業種別の創業ポイント集

Vol.5 アパレル小売業の創業のポイント

Vol.5

アパレル小売業の創業のポイント

1.業種の概要

今回は、アパレル小売業にスポットをあて、創業のポイントを解説していきます。
アパレルとは英語でApparelと表記し、衣服、服装、衣料、装飾を意味します。
アパレル小売業は「アパレルショップ」や「セレクトショップ」などと呼ばれ、主にファッション性の高い服や服飾雑貨、靴、アクセサリーなど多種類の商品を販売している店が多くみられます。

【競合激しいレッドオーシャン】
アパレル小売業は、百貨店や量販店、専門店、ファッションビル、ショッピングセンターなど、多種多様な業態が存在します。また、ブランドも海外の高級ブランドがある一方で、「ファストファッション」と呼ばれるZARA、H&M、UNIQLOといった大手ブランドが低価格で幅広い消費者層を確保しています。
商品さえ用意すれば事業を開始できるという参入障壁の低さから、大小さまざまな事業者が存在しており、アパレル小売業の市場は競合が激しい「レッドオーシャン」であるといえます。

【衣料品等の国内市場規模はコロナ禍で停滞】
経済産業省が2024年9月に発表している『繊維産業の現状と政策について』によると以下の記載があります(図表-1)。

  • 衣料品等の国内市場規模は、1990年代に入り減少傾向だったが、2000年代以降は横ばいの状況。
  • 2020年以降は新型コロナの感染拡大による外出自粛の影響を受け国内市場規模は減少したものの、2022年でもコロナ前までの市場規模まで回復していない。

衣料品等の国内市場規模推移

図表-1 衣料品等の国内市場規模推移

図表-1 衣料品等の国内市場規模推移
出所:経済産業省「繊維産業の現状と政策について」2024年9月
資料:経済産業省「商業動態統計調査」|(2022)
※織物・衣服・身の回り品小売業の推移

【ECの拡大とオムニチャネルの展開】
アパレル小売業は、EC(ネット通販等)による販売が拡大しているのも特徴です。
経済産業省の資料『令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書』によると、衣類・服装雑貨等のECの市場規模は、2023年は2022年に対して4.76%増加しています(図表-2)。また「EC化率」(すべての商取引金額に対するEC 市場規模の割合)は22.88%で、物販系分野の平均値9.38%を上回っています。

分類 2022年 2023年
市場規模
(億円)
※下段:前年比
EC化率 市場規模
(億円)
※下段:前年比
EC化率
① 食品、飲料、酒類 27,505
(9.15%増)
4.16% 29,299
(6.52%増)
4.29%
② 生活家電、AV機器、PC・周辺機器等 25,528
(3.84%増)
42.01% 26,838
(5.13%増)
42.88%
③ 書籍、映像、音楽ソフト 18,222
(4.02%増)
52.16% 18,867
(3.54%増)
53.45%
④ 化粧品、医薬品 9,191
(7.48%増)
8.24% 9,709
(5.64%増)
8.57%
⑤ 生活雑貨、家具、インテリア 23,541
(3.47%増)
29.59% 24,721
(5.01%増)
31.54%
⑥ 衣類・服飾雑貨等 25,499
(5.02%増)
21.56% 26,712
(4.76%増)
22.88%
⑦ 自動車、自動二輪車、パーツ等 3,183
(5.55%増)
3.98% 3,223
(1.26%増)
3.64%
⑧ その他 7,327
(5.22%増)
1.89% 7,391
(0.87%増)
1.91%
合計 139,997
(5.37%増)
9.13% 146,760
(4.83%増)
9.38%

※横スクロールできます。 図表-2 物販系分野のBtoC-EC 市場規模
出所:経済産業省『令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書』

さらに、大手アパレル企業では「オムニチャネル」と呼ばれる販売戦略が展開されています。オムニチャネルとは、実店舗、オンラインストア、アプリ、SNSなど、複数の販売チャネルを統合し、顧客に対して一貫したアプローチを行う戦略です。
たとえば、顧客がオンラインで商品を購入し実店舗で受け取る、実店舗で商品を確認しその場でオンライン注文できるなど、スムーズな購買につなげる方法です。

