがちです。
自社サイトにブログ記事をアップして「ジェルネイルの持ちを良くする方法」「巻き爪ケアの基礎知識」など役立つ情報を発信し、SEO効果を高めましょう。
LP(ランディングページ)として「フットネイル専門」「オフィスネイル特化」など、強みを打ち出した単独ページを作るのも有効です。

(4)地域密着型の営業施策

上述のデジタル施策に加え、 地域密着型の営業活動も重要です。 開業時のポスティングや新聞の折込チラシは依然として有効です。特に住宅街やオフィス街では、「近くに新しいサロンができた」という認知を広げることが第一歩になります。

(5)口コミと紹介制度

美容サービス業は口コミの影響が非常に大きい分野です。来店客に紹介カードを渡し、紹介者・新規客双方に特典を付与する方法や、「友人とペアで来店すると割引」という仕組みをつくるのも有効です。
口コミは「信頼できる友人の推薦」という強力な集客手段となり、広告費をかけずに新規顧客を獲得できます。

6.リピーター戦略

ネイルサロン経営を安定させる最大のカギはリピーターの確保です。新規集客には広告費がかかりますが、既存顧客の継続利用はコストが低く、利益率の向上に直結します。
ネイルサロン開業者の多くは勤務時代や業務委託時代に顧客を確保しており、その固定客が独立後も継続して来店することが多いものです。 独立初期から安定した売上を確保するためには、勤務時代にどれだけお客様から信頼を得られるかが極めて重要です。

(1)初回来店からの工夫

丁寧なカウンセリングで「どんな場面で使うネイルか」「普段のライフスタイルはどうか」を聞き取り、最適な提案を行いましょう。
施術後に「持ちを良くするケア方法」を説明し、LINEでアフターフォローを送信しましょう。
初回特典として「次回予約割引」や「ケア用品プレゼント」を用意し、再来店につなげます。

(2)ミスマッチを防ぐ情報発信

お客様が「思っていたのと違う」と感じるとリピートは望めません。店の雰囲気、価格帯、得意なデザインを事前にHPやSNSで発信し、来店前に期待値を調整することが大切です。

(3)顧客満足度を高める仕組み

①カルテ管理

過去の施術内容・会話内容を記録し、次回に反映しましょう。

②特典やイベント

誕生日特典、季節ごとのデザインフェアなどで来店意欲を刺激します。

③VIP制度

長期利用のお客様に限定特典やギフトを用意し、ロイヤルカスタマー化を促進します。

(4)失客を防ぐ対応

お客様が不満を感じる要因は、些細なことがきっかけです。例えば、
・予約時間通りに案内できるか
・料金体系が明確か
・提案がマンネリ化していないか
・接客の距離感が適切か
これらを継続的に改善する姿勢が、最終的にリピート率の高さにつながります。

7.人材確保と教育・組織づくり

(1)ネイルサロンにおける人材の特殊性

ネイルサロンは「技術職」であると同時に「接客業」でもあります。お客様は技術の高さだけではなく、施術中の会話や雰囲気づくりにも大きな価値を感じています。したがって人材確保は、単に資格を持っている人を採用するだけでは十分ではなく、「接客力」や「共感力」を持ったスタッフをどう確保するかが大きな課題となります。

(2)創業初期の人材確保方法

多くのネイルサロン経営者は、まずは自分ひとり、または創業者+1人という少人数体制でスタートします。その理由は、開業直後は集客が安定せず、人件費を抱えるリスクが大きいからです。しかし、勤務時代からのお客様がついている場合は、最初からある程度の売上を確保できるため、補助的な人材を雇用するケースも見られます。
人材確保の具体的方法には以下のようなものがあります。

①勤務時代の同僚や後輩を誘う

信頼関係があるため、最初の立ち上げメンバーとして協力してもらいやすいといえます。

②SNSで発信し「働きたい」と思わせる

開業準備の過程をInstagramなどで発信すると、サロンの理念や雰囲気に共感したネイリストから「一緒に働きたい」と連絡が来るケースがあります。

③ 求人広告や専門学校との連携

ネイルスクールの求人掲示板に掲載する方法は有効ですが、新卒人材は即戦力になりにくいため、一定の教育が必要であることを前提に採用する必要があります。

(3)人材定着のための工夫

美容業界全般にいえることですが、離職率は比較的高い傾向にあります。これは「給与水準が低い」「労働時間が不規則」「キャリアの見通しが立てにくい」といった要因によります。定着率を高めるためには、以下のような工夫が欠かせません。

①給与体系の工夫

完全歩合制の場合、売り上げに見合わない高い人件費を抱えるリスクが低いですが、スタッフの収入が不安定になり離職率が高まります。固定給+歩合のハイブリッド型にすることで、安心感とやる気を両立できます。

②教育制度の整備

新しい技術やデザインを学ぶ研修機会を提供することで、スタッフの成長意欲を満たしましょう。講師を招いて指導してもらうほか、外部セミナー参加費を補助することなども有効です。