【環境配意の取り組み】
アパレル業界では、衣料品の大量廃棄問題などから、環境への配意が強く求められるようになっています。
経済産業省からは『繊維・アパレル産業における環境配慮情報開示ガイドライン』が発表され、持続可能な繊維産業のための環境配意の項目が明記されています。
アパレル小売業を創業する際には、サステナビリティ(持続可能性)、エシカルファッション(倫理的・道徳的なファッション)といったキーワードを念頭に置くべきといえます。

2.必要な許認可等

アパレル小売業を行う場合に必要な許認可は限定的ですが、以下について留意しましょう。

(1)古物商許可

古着や中古品を取り扱う場合は、インターネット通販でも「公安委員会の古物商許可」を取得する必要があります。事業を行う予定の営業所を管轄している警察署へ申請書類を提出します。
申請書類や方法は、事前に警察署へ相談しておきましょう。

(2)特定商取引法への対応

これは許認可ではありませんが、通信販売(インターネット通販等)を行う場合は「特定商取引法」の対象となるので、適切に対応する必要があります。
消費者庁のサイト「特定商取引法ガイド」を確認しましょう。

3.事業を軌道に乗せるターゲティングのポイント

(1)明確な店舗コンセプトが不可欠

アパレル小売業は、競合が激しいばかりではなく、ファッションの流行の変化、顧客ニーズの多様化など、創業企業が事業を軌道に乗せるにはハードルが高い経営環境にあるといえます。
しかし、ターゲットとする顧客を絞り込み、大手企業にはないコンセプトを構築することで成功している店は少なくありません。また、ネットやSNSを活用することで、ファンを確保している店やブランドもみられます。
アパレル小売業を創業して「将来は大企業に成長する」と大きなビジョンを掲げてもいいですが、達成するのは至難の業です。
最初は小さいショップであっても、明確なコンセプトを構築して、共感して商品を買ってくれるお客様を少しずつ増やしていくことが、事業を軌道に乗せるためには不可欠です。ぜひご自身が培ってきたスキル・ノウハウを生かして、明確な店舗コンセプトを構築してください。

(2)コンセプト構築のヒント

店舗コンセプトを考える際の切り口の例を挙げると、以下のようなものが挙げられます。これらは、実在するアパレル小売業のコンセプトに基づいて例示しています。

【店主のセンスが光る品揃え】
よく「セレクトショップ」といわれますが、店主のセンスや世界観により独自に仕入れた商品を販売するスタイルです。
かつては、メーカーやブランドを重視して商品を選ぶ店が多かったのですが、ネットでほとんどのブランドが買える今の時代では、それだけでは不十分です。繁盛している店舗は、店主が独自の仕入先を確保しています。
若者向けのスポーティな商品を店舗とネット通販で売っているA社は、日本では出回っていないブランドを海外(アメリカ、台湾、香港、フランス等)から仕入れて販売しています。店主のセンスを活かし、まだ無名の若手デザイナーを発掘して商品を展開しているのも特徴です。

【リサイクル素材やエシカルファッション】
SDGsや繊維の環境配意への関心の高まりから、リサイクル素材を使用した商品やエシカルファッションをキーワードに展開している店舗もみられます。
B社は、古着をリサイクルして、新たなデザインの服や雑貨を販売しています。リサイクル素材を活用してデザイン性の高い商品にリメイクするのが特長です。
実際に、廃棄される生地を活用してオリジナル商品の「ベスト」、「オーバーオール」、「セットアップ」をつくり販売しているお店もあります。
こうしたコンセプトの店舗は、環境への配意を強調するだけではなく、ファッション性の高い商品でお客様を増やしています。

【自然素材・伝統工芸・手作り】
これもSDGsや環境配意に関係するコンセプトですが、オーガニックコットンやリネンなど、自然素材や天然素材にこだわった商品を販売する店舗です。環境への配意のほか、アレルギーや肌が弱いといった悩みをもつ消費者に好まれます。
また、全国には衰退しつつある伝統工芸が数多く存在します。伝統工芸を生かして現代の消費者ニーズに合わせた商品を販売することで、国内外のファンを増やしている店もあります。
さらに「手作り」も魅力の一つになります。たとえば「手作りレザーアイテム」「手染めの生地」「ハンドメイド雑貨」といった店もみられます。

【オーダーメード】
オーダーメードといえば昔からスーツがポピュラーですが、今や、靴、アクセサリー、眼鏡など多くのファッションアイテムをオーダーできる店舗が存在します。
ネットで手軽にオーダー服が注文できるサービスがある一方で、昔ながらの方法で細かく採寸して生地やボタンなどの要望を聞いて製作する店舗もあります。
また、オーダースーツを従来よりも安く早く仕上げる方法を構築し、多店舗展開している企業もみられます。
オーダーメードは旧来型の店舗は低迷しているものの、パーソナライズされた服への需要は根強いものがあります。

【高品質・高価格品】
小規模なアパレル小売業が生き残る策として、他者にはない高品質・高価格品を販売することが考えられます。 物価高で高価格な商品が敬遠される昨今ですが、高品質で使用感がよく長持ちするものであれば、高価格でも購入する消費者は存在します。
靴下の製造販売を行っているC社は、高級コットンやカシミヤを使用した1足3,000円以上する靴下を販売して、多くのファンを確保しています。

【ファッション×○○】
ファッションと他のキーワードを掛け合わせたコンセプトの商品を展開する店舗もあります。
たとえば「ファッション×アート」「ファッション×アウトドア」「ファッション×社会課題」などです。
D社は、「アメリカンカジュアル」と地域資源である「故郷を流れる木曽三川の釣り」を融合させたブランドを開発しています。
また、F社は、左右の足のサイズが異なる人や、足が不自由な患者さん向けにシューズの片足販売(片方ずつシューズが買えるサービス)を行っています。社会課題を解決するファッションアイテムといえます。
このように「ファッション」(アパレル)と他のキーワードを掛け合わせたコンセプトで商品を販売することで、独自性が際立つ店舗を生み出せる可能性があります。

以上、コンセプトの例を挙げましたが、これ以外にも多岐に渡る切り口が考えられます。アパレル小売業は競合が激しい業界のため、事業を繁栄させるには、顧客ターゲットを絞ったコンセプトを練り上げることが重要です。日本政策金融公庫の「-story-全国創業事例集」では、全国の多様なお店が取り上げられていますので、店舗コンセプトを考える上での参考にしてみてください。

4.ビジネスモデルとマーケティング

(1)ビジネスモデルを構築

お客様にとって魅力的なコンセプトを検討する際に、欠かせないのがビジネスモデルの構築です。
本稿では、ビジネスモデルを「誰に、何を、どのように、付加価値をつけて、収益を生み出すかのビジネスの仕組み」と定義しています。
特に、どんな商品をどのように揃えるかが、第一の課題です。
例えば「高品質な靴下を売りたい」と考えたとしたら、まず誰が買ってくれるのか、ターゲットとする顧客像を明確にします。
また、どこから仕入れたらいいのか、自社で製造するのか、という課題も解決しなければなりません。
他店が扱っていない商品であれば、独自の仕入ルート、製造委託先などを開拓します。材料をどうするか、原価はどれくらいか、販売価格をどうするかなど、細かく組み立てる必要があります。

(2)マーケティング計画を策定し実施

これもビジネスモデルの一つの要素ですが、マーケティングも検討しましょう。
ブランドや商品が、ターゲットとする顧客層に対して訴求できるように、マーケティングの計画を策定します。
実店舗を中心に、ホームページ、通販サイト、SNSなどをフル活用して、自店のブランドや商品に目を向けてくれるお客様を確保しましょう。
独自ブランドを展開しようとする店舗も多いですが、その際は、ブランドのコンセプトや世界観を言葉にすることが重要です。
「商品の実物や画像を見てくれたら分かってもらえる」と思う経営者が多いですが、残念ながら見ただけで商品を気に入ってくれる消費者は少ないのが実態です。ブランドや商品のコンセプト、想いやストーリー、製造過程のこだわりなどを、言葉にしてホームページやSNSで表現することで、顧客の購買意欲をかき立てる可能性が高まります。