③キャリアパスの提示

「店長」「チーフネイリスト」「独立支援」など明確な将来像を提示することで、長く働くモチベーションを高めましょう。

④理念の共有

お店のコンセプトやビジョンを採用段階から丁寧に伝え、共感を得られる人材を採用します。価値観が合わない人材は早期に離職するリスクが高いためです。

8.資金計画

(1)開業に必要な資金の全体像

ネイルサロンは美容院に比べると開業資金が少なく済むとはいえ、軽視は禁物です。特にテナント型で開業する場合は内装費用が大きくかかります。一般的に必要な資金は以下の通りです。

【設備資金】

①店舗取得費

敷金・保証金・礼金・仲介手数料など。都心では100万円以上になることもあります。

②内装工事費

凝ったデザインにする場合、100万〜300万円ほどかかることもあります。

③機材購入費

施術チェア、集塵機、ライト、什器備品などで50万〜100万円です。

【運転資金】

家賃、人件費、材料費、光熱費、通信費などは最低でも3か月分(=50万〜100万円)。加えて、開業時のチラシ、Web広告、キャンペーン費用の広告宣伝費として10万〜30万円程度かかると見積もっておきましょう。
設備資金と運転資金を合計すると、テナント開業の場合は 300〜700万円程度が必要と想定されます。自宅サロン型なら100万円前後でも可能ですが、信用力や集客力は限定されます。

(2)資金計画のポイント

ネイルサロンは単価が低めで回転率も限られるため、開業後しばらくは売上が安定しません。そのため 「運転資金の確保」が最も重要です。初期費用を抑えることに注力するよりも、むしろ「売上が立つまで数か月間を乗り切れる資金」を確保しておくことが成功の条件です。

9.収支計画

(1)売上モデル

ネイルサロンの売上は「客単価×客数」で計算します。コンセプトや立地条件によりますが、客単価別に概算すると以下のようなモデルが想定されます。

①標準型サロン

客単価:6,500円
客数:1日4人 × 25日稼働 = 100人
売上:月65万円

②低価格回転型サロン

客単価:4,500円
客数:1日6人 × 26日稼働 = 156人
売上:月70万円

③ 高単価ラグジュアリー型サロン

客単価:10,000円
客数:1日3人 × 24日稼働 = 72人
売上:月72万円

(2)費用構造の目安

  • 家賃:15〜25万円(都市部テナント)
  • 人件費:8~10万円(パートスタッフ1名雇用時)
  • 材料費:売上の10〜15%
  • 広告費:売上の5〜10%
  • 光熱費・雑費:5万円前後

これらを考慮すると、月商70万円のサロンで営業利益を出すには、固定費を抑えることが最大のポイントになります。とくに開業初期は、無理に広い店舗を借りず、小規模、少人数で始めるのが現実的です。

科目 金額(万円) 算出根拠等
売上高 86.4 【平日(月曜定休)】
・9,000円×3人×17日=45.9万円
【土日】
・9,000円×5人×9日=40.5万円
【合計】86.4万円
(立地条件と勤務時の経験を考慮して予測)
売上原価 8.6 ・原価率10%
売上総利益 77.8 (売上高)-(売上原価)
販売費及び一般管理費 37 家賃~その他の合計
家賃 12 12万円/月
人件費 8 パート1人
広告宣伝費 10 ホットペッパービューティー掲載料等
支払利息 1 借入500万×利率2.3%÷12か月
その他6水道光熱費・消耗品費・通信費など
利益 40.8
図表―3 ネイルサロンの収支計画例

さいごに

ネイルサロンは始めやすい反面、淘汰のスピードが速い業種です。成功のためには、以下の3つの観点が欠かせません。

①明確なコンセプト設計

「誰に、どんな価値を提供するか」を徹底的に言語化し、それに基づいて店舗、価格、サービスを設計しましょう。

②情報発信とお客様体験の一貫性

SNS、HP、チラシなど、すべてのお客様接点で同じメッセージを発信し、来店からリピートまでの流れを組み立てます。

③経営者としての視点

技術者としての腕前だけではなく、経営戦略、マーケティング、数値管理といった「経営者マインド」を持つことが不可欠です。
特に大切なのは、勤務時代から指名してくれていたお客様との関係を大事にすることです。
ネイルサロン開業者の多くは、この「固定客を持って独立する」という流れで成功しています。ゼロからの集客は時間と費用がかかりますが、「ファン」といえるお客様が多ければ開業初月から安定した売上を確保できます。
ネイルは単なる装飾ではなく、お客様にとって自己表現であり、心の癒しでもあります。その価値を理解し、一人ひとりのお客様体験をていねいに実現していくことが、繁盛サロンへの道につながります。

掲載日 令和7年9月30日

■プロフィール

上野 光夫

上野 光夫

中小企業診断士・大正大学招聘教授。
九州大学を卒業後、日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)に26年間勤務し、主に中小企業への融資審査の業務に携わる。約3万社の中小企業と約5,000名の起業家への融資を担当した。
2011年にコンサルタントとして独立。起業支援、財務コンサルティングを行うほか、講演、執筆などの活動を行っている。
主な著書に『事業計画書は1枚にまとめなさい』(ダイヤモンド社)がある。
日本最大級の起業家支援プラットフォーム「DREAM GATE」において、アドバイザーランキング「資金調達部門」で8年連続して第1位を獲得。

会社HP:https://mmconsulting.jp/
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@mkeiei