(3)EC(ネットショップ)構築のポイント

アパレル小売業では、実店舗とネットショップを並行して運営している店舗が増えています。
Amazonや楽天市場など大手プラットフォームに出品する方法のほか、STORESやカラーミーショップなど、ネットショップ構築サービスで独自のサイトを開設する方法もあります。通常、独自のサイトをシステム会社に制作依頼すると、高額の投資が必要になりますが、ネットショップ構築サービスを利用すると比較的低料金で開設可能です。
しかし、他の多くの業種と同様に、ネットショップを開設しただけでは、訪問客数は少なくほとんど売れません。集客のための情報発信が不可欠です。方法としては、SNSでの定期的発信、ホームページやブログサイトを構築しSEO(検索エンジン最適化)を行う、ネットやSNSの広告を出稿するなどがあります。
これらの方法のいくつかを粘り強く継続的に行うことで、ネットショップだけではなく実店舗の売上アップにもつながります。 また、独自性の高い商品を生み出せれば、ネット通販を行うことで、海外市場への販路開拓の可能性も出てきます。

5.資金計画と収支計画

【資金計画】
筆者の経験上、アパレル小売業で実店舗を開業する場合に必要な資金は、立地条件や規模によって異なりますが、500万円~1,500万円ほどかかります。
開業時には以下のような資金が必要です。日本政策金融公庫などの創業融資を利用する場合は、自己資金として必要総額の25%以上を準備するのが望ましいといえます。

①設備資金

  • 物件取得費(敷金・保証金など)
  • 内装工事
  • 商品陳列ケースなど什器備品
  • ネットショップ構築初期費用

②運転資金

  • 商品仕入資金
  • 賃借料
  • 光熱費
  • 消耗品費
  • 広告宣伝費

【収支計画】
アパレル小売業の収支計画を検討する際は「客単価×購入客数」を基本にして算出しましょう。
たとえば、客単価5,000円×100名(1か月の購入客数)=月商500,000円といった算出方法です。
客単価の予測は自社で売価を設定するので比較的容易ですが、問題は購入客数です。上記のように1か月の購入客数を100名とする場合、その根拠は何か?という問いに自問自答する必要があります。
購入客数の根拠については、正解があるわけではありませんが「やってみなければわからない」では、リスクが高すぎます。
購入客数の予測の精度を高める一つの方法として、開業前からSNSを活用して、開業を予定している店舗の商品やブランドイメージを発信することがあげられます。多くのフォロワーを集めることができれば、開業後の顧客候補として期待できます。
収支見込については、図表-3を参考に検討してください。

科目 金額(円) 算出根拠等
売上高 4,575,000 【実店舗】客単価6,000円×30名/1日×25日
【ネットショップ】客単価5,000円×15名/月
売上原価 2,745,000 原価率60%(勤務時代の経験から)
売上総利益 1,830,000 (売上高)-(売上原価)
販売費及び一般管理費 1,179,200 家賃~その他の合計
家賃 200,000
人件費 500,000 社員1人 月額25万
アルバイト5名 月額合計25万
広告宣伝費 180,000 ネット・SNS広告等
光熱費 80,000
通信費 50,000 電話・Wi-Fi・切手代等
支払利息 19,200 借入1,000万×利率2.3%÷12か月
その他 150,000 支払手数料・会費等
経常利益 650,800

※横スクロールできます。図表-3 収支見込の例

さいごに

アパレル小売業は、海外ブランド、大手量販店、ネットショップなど、競合が激しいレッドオーシャンの市場であり、新規参入して事業を軌道に乗せるのは容易ではありません。
しかし、お客様のニーズは多種多様で、まだまだ開拓できる余地があるといえます。
ターゲットとするお客様を絞り込み、独自性あるコンセプトを構築し、マーケティング活動を活発に行うことで、小さくても強い店になれる可能性はあります。
あなたのお店の商品やサービスが、お客様を喜ばせることにつながります。ぜひ今まで培ったスキル・ノウハウを生かして、魅力的なお店を開業してください。

掲載日 令和6年12月20日

プロフィール

上野 光夫 上野 光夫

中小企業診断士・大正大学招聘教授。
九州大学を卒業後、日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)に26年間勤務し、主に中小企業への融資審査の業務に携わる。約3万社の中小企業と約5,000名の起業家への融資を担当した。
2011年にコンサルタントとして独立。起業支援、財務コンサルティングを行うほか、講演、執筆などの活動を行っている。
主な著書に『事業計画書は1枚にまとめなさい』(ダイヤモンド社)がある。
日本最大級の起業家支援プラットフォーム「DREAM GATE」において、アドバイザーランキング「資金調達部門」で8年連続して第1位を獲得。

会社HP:https://mmconsulting.jp/
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@mkeiei

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